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お侍さんの異世界転移 ~奇跡の刀と記憶の断片~  作者: TAKUTOJ
1章:木の刀と獣人村の用心棒
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魔物の襲撃

このページを開いていただきありがとうございます。


「先生……お加減は……」

「……あぁ、よく来てくれたね。ケホ、あまり良くはないよ」



 齢十七を超えた少年はこの地域ではすでに成人を迎えて久しい。彼は、自身が先生と呼んでは敬う病床に臥す男を見舞っていた。咳き込む男の少しだけ上げられた左手を少年は両手で掴む。


「こんな歳で病に侵されるとは、本当についていない。これではあの子の仇も打てない」


 男の手は弱弱しかったが、それでも怒りに震えていた。

 自身の呪われた境遇にか。

 それとも復讐の炎にか。

 目は決して死んではいなかった。


「復讐は俺が」


 少年自身も決意が固かった。


「すまない……本当にすまない。あの子を行かせなければこんなことには」


 眉一つ動かさないはずの男の目から涙があふれていた。最愛の娘を失った男の後悔の涙。少年に向けられている謝罪の意は指示を出した自分の愚かさへの悔いか。幼い肩に復讐という枷を負わせなければならない情けなさにか。二人の幸せを奪ったことにか。その涙にはたくさんの意味があるのだと、少年は悟った。


「そこにある二番目の刀を持ってきてくれるかい?」

「はい」


 手を放して、横たわる男の頭の方角にある掛けられた刀へと足を進めた少年は、手に取る前に一度刀の前で礼をとった。すぐに男の元へと戻る。


「持っていくといい。銘を紅十文字虎月(クレナイジュウモンジコゲツ)という」

「俺はもう貰いましたよ?」

「あの子のだよ。いずれは君のものになるはずのものだった。今渡しても同じだよ」


 逡巡したあと少年は目を瞑り、ありがたく頂きますと頭をさげた。


 と言うのも、道場の免許皆伝として二年ほど前に、少年は早くも刀を贈与されていた。銘を夜桜虎月(ヤザクラコゲツ)。桜の木の下で、飛んでくる矢を真っ二つにしたことから付いた、後付けの名刀。行われた戦闘が夜であったことと矢を斬ったことに由来する。


 二本の名刀を腰に差した若者は、ここ名京の都では随分と名が通るようになってきていた。

  



―――――



 朝の稽古を終え、竹細工の講師を頼まれたいた着物の竹細工師は村長宅の庭でいろんな長さの竹を準備していた。村長は言う。


「キョウ殿、わが村の繁栄はもはや約束されたも同然。貴殿はこの村の名誉村民ですぞ」


 無礼にも京之助の頭の中には“捕らぬ狸の皮算用”という言葉が巡って爆笑中だ。この場合は儲ける側が狸だが。

 竹細工という、この世界にはまだ誰も見たこともない工芸品や生活用品、玩具をもたらした京之助はこの村の英雄だった。そもそも竹がこの世界ではこの森にしかないというのだから致し方なし、というところ。終始、ご機嫌な狸獣人の村長であった。


「宿代にはなったようで、安心です」

「え? 宿代は魔獣の素材ですでにいただいておりますぞ!?」

「なんと!?」


 お互いに驚愕しあう一面があったとか、なかったとか。


「そういえば、騎士なんとか団がもうここへ戻ってくるころでしたか?」


 今思い出した、と言うようにとってつけた話題の切り替え。さりとて苦笑気味の村長は話を合わせることに長けていた。


「そうですな。魔物のうち強い個体が増えてきておるのです。各種族から騎士団が順番に派遣されてここへも来てくれるのですがの。オーク騎士団は本当に強い。この巡回でかなりの数を間引いてくれることを願っとる」


 思わぬ情報のリークだが、村長はこの男の安全性を良く把握していた。ノースガレリアの常識に疎いことからも察せられるが、普段の彼の物腰や態度が、危険の無さを良く示している。まぁ、我々を化け狐や狸と言っては恐れていたが、とひとりごちる。


 そうこうしているうちに竹細工の講習を受けようと村の女子供が集まって来た。竹水筒をもらって火付け役となった狸獣人の少女が率先してお手伝いを申し出る。班分けをして分散させて、各班のところに確認に行く、という方法をとって教え周る。


 娯楽のほとんどない無いこの獣人族の世界にもたらされた竹細工は、狸と狐に栄華と言う二文字を惜しげもなく与えることになるだろう。


「ま、魔物だぁー!」


 講習はかなりの盛り上がりを見せていたが、門から走ってきた見張りによって一気に緊張が走る。村の男たちや騎士団は魔物狩りに向かっているはずだ。母親たちは子供たちの安否確認のため、すぐさま立ち上がった。脇に置いた刀を右足ですくい上げ、左手で掴むと京之助は門の方へと走り出す。見張りと交差する瞬間に方角を確認する。


「こっちでいいか?」

「っ!? ああ!」


 一瞬戸惑ったが、見張りの男はすぐに立ち返って、交差した男を追いかける。


(あれ、追いつけ……ない……だとっ!?)


 人族の身体能力を遥かに凌駕するはずの自分の走りが、あろうことかここ最近オーク騎士団に連れてこられた、やけに自分たちを恐れてなよなよしていた人族の勢いに負けている。京之助が村の入り口付近にたどり着くと、すでに戦闘が始まっていた。歯をむき出しにした凶暴な猿が五匹、獣人族二人と牽制しあっている。京之助の姿を捉えた交戦中の二人は内心驚いたが助力に来た男に感謝の言葉を投げた。


「助かるっ!」


 最近村で人気の竹細工師の実力はわからなかったが、数の拮抗に繋がるのはありがたかった。もちろんそれには一人足りないが。睨み合ってなかなか事態が動かない状況を理解できずにいる京之助の不信顔に気づいた先の見張りの男が短く説明を加える。


「あいつらとやりあうなら一匹も逃がせないんだ。逃がしたら最後、とんでもない数の暴力がここを襲うことになる」

「ぅひっ……対処法は?」

「このまま奴らが逃げるのを待つか、一瞬で片を付けるかの二択だ。先遣隊は必ず五匹と決まっている。だが先遣隊はかなりの距離を進んでいるから全滅させればここを割り出される確率はかなり下がるし、この先危険の合図になるらしい」


 そして、一匹でも逃げられるなら、そこは逃げるだけの余裕のある場所と判断されるんだ、と男は一気にしゃべった。ちなみに五匹がそのまま逃げた場合は、彼らが残した匂いを追って進行ルートをゆっくりゆっくりと群れが通ることになる。五匹を倒したら匂いや魔力痕―魔物固有の魔力の波長―が消える。


「なるほど、逃がさなきゃいいわけだ?」


 なにをするんだ、と驚愕に染まる面々を横目に京之助は刀を抜いて腰を少し落とした。


「それじゃぁ、討伐といきますか。斎藤流……【ハイタカ】」


 獣人族の男たちは京之助の呟いた言葉は聞き取れなかったが、言葉の切れ目に動いたことは理解した。その場にはすでに男の姿がなかったから。


 斎藤流【ハイタカ】は移動術の一種で、低姿勢で障害あるいは対象物の間をすり抜けながら一太刀入れていく高速剣である。フォレストウルフとの戦いもこの技術が応用されたものだ。確実に猿の魔物たちを屠っていく京之助の姿は、そこにいるすべての生き物に認識されずに終わった。見事に五匹を打ち取った男の服には一滴の返り血も付いてはいない。呆ける三人と刀をしまう男の間には確かな実力の差が生じている。幾分侮っていた態度を恥ずかしく感じながらも、受けた恩を大事にする族柄だ。彼らは素直に礼を述べる。頷きを返してから京之助は確認を取った。


「こいつらの素材はどうする?」

「仕留めたやつのものだが?」


 うひっと引き攣った顔をした京之助の様子を見て、我先にと男たちが詰め寄る。


「俺が手伝おうか? 解体」


 助かる、と言おうとした京之助を遮って、また一人が参戦する。


「俺なら、解体の全部を請け負うぜ」


 親指を立てて任せな、と言った男に京之助はお辞儀をしようとしたが、それを今度は見張りの男に遮られる。


「それなら俺は売買も全部任せてもらって構わない。俺はこいつらより役に立つぜ」


 何の争いが始まっているのかわからなかったが、人族の男は三人に任せることにした。後で聞いた話によると、戦果の一部が欲しかったそうだ。狩りに出て何もしなかったでは役立たずのレッテルを貼られかねない。全員に頼んだことで後腐れなく終わった迎撃は、京之助の強さと懐の深さを露呈させた。ただ本人は解体を嫌がっただけなのだが、突っ込んでも詮無い話になるだけである。猿の魔石はエルフが高く買い取ってくれるという情報だが、エルフを知らない京之助には無用の情報でしかなかった。次に向かう場所がその土地であることを知っていれば、事態はまた変わったのかもしれないがそれはまた別の話。脳内では、また物の怪の類かと邪推した。


「エンプティ・エイプだと!?」


 日が傾いて、周りが茜に染まるころに村に帰ってきた騎士団長は、入り口の猿の解体で残った残骸を見て驚愕している。ノースガレリアの猿の魔物はエンプティ・エイプと呼ばれ、大集団を形成する生き物だ。幸いにも先遣隊五匹すべてを討伐していることが彼らを安堵させた。生き残りが群れへ戻れば、征服や報復を遂げに集団でやってくる。


「報告すべきことが増えたな……どうしたもんか」


 腕を組んで一人考え込んでいるゾゴルガーグを無視してオークや獣人たちは京之介の討伐譚を讃えた。


「だから言ったろう? キョウは強ぇって!」


 竹細工師の強さを疑って、狩りに同行させなかった面々はなんとも居心地の悪さを感じて顔を逸したが、騎士団長の言葉に安堵する。


「だが、キョウ殿をここに置いたおかげで大惨事を避けられたとも言えるな」

「あ~、確かに団長の言うとおりだな、お前らも感謝しろよ。あのビビリ屋さんによ」


 そう言ったオークの言葉に場が和む。恐ろしく強い男であるが、自分たちを病的に恐れる変な男を遠目に見て、男たちの態度も変化を見せ始めた。エンプティ・エイプをたった一人で五匹同時に退治するなどどうにも信じられない話だが、同族からの証拠と証言がちゃんとある。それに此度もまた村を救ったことになるのだ。


 恩義に熱い族柄である彼らにはもはや竹細工師の功績は大きすぎた。

お読みいただきありがとうございました。

ブクマいただいた方、ありがとうございます。テンション一気に上がりました!

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