第九話~無知~
「だから俺は知らない。死への恐怖も、別れの悲しみも」
ジンはぽつりと言った。
人から産まれたわけではないから、人の気持ちはわからない。
龍は黙っている。考えこむように腕を組んでいた。しかし、突然ジンの後ろへ回りこむと、彼の背中を思いっきり叩いた。
「!?」
ジンはよろけて咳こむ。
「げほっ、げほっ………!神崎、貴様、なにを………っ」
ジンは鋭い目つきで龍を睨む。
対する龍は、そんなジンを見て言った。
「あ、怒った」
「は………!?」
「だから、怒った」
龍は笑って言った。
「『怒り』っていうのも、れっきとした人の気持ちだよ」
「!」
ジンは目を見開く。なにも言えなくなった。
そんなジンに、龍は思い出したように言った。
「ほら行くよ。市村さんが呼んでるんだ」
龍はすたすたと部屋を出ていく。
ジンははっと我に返ると、龍のあとを追っていった。
ほまれが呼んでいたのは、実はジンだけではなかった。
「僕もですか?」
龍が自分を指さしながら首をかしげる。
ほまれはこっくりと頷いた。
「今回の件は、君がいちばん適任だ」
そして、裏返した一枚の紙をすっと机の上に滑らす。
「見てみてくれ」
ほまれは龍を見ながら言った。
龍は、言われたとおりに紙を手にとって見てみる。息を飲んだ。
「これは………っ」
くろぶちメガネをかけた、色白の少女。漆黒の黒髪は長く、大きな目は優しく微笑んでいる。
「咲さん!?」
龍は写真を凝視する。
雪子が尋ねた。
「知ってるの?」
「僕の、地球にいた頃の友達です」
龍は写真から顔を上げて言った。そして、ほまれを見る。
「もしかして………」
ほまれは少し頷いてから言った。
「神崎龍、君の予想どおりだ。彼女も異能者。君に、彼女を迎えにいってほしい」
「………」
龍は考えこむ。
ここにくれば、戦争をしなければならない。できることなら、咲を危険な目にあわせたくはない。
すると唐突に、ジンが声をあげた。
「俺が行こう」
「………っ」
それを龍がとっさに遮る。
「いえ、僕に行かせてください」
ジンが行くくらいならなら、自分が行く。
ほまれは二人を見て微笑んだ。
「では、二人で行ってきてくれ」
龍とジンは頷く。二人は、宇宙船へと急いだ。
その後ろ姿を見て、アスカは感心した声をあげた。
「龍、なんか変わったね。ジンとも上手くやってるみたいだし」
「仲良くなってよかったじゃない」
雪子が微笑む。
「だね」
アスカが返した。
「………」
ほまれは腕を組んで黙っていた。
次回、神村咲、再登場です。




