お盆です
文夫君もう少し待って!今のあなたはきっと何がなんだか、分からない事でしょう。この第9部、そして次の第10部も私が投稿します。それで全てを解き明かします。私覚悟を決めて書くつもり。だから、文夫君も辛い現実を逃げずに正面から受け止めてほしい。そして、2人で前に進みましょう。
文夫は本来は月曜と水曜が公休日なのだが、シフト調整の為、今週は水曜は
出勤となった。文夫の職場は年中無休なのだ、勿論、お盆休みは無い。まあ
飲食業界では常識だし、この業界ですでに25年以上働いている文夫にとって
は当たり前の事なのだ。
毎年、文夫は12日~15日の間で、墓参りする両親と都合が合えば、一緒
に墓参りする事もある。墓前に親戚一同があつまり寺の住職にお経を挙げても
らうのが慣わしだが今年は実家の両親と兄弟は12日に参ると言っていた。
日曜日は仕事を休めないので、13日の月曜日に文夫の家族だけで参る事に
した。
早朝に墓参をすませ墓地から1km程の距離にある実家に寄り、仏壇にお参
りする。13日に墓参りする事を知ると
「ごめーん。私その日は仕事休まれへんわ」
と奈緒さんは嬉しそうに言った。何処の家でも夫の実家を妻は嫌うものだ。
ましてや、うちには格別の確執がある。奈緒さんはよっぽどの事が無い限り
文夫の実家には行きたがらない。
文夫は長女の美香と長男の直人を連れて13日の早朝墓を訪れた。
文夫の実家は彼の住む東大阪市の隣の八尾市だ。墓までは5~6kmといった
ところだ。お盆の期間中は墓地周辺は大変、込み合う。
大阪平野を見下ろす小高い山の中腹にある。その墓地へと上がる一本道の麓
の交差点のコンビニの駐車場に車を留めた文夫は、まだ朝食をとっていない子
供達の為にパンやおにぎりを買った、ライターも買う。
喫煙しない文夫の家にはロウソクや線香に火を点ける為のライターが無いのだ
買い物をした客として駐車場に車を留めさせてもらい、そこから墓地へと上がる
一本道の上り坂を歩いてた。墓地までは200m程だ場所を選ばなければ車がす
れ違う事もできない程狭い坂道を歩いて行く。
先を行く文夫を美香と直人が全力疾走で抜いていった。おおかた墓地まで競争
でもしているんだろう。ちょっと不謹慎とも思ったが、まあ子供のすることだ
葬式でもないのだから、まあいいか。
お盆の墓地は大変賑やかだった。至る所で住職がお経を唱えている。うちの墓
もたぶん昨日、住職を呼んで、お経を挙げてもらっているのだろう。だから今日
は文夫と子供達だけで墓参りする。バケツの水を入れて墓に着いた。墓は昨日
来た文夫の両親によって既に掃除されていた。仏花も美しく飾られていてもうな
にも、施す事はない、夕べの雨で少し泥の着いた所を置いてあったスポンジで掃
除した。線香に火を点け子供達に渡すと順にお参りした。文夫も墓前に線香を挙
げ合掌して目を閉じた。その時だった異変を感じたのは。賑やかだった墓地が急
に静かになった、住職が鳴らすリン・リンという鐘の音だけが聞こえてくる。
{おかしいなにがあったんだ}と思った時
「文夫くん!」
と背後から奈緒さんの声がした。目を開けて振り向くと喪服姿の奈緒さんが神妙
な顔をして立っていた。
「あれ・・奈緒さん何時来たん。どうしたんその格好・・あれ・美香と直人は?」
「これは私の物語よ!。来て!」
奈緒さんは背を向け歩き出した。
{なるほど・・そういう事か。しかし奈緒さんは何をしたいのだ。喪服が気になる
神妙な表情も。
墓地にはもう奈緒さんと自分しかいなかった。先を行く彼女の後を文夫は追った
給水場を過ぎたあたりから狭い通路を上へと上がり始めた{この通路は親戚の石井
さんの墓に行く時の通路だ}給水場から50m程上がると石井さんの墓が左に見え
た。さらに上へと上がって行く。石井さんの墓から30m程上がった所墓石の列で
5段上で左に入る。人がすれ違う事もできない程の狭い通路を15m程進んだ奈緒
さんは、ある墓の前で立ち止まった。狭い通路に入って8番目の墓。彼女に追いつ
いた文夫はその墓を見た。小じんまりとした小さな墓だった。墓石には
綾瀬家の墓とあった。
「え・・・何・奈緒さん・・まさかこれ」
墓石の側面を見た数人の綾瀬家の先祖の名が文夫には読めない戒名の下に俗名とし
て記してあるそれぞれの右側に亡くなられた年月と享年が記してある
左端にやはり文夫に読めない戒名の下、俗名 逸美とあった。その右側には平成
24年2月18日 享年23才とあった。
「そ・・・そんな」
体中の力が抜けていく
「2月28日って」
「そうよ、(ジャック)を読んだ時、私も驚いたの。綾瀬さん最後に文夫君に会い
に行ってたのね」
「奈緒さん、知ってたのん?」
「綾瀬さんに頼まれたのよマスターには言わないで欲しいって。・・マスターの中で
生きていたいって。ずうずうしいものね、本妻の私にそんな事、言うなんて」
「死に行く者の最後の頼みと言われれば断れなかった。」
奈緒さんはしゃがんで墓前に手を合わせた
「ごめんね綾瀬さん、言っちゃったよ。でも文夫君の中にあなたはずっといたのね」
「文夫君、私思うの、(Again)は本当は綾瀬さんがあなたに描かせたんじょない
かって。彼女が枕元に立ってから(Again)描き始めたんでしょ。」
「そう言われればそんな気も、いや、でもそうすると第5部で僕が事実を隠ぺい
したのが不自然な事ない?」
「本当に文夫君の意思で隠ぺいしたの?」
「え・・どういう事?」
「あの隠ぺいがあったから、私も描き始めたのよ。私も彼女にこの物語に引きずり
込まれた。そんな気がするの。きっと彼女私達二人にこの物語を完結させるつも
りなのよ」
「わからへん」
文夫には綾瀬の死は、すぐには受け入れられなかった。
「順を追って説明してほしい」
「そのつもりよ、その為に私は(ジャック)を描いたのだから」