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魔法では解けない謎がある  作者: 渋谷 爽月
第4章「盗まれた判決」

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第16話 七年分の面会

面会室の男は、ミラの記憶より小さかった。


 髪が白くなっていた。右頬に、火傷がある。


 エデンは椅子へ座ってから、何度も娘を見た。


「背が伸びたな」


「二十四よ。もう伸びない」


「そうか」


 それだけで会話が止まった。


 エデンの前には、差し入れの林檎が一つ置かれていた。


 刑務所では刃物を使えないため、ミラが家で切ってきた。塩水に浸したせいで、表面はまだ白い。


「テオが、皮をむいた」


「上手だね」


「最初の二つは、ほとんど芯だけになった」


 父が少し笑った。


 ミラはその顔を見て、目を伏せた。


「手紙、持ってきたの。父さんからの」


 鞄の中に、紐で束ねた封筒があった。開けたものと、開けていないもの。


「読まなかったのもある」


「送ったものだから、読んでも読まなくても、お前のものだ」


 エデンは林檎へ手を伸ばした。


 右手の指が、少し曲がっている。ミラは手伝おうとして、やめた。父が自分で取るのを待った。


 何をしてあげるかより先に、何ができるかを確かめる。


 診療所で父が患者へしていたことを、今、娘が父へ返していた。


 レインは許可された調書を開いた。何かを聞けば、二人が黙っている苦しさも少し減るだろうか。


「鏡に映っていた三人について、教えてください」


 エデンは、子供の名を一人ずつ言った。


 エリ。トマ。リナ。


「エリは右手の親指を失っていた。荷車の車輪に挟んでね。私が処置した。トマは薬の中毒、リナは肺が弱かった」


「鏡の薬は?」


「解毒剤だ。納入薬の一部に、不純物が混じっていた。その日の午後に分かった」


「火事は六時四十分ですか」


「最初に火を見たのは、六時十分より前だ」


 レインの指が止まった。


 鏡の時計は、合っていたのだ。


「院長室ではなく、倉庫が先に燃えた。子供たちを庭へ逃がした。救急便の運び手が、北へ連れていくと引き受けてくれた」


「その人の名は」


「ルカ。たしか、ルカ・ヴェイル」


 ミラがレインを見る。


「左手を焼いていた。それでも、もう一人を探すと言って火の中へ戻った」


 エデンは机の傷を撫でた。


「私は患者を残せなかった。戻ったところを兵に捕まった。三人の死体を見せられたが、顔は分からなかった」


 面会終了の鐘が鳴った。


 ミラは立てなかった。


「私、父さんを疑った」


 エデンが首を振る。


「疑うことと、見捨てることは違う」


「手紙、返せなかった」


「今、来てくれた」


 看守が扉を開けた。


 ミラはようやく、父の手へ触れた。


「また来る。許可が出なくても、申請する」


「そうか」


 今度の返事には、笑顔があった。

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