第16話 七年分の面会
面会室の男は、ミラの記憶より小さかった。
髪が白くなっていた。右頬に、火傷がある。
エデンは椅子へ座ってから、何度も娘を見た。
「背が伸びたな」
「二十四よ。もう伸びない」
「そうか」
それだけで会話が止まった。
エデンの前には、差し入れの林檎が一つ置かれていた。
刑務所では刃物を使えないため、ミラが家で切ってきた。塩水に浸したせいで、表面はまだ白い。
「テオが、皮をむいた」
「上手だね」
「最初の二つは、ほとんど芯だけになった」
父が少し笑った。
ミラはその顔を見て、目を伏せた。
「手紙、持ってきたの。父さんからの」
鞄の中に、紐で束ねた封筒があった。開けたものと、開けていないもの。
「読まなかったのもある」
「送ったものだから、読んでも読まなくても、お前のものだ」
エデンは林檎へ手を伸ばした。
右手の指が、少し曲がっている。ミラは手伝おうとして、やめた。父が自分で取るのを待った。
何をしてあげるかより先に、何ができるかを確かめる。
診療所で父が患者へしていたことを、今、娘が父へ返していた。
レインは許可された調書を開いた。何かを聞けば、二人が黙っている苦しさも少し減るだろうか。
「鏡に映っていた三人について、教えてください」
エデンは、子供の名を一人ずつ言った。
エリ。トマ。リナ。
「エリは右手の親指を失っていた。荷車の車輪に挟んでね。私が処置した。トマは薬の中毒、リナは肺が弱かった」
「鏡の薬は?」
「解毒剤だ。納入薬の一部に、不純物が混じっていた。その日の午後に分かった」
「火事は六時四十分ですか」
「最初に火を見たのは、六時十分より前だ」
レインの指が止まった。
鏡の時計は、合っていたのだ。
「院長室ではなく、倉庫が先に燃えた。子供たちを庭へ逃がした。救急便の運び手が、北へ連れていくと引き受けてくれた」
「その人の名は」
「ルカ。たしか、ルカ・ヴェイル」
ミラがレインを見る。
「左手を焼いていた。それでも、もう一人を探すと言って火の中へ戻った」
エデンは机の傷を撫でた。
「私は患者を残せなかった。戻ったところを兵に捕まった。三人の死体を見せられたが、顔は分からなかった」
面会終了の鐘が鳴った。
ミラは立てなかった。
「私、父さんを疑った」
エデンが首を振る。
「疑うことと、見捨てることは違う」
「手紙、返せなかった」
「今、来てくれた」
看守が扉を開けた。
ミラはようやく、父の手へ触れた。
「また来る。許可が出なくても、申請する」
「そうか」
今度の返事には、笑顔があった。




