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魔法では解けない謎がある  作者: 渋谷 爽月
第3章「嘘をつかない証人」

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第14話 盗まなかった帳簿

「それを、どこから」


 オルドの問いに、ノクスは正直に答えた。


「司祭の執務室の、鍵のかかった引き出し。盗んだ」


「証拠能力に問題が出る」


「困るね。捨ててしまう前に、手順の正しい方へ知らせに来た」


 怪盗は、窓の外を指した。


 診療所へ戻る道で、オリンの助手が荷車を引いている。箱に、納入簿と書かれていた。


 オルドが兵を呼んだ。


 荷車には、焼けたはずの納入簿が入っていた。助手は、新しい倉庫へ移すようオリンに命じられたと言う。書庫から出したのは昨夜だった。


 火災より前に、必要な帳簿だけ運び出されている。


 正規の捜索で、執務室から複製機の貸出票、濃い油の瓶、赤い布の切れ端が見つかった。靴裏には、診療所の薬草棚からこぼれた白い石灰粉が付いていた。


 目を覚ましたネラは、襲撃者の右手に四角い指輪を見たと証言した。


 オリンの指輪には、彼女の頬を打ったときの血が、縁に残っていた。


 ノクスが運んだ筒を証拠の中心にする必要はなくなった。


 だが、その筒が知らせた場所へ行かなければ、間に合わなかったかもしれない。


 オリンは襲撃と放火を認めた。


 ネラの病室で、レインは回収した帳簿を見せた。


 彼女は寝台から手を伸ばし、表紙の隅を撫でた。


「七年前のものなんて、役に立たないと言われ続けた」


「捨てなかったのですね」


「捨てる日を、決めなかっただけよ。立派な話にしないで」


 ネラは笑おうとして、頭の包帯を押さえた。


 オリンの使った油は、彼女が冬の暖房用に手配したものだった。金庫の鍵も、信頼して渡したもの。


「泥棒が怖いから、教会の人に預けたのに」


 ミラがいれば、何と答えただろう。


 レインには、立派な慰めが思いつかなかった。


「帳簿は戻りました。お金のことは、これから調べます」


「分かったことだけ言うのね」


「約束しすぎると、あとで破ることになります」


 ネラは天井を見た。


「そういう人なら、また預けてもいいかもしれない」


 レインは帳簿を、自分の鞄ではなく、オルドの証拠箱へ戻した。


 誰が持っているか、いつ返すかを、彼女の控えにも書いた。


「診療所の薬代を抜いていた。古い帳簿から、新しい支払いも調べられると思って」


「ミラさんを犯人にしたのは?」


「捜査を止めたかった」


 彼はヴォスの名前を出さなかった。命令された証拠も見つからない。


 レインは、その限界も調書へ書いた。


 夕方、裁判所の裏で、ノクスが彼を待っていた。


「手柄は君に。私は、まあ、必要経費だけ」


「盗みは犯罪です」


「知ってる。だから警察とは、少し距離を取っている」


「人を助けたこととは、別に記録します」


 ノクスは、しばらく黙った。


「いいね。そういう探偵が、欲しかった」


 彼の声から、冗談が消えていた。

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