フォアグラのシャトーブリアンコロシアム
病院で付き添ってくれた大伯父は、ユウタに食べたいものはあるかと聞いてくる。
ユウタは普段食べないようなステーキをリクエストした。
◯登場人物
優太
高校二年生 帰宅部
読書、ゲームが趣味
陽真理
高校二年生 怪談倶楽部
ユウタの幼馴染、明るく友達が多い
ユウタの大伯父、修二
69歳 IT会社の会長 破天荒
結局、僕が倒れた日の翌日の午後に退院になった。まだ症状が深刻でないうちに病院に運んでもらえたからよかったらしい。
退院をするまでの待ち時間中に大伯父が聞かせてくれた話によると、もともとお祖父ちゃんが昔やっていた仕事のフォトスタジオ&フォトグッズ作成のウェブサイトを会社として立ち上げ、ヒマリのお母さんが今は社長になって後を引き継いでいるみたい。
僕の母親は小物雑貨のデザイナーをしてると言ってたけど、ヒマリのお母さんの会社とも少し絡むこともあるようだ。依頼を受けたりしてるのかな。
そして、あまり聞くこともなかった僕の父親は、便利屋と言うのか、ゴミなどの処分をしたり、家の中の清掃をしたり、時には探偵のような仕事もしたりと、少人数でしているようだ。たまに長いこと帰ってこないことがあるのは、遠方に行く依頼とかがあるからなのかな。
「俺もそうだったけど、親が何の仕事をして、生活をまかなってくれているのかなんて、子供の時は考えもしないからな」
だそうだ。まぁ確かに、あまり深くは考えたことはなかった。
この変なオジサンと言われている大伯父も、IT企業の会長らしいが、何やら不動産やら色々なことにも携わってるようだし、大人って凄いんだなと素直に感心はした。
夜ご飯のステーキは、両親達はまだ仕事をしてるので、ヒマリを誘って、三人で行くことになった。
お祖父ちゃんも来るのかなと思ったけど、今回はパスのようだ。何か先約があったのかな。
◇ ◇ ◇
「ユウちゃん、シュウジ伯父さん、お待たせ〜!」
少し早めだけど夕方の17時に外で待ち合わせをしていた。
「ヒマリ、昨日はごめんね。そのまま寝ちゃってたみたいで」
病院に来てくれていたことの礼を伝えた。
「ううん、ううん。全然大丈夫だよ、私も途中寝てたし。それよりステーキ早く食べに行こうよ〜!」
「ははは、ユウタだけじゃなくて、ヒマリも肉食女子だったか」
「え。なんの話??」
ヒマリが訝しむ。こういう余計な事を言うのはやめてほしいと思う。
大伯父が連れて行ってくれたステーキのお店は、家からタクシーで十五分くらいと少し遠目だったけど、駅前のごちゃごちゃしてるとこではなくて、閑静な住宅街の中に、ぽつんとある小さな小洒落たお店だった。
「いらっしゃいませ。お、シュウジさん、お久しぶりです」
店に入るとコック帽と言うのか、細長い白い帽子をかぶっている僕の父親よりは年上だと思う、清潔感のある男性が出迎えてくれた。大伯父のことを知ってる口ぶりだったので、たまに利用するお店なのかな。
「マスターすまんな、色々バタバタしてて、たまに来ようと思うんだけど結局今年入ってからは初めてになるかな? こいつらは前に話したことあるかもだけど、甥っ子のガキとその彼女だ」
まぁまぁ雑な紹介だ。
「はい、存じてますよ。確かもう高校生なんですよね。子供達が大きくなるのは早いもんですな。どうぞ、座ってください。今日は何にしますか?」
僕はもちろん全く知らない人だけど、大伯父はマスターに僕達のことを話したりすることがあったのかな。僕達は店の中のL字のカウンターの横並びに座った。マスターはおしぼりを皆に配ってくれた。
「ん〜、なんでもいいぞ。オススメ出してくれよ。あ、ユウタはステーキって言ってたな。ヒマリはなんかリクエストあるのか?」
紹介も雑だが注文も雑だ。こういう嫌な金持ち客っていそうだよな。
「え〜、こんなオシャレなお店来たことないから何頼んでいいかわかんないよ〜。ユウちゃんと一緒でいいよ」
ヒマリのコメントを聞いて、大伯父はマスターに言う。
「んじゃ、シェフの気まぐれスペシャルコースで頼むわ。このユウタの退院祝いだから盛大にやってくれ。あ、俺はいつものやつ、先にくれよ。あと生ビール」
完全に飲む気だ。ベロベロにならないでくれよ……
「そんなコース、ウチないんですけどね〜。まぁ適当に美味しそうなの焼きますね。いつものやつ、お子さん達にも切っておきますね」
マスターは、冷蔵庫から何か取り出して、包丁で切っている。見るとローストビーフだった。
手早く人数分切って、お皿に盛り付け、小さな野菜を一緒にのせて、塩みたいなものをパラパラふっていた。
「はい、どうぞ」
「ここのローストビーフはめちゃくちゃ美味いぞ。まぁ全部美味いんだけどな」
凄く薄く切られているローストビーフは、ホントに美味しそうだった。
「ん! 美味しい!」
「だろ〜? マスター、アワビも焼いてくれよ。アワビ焼けたくらいに冷酒にするからよ」
完全に自分のためですよね。僕の退院祝いはどこに行った。
「お肉も少しずつ食べ比べみたいに切りましょうか。そのほうが飽きないしいいと思います」
マスターは動きも無駄がなくて、気遣いも出来る人というイメージだった。
「ねぇユウちゃん。来週で合同納涼祭も終わりだけど、もう次はあまり無理しないでいいからね。前みたいになったら心配だし……」
そうそう、僕も皆に迷惑をかけてしまったこともあったから、来週の納涼祭は不参加にしようとは思ってたんだ。
「うんうん、ごめんねホントは最後まで参加するつもりだったのに。部活の方の怪談の集計とか、何か手伝うことがあったらそっちは参加するよ」
はじめに言ってたかもだけど、みんなが話した怪談をまとめたり、新聞か冊子みたいにしてカタチに残す作業もおそらくあるはずだ。
「お待たせしました、フォアグラのシャトーブリアンコロシアムです」
なんだか凄い名前の料理が出てきたぞ。フォアグラとお肉が闘ってるのかな?
「おっ、マスター相変わらず好きだねぇ、なんか変な名前のメニュー」
きっとマスターも大伯父には言われたくないに違いない。マスターは小さく微笑んでいる。
その後も、お肉の食べ比べを出してくれたり、初めての活けアワビを食べたりと、普段食べないような料理を堪能でき、大伯父には感謝だな……
ヒマリはSNSに投稿するのか、料理の一つ一つを携帯で楽しそうに撮影しながら食べる。
そんなヒマリの笑顔を見ながら、今年の夏休みも終わっていくんだなと、僕は思いながら料理をいただいた。




