魅惑の魔道具店と、妖艶な魔女
『ちょっとひより、待ってってば! 依頼人のところへ行くのが先だって!』
頭の中でキュアが必死に止めるのも聞かず、ひよりは好奇心に抗えずに『魔道具』と書かれた看板の店へと吸い込まれるように入っていった。
ガラガラ……
と静かに扉を開けると、店内の空気は一変した。
外の賑やかさが嘘のように静かで、少し薄暗い。棚には見たこともない色に怪しくきらめく鉱物や、ドロリとした液体、奇妙な薬草が詰まったガラス瓶がズラリと並んでいる。
そして何よりひよりの目を引いたのは、壁の高い位置に厳かに掛けられた、数本の美しい魔法使いの杖だった。
「うわぁ……すごぉい、本物の杖だ……!綺麗……」
ひよりは感動のあまり歓声を上げ、引き寄せられるように壁際へと近づいた。
うっとりと杖を見上げていた、その時――。
「いらっしゃい。見ない顔ね、この店は初めてかしら? ……あなた、魔法使い?」
背後から、鼓膜を優しく撫でるような、ゾクゾクとするほど妖艶でハスキーな声が響いた。
「ひゃぅっ!?」
ひよりは飛び上がるほどびっくりして、勢いよく振り返った。その弾みで、彼女の豊かな胸が
「たぷんっ」
と大きな弧を描いて激しく揺れる。
そこに立っていたのは、ひよりのママと同じくらいの、30代前半に見える息をのむほど美しい女性だった。
紫色の豪奢なドレスを身にまとった彼女は、まさに絵に描いたような「大人のグラマラスな魔女」という雰囲気を醸し出している。唇には妖しいほどに鮮やかな紅いルージュが塗られ、何よりドレスの胸元がこれでもかと大胆に開いていた。
露天の“ルビーアップル”なんて比ではないほど、成熟しきった巨大な豊満が、深い深い谷間とともに惜しげもなく晒されている。
(うわぁ……なんか、すっごくエッチな感じの人……! この人が店員さんなのかな?)
ひよりはあまりの刺激の強さに顔を赤くし、思わず自分の胸元を隠すように両腕で抱え込んだ。
すかさずキュアが頭の中で冷静に囁く。
『「いらっしゃい」って言ったんだから、この店の店主か店員さんだよ。ひより、忘れてるかもしれないけど、今の僕たちはお金が完全なるゼロだからね。何も買えないってちゃんと最初に言うんだよ』
「あ、そっか……!」
ひよりはハッとして、緊張のあまりゴクリと唾を飲み込んだ。大人の肉体同士、お互いの規格外な胸元が至近距離で対峙する形になり、ひよりの心臓はバクバクと音を立てる。
「こ、こんにちは! はい、わたし魔法使いです! あ、あの……初心者です……!」
緊張のあまり、我ながらなんだかちぐはぐな自己紹介になってしまった。
魔女のような女性は、ひよりのその瑞々しい20歳の美貌と、ローブを押し上げる見事な爆乳に一瞬だけ妖しく目を細めると、ふっと艶やかに微笑んだ。
「ふふっ、可愛い魔法使いさんね。何が欲しいの?」
至近距離から漂う甘い香水の匂いにクラクラしながら、ひよりは慌てて両手を振って弁明した。
「ご、ごめんなさい! わたし、まだお金を全然持っていなくて……っ。今日はどんな物があるのかなって、見にきただけなんです……!」
嫌な顔をされるかと思いきや、女性はフッとルージュの塗られた唇を吊り上げて笑い、壁の高い位置にある美しい杖を指さした。
「いいのよ、気になさらないで。……たとえばその杖、すごいのよ? 自分の魔力を3倍に高めてくれるし、初心者でも魔力操作が驚くほど楽になるわ。お値段は、金貨150枚よ」
(きんか、ひゃくごじゅうまい……?)
いまいちピンとこないひよりは、心の中で慌てて相棒に尋ねた。
(ねえキュア、金貨150枚ってどれくらい凄いの?)
頭の中で、キュアがいつもの調子でサラッと言い放つ。
『そうだね、日本円に換算すると大体1500万円だね』
「い、いっせんごひゃくまんえん……っ!?」
超高級車が買えそうな天文学的数字に、ひよりは思わず声に出して絶叫しかけ、慌てて両手で口を押さえた。
その激しい動きに連動して、ローブを押し上げていた巨大な双丘が
「ぷるんっ! ぷるんっ!」
と凄まじい衝撃を伴って上下に暴れ狂う。そのお盆を二つ乗せているかのような肉厚な質量感がダイレクトに鎖骨へと響き、ひよりは顔を真っ赤にして引きつった笑顔を浮かべた。
「き、きんか、ひゃくごじゅうまい……っ。やっぱり無理です! お金ないです!」
そんなひよりの10歳児丸出しの素直なリアクションに、妖艶な女性は開いた口元から白い歯を覗かせて、楽しそうに笑った。
「うふふ、わかっているわよ。でも、こういうのは相場を知っておいた方がいいでしょ? いつかあなたが大金を稼ぐ立派な魔法使いになったら、また買いに来てちょうだいね」
大人の女性の余裕たっぷりのウインクに、ひよりは恥ずかしさと憧れで胸をいっぱいにしながら、何度も何度もコクコクとうなずくのだった。
1500万円というあまりの巨額にフリーズしていたひよりだったが、目の前のグラマラスな女性店主は、ひよりのその後の様子をじっと観察していた。
大人の美女としての完璧な肉体を持ち、胸元にはギルドプレートを輝かせている。それなのに、中身は驚くほど世間知らずで、感情がすべて顔に出てしまうほど純粋。あまりのギャップと危なっかしさに、女性は少しだけ心配そうな目付きになった。
ルージュの塗られた紅い唇から、ふっと紫煙のようなため息が漏れる。
「ねえ、あなた。その白くて長い指できゅっと握りしめてるの……ギルドの依頼書よね?」
「あ、はい!」ひよりは我に返り、大人の艶のある声で慌ててうなずいた。
「初めての依頼なんです。おつかい依頼で……!」
「フーン、おつかいねぇ……」
女性は細い指先で自分の二の腕をトントンと叩きながら、ひよりを値踏みするように見つめた。
「それで? さっきお金が『全然無い』って言っていたけれど、今日の夜は一体どこに泊まるつもりなの?」
「えっ……」
その問いかけに、ひよりは心臓がドキンと跳ねた。
言われてみればそうだ。今の所持金は完全にゼロ。ルビーアップルを届ければ銅貨3枚は手に入るけれど、それが宿代になるのかどうかすら分からない。
「ど、どうしよう……っ。泊まるところ、考えてなかった……!」
一気に不安が押し寄せ、ひよりは動揺してオロオロと周囲を見回した。焦れば焦るほど、ローブを内側から押し上げている爆乳が
「ぶるん、ぶるん」
と波打ち、豊かな谷間が激しく上下する。
その時、ひよりの脳裏に、さっき迷子になりかけたときにキュアが言ってくれたアドバイスがよぎった。
『困ったときはさっきの“あの人”を頼りなよ。ほら、街の入り口にいる親切なお兄さんたちさ』
ひよりは藁にもすがる思いで、心の中の相棒に尋ねた。
(ね、ねえキュア……! 泊まるところがなかったら、またさっきの門番さんのところに行って、お家に泊めてもらえるようにお願いすればいいかな……!?)
その瞬間、頭の奥でキュアが今までにないほどの音量で、文字通り全力の叫び声をあげた。
『絶対ダメーーーーー!!!』
鼓膜が破れそうなほどの拒絶に、ひよりは心の中で思わず耳を塞ぎそうになった。
『いいかいひより! さっきの門番は、君のその顔と、何よりその歩くたびにエロく揺れる巨大なおっぱいに目を血走らせてたんだよ!? そんな狼の巣穴みたいなところに、宿がありませんなんて無防備に飛び込んでごらん!? 一晩で人生のステップを全部飛び越える大人の大惨事になっちゃうからねっ!!』
(え、えええええっ!?)
キュアのあまりの気迫と、なんだかよく分からないけれど「もの凄く大変なことになる」というニュアンスだけは伝わり、ひよりはさらに顔を真っ赤にしてブルブルと震えるのだった。




