第92話『運が導く未来』
最終話です
冷たい風が吹いた。
白い光が、ゆっくりとほどけていく。
タクミの視界が戻る。
そこは──
天裂の断崖。
ついさっきまで戦っていた場所。
崩れた岩場。
砕けた地面。
そして、断崖の端に一人の少女が立っていた。
風に揺れる金色の髪。
静かに、こちらを見ている。
タクミは小さく笑った。
「……ただいま」
リナは一瞬目を細めて、
それからゆっくり歩いてくる。
慌てる様子はない。
まるで最初から戻ってくるとわかっていたかのように。
タクミの前まで来るとリナは少しだけ首をかしげた。
「思ったより早かったね」
タクミは苦笑する。
「時間経ってないのか?」
「うん」
リナは頷いた。
「タクミが光に包まれて消えて」
「ちょっと待ってたら戻ってきた」
それだけ言って
タクミの胸に軽く抱きついた。
強くではない。
そっと確かめるように。
「……おかえり」
小さな声だった。
タクミは少し照れくさそうに笑う。
「ただいま」
しばらく風の音だけが流れた。
リナが顔を上げる。
「で?」
「?」
「どこ行ってたの?」
タクミは空を見上げた。
少し考える。
そして肩をすくめた。
「女神様のところ」
リナは目を丸くする。
「え」
「ほんと?」
「ああ」
タクミは笑う。
「世界を作り変えないかって言われた」
「……え?」
リナは完全に固まった。
「な、なにそれ」
「そんなことできるの!?」
タクミは苦笑する。
「俺もびっくりした」
リナは少し不安そうに聞く。
「……それで?」
タクミは断崖の向こうを見た。
広い世界。
森。
山。
海。
空。
「断った」
あっさり言う。
リナは一瞬黙ってから、
ふっと笑った。
「タクミっぽい」
「そうか?」
「うん」
リナは断崖の景色を見る。
「この世界」
静かに言う。
「嫌いじゃないしね」
タクミは笑った。
「まあな」
少し沈黙。
風が強く吹いた。
リナが言う。
「ねえ」
「ん?」
「これからどうする?」
タクミは少し考えて、
それから笑った。
「旅の続きかな」
リナの顔がぱっと明るくなる。
「いいね!」
「まだ行ってない場所いっぱいあるし!」
「海の向こうとか!」
「砂漠とか!」
「浮島とかもあるらしいよ!」
どんどんテンションが上がる。
タクミは苦笑する。
「元気だな」
リナはニッと笑う。
「だって」
「タクミと一緒の旅だもん」
少しだけ照れて視線を逸らした。
タクミは空を見る。
青い空。
広い世界。
色んな出会い。
色んな戦い。
全部が偶然だった。
全部が運だった。
でも。
タクミは思う。
(……悪くない人生だ)
むしろ。
かなり良い。
タクミは小さく呟いた。
「俺」
「運いいな」
リナが首をかしげる。
「?」
タクミは笑った。
「なんでもない」
そして歩き出す。
断崖から続く道へ。
リナも隣に並ぶ。
二人の影が伸びていく。
どこへ行くのかは決まっていない。
でも。
きっと面白い未来が待っている。
遠くの空の向こうで、
誰かが静かに微笑んでいる気がした。
風が吹く。
その風はまるで、
幸運がそっと背中を押しているようだった。
⸻
運がすべてを決めるわけじゃない。
だが、運が導く出会いは確かにある。
⸻
Fin
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
初投稿から3ヶ月程、更新を続けてこれたこと自体に達成感を感じております。
元々小説を読むのが好きだった私。日課になり始めた「ジムのトレッドミルでウォーキングがてらアニメを見漁る」というルーティンを確立してから、「こんな作品を稚拙でも良いから映像で見てみたいな」と夢みるようになり、いきなりノウハウもない中で動けるほど行動力がなかったので、小説として書いてみようと思って始めてみたこの作品。
1話を読んで2話が読みたい、2話を読んで3話が読みたい…と、1人でも「次へ」を押すボタンが止まらなかった人がいれば。少しでも面白かったと思える数十分、数時間を感じた方がいれば幸いです。
自分が働いている環境上、SNSは何もやっていないので、告知も何もしたことがない中、たまたま目にとまってこの後書きに辿り着くまで読んでいただけて本当に感謝です。
次回作の予定はありませんが、心にポッカリと穴が空いたような感覚があればまたお会いしましょう。笑
本当にありがとうございました!




