111 竜の国の王子 ⑥
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
「古代種の竜?」
「ああ、我がアルネスト王国は、古代、竜の国と言われていたんだ。竜を飼い慣らし、竜の背に乗り、竜騎士となって世界を席巻していた。それがある頃から竜の数が減り、遂にはいなくなってしまった。輝かしい過去も今ではお伽噺だ。そんな時耳にしたのが、ある古代種が竜となり、ここローヴェル王国に存在しているということ。」
緊張しているのか、まだ数刻しか経っていないにも関わらず、朝日が昇る前に俺達は目を覚ました。
アウロラは俺の発熱を気にしているようで、もう少し休むように言っていたが、追手が来ることを懸念して、早速古代種の竜についてアウロラに話した。
アウロラは古代種という言葉に少し引っ掛かるようで、何かを思い出そうとしている。
完全に記憶が戻る前に、アウロラには古代種を呼び寄せてもらわねばならない。
「その古代種を一目見ようと訪れた時にローラに会ったんだ。ローラは覚えていないかもしれないが、君は『古代種に愛されし乙女』なんだ。君はその古代種を呼び寄せられる力を持っている。」
「えっ?私が?·····では本当はその古代種が欲しくて、私との関係を求めたのですか?」
アウロラの表情が曇る。
ここは慎重に話さねば。
「違う!·····まぁ、きっかけは古代種かもしれないが、俺達は恋におちた。俺はローラを愛している。誰にも渡したくはない。それは信じて欲しい。」
そうだ·····こうやって言葉にしてしまえば分かる。
俺はまだ知り合って間もないが、既に彼女に心を奪われている。
あのアウロラの夫に酷く嫉妬するほど·····。
今まで色んな女と関係を持ったが、こんなに純粋な気持ちで好意を持った事はない。
これが恋か·····いや、愛だな。
アウロラはじっと俺の目を見て、何かを見極めようとしている。
「·····君は、古代種をアルネストに連れ出す事に協力すると言ってくれた。元々竜はアルネストにあるべき生き物だ。竜の育て方も御し方も、記録に残されている。もし病気になったとしても、治療の仕方も記録に残っているから大丈夫だ。きっと古代種もアルネストにいる方が幸せになれる。」
「·····記憶がある時の私は、その事に同意したのですね?」
「ああ。アルネストで竜を大事に扱わない人間はいない。俺とローラと古代種で穏やかに過ごそう。」
そうだ、アルネストは何処よりも竜に対して安全な場所だ。
竜はアルネストで育てるべきだ。
その思いが伝わったのか、アウロラは一旦目を閉じると、小さく深呼吸をし、何かを決心したかの様に目を開けた。
「分かりました。きっと記憶を失う前の私は、色々考えた上で協力する事を決めたのでしょう。でも記憶が無いのでどうやって呼び寄せたらいいか分かりません。」
アウロラは申し訳なさそうに微笑んだ。
ああ·····いい子だな。
「古文書に書かれているやり方を試したい。」
俺はアウロラの気が変わらない内に、と日が昇ったら直ぐに実行する事にした。
◇
「アレク、大丈夫?少し休みましょう。」
アウロラの肩を借りながら、谷の斜面を登り、見晴らしのいい、高い場所を探す。
背中と肩に痛みが走るが、気にしてはいられない。
それに俺達が危機的状況になればなるほど、おそらく呼び寄せ易くなる。
そう、古文書に書いてあったのは、『古代種に愛されし乙女』が強く願う気持ちで祈れば、古代種がその姿を現すと。
何とも曖昧だが、古代種はその個々の能力の他に、生物が持つとされる6つの器官のいずれかが異常に発達していると。それがどう活かされ、呼び寄せられるのか分からないが、取りあえず古文書の通りにするしかない。
後はどうやってアウロラを本気にさせるかだが·····。
どのくらい歩いただろうか。
国境が見える位置まで移動してきた。
この場所なら古代種を呼び出すのにいいだろう。
国境近くの湖で、迎えの仲間が待機しているはずだ。
「アレク、顔色が悪いし、身体も熱が·····。少し休みましょう。」
アウロラは俺を心配してくれる。
「ローラ·····ここで祈ってくれないか?古代種にここに来て欲しいと。助けを呼んで欲しいと。」
「アレク·····ここで祈ればいいのですね?」
「ああ、俺を信じて。国境を越えた湖で仲間が待ってるんだ。ぐずぐずしていると、直ぐに日が暮れる。夜は野獣が現れやすい。今度遭遇したら、俺は十分に戦えない。ローラを危険に晒してしまう。」
「アレク、私の心配よりあなたの身体を心配して下さい。出来るか分かりませんが、頑張ります。」
涙をうっすら浮かべながらアウロラは俺を近くにある木に寄りかからせるようにして座らせる。
本当は俺は君を拐った人間なのに。
記憶がないから俺にこうやって愛情を向けてくれる。
くそっ·····可愛すぎる。
アウロラは国境を見下ろせる開けた場所に立ち、空に向かい手を組み、祈りを捧げる。
「あなた達が私を知っているならどうか助けて下さい。夫のアレクが重傷なの。お願い、どうか私を見つけて。」
必死に祈るアウロラに心を奪われる。
ああ、ちゃんとアウロラと呼べるようになりたい。
あとは、本当にこれで古代種が現れるかだが·····。
竜化した古代種も、古代種特有の能力の他に、何かしらの器官が優れているはずだ。
信じて待つしかない。
それから一刻ほど経った時だった。
アウロラは何度も革袋に入った水を飲ませてくれ、今はアウロラの膝枕で横になっている。
幸せだ。
そう思いながら下からアウロラを見つめていると、空に小さく何かが光った。
それが徐々にこちらに降下してくるのが見える。
まさか古代種か?
「何だあれは?竜·····にしては小さいな。」
俺の呟きにアウロラも反応し、空を見上げる。
「あれは·····?」
俺は身体を起こし、それが近づいてくるのを待つ。
それは一羽の白い鳥だった。
カラスに似たその鳥は、身体は真っ白の羽根で覆われ、尻尾はカラスよりも何倍も長かった。
昼間だから分かりにくいが、それ自体が光を帯びている様に見える。
「あれは·····。」
何かを思い出しかけているのか、アウロラはその鳥を迎えるべく立ち上がり、両腕を鳥に向かって伸ばした。
「アウロラ!」
渋い男性の声がした。
何だ?誰だ?
思わず後ろを振り返るが誰もいない。
まさか······。
「アウロラ、漸く見つけたぞ!」
そう言ってその鳥は、アウロラの両手の手のひらに軽く降り立った後、アウロラの肩に移動し、そのまま乗った。
そして方翼を広げ、アウロラよ頭を包むように撫でた。
「無事で良かった。王都から駆けつけた甲斐があったぞ。しかし髪を黒く染めているのだな。それも可愛いな。」
鳥がしゃべった······。それも渋い声で·····。
これも古代種か·····。
これから竜に変化しそうには····ないな。
若干落胆するも、また別に現れるかもしれない。
しかし、この古代種の鳥はアウロラを名前で呼び掛けていたな。
直ぐにアウロラの顔を窺う。
アウロラは嬉しそうに微笑んでいた。
「あなたは·····ごめんなさい、私は頭を強く打ってしまったみたいで、少し記憶喪失なんです。でも心があなたをとても懐かしんでいます。来てくれて有難うございます。」
いやいや、アウロラ、鳥がペラペラ喋っているのに平然とした態度·····。
これは記憶が戻るのが早まりそうだな。
「その男に拐われたのか?今すぐ助けを呼ぶからな。」
そう言うと、古代種の鳥は直ぐに飛び立ち、上空で旋回し始めた。
それも身体を強く発光させて。
な····あれがあの古代種の能力·····。
しかし不味い。助けを呼ぶと言っていたな。
ローヴェルの騎士を呼び寄せるのかもしれない。
「ローラ、駄目だ、ローヴェルの騎士がやって来る。ここから離れるぞ。」
「·····あの古代種は私が拐われたと·····。」
「っっ·····それは俺達が駆け落ちをしたからだ。元の婚約者の所へ連れ戻されるぞ!」
「元の婚約者······。」
「俺達はもう、結婚しただろう?ローラ·····君はアウロラという名を捨てたんだ。俺と共に来てくれると言ってくれたんだ。」
アウロラの瞳は揺れていた。
「愛していると言ってくれたじゃないか·····。」
駄目だ、今思い出しては。
俺は必死に言い募る。
「アレク····私は·····。」
「分かった、古代種は諦めよう。このままローラをここで奪われる訳にはいかない。もう古代種の竜が現れるのを待つのは諦める。さあ、帰ろう、アルネストヘ。」
アウロラさえいれば、いつかまた竜を捕獲する機会もあるだろう。
「アレク····私·····。」
アウロラは今置かれた状況に困惑している。
これ以上思い出す前に国境を越えねばならない。
ローヴェルの騎士が来るのを恐れて、俺はアウロラの手を引き国境を目指し歩き始める。
アウロラはその場を離れる事を躊躇しているが、俺は少し強引に引っ張りながら移動し始めた。
未だ上空で鳥は舞っている。
不意に森の木の枝が、風で大きく凪いだ。
ギヤアアアアアア!
何の生き物か分からない叫び声が遠くで響く。
まさか·····。
立ち止まり上空を見上げると、鳥とは別の大きな何かが飛んでいた。
アウロラも立ち止まり、空を見上げる。
深紅色の体は大きな翼を広げ、先程の古代種の鳥と合流しているように見える。
深紅色·····。
グリフォニア城での結婚式で見た竜は、金色の竜ではなかったか?
どういうことだ?
まさか数体竜が存在しているのだろうか?
「ローラ、呼べるか?」
俺が尋ねると、ローラは空を見上げたまま両手を上げる。
するとそれに反応してか、竜が俺達の所に降下し始めた。
来る。
胸が高鳴る。
やがてアウロラの目の前に降りたそれは、軍馬の2倍程の大きさだった。
アウロラに首を差し出すように頭を近づける。
普通の令嬢ならとっくに気を失っているであろう状況だが、アウロラは心から喜んでいる様子で、そのまま竜の顔を両手で挟み、その鼻先に顔を近づけた。
顔を近づけられた竜はこちらも嬉しそうに甘えた声を出し、その鱗の色をピンク色に変化させた。
「なっ·····。」
衝撃の光景に言葉を失う。
まさか鱗の色が変化するとは·····。
「あなたも私を知っているのね。ごめんなさい、私は頭を打ってしまって、記憶を失ってるの。心配して来てくれたのね。お祈りしたら、本当に来てくれるなんて、嬉しいわ。」
アウロラは微笑みながら話しかけている。
「お願いがあるの。大切な人が怪我をしてしまったわ。だから仲間の所に運んで欲しいの。あちらの方向に湖があるわ。そちらに連れていってくれる?」
竜が俺を運ぶ?
アウロラの言葉を受けて竜の視線がこちらを向く。
竜と目が合う。
鱗の色が深紅に変化していく。
なるほど、感情の変化で鱗の色が変わるのか。
深紅という事は·····怒っているようだな。
喰われるかもしれない。
俺は警戒する。
そんな事はお構い無しに竜は俺に近づくと、翼を広げ上体を浮かせると前足で俺を掴んだ。
嘘だろ?
緊張で身体が強張る。
痛いと言っている場合じゃない。
「ローラも一緒に行こう!お願いだ、ローラも掴んで飛んでくれ!」
「この子に2人は無理です。私は歩いて向かいますから。」
「離れたら駄目だ!1人歩かせるなど出来ない!」
「大丈夫です。記憶を失う前の私はおそらく歩けたんです。不安はありません。」
「追手が来る。捕まってしまう!」
「·····その時は、アレク、ごめんなさい。きっといつかまた会えるわ。」
ローラは悲しげに微笑んだ。
「駄目だ!」
俺の叫び声など気にすることなく、竜は翼を羽ばたかせ飛び立った。
こちらを見上げるアウロラが、共に位置を確認しながら歩いてついてくる。
竜は木の上すれすれの高さで飛んでいたが、次第にアウロラとの距離は離れ、やがてその姿は見えなくなった。
◇
竜がアレクを器用に掴んで飛んでいく。
アレクはああしてはいるが、肩の骨折も、背中の傷も重傷だ。
早くちゃんとした治療をしないと感染症を起こしてしまうかもしれない。
傍で治療をしたいけど、無理かもしれない。
頑張って後を追うけれど、きっと私は追手に捕まる。
自分が医療に通じている事は何となく分かる。
ここローヴェル王国でそういう仕事に携わっていたのだろう。
「はぁ、はぁ······。」
アレクの姿も竜の姿も見えなくなってしまった。
それでも方向を信じて歩き続ける。
昨日から口にしたのは、アレクが歩いている途中、見つけてくれた果実だけ。
身体の力が次第に入らなくなってくる。
昨夜の下着姿から、包帯作りの為に布地を裂いてしまったワンピースを再び着て歩いている。
随分みすぼらしい姿だ。
他の人が見たら、遭難者と思われるだろう。
まぁ、もうそんな感じだけど。
「痛っ·····。」
足が重くなり、躓き転んでしまう。
「はぁ、はぁ·····。」
一度転んでしまうと、疲れが押し寄せてきて、直ぐに立てなくなっていた。
アレクが心配してるから、追い付かなきゃいけないのに······。
その時だった。
歩いてきた後方から、何かが近づいてくる音がする。
追手だわ。
未だ記憶が戻らない状況で誰が味方か判断出来ない。
息を潜めて、現れる姿を確認しようと身構える。
そして現れたのは·····。
「やっと見つけた·····。アウロラ、良かった無事で。」
それはあの時私達を追って来て、共に野獣に襲われていた騎士······おそらく、私の元婚約者だと思われる人だった。
読んで下さり有り難うございます。
また別の作品の投稿も行っています。盛り上がるまで少々読み進めて頂かなくてはなりませんが、気長に気楽に読んで頂ければと思いますので、こちらも宜しくお願いします。
「闇の聖女は愛を囁く。」
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