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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第三章 ラロス系の擾乱
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「また来たか。該当空域の戦力は?」とルビアが興奮気味にバリーに訊く。

「少し足りないような気がします。即対応できる戦闘艦が三十隻。十光秒以内。一光時以内だと三百隻になります。おそらくそれで大丈夫ですが、何が出てくるかわかりません。敵戦力は不明です」

「ヨアヒム。戦力の増強は可能か」

「隣の空域から全速力で向かわせています。合計三千。そのうち、レイスタニス級のAI搭載艦は三十隻」

「まさか、またガンマ線バーストってことはないだろうな」

 防衛局長は不安を口にした。敵は大出力の超大型爆弾をお見舞いされて怒っているかもしれない。感情があるとすればだ。怒りは相応の損害を意味する。それに見合う攻撃をしかけてくるとしたら、大掛かりなものになるはずだ。

「前回のガンマ線が噴出する前兆のデータが残っています。それと比べれば、違うということがわかります。いつものと変わらないと思いますが」

 バリーの分析にヨアヒムもうなずいているが、おやという顔をして報告を始めた。

「いや、いつもとは違います。ワームホールがとてつもなく大きい。推定で直径一万三千キロ」

「それは大きすぎませんか。わがレザム星の直径とほぼ同じですね」

 バリーが同じデータを呼び出して確認している。

「この大きさが必要なものといえば何でしょう。何を送り込んでくるのでしょう。前回のようなミサイル攻撃をかわすためだったら、直径を小さくすると思いますが」

 バリーと同じ疑問をヨアヒムも持ったようだ。珍しく手を止めて考え込んでいる。ワームホールの直径がなぜこんなにも大きいのか。大きくする利点は何か。思考は目の前の個体のヨアヒムの内部ではなく、十一面体のどこかにある多次元量子場干渉型素子の中で行われている。その莫大な思考量をもってしてもなかなか推測がまとまらないらしい。すでに十秒あまりヨアヒムの体は固まっている。これは非常に珍しいことだった。

 やがてワームホールが百%開通すると、前回と同じように味方戦艦がミサイルを発射し始めた。そのミサイルはワームホールに入る直前にすべて消えた。

 確かに消えた……。というよりも吸い込まれたように見えた。爆発は確認されない。ワームホールの前方に現れた大きな三日月状の光の中にミサイルが次々と消えて行く。

 ゆっくりと三日月は満ちていき、眩しい光を放ち始めた。凄まじい光量のために物理的実体が見えない。徐々にリアルタイム映像はホワイトアウトしていく。

 センサーの感度を下げると、まるで黒色フィルターを通して見る恒星と同じような光球がそこにあった。いまやその光は丸く、ラロス系の外縁にもう一つの恒星が誕生したようだった。

「これはなんだ!」

 それまで言葉を失っていた防衛局内にルビアの声が響いた。

「恒星のように見えますが。だとしたら信じがたいことだ……」

 バリーの声は震えていた。慌てている二人の人間は、超AIのほうを見た。そこにはまだ固まっているヨアヒムがいたが、やがて冷静な声が聞こえてきた。

「これは白色矮星でしょう。表面温度四万度。直径一万二千キロ。質量は恒星ラロスの〇・五倍。現在の速度は光速の二%。非常に危険です。コースを計算中。計算終了。レザム星への直撃コースです」

「なんだと?」

 ルビアは思わず叫んでしまった。防衛局の中をぐるりと見回すと、十人ほどいるスタッフが動きを止めて中央のホログラムを見つめていた。さっきまで自分もひそひそ話をしていたガラス張りの小部屋の中でも、首相が顔色を変えて突っ立っていた。

 白色矮星がワームホールから出現しただと?

 レザム直撃コース?

 直径はレザムと変わらないのに質量はラロスの半分?

 要するに、これは死刑宣告じゃないか。ルビアはシートにずしんと座った。見ると、ヨアヒムはまだ色々と計算をしているようだった。

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