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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第三章 ラロス系の擾乱
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 会場に再び拍手がわいた。そんな空気に慣れていないような雰囲気で、ステージ中央にイアインが歩いてきた。隣にいつもくっつている小型AIがいない。 軽く一礼をしたあとにリーダーが話し始めた。

「みなさん、こんにちは」

 すると、子供たちも「こんにちは」と返す。まだしっかりとした言葉になっていない幼い声も混じっている。

「イアイン・ライントです。みなさんのリーダーに抜擢されましたが、なにぶん、そういう役目に慣れていないので、それっぽくないと思います。でも、精一杯がんばります」

 再び一例してイアインの挨拶は終わった。わずかな時間だったので、聴衆は不満らしかった。その空気を察した首相がフォローする。

「イアインさんは、これから何年もみなさんと一緒にいる予定ですから、話す機会はたくさんあるはずです。では司会をヨアヒムに預けます」

 そういって首相は引き下がった。ヨアヒムはさっきから背筋をピンと伸ばしたまま微動だにせず突っ立っていたが、声がかかると敏捷な動きを見せた。

「では、班に分かれてもらえますか? IDのリンクを行います」

 子供たちが動いて、年長者ごとのグループに分かれた。小型AIと保護者たちは離れて行った。

「次に、左のほうの人たちから一人ずつ、私の方に向かって歩いてきてください」

 言われたとおりに、二百八十八人が列になってヨアヒムの前を通過していく。超AIは視覚で人物の認証を行い、それぞれのIDを書き変えて行った。全員が眼前を通り過ぎると、首相に合図してOKサインを出した。問題がなかったということらしい。

「今、みなさん専用のペンダントとブレスレットを作っています。データを入れています。それにはみなさん個人の生体データが入っていて、万が一、病気にかかったとき、準光速船の医療システムで活用できます。また、何かあったときに適切なアドバイスもできますから、大切にしてください。出来上がったらイアイン・ライントが届けます」

 元の場所に戻った参加者たちから拍手がまた起こった。こんな感じで結団式は終わった。

 その後は班のリーダーになる年長者たちが居住棟の会議室に集まった。ほとんどイアインと同じ年齢だった。その数は四十八人で、円形に並んだテーブル付きのイスにバラバラに座った。テーブルには投票装置がついている。

 まず最初に、イアインから提案があり、リーダーの選挙が行われた。リーダー体質でもなければ人の上に立ちたいとも思わなかったので、自分でいいのか確かめたくなったのだ。しかし、全会一致でイアインがリーダーに選出された。そして次にサブリーダーを六人選出することを提案すると、会議は進まなくなった。

 背の高い男の子、というよりも青年というべき大人っぽい雰囲気の男が挙手して発言した。

「自分はサクゲナ出身のオルシア・ルノンといいます。初めまして。ここに集まった人たちはまだ知り合ってわずか数時間です。もちろん、中には顔見知り同士の人もいるでしょうけど、まだ誰がどんな人なのかわかりません。なのでリーダーとして誰がふさわしいのかわからないです。サブリーダーの選出は、もう少し時間を置いたほうがいいのではないでしょうか」

 そういって着席すると、ほとんど全員が頷いていた。

「わかりました。では、時間を置きましょう。次は、首相が言っていましたが、準光速船に乗る時期ですが……居住エリアは自由に入っていいようです。それに、教育は準光速船のV・Rに依存するらしいので」

 これには、イアインの隣に座っている女の子が反応した。ロロアのように金髪で、目が青く輝いていた。

「アポイサム出身のフロリナ・バロアです。それは班ごとに希望を聞いて、自由行動にしてはどうでしょうか。居住棟に住んでもいいし、船で暮らし始めてもいい。

 ちなみに私の担当の子たちは、早く準光速船に入ってみたいようです。でも、これからあそこで長く過ごすことを考えると、できるだけ地上にいた方がいいような気もしますが。勉強は、おのおのがプログラムを持っているので、それに合わせてV・Rを受けに行けばいいと思います」

「では、いまのフロリナさんの意見について投票してください」

 イアインがそういうと、ホログラムの表示には賛成票が多かった。こんなようにこまごまとした議題をこなしていくうちに、政府の職員が三人、カートを引っ張って会議室に入ってきた。予定よりもずいぶんと早い。イアインは職員と一緒に荷物を机の上に並べて行った。命を吹き込まれたブレスレットとペンダントだ。ブレスレットからはホログラムが浮かび、持ち主の名前が輝いていた。あとで年少の子たちに渡すために、班長がそれぞれのセットを引き取った。

 それからも会議やリクリエーションルームでのミーティングが続いた。だんだんと参加者たちは打ち解け、メンバーの顔や名前を覚えていった。一日の予定がすべて終わったのは夜中だった。

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