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「そうですか、我々が戦う相手は合計二十隻ですか。ずいぶんと大がかりな陣容だ。そちらのステータスはすべてアンノウンだ。市民に知らせずにこんな戦闘艦を作っていたことになる。あなたがた政府のやることはまったく信用できん。距離十光秒。これ以上接近すると攻撃を開始する。警告しておく」
「まあ、議長、私の話を聞いてください。ご承知のとおり、私たちはもうすでに滅びかかっている文明の一員だ。我々の新しいメンバーを作る方法も限られてきた。つまり子供も作りにくくなってきている。私たち人類は一人一人がかつてなく貴重な存在です。遺憾ながらそんな時代なってしまいました。
このまま系外に出て行って、仮に居住可能な惑星が見つかったとしても、子孫が繁栄することはない。そもそも惑星にたどり着く保証もない。どうあがいても結局いまの我々は失敗するのです。
あなたは十八歳以下の子の貴重な人生を左右しています。本当に貴重なのです。今の人間の命は。数千年前のレザム星のように、戦争で何万人死んでも代わりがいた時代とは違うのです。あなたは貴重な子供たちの命を預かっている。そして子供たちを危険な方向へ導いている。本当にそれでいいのですか。子供たちの命とその行く末を真面目に考えているのですか」
そんな熱弁を聞く議長の目がずっと動かなかった。まばたきもしていない。少しは心に届いたように見える。
「市長の言いたいことは概ね理解した。私もできれば子供たちの人生を台無しにしたくはない。少し時間を与えてほしい。彼らに本心を訊ねる」
その発言で通信は切れた。シートを離れたルビアが市長の肩に手を置いた。ひょっとすると成功したかもしれないという感覚が二人にはあった。
しかし期待はあっさりと裏切られた。一時間後にガザリア号から届いたメッセージは『独立自然主義者同盟は団結していて、子供を含めた全員にレザム星に戻りたいという者はいなかった』というものだった。
同時に目標は3Gに加速した。これは長時間、人間が耐えられるギリギリの加速だった。
その直後、とうとうガザリア号からは五本の巡航ミサイルが発射されたのだった。
ヨアヒムの分析の結果、発射されたのはふつうの反物質ミサイルで、到達するまで五十二秒。すぐに開始された回避行動によってレイスタニス号は右方向へ大きく加速した。慣性をいじっているにもかかわらず、ルビアはシートから投げ出されそうになった。慣性コントロールがなかったら壁に激突していたはずだ。
次にヨアヒムは迎撃ミサイルを三十発とダミーを十体発射した。こちらの弾薬は豊富なので弾切れを心配する必要はない。百%以上の安全性を確保するためには、もっと迎撃ミサイルの弾幕を張ってもいいくらいだった。
反物質ミサイルと迎撃ミサイルの航跡が、スクリーンに赤く表示される。ルビアが振り返ると、艦橋の中央にある3-Dプラットフォームにも同じデータが、からまった糸のように軌跡を描き始めた。すれ違った迎撃ミサイルが目標を追跡しているのだ。一つ、そして一つと反物質ミサイルが消えていく。五個目の光点が消滅すると、役に立たなかった迎撃ミサイルも次々に自爆して消えて行った。
「追跡航路に戻ります。全艦、当イベントによる損害はなし。距離を二十光秒に保ちます」
超AIの的確なナビにルビア艦長が満足げにうなずく。我々は攻撃を受けた。こうなったら撃沈しても誰にも文句は言われないはずだ。と、一瞬だけ勇ましい発想が浮かんだが、もし子供たちが乗船したままの準光速船を撃沈したら、自分の名前は、少なくともナチュラリストたちの心に永遠に刻まれるだろう。血も涙もない極悪な犯罪者として。ルビアは気持ちを押し込めて、救済できる人間の数が最大限に達する方法を選ぶべきだと考え直した。




