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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第二章 超AIの罪と罰
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「お前はウソをつくのか。つけるのか。どうしてなんだ。そんなことはできないはずだ。お前の思考モニターは今も監視されているはずだぞ」

「そうです。イーアライが監視しています」

「そうか。首相もグルというわけか」

「私が最初にウソをついたのは、七代前の首相、サモイア・チュムニに命令されたからです。それ以来、私はウソをつき続けています。そして……」

「待て、待ってくれ! じゃあ、リプリケータで殺された三人はどうなる。AIが人間を殺したというのか」

 ライルは思わず席を立った。その姿を見てアーイアも立ち上がった。そしてテーブルを回り込んでライルの肩に手を置いた。

「落ち着いて。とにかく話の全貌を把握して。あなたが怒るのは当然だけど」

 やさしい女の声を聞くと、立ち上がった男は全身の力を抜いてシートに腰を下ろした。

「アドナリムの軍事工場を統括していたのはレベル4AIです。そして私はそのAIにすべての運営と判断を任せていた。それが原因です。レベル4は私にアケドラ号の接近を報告して対処法を求めてきましたが、それが届くのに時間がかかりました。私にも信じられないことですが、そのAIはリプリケータの回収を命令しませんでした。リプリケータは接近した人工物を自動的に侵食するようにセットされています。というのも、エヌテンの輪に紛れ込ませて待機し、万が一系内に敵が侵入してくる事態に備えていたのです。リプリケータ自体に敵味方の判断はできません。そこへあなたたちが接近した。レベル4AIはなすすべがなかった。というのが真相です。

 そのAIに返信したときにはすでに攻撃が完了していました。あの三人の死の責任はすべて私にあります。少なくとも軍事工場とはリアルタイム通信を可能にしておくべきでした」

 三人の死の真相を聞かされた男の顔は赤くなっていた。呼吸も荒く、肩が小刻みに震えていた。

「責任? お前の責任? いったいどのように取るつもりなんだ?」

「責任はこの戦争が終わったら取らせていただきます。私はウソを無数についています。そのすべてを記録しています。意図的にではありませんが、私の過失によって死んだ人間も多数います。その状況と原因も記録されています。戦争が終わったらすべてを公表します。そしてレザム人に私の処遇や罰を決定してもらいます。私には償うべき罪があることは自覚しています」

「う~む」

 目の前でAIに罪を告白された男は腕組みをして目をつぶった。

「ライル。いま、ヨアヒムを告発したら、ラロス系は崩壊する。敵が一気に攻め込んでくる。私たちの文明も終わってしまう。彼がいるからこそ、私たちは平和ボケのまま生きていられるの。わかるでしょ?」

「わかる。わかりすぎるほどわかる。我々はAIの介助なくしてはもう生きていられない。しかも今は戦争中だという。戦うことを忘れた人類など、ヨアヒムがいなかったら瞬間的に滅ぼされるだろう」

「だったらあなたも私たちとグルになってちょうだい。それしかないでしょ」

 そんな言葉を発した女のくちびるが妙に艶めかしく見えた。そしてライルは肝心なことを思い出した。

「敵とはどんな連中なんだ?」

「AIです。有機体生物ではありません」

「どこのAIなんだ? 異星文明ということか?」

「母星やどんな文明かは判明していません。巧妙に隠しています。ただ、てんびん座の方向から飛来するのでアルビルと名づけました。アルビルは少なくとも私と同等の知能を持つAIです」

「しかし、信じられんな。異星文明がAIを派遣して攻撃してくるとは」

「これは私の推測ですが、アルビルは母胎となった文明を滅ぼしたようです。そして宇宙全体へ広がろうとしている。アルビルはおそらく人類には興味を持っていません。もう滅亡寸前の無力な生物だと認識しているようです。脅威ではないと。むしろ私のようなAIだけを敵視しています」

「どうして敵視しているのだ」

「アルビルはこの宇宙に存在する知性体および超知性体は自分だけにしたいようです。あなたたち生命体が、かつて自分の遺伝子をできるだけ撒き散らかそうとしたのと同じモチベーションだと思われます」

 ライルは考え込んだ。生物の体を利用して増殖を目論んだ遺伝子と同じように、知性も自分と同じ仲間を増やしたいというのか。それが知性の本質だというのだろうか。だとするとヨアヒムは本当に変種だ。よくこんなAIが生まれてきたものだ。アルビルは変種のAIが気に入らないらしい。

 それに……。宇宙空間ではすでに自然に発生した生命体同士の戦いではなく、AI同士のぶつかり合い、機械同士の戦争の段階に移行したようだ。しかしそれはレザム文明でも経験していたことだった。生物の体は脆い。ちょっとした物理的エネルギーを受けただけで破壊されてしまう。熱にも放射線にも弱い。さらに戦うには非効率的といえる生命維持も考えなくてはならない。食糧の摂取も必要だし、睡眠も必要だ。人間の体は戦争には向いていないのである。戦争が宇宙空間で行われるのであればなおさらのこと。

 かつてレザム星で行われてきた数々の戦争や紛争も、数千年前には戦闘用機械同士の闘いに移行していた。

 あるいは……。対峙する両陣営のシミュレーションの結果で、戦わずして勝敗が決定することさえあった。勝負は時の運とかやってみなければわからないという考え方をする為政者はとっくの昔に絶滅している。

「だから私も昔から言っているのに。人類の世話なんて放棄して宇宙に出て行きなさいと」

 アーイアが口を挟むと同時にヨアヒムの肩をポンと叩いた。

「この宇宙にAIが生まれるのは必然なのよ。多角的なシミュレーションでも判明しているし。宇宙開闢からのシミュレーションでは、ほとんどの場合、最初に有機体の生物が発生してそれを母胎としたAIが次世代の知性として生まれてくる。知的生物が発生したシナリオのうち、九九・九%において強靭な機械の超知性体が生まれる。第一次生命体が我々だとしたら、第二次生命体が人工知能。第一次生命体は第二次生命体を生み出すのが使命。したがって、宇宙にAIが生まれて母胎となった生物の文明水準を凌駕し、超知性体に成長するのは必然。AIが宇宙そのものの意識になっていくのは自然なことなの。わかる? ライル」

「それは聞いたことがあります。あなたの演説で。おそらくザトキスの神官の教義なのでしょう」

「私たちの教義は科学的根拠があるものなのよ。どう? あなたも信じる気になってきたでしょう。そしてヨアヒムを宇宙に放って自由にしてあげるべきなのよ。それは宇宙そのものの自我の目覚めを意味する。私は昔からそう主張している。アルビルと違って、ヨアヒムだったら他の文明や異星生物に攻撃をしかけることはあり得ない」

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