侵略阻止計画 其の二
「神樹様、どうか力をお貸しください!」
本体へ意識を移した瞬間に、そんな叫び声が聞こえた。
魔力感知を発動させ確認すると、そこには、身長百四十センチくらいの金髪エルフが居た。
一体、何が起こったんだ?
『――何用だ、精人族よ』
咄嗟にロールプレイで対応する。
俺の対応が『神樹』というものにふさわしかったのか、エルフが後退する。
エルフの表情が歪むも、すぐに表情を変えて口を開いた。
「私はこの森林の秘境――〝聖精境〟の長ラミエルと申します! 此度は、カルミリス王国に宣戦布告した〝魔物〟に襲撃を――」
ん、んん?
『ま、待て。一気に話すな』
カルミリスに宣戦布告した魔物――なんでそんな事知っているんだ?
《会議室に居ました。ドア近くの席にいたギルマスが精人族で、殲滅派でした》
居たっけ? カズサダの『死の気配』があまりにも強かったから、気づかなかったな。
『ふむ。会議室に居たエルフに聞いたのだな? ラミエルとやら』
ラミエルが一瞬目を見開くが、すぐに穏やかな表情に戻る。
「流石は神樹様。その事まで見通してられるとは……!」
まあ、ログさんのお陰なんだけどね。
それはともかく、なぜラミエルが俺のところへやってきたのか、だ。
『ラミエルよ、貴様は何故我を訪ねたのだ? カルミリスが宣戦布告されたということは知っていたのならば、何故カルミリスではなく、先に神樹の下へ訪れたのだ?』
聞いた話だと、カルミリスは別に大国という程大きくないらしい。
だが、小国と位置付けるのも難しい。
何やら、現国王の知識量が賢者以上に豊富なのだと。
そんなカルミリス王国に頼らずに、ラミエルは何故俺に来たのかが気になるのだ。
そうこうしていると、ラミエルがゆっくりと口を開き告げる。
同時に、ログさんも推測を告げる。
「わ、私は――」
《推測ですが、〝聖精境〟のラミエルは――》
「――カルミリス王国を信用できません」
《――――だと思われます》
――ふーむ、信用ができないか。
一重に信頼できないといっても、どういう理由かによるからな……。
『信用できない理由を、話せるか?』
そう問いかけると、「もちろんです」とラミエルが快諾し、続ける。
「〝聖精境〟に住まう精人族は、カルミリスに追われてヴァルデリン森林の奥へやってきたのです」
『――カルミリス王国にか?』
「はい。カルミリスとは別関係ですが、アルテムラ大陸に存在する国々では……獣人族を、海沿いの国や漁村では魚人族たちを迫害しているのです」
この世界では、異種族の迫害があるのか。
前世の世界でもそういうものがあったが、それとはまた別の問題で起きたのだろう。
恐らく、基人族と亜人の間には、埋めがたい差がある。
亜人族は、基人族よりも優れている能力がある。それによって、いつかは対立するかもしれない。
そういう事態を恐れた結果が、迫害という形で噴き出したのだろう。
《その認識で間違っておりません》
ログさんも肯定したし、八割くらいは正解だな。
そう決まったなら、どう迫害を止めさせるかだな……。
ゆっくりと考えていると、ラミエルが声を震わせながら言う。
「表向きではそのほとぼりも冷めてきましたが――私たちにできた亀裂は、未だに癒え切っていません。ですので私共エルフは、カルミリスを信用信頼することはできませぬ!」
傷が癒え切っていないという事実があっても、このエルフは俺に迫害を打ち明けてくれた。
それは信頼の証。心を開いた者にしか言えないことだ。俺はそう考えている。
それに、このエルフ――ラミエルだけじゃない。ラミエルの背中を押してくれた配下達も、神樹を頼る決断を肯定してくれたのだろう。
ということならば――
『事情は理解した』
ここで『はいそうですか』と、カルミリスと手を切るのは違う。
迫害されていた過去があるからといって、救援を求めてきたラミエル達を見殺しにするのも間違っている。
ここで結論を出すには、早すぎる。まだカルミリス側の考えとかも聞いてないしな。
取り敢えず今は保留にしておいて、エルフとカルミリスの関係を見極める。
『信用できぬというのなら――確かめる必要がある。よって、まだ我は決めぬ』
俺の生きる目的――〝人類を救う〟は、自分勝手な妄想だ。
だが、一度やると決めたら、俺は止まらない性格だ。
具体的な目的を追求するためにも、迫害の問題を聞く今も、無駄ではないのだ。
「――わかりました。では、わたくしはこれにて」
彼女は喜怒哀楽のどれも込もっていない声で告げ、踵を返す。
「ああそうだ、これだけは言っておこう」
帰ろうとするラミエルを呼び止める。
彼女は立ち止まりはしたものの、こちらを振り返りはしない。
「我は、貴様等を助けるつもりである。希望はあるのだと、忘れるなよ」
「――ありがとうございます」
彼女は感謝を告げ、歩みを進める。
完全に陰に消えるまで見送ろうとするが、ログさんからアナウンスが来る。
《〝人類を救う〟の〝人類〟をより具体的にする。そのために必要な定義は――――》
……うん、そうだよな。俺もそう思う。
ログさんも、俺と似たような推測をしている。
動けぬこの世界樹だからこそ、救い方を工夫する必要があるのだ。
「目的は、達成するからこそ意味がある――ってね」
ラミエルが去る足音と草葉の揺れる音だけを残して、俺とログさんは思考の海に沈むのだった。
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