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エピローグ:不可逆の芽吹き

第一章、終了!

 第十二回【緊急帝国報告書】

 (てい)(れき)一万七千六百八十五年・『十八の月』『秋』『第六週の二日』

 議題(テーマ):新たに誕生した神樹




 本報告書は、パラバル大陸のカルミリス王国にて記録された〝新規神樹個体〟についての一時記録である。

 本個体は、既存の神樹のどれにも当て嵌まらない。敢えて特徴を挙げるのならば、その他の神樹よりも巨大で、魔力の濃度と量が桁違いであるところ。

 侵略兆候は確認されていないものの、『念話』による意思疎通は確認済みである。


 そして、本個体の最も恐るべき点は、その『性格』にある。神樹は、例外無く難ありの性格をしている。

 ()の〝北極の王樹〟のように人類全てを見下している訳でもなく、〝至天の大樹〟のように、眷属を除いた何もかもに無関心、という訳でもないことが確認された。

 加えて、人類に友好的な態度を取っていたことが確認される。


 人類に友好的な神樹――それこそが、我らが帝国の最大危険因子(リスクファクター)であると判断する。

 神樹の情報が規定量まで分析・確認・対策が終了次第、すぐに主力軍団を率いて侵攻すると愚考。


 神樹という存在は、長き歴史において人類国家と一定の距離を保ち続けてきた。時に魔物を排除し、時に人類を守護することはあれど、その行動原理は極めて自己中心的であり、国家への従属や協力を受け入れた事例は確認されていない。


 しかし、本個体は明確な意思を持って人類と交流し、王国側との友好的接触を継続している。

 この一点のみでも、既存神樹とは根本的に異なる価値観を有していると考えられる。


 最悪の想定として、本個体が人類国家を統率し始めた場合、神樹を中心とした巨大勢力が形成される可能性を否定できない。

 神樹が有する莫大な魔力供給能力、周囲環境の浄化能力、生態系への干渉能力を鑑みれば、一国家のみならず、一大陸規模での勢力図を書き換える危険性が存在する。


 現地潜入員からの報告では、本個体は負傷者への治療支援、住民との対話、周辺魔物の積極的排除など、人類社会へ利益をもたらす行動を複数確認している。

 このような行為は住民からの信頼を急速に獲得し、既に宗教的崇拝の兆候も散見される。

 仮に信仰対象として定着した場合、人類側から神樹への協力者が爆発的に増加する可能性が高い。


 また、本個体は短期間で異常な速度の成長を見せている。

 通常、神樹の成長には数百年から数千年を要するが、本個体は誕生から極めて短期間で既存神樹に匹敵する魔力量を獲得していると推定される。

 成長速度そのものが未知数であり、現時点の戦力評価は参考値として扱うべきである。


 現在確認されている能力は、『念話』『広範囲魔力感知』『高密度魔力放出』『枝および根による物理攻撃』である。

 その他、未確認能力の保有率は極めて高い。

 神樹という種族特性上、広域結界、眷属創造、魔力供給、植物操作などを獲得する可能性も十分考慮する必要がある。


 現在のレベルは七十六。

 既に、ギルドの最高位戦力の一角『幻巨像の繚乱(ギリメカラ)』の一員ダーガスをも圧倒していると見られる。


 なお、本個体の実戦経験は極めて少ないにもかかわらず、高位冒険者を退けていることから、戦闘能力の伸び代は計測不能と判断する。

 長期間の放置は、本個体に戦闘経験と知識を蓄積させる結果となり、帝国側の被害を指数関数的に増加させる恐れがある。


 また、本個体は、つい二百年前に誕生した神樹と何らかの関連性を持つ可能性が指摘されている。

 両個体の魔力波長には類似点が存在するとの予備報告も提出されており、現在も詳細な解析を進めている。

 仮に神樹同士が情報共有、あるいは相互支援を行える種族であった場合、本件は帝国存続に関わる国家最高機密案件へ格上げすることを提言する。




 提出者:帝国主力軍団【異能強化兵団(エル・エキゾチズム)

 総合大団長:ディエル・スペーラ

 最高責任者:ルア・エル・ヴァルマリア


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そこは、平和だ。

 争いなどまるでなく、悪しき影響もほとんどない。

 ここで倒れようが死にはしないほど、魔力も適度に満ちていた。

 村というより集落だが、そこは間違いなく平和――でだった。


〝アレ〟が、来るまでは――


 今となっては、荒れた住居や森、倒れている人々。そこかしこに()飛沫(しぶき)が飛んでいた。


 ――ここは、エルフの秘境――

 集落の中でも一際大きい、森の秘境であった。

 その秘境が、崩壊の危機を迎えつつある。

 青い体に黄金の瞳、腕に鎌を持つ者が、エルフの戦闘員たちと対峙する。


「な、なんなんだよ……お前は……! ぼ、僕らの所に来て……。どうして……どうして、僕達エルフのことを襲うん――!!」


 若いエルフが叫ぶも、その者――〝鎌持ち〟は答えない。


 ――一閃。


〝鎌持ち〟が放つ一閃で、地面に崩れ落ちる。

 崩れ落ちた同胞を見て、仲間のエルフは鬼の形相となった。

〝鎌持ち〟が腕をクイッとしたのを皮切りに、エルフたちとの戦闘が始まる――


◇◇◇◇◇◇


 斬る。

 壊す。

 荒らす。

 侵略する。


 それこそが、〝鎌持ち〟に与えられた命令だった。

 人間たちが〝魔物〟と言っているが――間違ってはない。

 ただ、人間が区分する〝魔物〟とは、種類が違うだけなのだ。




 死体(エルフ)の山を(いち)(べつ)し、〝鎌持ち〟は呪文を唱えようとする。

〝鎌持ち〟の命令は、()ずカルミリス王国を侵略することだった。


 侵略――他国の支配下の土地等を、侵入して奪い取ること。それは、一つの畑から国まで、どんなに広かろうと、中枢を奪いさえすれば、それは〝侵略した〟となるのだ。

 国と呼べるほどの規模ではないが、〝鎌持ち〟達らは確かな実力と戦力を持っていた。

〝鎌持ち〟がこの場を支配したら、カルミリス王国を。カルミリスの後はズームパムを始め、このパラバル大陸を。そして、大陸を渡って帝国も征服する。


 何故そこまでするのか――それは、それこそが、〝鎌持ち〟の主――全てを侵略するための、絶対王の悲願なのだから。


 この日を境に、世界は激動の時代を迎える。

 救済と、侵略。その二つのどちらが勝つかは――まだ分からない。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!


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