プロローグ:過労死
なろうでは初投稿です!
俺は、世界を敵に回した。
本意ではないと思っている。そうせざるを得ない状況に居たから、俺はそうした。
その選択で間違っていないと、今でも思っていた。
「……こんなはずじゃ、無かったのにな」
この世界で持った〝目的〟とは、俺が思い描いていた理想とは、真逆の方向へ進んでしまっている。
こうなるまでは、苦難はあったものの、なんやかんやで上手く事が進んでいたはずなのに。
どうして、こんな事態になってしまったのか――
それは今も、その理由が見つからずにいた。
俺が溜息を吐くと、草や岩の陰から何かが現れる。
そいつらは、人間どもだ。憎悪を含んだ目で俺を見ている。
「――突撃せよ! 奴に、我らの憎悪をぶつけるのだ!」
「「「うおおおおーーーッ!!」」」
人間どもが武装をして、俺に突撃して来る。
いや、武装などという大層なものじゃないな。薄っぺらい剣を両手に、ただの鉄の板を身に纏っただけの、軽装備だ。
「……面倒臭い。拘束しろ」
呟くと、地面から〝根〟が何本も姿を現す。
その〝根〟は蛇のように動き、向かって来る人間どもをいとも容易く縛り付けた。
〝根〟の操作をしているのは、他でもない俺だ。
うっかり骨とかを折らないように、細心の注意を払いながら、人間どもの自由を奪っていく。
「くそったれ。テメェのせいでぇよ、どれだけの人間が死んだと思う!? テメェのせいで、俺らは安眠も出来ねぇ! ふざけんじゃねえよ!!」
切り込み隊長らしき男が悪態をつく。だが、その言葉は全くの正論だ。
彼らの言う事は、正しい。
俺が《《いる》》から、こんな事になっているのだ。
「テメェの首取るまでは、俺は死んでも死なねえぞ! こうやって縛り付けても、切り込み隊長の俺を止められると思うなよ――!!」
「――――てくれ」
「あ? んだよ?」
「――やめてくれ。もう……やめてくれ」
俺は顔を歪めながら、ぼやく。
これ以上傷つけたくないんだ、と。
傍らで待機している、漆黒の衣を身に纏った少女――
今の、守るべき存在を横目に、まだ鉄色の輝く剣を握り締める。
そして、思い出す。
俺が死んだ〝あの日〟から、俺の渇望していた『普通の人生』が崩れ去ったことを。
あの、人間だった頃の記憶を――
この二度目の人生の終わり際に、思い出す。
◆◆◆◆◆◆
異世界に行きたい。
小説とかアニメを読んでる男子諸君ならば、そう思った事は一度はあるのではないだろうか。
俺は、何百回もある。なんなら、そこで生まれたかった。マジの本気でそう思うほどに、俺はファンタジー世界が大好きだった。現実には存在しない、魔法や魔物が大好きだった。
剣と魔法が主軸の世界。
真実を解き明かす世界。
頂点に成り上がる世界。
元仲間に復讐する世界。
安穏無事に過ごす世界。
どんなストーリーでも、俺はファンタジーが大好きだった。
画面の中にいた勇者達は、いつだって世界に平和をもたらしていたし、障害となる強敵も、魅力的なキャラクターとして描かれていた。
中学生くらいから絵を描いたり、小説を書いたりとか創作活動もしたりもした。
叶わぬ夢だと分かっていても、そのセカイで生きてみたいと思っていた。
だけど、大人になった俺がいたのは、情熱に満ちていた物とは真逆で、かけ離れた所だった。
「俺……俺は、この人生で楽しかったのかな……」
カタカタと、タイピング音がオフィスを支配する中。
ガキの頃は希望で満ち溢れていたのに、今では負の感情を背負って仕事に打ち込む日々だ。
好きだった創作ができるどころか、生きるための貯金すらない。
今までの生活はなんなんだ――そんな、ここ数年の疑問が湧いて出てきた。
いわゆるブラック企業に就職して、不眠不休の十五連勤目の今、そんな事を呟いていた。
「少なくとも――アットリーストで、楽しくは無かっただろうな」
生きるためのカネも、何かを実行するジカンも、気力を維持するためのキュウソクもない。
感情を押し殺して、今まで一生懸命働いて来た。
だが……もう限界だ。
ガタンッ!
大きな音を立てて、地面に倒れ伏す。
力が、出てこない。
どうやら精神ではなく、先に体にガタが来たようだ。
そりゃあ、そうか。カネがないから、水も飯も摂ってなかったから。
だとすると、死因は枯渇死になるんだろうか……。
「ゼー……ゼー…………」
声――というより、呼吸がもう死にかけだ。
舌がまともに動かないし、肺に液体が溜まってるみたいに、ゴロゴロしている。
もっとアニメとか、ラノベとか見たかった……。
こんな所じゃなくて、ホワイトで有給が遠慮なく使える所に就職したかった……。
創作活動で大成功もしてみたかった……。
――よしっ! 後悔はもう終わり! 切り替えて行こうぜ!
まあ、これから死にゆく人間には最後の思考だけど。実際、こんな事考えている間もすっげえ苦しいし。
だけども、体は苦しくても、最後の心くらいは明るい感情で終わろうと思った。
よし、そうだな……?
人生最後の『もしも〇〇だったら』のお題としてはやっぱり――
『異世界に行けるなら、どうする?』が良いな。ガキの頃からの夢だったし、初心に戻って考えてみるか。
うーむ……?
パッと思いついたのは、この人生とは真反対の、『スローライフ的な生活を送る』かなぁ。
ゆっくりまったりとした生活。強大な力があってもなくても良い――それもまたおじさんにとっては良いんだけど……やっぱり、俺は戦ってみたい!!
人間だから痛いのはものすごい嫌だけど、戦いたい。
愛せる人も欲しいし、その人のために戦ってみたい。愛せる人がいなくても、何かしらの目標は持ちたい!!
ちょっと強欲だったか?
まあ思考するだけなら自由だろ。実際、もう人生に終止符を打ち掛けだし……。
最後に、天に祈っておこうかな。割と望み薄だけど、やるだけやってやる!
「ガミ……ザマ! ボトケ……ザマ! ワダシはこの人生に悔いはありまずが、やり直しだいとは思いまぜん! ゴホッゴホッ!!」
喉が痛い……血反吐でベチャベチャする……。
目も、霞んでてなにも見えない。
だけど、俺は上を見て叫ぶ。どれだけ苦しくても、願いが叶わなくても……!
「でずが、もじ……! もじも、来世があるのならッ……!」
胸を抑えながら、最後の力を振り絞る。
「次ごぞは、普通の人生を歩み――」
言い切ることは無く、吐血しながら床に倒れる。
力を使い果たしたからか、はたまた頭を打ったからか、視界がどんどん暗くなり――
『聞き入れた。良いだろう』
そんな幻聴と共に、肉体の中にある何かが、浮遊する感覚がした。
◆◆◆◆◆◆
「チッ……貴様ら! 何が目的だ!」
昔の記憶を振り返っていると、別の岩陰から人が飛び出す。
居たのは分かっていたが、思ったより早く出てきた。
「ああすまない。少し、考え事をしていた……」
男に意識を向くと同時に、驚愕した。
あの時から、感情は無くなったものだと思っていたのに、まだ残っていたらしい。
思い出して後悔しても、時既に遅しというものなのにだ。
俺が立ち止まっていると、自由に動ける人間どもが、拘束されている人間どもに近づく。
今にも人間どもが根を斬り裂いて、仲間を助け出そうとしている。
その光景を見ても、俺は阻止しようなどはしない。
考えつきはしたが、労力の無駄なのでやめようと思ったからだ。
「ふざけるなよ……ッ! すぐに貴様らを倒して、目的を吐いてもらう……!」
男は鎧を着直し、腰から太刀を引き抜く。
どんなに頑強な鎧と、鋭い剣を装備にしても、俺には全くの無意味だ。
むしろ、俺にはただの『薄っぺらい板』と『寿命の尽きた長いナイフ』にしか見えない。
そうしか思えない。
それでも、急所を突かれると容易く散ってしまう、哀れな生物。
俺が必死に守っていた、愛しかった生物。
与えた恩を忘れた愚かな生物……。
永い永い間、ほぼ全ての時間を捧げてきた俺に。
「行くぞおぉ!!」
「「「おおーーーッ!!」」」
人間どもが叫び、俺に突撃する。
「……どうなさいますか?」
少女が衣をはためかせ、無機質な声で問いかける。
「差し伸べた手を払ったのなら、もう一度救う義理などない。容赦は、しない」
即答すると、少女は軽く相槌を打ち、俺の後ろへ陣取る。
「承知致しました。では私――Y・D・Fは、後ろの兵を相手致します……」
「分かった」
そうして、鉄色の剣を振るう。
肉を切り裂く音が耳をつんざき、鉄色から真紅色へと様変わりしていく。
そこで、俺は思った。
――俺は、禁忌を犯したんだ。
――救うはずだった人間達を、この手で殺したのだから。
もう、後戻りはデキナイ。
それならば、立ち止まれるところまで進み切ってやろうじゃないか。
それはそう思い、赤く染まった道を歩き始めた。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」
そう思っていただけたら、感想や評価をいただけると嬉しいです!
★★★★★やブックマークをしていただけると、作者が飛び跳ねて喜びます!
皆さまの応援が、次のお話を書く力になります。
これからもよろしくお願いいたします!




