第7話「余、真の名を示す」
入学式を終え外へと出ると、数名の大人達が新入生の群れをまとめ始めていた。
「A組の皆さんはこちらに。私に着いてきてくださいね。」
ふむ、どうやら振り分けた組毎に別れるようだな。察するに、あの者が余の指導者なのであろう。
余はその者の声に従い、移動を開始した。
移動の最中、不意に肩を叩かれ余が振り向くとーー
余の頬に人差し指が刺さった。
「⋯何をしておるのだ、夏美」
「へへっ、ちょっとやってみたくなっちゃって」
そこには、したり顔でにやけた夏美の姿があった。
「久しぶりね、アレクシア。と、言っても⋯数日前に会ったけど。この並びに居るって事は、もしかしてA組?」
「いかにも。夏美もであるか?」
「うん、一緒だね」
そうか、夏美もまたA組に選ばれし者であったか。
「ふふ⋯流石、余が見込んだ者よ⋯やるではないか」
「うん、相変わらずの様子でむしろ安心感さえあるわね」
夏美と話しながら進んでいると、また別の大きな建造物が見えてきた。
「夏美よ、目的地はあそこか?」
「ちょっと待って⋯ええ、そうね。あそこに私達の教室があるわ。教育棟Aっていうらしいわ。」
資料にある、学園案内という紙を確認しながら夏美はそう答えた。
「成程な⋯そこが余の主戦場となる訳か」
「そういう事ね、知らないけど」
そうこうしてる間に、余達は教育棟Aとやらに辿り着いた。
「それじゃあ、ここで靴を上履きに履き替えて。脱いだ靴は靴箱に入れてくださいね」
ここで指導者から新たな指示が入る。
「ふむ⋯夏美よ、これはどこへ入れればよいのだ?」
「えーと⋯こっちね、名前が書いてあるわ」
夏美が指し示す場所には、確かに余の名が刻まれていた。
「おお、大儀であるぞ」
「どーも」
余達はそれぞれの場所へ靴を収めた。その時ーー
「あっ、シアちゃんだ〜!」
なんとも間の抜けたような声が聞こえてきた。余をシアちゃんと呼ぶのは⋯
「心春か」
「えへへ〜さっきぶり〜」
ぴょこぴょこ歩きながらこちらへとやってきた。まるで小動物のようである。
「えっと⋯知り合い?」
夏美が不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「うむ。駅で難儀しておったところを助けてもらってな。」
「そうそう、それでお友達になったんだよ〜」
それを聞いた夏美は、少し考え込むような仕草をする。
「そうなんだ⋯ねぇ、私も友達?」
どうした夏美よ、藪から棒に。
「ふむ⋯そうだな、夏美も友であるぞ」
「えー?何かついでって感じに聞こえるけどぉー?」
余の返答に不満を漏らしながらも、どこか満足気な表情であるな。
「まーいいわ。⋯えっと、心春さん?私は夏美。杉浦夏美よ。宜しくね?」
「心春でいいよ〜。私は柊心春、よろしく〜!」
「うむ、では互いに名も知れたところで⋯そろそろ参ろうか!」
「おーっ!」
「あっ、ちょっと!置いてかないで!」
そうして余達三人は、A組の教室へ向かい歩き出した。
目的の場までの道中⋯ふと疑問に思ったのか、心春がこのような事を言い出した。
「そういえば、席ってもう決まってるのかな〜?」
「多分決まってるでしょ?最初だしね」
ふむ、席⋯それぞれの配置か。
「戦において、兵をどこへ置くかは極めて重要である。そこを気に掛けるとは、心春もやるではないか」
「えへへ〜でしょ〜?」
「いや、戦じゃないからね?心春も何で受け入れてるの?」
「ん〜⋯楽しいからかな〜?」
「うむ、何事も楽しんでこそよ。寛容な心は個人の戦意を高め、それは全体の士気向上にも繋がる。夏美も楽しむがよいぞ?」
「いや、だから戦じゃないって⋯でも、そうね。理にはかなっているのかも⋯」
余の言葉に何か思うところがあったのか、夏美は思案を始めたようだ。
「あ、教室あそこみたいだよ〜」
心春が指を指す先を見るとーー教室へと入っていく生徒達の姿と、入口上部に備え付けられた“1ーA”の文字が刻まれた板。
「どうやらそのようであるな⋯よし、余が先陣を切る。其方らは遅れず後に続け!」
「はいはい⋯おおせのままにー」
「ままにー!」
余達が教室の扉をくぐると、そこには指導者と複数の生徒達の姿があった。⋯ふむ、ここがこれから余が様々な事を学んでいく場か。
床は道場に似た板材が敷き詰められており、その上には机と椅子が等間隔で並べられておる。既に何人かの生徒が席に着いておるようだ。
向かい側の壁には大きく広がる窓。あの透明なガラスには未だ慣れぬな⋯どのような技術を用いればあのように透けるというのか。
右側には教台があり、壁には深き緑の板⋯確か黒板というのであったか。繰り返し書き消しを行える蝋板のようなものであろう。
「それでは、自分の名前が書かれた席に着いてくださいね」
指導者から次の指示が出る。
「夏美よ、余の席はどこであろうか?」
「何で一々私に聞くの⋯?えっと⋯ほら、あそこよ。私はあっちみたいね。」
「私はこっち〜」
夏美と心春はそれぞれの席へと移動した。余も示された席へ着こうとしたがーー
「其方は⋯先程の」
「⋯貴女もA組だったのですね」
余の隣の席ーーそこには道場で手合わせを行った銀髪の女子が居た。
「うむ、余であるがゆえな。其方もA組とは⋯流石であるな?」
「⋯意味が分かりかねます」
そう言いながら、女子は余から視線を外す。相変わらず、感情が読めぬやつよ⋯そういえば名を聞いておらぬかったな。
余は席へ腰を下ろし、女子へと問いかける。
「其方、名は?」
女子は再度視線だけこちらへ向けるが、直ぐに戻し言った。
「⋯今は答える必要がありません。直に始まります」
「む、そうか⋯」
若干腑に落ちぬが⋯女子はこれ以上語ることは無い、とでも言いたげに静かに正面を見据えている。
⋯まぁよい。いずれ分かることであろう。
余もそれに習い正面を向く。そういえば、これから何が始まるのか全く把握しておらなかったな⋯
程なくして、教台に指導者が立ち話し始めた。
「はい、お静かに。各自、席に着きましたね?まずは改めて⋯新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。これから一年間皆さんの担任を務めさせていただきます、橘静莉と申します。宜しくお願いしますね?」
成程⋯一年間この組の統率を担う者、という事であるな?
「それでは、最初のLHRを始めます。」
ロングホームルームとはなんであろうか⋯?現代の戦術名か⋯?
「まずは皆さんに、自己紹介をしていただきます。名前と⋯簡単な一言で構いません。では出席番号順に⋯」
ふむ⋯一人づつ名乗りと口上を述べよ、か。粋なことをしおるわ。
指導者⋯橘の言葉に生徒達がざわつく。
「えー緊張する…」
「何話せばいいんだろ…」
どうやら皆は言葉に悩んでおるらしい。⋯無理もない。余も初めての出陣前には、激励の言葉に大層悩んだものよ。
ーーここだな。入学式ではついぞ機会が無かったが⋯ここしかない。順に生徒達が名乗りを上げていく中、余は自身の番を今か今かと待ち望んでいた。
「⋯茅野真冬です。趣味等は特には。宜しくお願いします。」
む、あの銀髪の女子⋯真冬というのか。先程名乗らなかったのも、この事を見越していたという訳であるか⋯やりおる。
真冬はちらりと余を見て、再び席に着いた。⋯ふふ、まるで“次はお前の番だ”とでも言いたげのようではないか。
ーー良かろう、しかと見届けよ。
口角を上げ、笑みを浮かべながら⋯余は席を立つ。
そして持参した紙袋を持ち、ゆっくりと、前へと出る。
何事かと再びざわつく生徒達。
「えっと、九条さん⋯?自己紹介はその場で⋯」
「すまぬな、橘よ。少々場を借りるぞ」
「は、はい⋯?」
混乱する様子の橘を置き、紙袋から余の魂とも呼べる装いを取り出す。
頭には、月桂樹の冠を
肩には金の装飾が施された深紅のマントを
そして余は振り返り
ーー告げた
「ーー余の名はアレクシア・九条⋯真の名は、アレクサンドロス三世!人呼んで、アレキサンダー大王であるっ!!」
余の名乗りに、生徒達は静まり返る。
ふふ、余の威光を前に言葉も無いと見える。
「同胞達よ、余が其方を導こう!そして宣言するーー余は、この学園を征服する者なり!!」
教室内は
時が止まったかのような静寂に包まれた。
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