第3話「余、過去を知る」
部屋へと戻った余は、床へ座り込むと静かに瞑想を始める。
アレクシアの記憶を呼び起こし、余の記憶との擦り合わせを行っていく。
日常で使用する些細な知識から、現代における常識や決まり事。
日本という国について、そして世界について。
少しずつ、アレクシアの記憶から余の意識へと浸透させていく。
そうして、瞑想を続ける事数時間。
「⋯ふぅ、こんなものか」
些か時間が掛かってしまったが、致し方あるまい⋯これも今世を生きる上で必要な作業よ。
大体の事は把握した。その上で、余は知らなければならぬ事がある。
そう⋯余の愛する国、マケドニアが⋯余の死後、どうなったのかについて、だ。
あの机の上の黒い箱と板⋯当初は分からなかったが、今ならば分かる。
あれはパソコンと呼ばれる物。スマートフォンと同じく、インターネットを使用する事が可能である。それだけではなく、様々な文書を作成する事も出来る優れものよ。
⋯他にも色々と出来る事があるらしいのだが。現時点では記憶だけでは分からぬ⋯まぁ追々だな。
余は早速机の前の椅子に座り、パソコンの電源ボタンを押した。
⋯⋯起動しないではないか、嘘つきアレクシアめ。
王を騙すなど、重罪である。
暫くの間、パソコンの前でああでもないこうでもないと試行錯誤していると⋯パソコンから伸びている一本の紐に余は気付いた。
⋯成程、これは電源コードと呼ばれる物か。この先の二股を、あちらの壁にある穴に差し込めばいいのだな?
「えい」
再度パソコンの電源ボタンを押すと、光り輝き出した。どうやら無事起動したようであるな。勝った。
「やはり余に征服出来ぬ物などないのであるっ!完っ!」
⋯⋯いや、終わってどうする。戦はまだ始まったばかりよ。
このマウスという物を操作すれよいのか。右クリック?左クリック?貴様何を言っておるのだ。日本語喋らぬか。
「この⋯ブラウザ、というものだな⋯?マウスめの右を⋯押す押す」
すると、板⋯画面にGonzoと表示された。
「よし、後はここに文字を入れれば⋯ま⋯け⋯ど⋯に⋯あ⋯と」
j:し3
「????」
わ、訳が分からぬ⋯よもやこれはパソコンめの反逆か⋯!?
またも余は試行錯誤を重ねた結果、ローマ字入力なるものであったらしい。実に紛らわしい⋯ならそう書いておかんか馬鹿者が。
そして長く苦しい戦を経てようやく、余はマケドニアについて調べ始める事となった。
「⋯⋯遊びは終わりだ。」
「ここからが、本題よ」
⋯信じたくはなかったが
余が愛したマケドニアは⋯既に滅んでしまっているようだ⋯実に、無念である⋯
マケドニアという名自体は残っておるが、余のそれとの連続性は見当たらぬ⋯
「どうやら⋯余の亡き後150年程先で終わりを告げたようであるな⋯その後はローマの属州となる、か」
当時でもローマの国力は脅威だと感じてはいた。もしも、ペルシア帝国征服後にローマへ遠征しておれば⋯
⋯いや。余の軍略をもってしても、ローマに勝てるかどうかは分からぬ。それ程の国であった。
「ロクサネ⋯やはり我が子を宿しておったか。アレクサンドロス4世⋯顔を見ることも出来ぬまま逝ってしまったのは悔やまれる、な⋯」
今世で命燃え尽きた時、死後の世界があるのならば⋯今度こそは。
「しかしロクサネよ、その後何故⋯いや、言うまい。同じ立場なら余も同じ事をしたであろう⋯」
我が子への深い愛ゆえに、な。
「カッサンドロスめが、4世とロクサネの殺害を命じただと⋯っ!?ふざけおってっ!!あれだけ目をかけてやったというに⋯っ!」
⋯なぁ、何故だカッサンドロスよ⋯余の何が気に入らなかった⋯?何がお前をそうさせた⋯?もう、答えは聞けぬのだな⋯カッサンドロスよ⋯
「⋯同胞達よ。ロクサネよ。余が居なくなったからか⋯?余が健在なら、また違ったのか⋯?」
答えは、返ってくるはずもなく。
「⋯全ては、過ぎた事よ。今更言っても始まらぬ。あぁ、分かっている。」
余はたとえ生まれ変わろうとも王よ。後ろを顧みず、ただ前進あるのみ⋯だ。
気付くと、窓から夕日が差し込んでいた。
「もうそのような時刻か⋯時が経つのはなんとも早いものよな。」
パソコンの電源を切り、椅子から立ち上がる。
「⋯⋯余は、決めたぞ」
窓から沈みゆく太陽を見つめ、余は静かに決意した。
何故生まれ変わったかは分からぬ⋯しかし、何を成すべきかは分かる。余が行う事、それはただ一つ。
「征服だ⋯っ!全てを、再び余の手にっ!!」
祖、ヘーラクレースに誓おう。今世においても、余は大王で有り続けると。
まずは今後の立ち回りを決めねばな。余は姿鏡で再度自身の姿を確認した。
「この身体⋯見目麗しいのはよいが、ちと華奢に過ぎるな。これでは戦を駆け抜ける事など到底不可能⋯よし、鍛えるか。」
まずは走り込みよ。何をするにも持久力をつけねば話にならん。力をつけるのはその後でもよい。
⋯まぁ、女子の身体では力に関して期待出来そうもないが。
そうこうしているうちに、母上からお呼びの声が掛かった。どうやら夕食の支度が出来たようである。
「早速、明日の早朝から開始するとしよう⋯⋯よし。本日の戦は、これにて終了であるっ!」
そう言い放ち、余は豪快に扉を開け部屋を後にした。
なお、夕食時にも戦が行われた事は言うまでもない。
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