第2話「余、現世の理を知る」
ーーアレクシア・九条。これが今世における余の名らしい。
日本人の父とギリシャ人の母の間に産まれ、ここ日本の地で不自由無く健やかに育ってきた。
「で、あるなら。先程のご婦人は余の母上殿という事になるであろうな。」
いまいち他人事のような認識になっているのは、余の記憶が強すぎるせいかアレクシアとしての記憶が薄れてしまっているからである。許せ。
「まぁ、どちらも余ではあるのだが⋯ん?」
何気なく机の上に目線をやると、薄く四角い奇妙な物体が目に止まった。
「これは⋯確か、スマートフォンなる物体であったか?」
余はそれを手に取り、感触を確かめながら記憶を呼び起こす⋯
そう、これは主に遠方の相手とのやり取りが可能になる道具であったな。他にもインターネットとやらを使う事で、全国各地の様々な情報が手に取るように分かるらしい。
「真に恐るべき道具よ⋯余の生きた時代にこんな物があれば、それだけで戦局を変えかねぬな」
余が思案していると、スマートフォンめのやつが突然けたたましい音を上げ震え出した。
「ひゃあ」
なんとも情けない声を上げ、スマートフォンを床に落としてしまった。
今の声は断じて余ではない⋯アレクシアめの声だ、間違いなかろう。どちらも余ではないのかだと?知らぬ。
スマートフォンを拾い上げ、画面を確認してみるが⋯読めぬ。まだ記憶が不完全なせいであるか⋯
そうしてるうちに、音は消え震えは止まり、スマートフォンは静寂を取り戻した。仕方あるまい⋯後程また確認するとしよう。
「アレクシアちゃん、朝ご飯出来たわよー!」
遠くから余を呼ぶ母上の声が聞こえる。ふむ⋯確かに少々小腹が空いた、腹が減っては何とやらだ。ここは馳走になるとしよう。
余の部屋は二階の奥に位置するらしい。攻め込まれた時に時間を稼げるのは利点ではある⋯が、窓の防備は少々薄いと言わざるを得ん。いずれ手を加えねばな⋯
階段を降り、右手の廊下を奥へと進むと⋯ダイニング、と呼ばれる場所で母上が待ち構えておった。テーブルと呼ばれる机の上には食事が用意されておる。
「母上⋯これは何という料理だ?」
「あ、まだその口調継続なのね⋯まぁいいけど。見ての通り焼き魚と味噌汁、お漬物とご飯よ?THE和食って感じよねぇ⋯」
「お、おう⋯そうであるか」
全然分からぬ。何故かうっとりしている母上を尻目に、余は再び記憶を辿っていった。
⋯成程。和食⋯つまり日本の伝統的料理というものか。前世でも食した事の無き料理⋯ふふ、滾ってきたな。
余は早速椅子へと座り、焼き魚とやらに手を伸ばしたーーが
「駄目でしょアレクシアちゃん!素手なんてお行儀の悪い!」
母上に手を叩かれてしまった。これは解せぬ。
「ちゃんとお箸を使いなさい!あと食べる前にいただきますはどうしたの!」
「う、うむ⋯」
「うむじゃないでしょ、悪い事したらちゃんと謝るの!はいご一緒に!ごーめーんーなーさーい!」
「ご、ごめんなさい⋯」
圧が強い。余の時代に居たら軍に勧誘しておったかもしれぬ。
「うん、ちゃんと謝れてえらい♪じゃあ一緒にいただきますしましょ?手と手を合わせて〜いただきます。」
余は母上のそれを見様見真似で行った。
「いただきます⋯」
うむ⋯不思議と身が引き締まるような、まるでこれから戦場へ赴くような心構えに⋯いや、食事にそれは要らぬだろ。
しかし、だ。箸とやらを使えと言われたが⋯記憶をもってしても、これが中々に難しい。余が四苦八苦していると、母上が
「あら⋯?アレクシアちゃんお箸使えなかったかしら⋯いつも上手く使っていたように見えたけど、気のせいだったかしら⋯?」
どうやら余の記憶が戻る前のアレクシアは、箸の使い方が達者だったようだ。
「い、いや⋯今日は手の調子が少々悪くてな⋯?」
我ながら苦しい言い訳である。
「ふぅーん、そうなの⋯?何だか、今朝からまるで別人になっちゃったみたいねぇ〜??」
⋯⋯どうやらバレてしまったか。仕方あるまい⋯如何に隠そうとも、王の風格を消す事など出来ぬのだから。
余は、ゆっくりと立ち上がり⋯ダイニングの広い空間へと移動する。そして母上の方へ振り返り、高らかに宣言した。
「余こそマケドニアを統べる王、アレクサンドロス3世!またの名を、アレキサンダー大王であるっ!!」
ーーそして、辺りは静寂に包まれた
ふっ⋯決まった。見よあの母上のきょとんとした顔を。王の風格に正に言葉も出ぬようだ。
「⋯じゃあ、アレキサンダー大王様は⋯ちゃんとお箸を使ってご飯食べられるかな〜??」
「むっ!当然であるっ!」
それは余に対する挑戦状か、よかろう!受けて立とうではないか!
余は素早く椅子に座り直し、箸を握る。余にかかればこの様な物、造作もない!
そして余は驚異的な速さで箸使いを極め、食事を残さず平らげた。⋯まぁ、アレクシアという下地があってこその結果ではあるが。
「⋯ふふっ、やっぱり⋯アレクシアちゃんね」
母上の眼差しは、終始優しいものだった。
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