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第14話「余、英雄の片鱗を見る」


「阿久津よ⋯本気か?」


 およそ無意味と思える申し出の意図が分からず、余は阿久津に問うた。


「本気だ。俺はお前を倒す」


 ふむ。この気迫⋯冗談ではない、か。


「既に剣道部は余の配下となった。今更争う意味がどこにある?」


「全員が納得してる訳じゃないだろ?」


 道場内を見渡すと、明らかな敵意を持った部員がちらほら見受けられる。⋯まぁそうであろうな。元より征服とはそういうものよ。


「俺だって納得してねぇ。お前が悪なら、俺は立ち向かうぜ」


 ⋯やはり、こやつには何かがあるな。何だ?この感じは⋯


 どうしたものかと思案しておると、真田が阿久津を止めに入る。

  

「阿久津⋯気持ちは分かるが、俺でも負けたんだ。まだ未熟なお前では歯が立たないだろう⋯」


「⋯分かってるっす、そんな事は。でも⋯退けないんすよ」


 余に敵わぬと理解した上でというのか?益々分からん⋯

 

「⋯分かった。ならば気の済むまでやってこい」


「⋯押忍!」


 結局真田も止められぬと悟ったか⋯その場は身を引いた。


 ⋯あるいは、戦えば分かるやもしれぬな。


「良かろう、その勝負受けよう」


 余が了承すると、阿久津は頷いた。


「まだ続くのでござるか⋯?はぁ、それでは九条殿、今一度防具を」


「いや、要らぬ」


「は?」


 蜂須賀が一際間の抜けた声を出した。


「このほうが身軽でよい、あれは動きづらくてな」


「待て。流石にそれは認められん⋯危険過ぎる」


 余の言葉を聞いた真田が即刻抗議してくる、がーー


「それじゃ俺も防具は無しだ。フェアじゃねぇからな」


「おい!お前まで⋯!」


 阿久津がそれなら自分もと言い出した。これには真田も慌てたようであるが⋯ここであの男が口を開く。

 

「構わねェ、やらせてやれ」


「先生、ですが」


「何言ったところでコイツら聞かねぇぜ?気にすんな、責任は俺がとってやらァ。」


 ふっ⋯流石は鬼塚、豪気な男よ。


 こうして余と阿久津は、防具無しの試合を行う事となった。


 

「本当にいいのでござるな?⋯では、二人共位置へ」


 余と阿久津は竹刀を持ち、それぞれ所定の位置に着く。


「それでは始めるでござる⋯礼っ!!始めっ!!」


 竹刀を構え、互いに隙を伺う。⋯すぐには攻めてこぬか。用心深い事よ。


「⋯」


 張り詰めた空気の中、慎重に間合いを測る。


 互いに牽制を繰り返し、竹刀の先が触れようかとしたその時ーー


「ダァァァァァッ!!」


 阿久津が先に仕掛けた。


 素早く踏み込み、余の脳天目掛け打ち込んでくる。


 ⋯悪くない太刀筋だ。だがーー


「甘いわ」


 余は半歩下がり、紙一重でそれを躱す。


 ふっ⋯がら空きであるぞ。


「⋯っ」


 余はすかさず阿久津の脳天へと竹刀を振り下ろした。


「メンッ!!」


「ぐあっ!?」


 その痛みに耐えかねてか、阿久津はその場に崩れる。


「め、メンありっ!一本でござるっ!」


「くぅっ⋯!」


「⋯まだ続けるか?」


「⋯っ当然、だっ!」


 阿久津は痛みを堪えながら立ち上がり、試合は再開された。


 互いに構える、が。阿久津は既に足元も覚束無い様子だった。恐らく軽い脳震盪でも起こしておるのだろう。


 ⋯これ以上は無意味、か。謎が掴めなかったのは残念であるが⋯


 終わりにするとしよう。


 余は強く踏み込み、一気に間合いを詰める。


「ぐっ⋯!」


 阿久津が必死に防ごうとするが、もう遅い。


「ドウッ!」


「がはっ!?」


 余は隙だらけの胴体へ向けて一撃を叩き込んだ。


 再び阿久津はその場に崩れ落ちる。


「ドウありっ!一本でござるっ!勝者アレクシア・九条!」


 無防備の腹部を打たれたのだ⋯暫くは立ち上がれまいよ。敗者にかける言葉など無く、余が踵を返した時ーー


「⋯待てよ」


「⋯なに?」


 どういう事か、阿久津は立ち上がりおった。


「まだ⋯勝負は、終わってねぇ⋯」


「⋯其方、まだやるというのか」


 ⋯何故だ。勝てぬと分かってて、何が其方をそうさせる?


「阿久津殿!もう決着はついたでござる!それ以上は⋯」


「俺は⋯まだ立ってる⋯!負けちゃいねぇ⋯!」


「しかし試合はもう⋯!」

 

「よい」


 止めようとする蜂須賀を、余は制す。


「良かろう、続行だ。ここからは試合ではない⋯意地の張り合いよ」


 余がそう言うと、阿久津はニヤリと笑った。


「そう⋯来なくっちゃな⋯っ!」


 余と阿久津の戦いは、まだまだ続く。



「コテッ!」


「ぐぅっ!?」


 何度打たれてもーー


「メンッ!」


「がっ!?」


何度倒れてもーー


「ドウッ!」


「がはっ!?」


 阿久津は、その度に立ち上がってきたーー


 そうして、何度も打ちのめした時。余は阿久津に問いかけた。


「⋯何故だ」


「ぐっ⋯!はぁっ⋯はぁっ⋯!」


「何故其方は立ち上がる?既に身体はボロボロであろう⋯今倒れようとも誰も責めたりせぬぞ」


「⋯負けらんねぇ」


 ⋯なに?


「お前が不当にしようとする悪なら、俺は負けねぇ⋯」


 何を⋯言っておるのだ?


「ヒーローは、絶対負けちゃいけねぇんだっ!!」


「ヒーロー⋯?」


 阿久津はそう吠えると構えを変える⋯あれは、上段の構え⋯?


「必⋯殺⋯っ!」


 阿久津が小さく言葉を発した時、かつてない気迫が奴から溢れ出す。馬鹿な、一体何処にそのような力がーー


「ウオォォォォォォォォォッ!!」


 その瞬間、阿久津は驚異的な加速で余との間合いを詰める。


 ーー速いっ!先程までとは比べ物にならぬ⋯!もしやこれは⋯


「夢幻⋯っ!」

 

 ⋯この一撃には、間違いない。魂が込められておる。そうか⋯今はっきりと分かったぞ。これはーー


 

 “英雄”の、器。 



 しかし、余は負けんぞ。



「ーー斬りぃぃぃぃぃ!!」「ハァァァァァァァァァッ!!」


 

 余と阿久津が交差し。


 一拍の間の後⋯ドサリ、と倒れる音がした。



 立っていたのは、余の方だった。


 ***


「⋯⋯はっ!?」


「む、気づいたか」


 やれやれ⋯ようやく目覚めおったか。手間のかかる奴よ。


「ここは⋯痛っ!?」


「保健室よ。余にあれだけ打たれ続けたのだ、暫くその痛みは消えんぞ?」


「くぅ〜痛たた⋯お前、そうか⋯」


 周囲を見渡し理解したのか、阿久津は言う。


「俺は⋯負けちまったんだな」


「うむ、見事な負けっぷりであったぞ」


「⋯」


 なんだ、しょぼくれた顔をしおって。先程の気迫はどこへいったのだ。


「ヒーローは⋯負けちゃいけなかったのにな⋯」


「む?」


 そう言い、阿久津は窓の外を見る。


「戦いの最中も言っておったが⋯ヒーローとはなんなのだ?」


「なんだよ、お前ヒーロー知らねぇのか?⋯ヒーローってのはな、弱い者を助け悪を倒す⋯正義の味方の事だ」


 阿久津は言葉を続ける。


「俺、ヒーローに憧れててな。昔から正義の味方になりたかったんだ⋯って、なんでこんな事話してんだろな」


 正義の味方⋯とな?それはまた、なんと言うか⋯


「随分と青臭い事言いよるな」


「いや、酷くね!?お前の大王発言も大概だからな!?」


「余は違うぞ?王であるが故に」


「違わねぇよ!?」


 おお、随分元気になってきたではないか。ツッコミが冴えておるぞ。


「ったく⋯悪かったな、ガキみたいな事言っててよ⋯」


「ふむ、そう拗ねるでないわ。確かに正義だなんだのというのは、幼子が抱く絵空事のようであるが⋯」


 余は言葉を続ける。


「其方はそれでいい。それがいいのだ」


「⋯なんだよそれ。馬鹿にしてんのかよ」


「いいや、馬鹿になどしておらぬ。余はな、其方に英雄の片鱗を見た」


「は⋯?英雄?」


余は立ち上がり⋯指先で阿久津の顎を持ち上げると、顔を近づける。


「阿久津⋯いや秋人よ。其方、余の英雄になれ」


 秋人の瞳を真っ直ぐ見据え、余はそう告げた。


「⋯はぁぁぁぁぁ!?いや近ぇ!近ぇって!!」


 秋人の奴は顔を真っ赤にし、慌てて余の手を振り払い後ずさった。


「なんだ、初心な奴よな」


「いやいやいや!急にそんな真似されたらそうなるわ!つーか、英雄?お前の英雄って、どういう事だよ?」


 余は不敵に笑い答える。


「今はまだ分からずともよい。其方はまだ未熟故な。とりあえずは相棒とでも思っておけ」


「なんだよ、意味分かんねぇ⋯でもまぁ、相棒か⋯」


 一拍置き。


「悪くねぇ、な」


 そう答えた秋人の顔は、存外晴れやかであった。



「ところで、連れの二人はどうしたんだ?」


「ん、ああ。遅くなりそうなのでな、先に帰ってもらったわ」


 夏美と心春には、後日埋め合わせをするとしよう。


「そっか、悪い事しちまったな」


「気にせずともよい、二人も理解しておるよ。余の優秀な臣下故な」


「⋯ははっ、そっか」


 そういえば⋯もう一つ気になっていた事があったわ。


「秋人よ⋯夢幻斬りとは何だ?」


「げ、お前聞いてたのかよ⋯」


「耳は良い方なのでな」


 秋人は照れくさそうにポリポリと頬をかくと、その正体を話し始めた。


「ガキの頃テレビで見てたヒーロー番組があってよ、夢幻超人バルバイザーってやつ。そいつの必殺技なんだ」


「ほう⋯?」


 よく分からんが、英雄の叙事詩のようなものか?


「知ってるか?」


「知らん」


「だよな」


 そう言って秋人は笑った。


「ふむ、そのバルバイザーというものは何なのだ?」


 余がそう聞くと、秋人は少年のような眼をしながら語りだした。


「バルバイザーっていうのはな!夢を守る為に悪と戦う正義のヒーローなんだ!元々夢世界の住人でよ、それでーー」


 こうして⋯短いようで長く感じた一日は、徐々に沈みゆく夕日と共に幕を下ろしたーー

 

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけていれば、とても嬉しいです。


もし「続きも読んでみたい」「面白いかも」と感じていただけたら、ブックマークや評価をしていただけると、今後の更新の励みになります。


一つ一つの反応がとても大きな力になっています。


これからもマイペースに更新していきますので、よろしければお付き合いいただけると嬉しいです。


引き続き、よろしくお願いします。



※少しストック補充期間をいただくため、次回更新まで少し間が空くかもしれません。 のんびりお待ちいただけると嬉しいです。

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