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第13話「余、剣道部を征す」


「やってやれや、真田」


「な⋯っ!?」


 意外にも乗り気の鬼塚は、真田に対して余との勝負を促した。


「馬鹿な⋯こんな配下だの征服だの宣う狂人の相手をしろと言うのですか⋯っ」


「狂人、結構な事じゃねぇか。それによ⋯テメェが勝ちゃいいだけの話だろ?難しく考えんな」


 む、狂人扱いは遺憾である。あと余が負けるはずがなかろうが。


「し、しかし⋯」


「ウダウダ言ってんじゃねぇ、いいからやれ」


 尚も渋る真田に鬼塚は命令する。


「⋯分かりました。先生がそこまで仰るならば」


 ようやく覚悟を決めたらしい真田の言葉に、鬼塚はニィと笑う。

 

「決まりだ」


 鬼塚は満足気に言い、真田の肩を叩きーー


「気張ってやれや。じゃないとテメェ⋯負けるぜ?」


「⋯っ」


 そう言い放ち、場を離れていく。


「⋯何者なんだお前は」


 ふむ?聞きたいか?そうかそうか!では答えてやろう!


 余はどこからともなく取り出した冠とマントを装着し、高らかに叫ぶ。


「余の名はアレクシア・九条!人呼んでアレキサンダー大王よっ!!」


 ふっ⋯決まったな。


「⋯⋯十五分後に始める。必要な物は貸し出すので準備をしておけ」


 そう言い残し、真田は場を離れていった。


 何だ、無反応とはつまらぬ奴。鬼塚よ、壁際で大笑いするでないわ。


「⋯何やってんの、アレクシア」


 真田と入れ替わりに夏美達がやってくる。


「見ての通りだぞ?」


「うん、分かるけど分かんない。ってかそれどこから出したのよ⋯」


うむ、それは⋯秘密である。


「また懲りずにそんな格好して⋯ほら皆も呆れてーー」


「いや⋯かっけぇなそれ⋯!」


「うん、かっこい〜よ〜!」


「⋯悪くありませんね」

 

「えっ?嘘でしょ?ってか茅野さんまで?」

 

 其方達、分かっておるではないか⋯これぞ王の装いよ。


「おかしい⋯いや、もしかしておかしいのは私だった⋯?」


 ふむ、何やら夏美がブツブツ言っておるが⋯まぁよかろう。余は準備をせねばな。


 


 その後、余は部員の手も借りて剣道着と防具一式を装着した。ふむ⋯思ったよりも重量があるな。多少動きは鈍るであろう。


 この面とやらは思った程視界の邪魔にはならぬな。これならば問題あるまい。余がそうやって感触を確かめていると、阿久津が声をかけてきた。

 

「なぁ⋯本当にやるのかよ?主将に勝てる訳ないだろ⋯そもそも征服とか意味分かんねぇ⋯」


「ふむ⋯其方はそう思うか。だがそれは違う」


 余は立ち上がり、竹刀を持つ。


「余は負けぬ。欲しいものは征す。余が王である限り、それは当然の理なのだ。そこに意味などない」


 余はそれだけ言い残し、真田の待つ戦場へと向かう。


「⋯分からねぇよ。もしかしてお前はーー」


 微かに聞こえた阿久津の言葉は、全てを聞き取ることは出来なかった。



「真田よ、待たせたな」


「⋯ああ。早速始めよう、くだらない時間は早く終わらせたい。⋯蜂須賀!審判を頼む!」


「承知仕ったでござる」


 そうして互いに位置につく。


「九条殿に確認でござるが⋯制限時間五分、三本勝負、二本先取したほうが勝利にござる。宜しいか?」


 余は頷いた。


「それでは⋯礼っ!ーー始めっ!」


開始の合図と共に、真田が動いた。


「悪いが、早々に決めさせてもらう!ヤァァァァッ!!」


 真田が踏み込み、余との距離を一瞬で縮めーー


「メェェェェンッ!!」


 余の脳天に衝撃が走った。


「メンあり、一本でござる!!」


 道場内がざわつく。ふむ⋯中々の一撃であったな。


「⋯やはり素人だな、警戒するまでもない」


 ほう、言いよる。随分と余を舐めてくれよるわ。


 

 ーー掛かったな



「始めっ!」


 余は号令と同時に踏み込みーー


「なっ!?」


「ハァァァァッ!!メンッ!」


 真田の脳天に向けて、竹刀を振り下ろす。ーー道場内に乾いた打撃音が響いた。


「⋯おい、蜂須賀。ボーッとすんじゃねぇよ。今のはどうなんだァ?」


「⋯はっ!?め、メンあり!一本でござるっ!」


 真田の時とは違い、道場内は静まり返っている。はっ、どうやら余の力を見て言葉もないようであるな?

  

「ば、馬鹿な⋯動きがまるで違う⋯」


「おう、どうした?早く位置に戻らぬか」


「くっ⋯!」


 奴が平静を取り戻す前に決めねばな。


「は、始めっ!」


 先程と同じく、余は踏み込み間合いを詰める。


「くっ!な、なんなんだ⋯一体なんだお前はァ!!」


 真田が思わず竹刀を振り上げたところをーー


「ーー大王よ」


 余の一撃が、胴を薙いだ。


「ど⋯胴あり、一本⋯勝者、九条殿でござる⋯」


「ば⋯かな⋯」


 ふむ、まぁこんなものであろうな。よい訓練になったわ。


 互いに位置へ戻り、礼をする。するとそこへ鬼塚がやってきた。


「真田、テメェ⋯負けたな」


「⋯すいません」


「あーあ、だから気張れっつったのによォ⋯」


 小指で耳をほじりながら、鬼塚が呆れたように言った。


「いいか、テメェの敗因はたった一つだ。相手を舐めた事。ちゃんと全力出せてりゃ、勝てねぇ相手じゃ無かったはずだぜ?」


「⋯返す言葉もありません」

 

 ⋯そう、鬼塚の見立ては正しい。実際剣道の練度だけで言えば、真田は余よりも遥か上の者よ。


 まともにやり合えば勝ち目は薄い。故に、策を弄する必要があった。


「⋯まぁ、コイツはそれを理解した上で⋯色々と企んでやがったようだがな?」


 ⋯やはり気づいておったか。鬼塚、こやつもまた紛れもない強者であろう。


「そうか⋯俺の油断と動揺を誘う為に⋯まさか最初から⋯?」


「そういうこった。みすみす敵の術中にハマりやがってよォ⋯これを教訓に、更に精進しろよ?」


「⋯押忍」


「声が小せェ!!」


「押忍っ!!」


 ⋯さて、肝心な話をしたいところであるが⋯この格好は些か窮屈であるな。


「すまぬが、これを脱いできても構わぬか?暑くて敵わん」


「ん、ああ。もう終わったんだ、好きにしろ」



 そうして余が防具を脱ぎ終わった時、丁度夏美らが余の元へやってきた。


「お疲れ様。勝っちゃったわね⋯」


「シアちゃん凄かったよ〜」


「余は余であるからな。当然の結果よ」


「⋯」


 む、どうした阿久津よ黙り込んで。変な奴であるな。


「でもあの人って凄い強いのよね?もしかして運が良かったとか⋯」


「いいえ、それは有り得ません」


 夏美の疑問を否定した真冬が、そのまま言葉を続ける。


「彼もまた、全国大会にその名を連ねる者。その実力は確かなものです。運だけで勝てる相手ではありません」


「そう⋯なんだ。じゃあ何でアレクシアは勝てたの?」


「それは⋯私にもまだ、分かりませんが」


 そう言いながら真冬は余をチラリと見る。


「⋯今はまだいいでしょう。それでは、失礼します」 


 そう言い残し、真冬はこの場を去っていった。


「よく分かんないね〜」


「そうね、アレクシアはよく分かんないわ。きっと変態なのよ」


「辛辣過ぎであろう?」


 全く、夏美ももっと余に対して敬意というものをだな⋯おっと、のんびりと話しておる場合ではないな。


「余は戦後処理をしてくるが、其方らはどうする?」


「そうね⋯すぐ終わるんでしょ?なら待ってるわ」


「行ってらっしゃ〜い」


「うむ、承知した」


 真田達の居る場へ戻った余は、早速話を切り出した。


「真田よ、余は其方に勝利した。故に今後剣道部は、余の配下という事構わぬな?」


「いや、流石にそれは⋯」


「あー⋯まぁいいんじゃねぇか?約束は守んねぇとなァ、真田」


「⋯先生がそれで構わないとおっしゃるのであれば」


 おぉ、よい援護であるぞ鬼塚。


「別に配下になるといってもよ、特に何かしろって訳じゃねぇんだろ?王様よォ」


「平時はそうであるな。だが、有事の際は余の役に立ってもらうぞ?」


「おぉ、怖ぇな。何させられるのやら。」


「⋯全く、大した女だ。お前は」


 うむ!これにて剣道部、征圧完了である!


 と、思ったのだがーー


「待ってくれ」


 突然声がしたほうに振り向くと、そこには阿久津の姿が。奴から感じるこれは⋯敵意?



「次はーー俺の番だ」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけていれば、とても嬉しいです。


もし「続きも読んでみたい」「面白いかも」と感じていただけたら、ブックマークや評価をしていただけると、今後の更新の励みになります。


一つ一つの反応がとても大きな力になっています。


これからもマイペースに更新していきますので、よろしければお付き合いいただけると嬉しいです。


引き続き、よろしくお願いします。

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