6.
「イーブ。事の大事さが分かってるのかい?」
長机に二列ほどに積まれた本達。妖精の姿を描いた筆の運びと、説明らしくばらばらと記述された洋墨が見える開かれている小口。
まったく……と溢す、十ばかりとなる齢の少年。まるい縁の眼鏡を耳に掛けている。少し前に齢を現す指が五本のお指全てとなったイーブは、ノアの話はちっとも耳に入っていないらしく、じじじっと本と向かい合い、注視、凝視。
聞いちゃいないな。興味深いのは理解するが、これほどとはね。そんな思いと共に頬杖をつくが、動揺よりも弟への関心が勝っているらしく、父親似の銀髪の少年は、隣に腰掛けるほっぺたの膨らんだ幼い横顔に半身を向けている。
「そんなに、きょうみぶかかったっけ〜」
だべ〜っと卓に上半身をからおててまでを伸ばし、両の足をぶらぶらと動かす齢八つの次男コリン。そこそこと続いている座学に身体を動かしたいのだろう。
「……仕方ないわねぇ〜」
様子を見ていたコーデリア、かたんかたんとヒールが床と踊って音を奏でる。三人の子らの母は淑やかに近づき、ノエルは硬い顔で壁際に立っている。
「イーブ。いいかしら、よ〜く聞くのよ」
コーデリアはイーブの見つめていたお本をさっと手に納める。開かれた冊子は彼女の手の上だ。
「この世界には、八柱の大妖精。八大妖精。が存在されているの」
まあるい机を囲む八つの椅子。妖精姫マリアーナは身なりをお洒落に決め、一つの椅子の地の面に向かい、ドレスの花を咲かせている。
『今、俺の処は祭りをやってるんだよ!』
「真っ赤なお髪はまさしく熱い彼のよう、力のヴィルヘルム様」
属性、炎。大きな砂漠の国に御座す彼は大抵半裸で、筋骨隆々な姿を象っている。
『いや〜、今回も熱くてよお〜。見にくるか?』
にかっと歯を見せて、どかっと座っている。
『おまえの処は大抵祭りをしているだろう』
「ほとんど背の高い木、針葉樹が並んだ森からお姿を見せることはない……。魔法のリチャード様」
属性、闇。腰ほどの長髪で、着こなしも含め無頓着そうに暮らしているが、整えるときはしっかりと着飾るよう__。魔法の付与を得意とし、日夜研究に明け暮れている。
「イーブと同じ属性の方よ」
『今回は、うちの子も出ている。熱くて当然』
「その名の通り、目撃情報も多い大妖精!しかし、寝ていることも多いとお聞きする……学びのレノア様。____この情報は姫様より、お聞きしたの」
属性、氷。氷雪の如し銀の肩より長い髪。彼女の領域の氷山に近い国は常に雪が降りており、建物の中で過ごすことも多い民達も学びを楽しんでいる。彼女は実地踏査も大好きなよう。
『また、血だらけで、優勝賞品は貴方なの?』
『__ああ、今度は誰が勝つか……』
腕を組み、うんうんと首を上下させるヴィルヘルム。
「愛する者の色を纏う、それはやはり!愛のミレイユ様」
属性、光。伴侶を得てからは、黒と金の色味のものを着ている。結構に気分屋な部分があり、よく或猫の姿の妖精を撫でている。
『熱い戦いねぇー、__踊りたいわ〜!』
つんとした鼻から息を漏らし、耳飾りがしゃらんと音を立てる。
「どんな踊りも衣装も……彼女には及ばない。雷と共に踊っていた__という伝説を知らぬものはいない。芸術のイレーナ様」
属性、雷。明るい性格で、彼女の音楽や絵画……どんな芸術にも目を奪われることだろう。雷鳴がけたたましく鳴り響き、双眸にも恐怖が映ったとしても一度視界に収まることあれば、彼女だけが__焼きつくだろう。
『____』
机の上の、果物、菓子がみるみるうちに彼の口にから腹へと落とされてゆく。
「食への探究心は誰にも負けない。ここにあったら、もうない。豊穣のハイリンヒ様」
属性、水。気にいる食べ物や料理を渡すと、契約してくれた云う話が幾つかあるとか__。
『…………』
静かに紅茶の杯が受け皿の上にかえる。美しく彎曲し、僅かに反らされた丸みを持つ把っ手は、その指から離れた。
「優しさと厳しさは表裏一体?作る細工は比類なき精巧さ!技術のナイトハルト様」
属性、土。よく妖精達から装飾品を頼まれて、背負い込みすぎたりなどしているらしく、彼の処のツインテールの妖精が要望を断るところもしばしばと見受けられるらしい。
『ずばり、今回の勝者は____槍使いと予想するわ』
若緑色の瞳は、きらりとゆるやかな森の中で光る。
「そして、彼の妖精王の娘……癒しの__姫様!!」
「……興が乗りすぎだ……コーデリア……」
気付かぬうちにノエルは、側まで来ていた。




