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ティータイム

「んだよ、人がいい気分で昼寝してたってのに……」

「頼むぞ、カストルムの未来は君たちにかかって―――」

「知るか!」


 兵士にたたき起こされたラランは機嫌が悪かった。

 乱暴に起こされた上、

 プレッシャーまでかけようとする兵士に、

 ラランは怒鳴り声をあげた。


「自分たちに出来なかったことを他人に押し付けた上に、

 いちいち確認すんな!」

「しっ、しかし、これは本当に重要な仕事で……」

「うるせえ! いくぞ、クィナ」

「いやだ。眠い」

「おれ一人で面倒な仕事をしろってか。

 残念だったな、道連れだ。寝てていいから、ついてこい」

「い・や・だー……」

「ああもう、往生際が悪いな!」


 クィナは生えていた雑草をにぎりしめて、

 ラランが引っ張るのに対抗している。

 ラランはクィナがしがみついていた雑草を引き抜くと、

 寄る辺をなくしたクィナを抱えていった。


 ラランはミアの目の前で立ち止まった。


「よう」ラランは片手をあげた。

「ハロー」クィナは抱えられて顔を伏せたまま言った。

「ごきげんよう」ミアは微笑んだ。


 ラランは顔をしかめた。

 振りかえり、兵士たちの様子を確かめている。


「どうかしたの?」


 ミアが尋ねると、ラランはため息をついた。


「椅子がえ……。

 立ったまま話をしろってか?」

「ふふ。ホント、気が利かないわねえ」

「はあ……、文句言ってくる」


 ラランは肩を落として、ミアに背を向け、

 カストルム伯に文句を言いにいった。

 慌てた様子で兵士の一人が椅子を取りに走って行く。

 ミアは一人で口元に手を当てて笑った。


 しばらくしてラランは文句を言い終えて戻ってきた。

 それとほぼ同時に椅子も来た。

 ラランとクィナ、二つ分だ。

 クィナは眠いのか、座るとすぐに目を半分閉じた。


「なんだかおかしな気分だわ」

「なにが?」

「あなたとこうして向かい合ってるのが」

「そうかあ? 別に大して不思議はねえだろ。

 そんな憎しみ合うような仲じゃあ……。

 あ、そうだった。悪かった。すっかり忘れてた」

「なにが?」

「おでこ。痛かったか?」

「ああ……」


 ミアは苦笑した。

 ミアが壁をつくっていた時、

 ラランはミアに刀の鞘をなげつけた。

 それを言っているのだ。


「ええそりゃあもう。目が飛び出るほど痛かったわ」

「いや、もう、ホント、すまねえ。

 あんときはああするしか、なくて……」

「ふ、ふふふ……」

「なにが可笑しいんだよ?」

「あなたが本当に申し訳なさそうにしてるものだから。

 可笑しくって。ふふふ……。

 私たちって、敵同士でしょう?

 謝るなんて変じゃない?」

「だから別に不思議はねえって」

「……そうね、私もごめんなさい」

「なんかあったか?」

「吊り橋から落としたでしょ? 馬車ごと」

「あー……、そうだったな。あれは痛かった」

「だから、ごめんなさいね」

「ああ。いいぜ。これでおあいこだな」

「おあいこね」

「あと、ニビルだっけ? あいつも斬っちまった」

「ニビル? ああ、いいわよ。殺したの?」

「え、いや。手足を斬り落とした」

「あ、そう。そりゃ残念」

「え」


 今の残念はどういう意味だろうか、とラランは思った。


「ねえねえ、ところでさ」

「?」

「あなたはステラ様のこと、どう思ってるの?

 あのお姫様、綺麗よね、すごく。

 好きだったりするわけ? やっぱり」

「いっ!?」


 ラランは驚きのあまり目を丸くし、

 口をぱくぱくと開閉した。

 その様はさながら金魚だった。


「えっ、あっ、いやっ、その……」

「その話は、クィナも興味がある」

「あらおはよう。あなたクィナっていうの?」

「クィナはクィナだ。おばけではない」


 恋バナのにおいをかぎつけたクィナは起き上がり、

 ピースサインをつくった。


「さあ、ララン。答えろ。

 お前はアリエスのことどう思ってるんだ?」

「ど、どうだっていいだろ、そんなこと……」

「よくない」「よくないわね」

「なんでおれが質問攻めにあってるんだ……?」

「現実逃避しないで、答えなさいな」

「そ、そっちこそ、ディーノはどうなんだよ?」

「ただの同僚よ。あと、いい男で、いいカモね」

「それだけ?」

「それだけよ。

 さあ、私は答えたわよ。墓穴を掘ったわね」


 ミアがにやにやと悪そうに笑う。


「話しなさいな」

「そうだ。話せ、ララン」

「そ、そりゃ、その……」


 ラランは居心地悪そうに顔をしかめ貧乏ゆすりを始めた。


「だから、その……。

 ああ、まあ、なんだ、その……、

 いや、好きとか、嫌いとか、よくわかんねえよ!」

「逃げたわね」「逃げたな」

「ぐっ……。

 いいだろ、別に!

 そんなハッキリ割り切れるもんでもねえだろ!

 だいたい、あいつはお姫様じゃねえか!」

「あなたたちが旅を無事に終わらせたらね」


 ミアが不敵に笑った。


「このまま引き返すならビルハイド様が本物の王になる。

 そしたらステラ様はお姫様じゃなくなるわよ? どう?

 帰るって言うなら、壁を下げてもいいわよ?」

「本気か?」

「ええ。あなたが引き返すって約束するならね」

「ふん……。おれが約束を破るとは思わないわけだ」

「そういうこと。

 いえ、本当はどっちでもいいのよ。私は」

「どっちでもいい?」

「私はビルハイド様が勝っても負けても、

 どっちでもいいって思うようになったの」

「ビルハイドがどんな奴か、聞いてもいいか?」

「興味あるの?」

「ああ。おれは直接知らねえからな。

 そいつに恨みのある奴からしか、話を聞いてない」

「私にとっての彼は……。恩人だったわ。最初は」

「最初?」

「ビルハイド様は、

 スラムで生まれた私を見つけて、育ててくれたの。

 育てたっていうか、

 孤児院にいれてくれたってとこかしらね。

 そのころは、みんな私を化け物みたいに見てたわ。

 ちょうど今みたいにね。

 後から思えばロクでもない場所だったけど、

 スラムに比べれば天国みたいなもんだったわ。

 で、大人になったら配下に誘われて、

 こき使われてるうちに四天王、

 なんて呼ばれるようになって。

 そしたら、いい気になる暇もなく、

 こんなことになっちゃった」


 ミアは苦笑して、両手を広げた。

 クーデターの片棒をかついだ挙句、

 捕らえられたということだろうか。


「結局、彼にとっての私は素直に言うことを聞く、

 使い勝手のいい道具だったってことよ。

 ねえ、どう思う? 私は彼に利用されてるだけなのに、

 まだ恩を感じているの。

 もう、なんだかワケわかんないのよ。

 味方でいたいし、敵になりたいし、

 どちらにもなりたくない。

 どう思う? あなた達はそういう気分になることない?」


 ラランは少し考えた後、首を横に振った。


「おれは、ねえな。利用された覚えがまず、ねえから」

「そう。ステラ様に利用されるなんてことは……。

 なさそうね」

「ああ、ねえだろうな」

「クィナは、わからなくもない。

 レーゲンスに対する、親愛のような気持ちは、わかる」

「レーゲンス?

 あなた、ビルハイド様のこと知ってるの?

 あ。そうか、あなたがご隠居の引きこもりね?」


 クィナはミアをにらんだ。


「……あいつがそんなことを?」

「あら、言っちゃまずかったかしら」


 そのとき、背後でカストルム伯が大声をあげた。

 それはラランとクィナを急かすようなものではなく、

 報告を受けて驚きのあまり、

 叫んでしまったような響きだった。

 ラランとクィナが振りかえると、

 カストルム伯は二人をみていた。

 伝えるべきかどうか迷っているように、

 ラランには見えた。嫌な予感がした。


「悪い。ちょっと行ってくる」

「ええ、構わないわ」

「クィナも行く」

「じゃあね」

「またな」


 クィナは椅子からおり、ぺたぺたとラランを追いかけた。

 ミアは微笑みをうかべ、ひとりぼっちで手を振っていた。

 それを見ている人間が一人もいないと知りながら。

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