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魔女裁判

 ミアは中庭の中央にぽつんと置かれた椅子に座っていた。

 手足を椅子にくくりつけられ、口に布を巻かれ、

 ほとんど表情のない顔を横に向けていた。


「黒獅子騎士団四天王、黒の魔女ミア殿!

 汝との交渉をのぞむ!」


 カストルム伯が手を挙げて合図すると、

 兵士の一人がミアに駆けよって、猿ぐつわをほどいた。

 ほどくや否や、

 兵士はまるで猛獣から逃げるように一目散に走った。

 ミアは呆れたような目を彼や周囲の兵士たちに向けた。


「ミア殿!」


 カストルム伯はミアの正面、

 十メートルくらいの距離に立っている。

 他の兵士たちもそれ以上の距離をおいて立っていた。

 ラランとクィナは見学に来ているだけなので、

 その列には加わっていない。

 対立している彼らを横から見ているような格好だった。

 ラランは中庭の端っこで壁にもたれ、

 腕を組みながらながめていた。

 クィナはその足元であぐらをかき、頬杖をついている。

 退屈そうにあくびを連発していた。

 ミアは一度だけ二人をみて苦笑したようだったが、

 それきりこちらへ視線をむけなかった。


「再三伝えている通りだ!

 そなたがつくった壁を、

 カストルムを囲む壁を取り払ってもらいたい!

 要求を聞こう。何でも言うがいい!」

「……ステラ姫はここにいないのね?」

「ステラ様は別件でこちらにはいない。

 伝言があれば伝えておこう」

「いいわ。そのときは自分で伝えるから」


 それを聞いてカストルム伯や兵士たちは、

 ギョッとした様子だったが、肝心のミアは座ったままだ。

 魔法を使う素振りもない。

 カストルム伯は気を取り直して、咳払いをした。


「他に要求はないか?」

「特にないわね。手足の縄をほどいて欲しいけど……」


 ミアはにやっと歯を見せて笑った。


「ダメかしらね?」

「ああ」

「残念」

「壁を取り除いてくれる、ということでいいか?」

「おめでたい頭ね。いいわけないでしょう?」

「貴様! 閣下にむかって無礼であろう!」

「やめろ」


 声をあらげた部下をカストルム伯はいさめた。

 その様子をミアはあくびをしながら見ている。


「彼女は客人だと思えと言っただろう」

「し、しかし……」

「すまない、ミア殿。部下が失礼を―――」

「前々から言いたかったのだけれど」


 ミアは爪についた汚れを掃除しているようだった。

 いつの間にか、拘束が外れている。

 兵士たちが各々気づいたタイミングで身じろぎをした。


「それ、すごく古典的よ。

 アメとムチなんて。いまどき流行らないわ」

「こ、拘束をいつ外した!」

「さあてね」


 ミアが立ち上がるや、ほぼ全員が腰を抜かした。

 まだ立っている者は、数えるほどしかいない。


「いま立っていない者」


 ミアは兵士たちに指を突きつけた。


「今すぐ私の視界から消えなさい。不愉快だわ。

 私は猛獣でも何でもないのよ」


 誰も動かない。

 一呼吸おいて、カストルム伯が叫んだ。


「聞こえなかったのか! 腰を抜かした者は下がれ!

 それと……、立ち続けられる自信の無い者も下がれ!」


 カストルム伯の命令で、

 せきを切ったように兵士たちが逃げていく。

 九割ちかい兵士がいなくなると、

 ミアは勝ち誇ったような微笑をうかべて椅子に腰かけた。

 余裕のある仕草で足を組む。


「馬鹿よねえ。距離なんて関係ないのにね」

「あらためて聞こう、要求はなんだ?」

「あんた、モテないでしょう」


 カストルム伯はムッと眉をひそめた。

 ミアはそれをみて愉快そうにくすくすと笑う。


「ふふふ。知らなかったの?

 同じことばっかりいう男は嫌われるわよ?

 その質問ばっかり、ずーーーーっと聞かされたんだから。

 いい加減にしてほしいのよ、こっちとしては」

「どうしろと言うのだ」

「あはは。変わらないわね。まあいいわ。

 あそこの二人と話をさせてちょうだい」


 ミアは中庭の端っこにいたラランとクィナを指さした。

 二人は自分たちが指をさされても、

 なんの反応も見せなかった。

 当然である。

 退屈のあまり、二人は横になって昼寝をはじめていた。


「私、あの二人と同じで眠たいの。

 気が合いそうだから、連れてきてよ」

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