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神無き世界  作者: ヤング丸
第一章 広がる世界
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第一章 第二十四話 クエスト


 日が昇り始め、雲から陽光が零れだす早朝。

 まだ寝具に身を包む人が多く、活動し始める人はどちらかと言えば少ない。


 これほど早い時間帯でもすっかり過ごしやすくなり、やや暑さを感じる。


「フッ!!ハァッ!!」


 村の外れ。

 宿屋のような建物の庭には、一人の少年が剣を持ち、素振りをしていた。


「元通りだ」


 少年の名はイルファルド。

 現在早朝の訓練中。


 試験以降、何かと大忙しだった為できていなかった自主訓練で身体の調子を図っていた。


 コープスとの戦いから一週間。

 酷くボロボロだった身体は、【プランセル・オーダー】から分けてもらったポーションやハクア村の美味しいご飯のおかげで全快。


 それどころか怪我をする以前よりも調子がいい。


「速くなった…?」


 腕や足が軽くなり、比例するように剣の速度、威力も上がっていると直感で感じた。


「魔法の開花で魔力量が上がっていたりして…なんてね」


 頬を人差し指でなぞり、独り言を言っていたのが今朝。


「上がってるね、魔力。中域とまではまだ行かないけど近くなってる」

「エエエエエエエエエエエエエエッッ!?!?」


 数時間後。

 僕は偶然出会ったカルミリアさんに告げられた。


 亀の歩みより遅いと思っていた僕の成長。延いては魔力の上昇。

 しかしここまでの急成長は、初めてだったせいで気づけなかった。


「当然じゃない。魔法が開花したんだから」


 声が裏返り、大きなリアクションをするとカルミリアさんは、冷静に突っ込んできた。


 確かにその言葉の通りだが、周りが傑物過ぎて忘れていた。いや、セシル達の伸び幅を見ていたから麻痺していたと言った方が正しい。


「周りの人は魔法が開花した時、別人レベルで変わっていて…」


 セシルやミーナに関して丸々1ランク上がっていた、と思えるほど急上昇だった為それが普通なのかと錯覚していた。

 学校に通っていたのが幼い頃だけだったからか交友関係は広くない。

 つまり世間知らずが出たのだ。


「貴族でも中々にないわ。全くどんな環境よ」

「あ、あはは…」


 血統が優秀とされる貴族でもない。

 自分でもレアな環境だとは思っていたが、カルミリアさんの反応を見て確信した。


 幼い頃に拾われ、父さんは王域で騎士団の団長。母さんの料理の腕は一級品。セシルは同世代の中で最優秀。ミーナは冒険者から騎士に至る全般で活躍できる魔法を持っている。


「私もあの時、見ていたけれど貴方の魔法は()()です」

「!!」


 カルミリアさんは話を変えるようにそんな事を言い出した。


 僕にはその言葉がどういうことか理解できなかったが、彼女の瞳は真剣だった。


「あくまでも1人の女が言っていた戯言。それだけは理解してくださいね」

「あの…!!それはどういう…」


 魔法の知識がそこまで多くないイルファルドには、理解できなかったのかそもそも感覚的な話なのか。

 しかしその言葉の裏には、イルファルドも抱える靄が晴れるかもしれない。


 その一心で問いかけた時。


「イルファルド!!!!」


 後方から幼い女の子の声が聞こえた。

 どうやら僕の名前を呼んでいるようだ。


 次の瞬間。

 僕の背中に僅かな衝撃が走った。


「修行しよ!!」

「ミ、ミネア…!?ってその剣はどうしたの?」


 両手には不格好ながらに形を成している、木製の剣が握られていた。


「皆で作ったの!!」


 逞しいことだ。

 まだ攫われて二週間も経っていないのにもうケロッとしている姿を見るとそう思った。


 数日前。

 ようやく痛みも引いて少しは、自分で動けるようになった頃。


 僕達が過ごしている宿谷に、ミネアと母親のルミアさんがお礼を言いに来たのだ。


『頭を上げてください!!僕は当たり前のことをしただけですよ』


 ルミアさんは部屋に入るや否や、膝を付き頭を下げてきたのだ。


 このようなこと自体初めての経験だった為、お礼を言われた僕の方が動揺しているとルミアさんは言った。


『冒険者様は紛れもない私達、家族の恩人。そして村の恩人でもあります。これは当たり前のことなんです』


 更に続けて僕の手を握り、ルミアさんは僕の瞳を凝視した。

 僅かに手と声が震え、今にも泣いてしまいそうな雰囲気を纏い。


『本当にッ…!!ありがとうございましたッ…!!』


 初めて実感した、助ける側の想い。

 今の僕では上手く言い表せない気持ちと共に、安堵した気持ちが溢れ出した。


『ありがとうございました』


 その時、横に居たミネアも僕に頭を下げたのを見て、やはり慣れないな、と僕は痛感するが確かな達成感は存在している。

 しかしその後も約30秒近く、頭を下げながらお礼を言われ続け、流石にいたたまれない気持ちになった僕は「もう大丈夫ですから…」と何度かか弱く呟いた。


 ミネアとルミアさんには悪いが、僕に取ってはカオスな空間だったな。


『イルファルドさん。村を出られる際は一度お声がけください』


 話は一通り終わり、最後にルミアさんは告げた。

 何でもお礼をしたいという事らしい。


 僕はそれに了承し、その日は別れた。


 それから今に至るまでミネアと会っていなかったのだが、何故いきなり修行という話になっているんだ。


「修行って僕に?」


 僕では実力不足。

 何よりミネアに対して何かを教えられる程の経験が僕にはないのだ


「クックック…何を言っているのかな?」


 するとミネアは僕の手を掴み、そして。


「ちょっ!?引っ張らないでっ…!!」

「騎士様!!イルファルドを借りてくね!!」

「僕の許可は…!?」


 まるで玩具のように扱われ、そのままどこかへ連れていかれる。


 そんな僕達にカルミリアさんは「気を付けて」と一言だけ。


「急にどうしたのミネア!?」

「ふっふ~ん。イルファルドもカインに修行をつけてもらいなよ」


 いいでしょ!!とドヤ顔をしているのが分かる、が今はセシルさん達にも仕事がある。


「村の警護だってあるし難しいんじゃ…」

「な~に言ってるの天下の騎士様!!ならきっと私達に時間を割いてくれるよ!!」


 とミネアは語っているが本心は少し違う。


 ニヤッ。

 イルファルドはそんな不敵な笑みを見た。


[きっとイルファルドが入れば私も…!!]


 目的はイルファルドが修行を受ける際の副産物狙い。


 今まで悉くカインに断られ続けたミネアだが、どうやらカインはイルファルドの事を気に入っているとどこかの魔法使いが言っていた。


 つまりは甘いのでは?

 そうだったらイルファルドと一緒に修行をできる!!


 ほとんど見切り発車で出発したミネアの作戦。

 結果は。


「ダメに決まってるだろ」


 あっさりとカインさんは断った。

 僕はそれに対して[そりゃそうだ]と心の中で呟く。だってここ数日の間、芋づる式に捉えられる山賊で手一杯なのだから。


「えぇ!!なんで!!ほらイルファルドだって!!」

「関係ない!!てかまるで餌を差し出すようだな!!」

「ギクッ…!!」


 動きだけじゃなくて声に出てしまっている。

 バレバレだった。


「カルミリア様だって村の警備をしていたし、いいじゃん!!少しぐらい!!」

「ダメだ。それに今から村の外に捜索しに行かなきゃならない」


 カルミリアさんが村の警備をしていたのは、あくまで非戦闘員だから。


 現在では無事に復帰したミリアーデさん達と一緒に外での調査が増えている。

 一人でも多く捕まえ、逃がさない。大事なタイミングなのだ。


「ぐぬぬ…!!」

「家まで送るから帰ろう。ね、ミネア」


 苦虫を噛み潰したような顔だが動こうとはしない。


 とても剣など振るったことが無さそうな少女が、何故ここまで食い下がろうとしないのか僕には分かる。それにカインさんだって。


 ()()()()()()その一心が伝わってくるのだ。


 強くなって何をしたいのか。

 それは人それぞれなのだが、僕の場合御伽噺に出てくる勇者のように。セシルなら父さんのような騎士に。


 終着点は違えど根本的に見れば同じスタートライン。

 努力をしなければ辿り着けないゴールがある。


 だからこそミネアは自分に対しm何も教えてくれないカインに僅かな憤りと焦りを感じていた。


 村を襲った山賊。

 次にまた似たような脅威が出てきた時。その時は無力でないように力を求めた。


「騎士様…!!お願いします…!!」


 ミネアは片膝を付き、頭を垂れる。

 己の無知な感情を抑えて。


「私に稽古をつけてください!!」


 まるで幼い頃の自分を見ているようだった。


 夢を得たあの日から。セシルと共に歩み出した時、僕も同じように父さんにお願いしたんだ。


「いつか…騎士になります!!」


 決意表明をするようにミネアは紡いだ。


「ハクア村を守れるくらい強くなって…もっともっと強くなって、お姉ちゃんみたいになりたい!!」


 【アリシア・ペンドラム】に心を奪われたあの時に歩みは始まっている。


「どうかお願いします…!!」


 それにはカインも言葉を出せなかった。


 一か月以上ミネアと関わって感情を振り回していただけだった少女はそこには居ない。


 騎士にはまだ足りない。

 覚悟も、技術も、知識も。


 しかし情熱は本物だった。


 それが伝わるのはカインだけではない。

 横に居たイルファルドも例外ではない。


「カインさん。僕からもお願いします」

「イルファルド…!?」


 頭を下げたのが予想外だったのかミネアは驚きを隠せていない。


「まだ幼いミネアでもできる何かがある筈です」


 自分でも分かる華麗な丸投げだと理解している。

 だがきっと僕よりもカインさんの方が適任だ。


 そして、次の瞬間。


「二人共、頭を上げてくれ」


 カインさんは何かを決めた表情でこちらを見た。


 横ではミネアの額から冷たい汗が滲み出て、それが頬を撫でる。


「ミネア、一つだけ見てやれることがある。素振りだ」


 その言葉に目を輝かせる少女。


「明日から俺がこの村を出るまでの毎日、日の出の一時間。稽古を付ける。覚悟しろよ」


 覚悟を受け止め笑みを浮かべながら、条件を伝え終える。そして、「そろそろ俺は行く」とだけ言い残し、その場を後にした。


「え…?え?」


 まさか上手くいくとは思っていなかったのだろう。

 ミネアは放心状態のまま固まっていた。


「や、やったね!!ミネア!!」


 何故か僕の方が先に嬉しさが伝わるほどだった。


「伝わったんだ。ミネアの想いが」


 ようやく何が起こったのか理解したのだろう。

 表情がゆっくりと明るさを帯び始め、勢いよく立ち上がった。


「やったぁあああああああああ!!!!」


 両手を空に突き上げ、それは試合に勝利した武闘家を見ているかのようだった。


「ありがとう!!イルファルドのおかげだ!!」

「いや、違うよ。これは紛れもないミネア自身が掴み取ったチャンス!!」


 きっと依然のように駄々をこねるだけでは、カインさんの了承は得られなかった筈。

 それがどうだ。今回は認められたんだ。


「明日から頑張ってね!!」

「うん!!でも…」


 あれ何か企んでいる?


────────────────────────────────────


 スズメやハトが鳴きだし朝を感じる。


「ミネア!!力だけで振るな!!力を抜けるときは抜いて脱力しろ!!」

「は、はい!!」


 カインが村の空き地でミネアに対する、素振りの鍛錬を見ていた。


「はぁ…!!はぁ…!!!」


 やはりミネアの身体では素振りですらハード。

 例え木剣だとしても体にかかる負荷は相当な物。必死に肩で呼吸しているのが分かる程だ。


「どうした!!お前もキツイのか!?」


 そしてもう一人。


 こちらは前後左右に飛びながら己の真剣、2本を振り回している男が居た。

 それぞれ片手剣とナイフ。一度の跳躍で一回の斬撃を繰り出す。しかも全て本気の一撃を。


 無論その動きは身体強化を前提にしている。

 故に目は虚ろ。全身毛穴から吹き出る汗。酸素不足の身体。揺れ出す視界。


「だ、大…丈夫ッ…ですッ!!!!」


 イルファルド・ランクルスは正真正銘のスパルタ授業を受けていた。


[昨日…ミネアが…]


『一緒に訓練受けようよ!!』


[その言葉に僕もカインさんの技術を見て学べるんじゃ…という考えだったけどこれ…ベリーハードってやつ!?]


 難易度でいうと今までの鍛錬で過去一だ。


 身体強化全開+機敏な動作。

 おかげで体力の消耗が半端ない。


 始まってまだ20分。あと半分以上もある。


 僕は騎士の洗礼を浴びた。


────────────────────────────────────


「はぁあッ!!はぁぁあッ!!!」


 長い一時間が終わった。

 体力は底を付き、同時に魔力切れも間近。


 天空大陸ではあまり行わなかった、基礎体力をつけるタイプの訓練がここまでとは。


「イ…イルファ…?」


 全て使い果たし空を見上げていると、呼び方を変えたミネアが心配そうに覗き込んできた。


「これ…飲み物だけど…」


 全く情けない姿を見せている。


 これは良くない。


「くぅっ!!」

「無理に起き上がらない方が…!!」

「平気だ…よ。それとありが…とう」


 絶え絶えの息でどうにかお礼を言うと、革袋に入れられている水を喉へ流し込んだ。


 運動の後で体温が上がっているからか、身体の中を水が流れていくのが分かる。


「私はこのまま走ってくるから!!イルファはゆっくり休みなねー!!」


 凄い。心の底からそう思った。

 僕があのぐらいの年齢だったらきっと音を上げていただろう。


「どうだったよ?【プランセル・オーダー】の訓練」


 知らなかった僕からすると常軌を逸している、とまで感じさせる訓練は、カイン達がこれまで熟してきた内容らしい。


 何でも体力、魔力、技術の三つがバランス良く伸びるからだとか。


「じ、地獄でした…」

「ははっ。なら今日でやめるか?」

「いえ…続け…ます!!」

「そう言うと思ったよ」


 とてもキツイが止めるわけにはいかない。

 強くなる為にできる努力は全てする。そう決めたなら走り続ける。


「なぁ…お前達は今後の予定を決めたのか?」


 するとカインさんは急に話を変え、こちらを見てきた。


 今後の予定。ハクア村を出た後についてだろう。


「はい。少し前に話し合って…とりあえずは街に行って、依頼(クエスト)を探します」


 まだ傷だらけで動けなかった時。

 ヴェイエさんとカラスさんで話し合った。


「北の【アルスポート】…そこの船か大陸間列車を目指して、一先ずは資金稼ぎです」


 【アルスポート】まで距離にして約2000km(キロメルト)

 しかしそれ以前に船や列車に乗る為の資金稼ぎが必要だ。

 つまり必然的な寄り道。ということになる。


「目安では大体…半年ですかね。ですので…」

「なら依頼(クエスト)だ」


 カインさんはしゃがみ込み、僕と同じ高さまで視線を降ろした。


 それに依頼(クエスト)?一体何を。


「ここから北東にある【グランゼッタ】。そこに俺達と一緒に来い」


 以前ヴェイエさん達と話し合った時に聞いた、この付近にある大きな街の一つ。


 【闘技の街】という別名がある通り、中心には世界でも最大クラスの闘技場があるとのことだ。


「クエスト内容。【グランゼッタ】までの山賊、及びコープスの護送。報酬は【アルスポート】までの料金+その後の活動資金も含めた通貨(メキス)の支払い」

「!!」


 まさかの提案にイルファルドは言葉を失った。


 人生初めての依頼(クエスト)にして、とんでもない報酬。


「どうだ…乗るか?」


────────────────────────────────────


 次回 提案


────────────────────────────────────


~~~~~


依頼(クエスト)名】

 ※山賊の護送※


【依頼人】

 カイン・モルデ・フィールド


依頼(クエスト)内容】

 終着点【グランゼッタ】まで山賊を護送し、王都へ向かう騎士団への引き渡す。


依頼(クエスト)報酬】

 具体的な通貨(メキス)、不明。


~~~~~



 最後まで読んでいただきありがとうございます。


 世界観解説の代わりに依頼書のようなものを載せました。

 次回の更新は3~5日後です。


 それでは今回も誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。


 またブックマークやフォローなどとても励みになります。


 何卒お願いします。


 それでは失礼します。

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