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神無き世界  作者: ヤング丸
第一章 広がる世界
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第一章 episode セシル


 肌が痛くなるような熱く鋭い日差しだった。

 本格的に気温が高くなり、空気もカラッと乾いてくる。


 幼い記憶は次第に薄れていくが、その日の記憶は絶対に消えない。


「なんだよ…どうしたんだよ…」


 恐怖で顔を涙で濡らしながら、目は腫れ、充血していただろう。

 それでも目を必死に開き、捉えた光景に言葉を詰まらせた。


 パキッパキッ、と規則的な音を立てながら髪の色は変わり、いつもの黒髪は白髪へ。逆に毛先にかけメッシュのかかった白髪は黒髪へ。まるで()()しているようだった。


 【フィア・ファルコ】を背に俺の兄弟は佇んでいた。


────────────────────────────────────


 天空大陸 都市イカロラス 冒険者ギルド


「…ちゃ…兄ちゃん!!」

「あ…あぁ。すまない」


 冒険者試験を終え、約一週間の月日が流れた。

 セシルはクエストボードの前で立っていると後ろのおじさんに声をかけられ、手に持っていた張り紙を注視する。


 そこには『行方不明 捜索を求む 【イルファルド・ランクルス】』そう記されていた。


「私も…それを…え?」


 横から飛び出してきたとても華奢な手がセシルの持っていた張り紙を掴むと、言葉が途中で抜けたような驚愕の声を上げた。


「なんでここに居るの…?あなた…イルファに…」


 【ミーナ・リアフィニア】がそこに居たのだ。


「ねぇ!!待ってよ!!」


 セシルは会話をしようとしなかった。

 張り紙をボードに戻すとその場を後にした。


 後ろからミーナの静止する声が聞こえたが振り返ろうともしない。


「待ってってば!!」


 すると身体強化を使ったのか、素の状態では真似できない跳躍でセシルの前方に回り込んだ。


「一緒に探そう」

「俺には関係ない」

「なら何であそこに居たの!!」


 試験での一悶着があり、あの前後で兄弟間に何があったのかをミーナは知っている。


「何か思うところがあったから手に取ったんじゃないの…!?」


 何も言葉を返そうとしない。


 だがその目には決して光が灯ることは無かった。まるで自分を曲げないという確固たる意志をミーナが感じ取る。


「お願い…!!協力して…!!」


 しかしそれで引くミーナではない。セシルの目の前まで早足で近づくと顔に押し付ける勢いで張り紙を見せつけた。


 それにはセシルも思わず表情が出てしまいそうになったが、頬をピクリ、とさせるだけで何も変わらない。


「探すなら勝手にしてくれないか?あと邪魔だよ。どけてくれ」

「嫌だ!!邪魔なのは分かってる!!」


 こうなったミーナは【動かざること山の如く】。言葉通り目の前から動こうとしない。


 何故ここまでするのかとセシルは疑問でしかない。

 いや。正確には理由は分かっているが未だ理解できないという言葉の方が適切である。


「何でイルファのことが()()()()()?」


 一言。


 特に後半の部分。


 『()()()()()?』そこだけがミーナの中で永遠にループしだす。


「なっ!?ちょっ!?」


 『その情報をどこで仕入れた…!?』そう言っていそうな表情でミーナは怯んだ。


 セシルは馬鹿でも鈍感でもない。

 幼い頃からイルファルドと接し、その近くに居たミーナがどのような目で見ていたかなんて分かり切ってる。


 更に心の中で[気づかれないとでも思ったのか?]とセシルが呟く。


 そしてミーナの手の指が精一杯伸び、一歩後退りしたその時。


 己の両翼を使い、空高くまで飛翔した。


「っ!!待て!!」


 羞恥心を振り払い必死にセシルの後を追うが、父親譲りの大翼と未だ成人に成りたてとは思えない身のこなしで見る見る距離が開いていく。


 機動力においてミーナとの間にある差は歴然。

 ミーナが燕だとするならばセシルは鷹。追いつこうにも基礎能力でセシルが上回るのだ。


「追いつけない…!!」


 すると高度はもう十分と考えたのかセシルは上昇するのを止めると、ミーナを見降ろしながら一言だけ言葉を送った。


「あいつの事は頼む」

「何言ってるか聞こえないから止まれぇ!!」


 セシルの言葉がミーナに聞こえないように逆もまたしかり。

 身体強化などの全ての技術を注ぎ込み、追いつこうとするが間に合わなかった。


 そのままセシルは都市の南方へと飛んで行く。


「なんでよっ…!!あんなに仲良かったじゃない…!!」


 幼い頃に見たイルファルドとセシルの姿はミーナの憧れへとなっていた。


 もしもあんな兄弟が居たら。そう思ってしまう程に。

 それが今ではこのように、イルファルドの事を気にしようとしない。


 その光景はとても悲しく、兄弟に対して何もできない自分を呪った。


「イルファ…どこに行っちゃったのよ…」


 今どこに居るのか。あの時の絆はもうないのか。


 一筋の涙と言葉を零した。


────────────────────────────────────


 あれから何も考えずに飛んでいた。


 ただただミーナから離れようと、我武者羅だったとでもいうのか。

 気が付けば子供の頃によく遊んでいた、山の近くまで来てしまっていた。


「よりによって…ここか…」


 そして()()()の夏の日。

 運命を動かした場所でもある。


 この場所も今では、モンスターの増殖によりモンスターが出現するクラス(ファースト)

 当時のようにただのお遊びで入るには危険な土地になってしまった。


「以外に…変わってないか」


 降り立ったその場所は山の頂上。


 山の麓からでも見ることができる巨大な大樹が目立つだけで、それ以外は至って普通の山。

 綺麗な川や花などは、特にない。

 周りには生い茂った雑草と森を形成する木々があるだけ。


 日常的に使っていたこの場所。


 しかし自然が明確な変化を突き付けた。


「ここを穢すな」


 ザザザッ!!


 森の中から複数の影が現れた。


「すっかり住み着いてるんだな…」


 コボルト5匹。


 数年前では絶対にありえなかったことだ。

 世界的に問題視されている、モンスターの大量発生とそれに伴う縄張りの拡大。


 セシルとて実感がなかったが全ては三年前のあの日。考えを改めた。

 この場所に現れた怪物等級(モンスターランク)Bのモンスター。


「散れ」


 次の瞬間コボルト5匹の足元から風の槍が突き抜けた。


 更に全てが魔臓を見事に射抜いている。


 必要最低限の魔力。正確に魔臓を狙う器用さ。魔力の流れを感じさせない技能。

 全てを遺憾なく発揮した。


「なんだ…?」


 モンスターが霧になるが、一息つく間もない。


 山の少し外れに魔力を感じ取った。

 しかもこの距離で感じ取れるという事は、最低でもランクD。

 それが荒ぶっている。獲物を追っている時のようだ。


 己の中で是非を取る前にセシルは飛んだ。


「あそこか…!!」


 目視で確認できる程度には、木々が揺れている地点を発見した。

 魔力の主は、そこに居る。


「ァ……アア…アアアアア!!!」


 徐々に聞こえだした、子供の叫び声。


 間違いなく緊急事態のサイン。


『道記す邂逅と太陽の如き思い出 その全てを守るため 天駆ける蒼空の覇者となろう』


 今日初めて槍を手に取り、魔力を高める。

 事態が事態。遅れでもしたら命に関わるから当然である。


『【テンペスト・ガーメント】』


 詠唱が完結すると両手両足を起点に、全身へ風の魔力が廻りだす。

 血液のように循環し、身体を促進させてゆく。


「捉えた…」


 モンスターは昆虫系Dランクモンスター。

 【ダーティーキャタピラ】


 それと何かを抱えて走る10歳前後の男の子。大人の目を掻い潜り、度胸試し程度に来たのだろう。

 護身用のアイテムを持っているようには見えない。


「フゥ…」


 一度呼吸を整え、地上から約30(メルト)上空でホバリングをすると身体を地面に向け、魔力を練り始めた。


「5…4…」


 小さく自分の口でカウントしながら獲物を見た。


「3…」


 この30(メルト)という高さはモンスターの感知できない距離。

 そこでしっかりと魔力を貯め込む。


「2…」


 集中力を高める。


 射抜くのは【ダーティーキャタピラ】の中心。


「1…」


 全身に力を籠めた。

 そして、次の瞬間。


荘厳たる(ランス・オブ)風槍(・ソラネル)


 セシルの魔法を組み合わせた遠距離攻撃を可能にするアーツ。


 それが見事【ダーティーキャタピラ】の胴体へ命中し、胴体を切断した。

 必殺の一撃。


 男の子に被害が出ないよう凝縮して放った一撃により、一瞬で勝敗が付いた。


 地上では何が起こったのか分かっていない男の子が、周りをキョロキョロ、と見回している。

 この場所は間もなく人里だ。

 もう大丈夫。


 セシルは安全を確保すると槍を背中に戻した。


[今のアーツは試験の経験値で打てるようになった。今なら…勝てるのか…]


 地上には降りず思案を巡らす。


 自分の知り得る限り最も異質で本能が拒んだ存在。人ではない何かと身体が訴えかけ、それに身体を回る十二の光は、魔法でありながらそうではないと思わせるほどの知らない何か。


 数秒後。

 セシルは独り言のように口を開いた。


「まだ勝てない」


 見たのは五つの力。それをそれぞれ使う度に、光が弾け、新たな魔法を齎しているようだったが、それだけではない筈。

 残り七つ。


「はぁ…何で俺は…御伽噺をあてにしてるんだか…」


 足りない。

 まだ強くならなければならない。


 その想いを胸に空を駆けて行った。


────────────────────────────────────


 次回 クエスト


────────────────────────────────────



 最後まで読んでいただきありがとうございます。


 世界観解説はありません。

 ここ最近の更新速度と世界観解説が少なくなり申し訳ありません。自分の身の回りが落ち着き次第、元に戻します。


 少し話を物語に戻し、今回は外伝というかサイドストーリーのようなものですが、いかがだったでしょうか?

 今後もちょくちょく挟んでいくつもりです。

 そして次回からは本編に戻りますので少々お待ちを!![更新は3~5日後]


 それでは今回も誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。


 またブックマークやフォローなどとても励みになります。


 何卒お願いします。


 それでは失礼します。

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