第一章 第二十二話 Normal End Ⅰ
本編前に失礼します。
今回は時間と文字数が多くなりそうだったため、急遽話を分けさせてもらいました。
それではどうぞ。
果てしない身体のダルさを感じながらゆっくりと目を開けた。
体調を崩した時のように朦朧とはしていないが、どこか覚醒し切らない意識ととてつもない身体の疲労感が消えない。
視界に広がるのは、綺麗に塗装されている白い天井。
まだ横になっていたい肉体的願望を無視し、肌を撫でる少し涼しげな風と暖かい陽光に照らされながら身体を起した。
そのまま今いち見慣れない部屋を眺めているとようやく思考が纏まりだす。
「っ!!みんなはっ…!!」
カルミリアさんとミネアの救出、パラフロス・ハウンドやコープスとの戦い。
ようやく思いだした。
現在の状況と倒れていたシェルさん達の現在、残っている筈の残党とその後どうなったのか。僕は慌ててベッドから降りる。
すると稲妻が走ったかのような鋭い痛みが全身を駆け抜けた。
「イッ…たい…!!」
腹部を中心とした打撲後のような痛み。
更に寝起きで気づけなかったが足や腕、頬などには、傷口を保護するガーゼや包帯が巻かれており、身体中ボロボロだ。
だが今はそんなことを言っている場合ではない。
物を頼りにしてでも立ち上がろうと気合を入れた時。
この部屋のドアが、ギィイ、と音を立てて開いた。
「あ。起きてた」
「ヴェイ…エさん」
「うん。ヴェイエだよ。おはよう」
特にいつもと変わらない様子だった。
僕のように包帯などは身に着けておらず、一口サイズにカットされたリンゴなどが乗せられたお盆を持っている。
そんな果実を見せられた僕の身体は、無意識的に欲しているのかつい見入ってしまい、空腹感が脳裏に現れた。
しかし今はそのようなことは後回しだ。
「おは…ようございます…ってそうじゃない…!!皆さんは大丈夫ですか!?」
「大丈夫だよ。だからベッドに戻って」
「もう大丈夫です。動け…」
トン、と肩を押された。
「ほら。力入れてないのに姿勢を維持できてない」
ベッドに再び腰を下ろし、呆気に取られた。
今の僕は軽い力が加わるだけで立つことができないのだ。
何も言い返せない。
それほどまでに今の身体は限界ということだと理解させられた。
「二日以上寝てたんだから筋肉だって強張ってると思う」
「そ、そんなに寝てたんですか…?」
二日以上寝たことなんて今まで無かった。
てか人ってそんなに寝れるんだ…
「そうだよ。鼻ちょうちんできるんじゃないかってちょっと期待したぐらい」
「何を期待してるんですか…」
やはり特徴的な人だ。
戦闘時に見せる凛々しさがありながら普段は、どこか天然に近いんだよな。
「そのリンゴ食べてね。私は皆を呼んでくるから」
ヴェイエさんはベッドの横にあったサイドテーブルにお盆を乗せると部屋から出て行った。
そこで耳に入ってきた子供達の声。
僕は吸われるように窓の外を見た。
「おじさーん!!差し入れだよー!!」
「おう!!ありがとな!!」
「私達もやるー!!」
とても平和で和やかな景色が広がっている。
「よかった」
ようやく落ち着いた気がした。
張り詰めた緊張が解かれていくのが分かる。
一先ず今はリンゴを頂こう。疲労と空腹感が一杯だ。
腹が減っては戦はできぬって言うしな。
「美味しい…」
噛むたびに溢れ出る果汁が身体に沁みる。
とても美味しい。
「空腹時に会うのは、身柄を拘束した時と同じだな」
「カ、カインさん…!?いつの間に」
気が付けば部屋の中に入ってきていた。つい食すことで頭が一杯だったとはいえ、全く気づけないとは。
「これが高域の所以…!?」
「何を言ってんだ?」
なんて少しふざけた言葉を呟いたら、冷静な言葉でツッコミをされた。
ただ気づけなかっただけなんだけど。
「皆さんは大丈夫ですか?」
シェルさん達を最後に視たのは倒れている姿。
魔力が籠っていたため、生きていたのは知っていたが酷い怪我であるのは間違いなく、きっと僕よりも酷かった。
「命に別状はないがまだ寝ている」
「そう…ですか」
「そんな顔をするな」
また表情に出ていたのだろうか。
カインさんは僕の肩を叩き言葉を続けた。
「【プランセル・オーダー】で活動してれば二度や三度、経験済みさ」
「俺も団長に…な…」と血の気の引いた顔でどこか遠くを見ている。
ついその表情を見て、何かがあったんだろうな…と哀れみの目で見てしまったがまだ少し不安だな。
今は皆さんの復活を祈ろう。
「せっかく時間もあるようだからもう少し話そう」
部屋の隅に置かれていた椅子をベッドの横まで持ってくると、カインさんは椅子に座り話し出した。
「多分一番気になっているであろう、あの後何があったか。それを伝えておこうと思う」
「!!」
カインさんの纏う雰囲気が変わった。
神妙な面持ちで少し重い空気を漂わせているのが分かる。
何かがあったのだろうか。シェルさん達以外に何か。
「シュルトが普通に戻ってきた」
バァァン!!
とてつもない勢いでドアが開かれ、その先に立っていたのは見慣れない男性だ。
「君がイルファルド君か!!!」
そうかこの人がシュルトさん…
「てかシュルトさんって行方不明だったよね!?」
個人的には大ニュースなのだが。
「入るなら静かに入れよ」
「え?え!?」
「それはすまないな」
重そうな雰囲気はどこに行ったの…!?僕が勝手に勘違いしただけだった!?
最悪の場合も想像していたからこそ、その真逆な出来事に脳の理解が追いつかないのが自分でも分かる。
「驚くのも無理ないよな」
イルファルドが気絶した数分後。
捕えたコープスやシェル達をどうやって護送するかとなっている時。
『この感じ。来てる』
『俺が受け持つ。ヴェイエはカルミリア達と一緒に怪我人を頼む』
コープスとの戦闘が繰り広げられた空間でヴェイエ達は、敵の増援を感じ取った。
音と魔力からして総数は、数十人。
いくら高域だとしてもコープスとの戦闘で疲労した身体では、勝つのに困難を極める。
そして中でも最も遠い位置から感じる大きな魔力が一つ。
普段ならば絶体絶命。なのだが。
カインはどこか馴染みのある魔力に目を見開いた。
『やっぱり私も…カイン?どうしたの?』
驚愕の表情だった。
『どうやら任せても良さそうだ』
次の瞬間。山賊の爆破によりできた岩山の向こう側から戦闘音が聞こえだした。
流石に声までは聞こえないが、何かを打ち付けるような打撃音がしっかりと聞こえる。
『仲間割れ?』
『違う。これは…!!』
すると目の前の岩山の一部分が吹き飛んだ。
『まさか山賊を追いかけていたら会えるとはな!!』
山賊の首根っこを掴みながら現れた。
それが外ならないシュルト。イルファルドと面識が無かった騎士。
『シュルト…!!貴方大丈夫なの!?』
『まぁな!!詳しくは後で話す!!』
カルミリアを含め皆が予想していなかった展開。
山賊が気づけるわけがない。
恰好こそ騎士らしくない囚人のような服装だが強さは健在。
己が腕のみで圧倒していた。
そこからはシュルトが駆け付けたことにより安全となったカイン達に脅威が及ぶことは無く。
「こうして無事だったっていう訳よ」
僕が気絶している間にかなり濃い出来事があったんだ、ということだけ分かった。
「いやー迷惑をかけたな!!」
「はぁ。声のボリュームを落せ」
「すまんすまん」
それにしても聞いていたシュルトさんとは全然違うな。
村に中々戻らなくて、臭いという事を聞いていたのもあってつい警戒してしまった。
身なりは綺麗で汚れているというわけでもない。
「すみません。ご挨拶が遅れました。僕はイルファル…」
イルファルドの言葉が不自然に途切れた。
そしてやや眉間にしわができ、頬をピクピクと震わせている。
「ん?どうした?」
当然不自然がるシュルト。
何故途切れたか分かっていないようだった。
[申し訳ないけど……す、すごい匂い…!?]
申し訳なさと共についそんな事を思ってしまった。
とても野性的な匂い、と言えばいいのだろうか。土や汚れで付いた匂いでは無さそうだ。
あまりの強烈さからつい表情に出てしまいそうになる。
いや。もう少しは出てるけれども。
「いい加減風呂に入れよ。いつにも増してえぐいぞ」
「別にいいじゃないか。面倒だし」
「こんなんだから村の偵察を任せていたんだぞ…!!」
村に居なかった理由が匂いとは。予想外だ。
「相変わらずね」
そこに居たのは普段の恰好ではないカルミリアさん。
ライトアーマーではなく、空色のワンピースを着ている。
「シュルトが臭いようでしたら、カインでも私でも大丈夫ですのでお伝えください」
「ちょっ!!カルミリアまで言うか!!」
父さんが【翼の守り人】ではあったが、ここまで高貴な騎士達と長期間過ごすのは初めて。
しかし以外にも慣れてくるものだと改めて感じた。
貴族だからこそ平民を見下すという方が多いのは事実だが、彼らを見ているとそんな認識が間違っているのではと思ってしまう。
「イルファルド。いつ目覚めるかは分かりませんがシェル達の内、誰かが目を覚ましたら集まっていただけませんでしょうか?」
「大丈夫ですけど…僕が居ても大丈夫なんですか?」
「えぇ。巻き込んでしまいましたから。そして何よりあのコープスという男の目的を知りたいのではと思いまして」
「!! もう分かったんですか!?」
この一件に関わったからには事の顛末を知らなければならない。
「いえ。まだ分かってはいません。現在我々の荷車にて魔力を封じ、拘束。私の魔法を使い尋問しているのです」
カルミリアの持つ【アセスメント】とは別の魔法を使い、心の中を見ているが消費魔力が激しく尚且つコープスの意識が強い為、未だ全貌は分かっていない。
「現在分かっていることは、コープスの裏に居る謎の商人。そいつが邪装をコープスに渡したというだけ」
「イヴィルウェポン?」
「かなり珍しい、主にダンジョンで手に入る武具。呪いが刻まれた装備のことです」
そこでコープスの持っていたあの両手剣を思い出した。
あれはただの武器ではないことは、分かっていたがまさかそこまでの武器だったなんて。
「あの両手剣について、詳しくは王都で調べるしかありませんが恐らく…命を吸う武器。カインから聞きました。最奥部分で不自然な遺体を見たと」
『白目を向き、鼻からは血が流れ、口からは赤く染まった泡を吹き出している』
あの時見た死体の姿を鮮明に思い出した。
途端全身から冷や汗が噴き出る。
関節的に人を殺したのではないか。
自分の手で人を…
「貴方は悪くありません。何も悪くない。だから気に病むようなことはしないでください」
カルミリアさんは僕の震える手を握り、しっかりと僕の目を見た。
きっと僕の表情から察したのだろう。
まだ経験の少ないと分かっているからこそ、ここできちんと伝えなければいけない。
「人を殺すことができない。それは貴方のいいところです。私を含め、我々【プランセル・オーダー】や村の方々は助けられたのですから」
イルファルドのアイディアが無ければ負けていたのは明らかだった。
それに山賊は罪人である。
村を襲い、焼き、危険を及ぼした。
それは間違いない。
「懺悔をさせようとするのは私も賛成です。でもそれではいざという時、人を守れない。人は死ぬのですから」
それを聞いたカインとシュルトも神妙な面持ちで2人を見た。
「とりあえず今はお暇しましょう。また後程」
そう言ってカルミリアはカインとシュルトを連れて部屋を出て行った。
守る為に戦う。
だがだからと言って人を殺したくはない。
でももしも、人を殺めなければ大事な何かを守れない、助けられない。
そんな時が来たら僕は、どうなるのだろうか。
「オキタヨウデ ナニヨリ」
黒い羽根が落ちた。
更に聞き覚えのある片言な言葉。
「カラスさん…」
「サテ ハジメテノマホウ ドウダッタカ キカセテモラオウカナ」
カラスさんはベッドの上で翼を休めるように降り立ち、まるで笑っているように嘴を開けていた。
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次回 Normal End Ⅱ
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【魔力感知】
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚に次ぐ第六感の感覚。
しかし個人差が大きく、感じ取れる距離や具体的な位置など人それぞれ。
だが鍛えることも可能であり、魔力放出[魔法の使用など]を何度もすることで強化できる。
その為隠密を主体とする暗殺者などは魔力を隠す訓練を行ったり、逆に大きな魔力を放出し、自分の位置を示すといったことも可能。
冒険者試験でのセシルと【モルディル・キメラ】が例。
ちなみにイルファルドの感知できる距離は、精々数m程度だがヴェイエは、100mまでなら感知できる。
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あとがき
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
急遽話を分割したため少なめです。
またしても遅くなりすみません。
次回はゴールデンウィーク初めに上げます。
それでは今回も誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。
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何卒お願いします。
それでは失礼します。




