第一章 第十六話 覚悟
山賊との戦闘は免れない。
迷うな。
ミネア達を助けるんだろ。
戦う覚悟を持て。
「一度止まれ!!」
僕に軽々と追いついたカインさんは、僕の肩を掴むと前に進もうとする身体とは裏腹に力で動きを止めようとしてきた。
「早く行かないとっ!!ミネア達がっ!!」
「分かっている。だがその焦りは敵の思う壺だ」
僕だって危険だと分かっている。
だがこの状況が僕のせいだったら?
森で戦わず怯えて守られて。
そのせいで到着が遅れた結果、ミネア達が捕まったんじゃ。
罪滅ぼしだと言われたら否定はできない。
それでも。
「っ!!」
「現実から逃げるな」
頬に伝わる鈍い痛みに思わず尻もちを着いた。
赤く腫れるのと同時に中々痛みが引かない。
頬を叩かれたのだ。
「いいか!!よく聞け!!」
カインさんは握っていた拳を解き、こちらを見た。
「何も見捨てろと言っているわけじゃない。ただ策を考えるべきだ。正面から行っても人質を盾にこちらが身動きを取れなくなる」
敵は一筋縄ではない。
森での襲撃を含め、照らし合わせたような同時攻撃。
更に敵の目的が不透明。
合計の戦力ではカイン達が勝るかもしれないが既に戦力差の優位性は失われ、後手であることは明らか。
こんな状況でイルファルドが一人で突っ込みできる事は何も無い。
人質が増える可能性や最悪の場合、命まで危うい。
「ごめんなさい…焦って…何も見えなくなって…」
「謝るな…と言いたいが今回ばかりはその言葉を受け取っとく。いいか。一つ策がある」
冷静になる。
それがミネア達を助ける上で一番大事なことに他ならない。
「だが一つ問う…その剣を抜けるのか?」
今度はカインさんが僕を守る余裕なんてないだろう。
きっと僕も剣を交えることになる。
「正直なことを言うと不安です。今も怖いと思っているのが分かるんです」
恐怖心が拭えない。
モンスターからすると虫のいい話だ。
同族には武器を向けられず、モンスターには戦えるのだから。
でも僕のなりたい、憧れる英雄達は神とだって戦ったんだ。
なら僕は。
「ただ後悔が残る選択だけはしたくない」
「そうか。早速だが時間が惜しい。作戦を話す」
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ハクア村 東の入り口
いくつかの建物があるだけで他の村の入り口と比べてかなり開けている。
「流石は高域の騎士様だ。そう簡単じゃなかったな」
「ゲス野郎がっ…!!」
山賊が楽しんでいる見せ物。
騎士【ミリアーデ・フルリアーデ】と山賊の長コープスとの決闘であった。
勝負は既に決着を迎えており、ミリアーデの敗北は火を見るよりも明らかな状況。
逆にコープスは不自然なまでに無傷だった。
「せっかく俺様が人質を使わずに決闘って言う、極めて良心的な条件を出したのに…これじゃあ…意味ねぇなぁ!!」
『ギャハハハハハ!!!!』
山賊の侮辱するような笑い声は、他の場所に居る騎士達にも届く。
それは山賊の勝ちを物語り、騎士達に焦りが見え始める。
「その辺にしてくれないか。俺の仲間なんだ」
「あぁん!?誰だテッ…!?」
山賊が言葉を言い切るよりも先に彼は、右腕で顔を掴み地面に叩きつけた。
「全く…この見た目で分からないものかね」
「テメェ!!」
コープスが支持を出すよりも先に突っ込んで行く山賊達。
実力差なんて気にしない。山賊は怖い物知らずと言える。
だがこれは好都合。
「カイン・モルデ・フィールド!!これより行動を開始する!!」
迫りくる山賊に【穿牙の大剣】を構える。
1対10人超。
だがカインも迷わず前に出る。
全身に魔力を流し、身体強化は既に出来ている。
起こるのは人数差による一方的な惨劇…ではない。
「はあああああああ!!」
実力の差が開きすぎているカインの蹂躙である。
「ガハッ!!」
「グッ!!」
森での襲撃と違う点が一つある。
それは守りながら戦っていない事。
敵を倒すだけならば思う存分に暴れられる。
こうなれば魔力総量に物を言わせた実力差は、明確なものになってくる。
「こいつ強い…!!」
カインという男は、武勇の才に恵まれ、武家貴族の出身。
お家柄もよく優秀な子供だった。
しかし幼い頃から武を学び、自らを鍛え続けたカインの努力の賜物でもある。
近接戦闘において現在のハクア村に居る騎士、山賊全てを含めた上で右に出る者はいない。
「コ、コープス様!!お下がりを!!」
カインが目指すのはコープスの首。
この戦場に立った頃から、ミネアと仲間であるカルミリアがコープスの後方にある荷台に乗せられているのは見えていた。
それに足元にはミリアーデも倒れている。
「なるほどな。仲間を助ける為にスピード勝負…ということか」
コープスが仲間達に手を出す前に勝負をつける。
騎士とは思えない随分力押しな作戦だ。
だがそれも可能だと思えてしまう迫力を持ち合わせ、実力だってある。
事実この場でカインと打ち合い勝負になるのは同じ高域であるコープスのみ。
何人手下が居ようと意味をなさないのは、既に斬られた山賊を見て分かっている事。
「テメェ等がいくらやっても意味がねぇ。俺が出る。この女騎士を荷台に乗せとけ」
「ハッ!!」
ミリアーデを手下の山賊に任せ、コープスは前線に出た。
そしてカインの目の前まで
来た
コープスとミリアーデ達の距離ができた次の瞬間。
家の間にある草むらから音が鳴る。
「コープス様!!後ろに!!」
山賊の配置が前のめりになるその瞬間を待っていた。
草むらから現れたのはイルファルド。
既に【フィア】装備を2本とも抜剣しており臨戦態勢。
「ミネア達を返してもらいます!!」
イルファルドの目の前にいる山賊はたった3人。
既に10人以上は倒れ、コープスも前線に出た。
「チッ!!」
「おい行くなよ。俺がお前の相手…だろ?」
「貴様ッ…!!」
ここでコープスは、自らが嵌められたことに気づいた。
正面からカインが現れ暴れ回っていたのは、コープスを後方から引き釣り出す為の罠。
「止めろぉ!!」
コープスは後方に居る山賊に向け声を荒げた。
確かに不意を突かれた。
されどイルファルドは1人。
カインはコープスのせいで後方には行けない。
山賊が有利。
「シャァッ!!」
イルファルドの目の前に居る山賊は3人。
「いけ!!イルファルド!!」
足に力を籠め走り出す。
今は戦う事だけ集中しろ。
まずは倒れているミリアーデさんを。
その次にミネア達。
「はあああっ!!」
僕は初めて人に向けて剣を振るった。
殺すんじゃない。
守る為に戦え。
「っ!!」
狙いは致命傷以外。
しかも数的不利だ。
[倒そうなんて考えるな!!]
「こいつッ!!」
「スルスルと抜けてッ!?」
[隙を見て抜け出せ!!]
イルファルドは見事に攻撃の間をすり抜けて、山賊の攻撃範囲から出た。
防御は【フィア・ブリンガー】で。
攻撃は小回りの利く【フィア・ナイフ】で僅かな隙をイルファルドの攻撃ターンに変える。
前方にはもう敵は居ない。
[これで助けられ…っ!?]
巻いた筈の山賊が既に追いついている。
山賊も食らいついてきた。
「くっ!!」
咄嗟のガード。
体制は不安定。隙だらけ。
攻撃を防ぎきれない。
『【エア・フィールド!!】』
山賊の持つナイフがイルファルドを襲おうとした時、突如発生した突風により弾かれた。
「って!!うわッ!!」
どころか追い風を掛けるようにイルファルドを吹き飛ばす。
「カルミリア達を…お願い!!」
その声はイルファルドの進行ルートからの声。
既に満身創痍で足が震えているのが分かる。
彼女はミリアーデ。
騎士のプライドにかけて立ち上がったのだ。
「はいっ!!」
後ろはミリアーデさんのおかげでもう大丈夫だ。
カインさんも必死に足止めをしてくれている。
残り少しを走り切る…!!
「ミネア…カルミリアさん…!!」
この時確かにイルファルド達が勝っていた。
勝利は揺るがない。
イルファルドの手は荷台に届き、邪魔する者は誰も居ない。
その光景を見ていたカインがミリアーデがコープスまでもが天秤の傾く瞬間を見たのだ。
ボォン。
軽い爆発。
せいぜい人を吹き飛ばすだけで殺傷力には、著しく欠けている。
「くっ!!」
イルファルドの身体は、吹き飛び荷台との距離ができた。
天秤が傾いた瞬間に何者かが天秤ごと壊したのだ。
誰が?どこでどうやって?
「デウスか…!!」
間に合わない。
カインさんが抑えていた山賊が何人か流れてくる。
そうなれば万全じゃないミリアーデさんだけでは抑えきれない。
退路を失った。
「不味いんじゃねぇかぁ!?騎士様よぉ!!!」
「ッッ!!」
カインもコープスに押されだしている。
確かに魔法という切り札がない状況だがそれでも拭えない違和感。
[こいつ。何故防御や回避をしない…!!]
攻撃だけの一辺倒。
守りは傍から捨てているというように攻めることに迷いがない。
それに敵はコープスだけではない。
手下達を抑えながらでは限界が来る。
限界が来たらここに居る全員をじっくりと攻めていくだけの簡単な作戦。
「お前らは…」
するとそこでコープスの動きが不自然に止まった。
何があったのかカインには分からない。
だが僅かに魔力を感じた。
外部からの連絡のような微弱な何か。
「もういい。撤収だ」
「なっ!?」
周りの手下だけではなくカインまでも驚くコープスの判断。
圧倒的に有利な状況を捨てた?
「今日の目的は済んだんでな。帰るわテメェ等も今日は終いだ。使えなくなったらどうもこうもない」
「逃がすとでも…?」
「はっ!!強がんなよ。むしろ感謝しな」
山賊の手下はコープスの言う通り引いて行く。
それは他の戦場で時間稼ぎの為だけに配置されていた山賊達も同様だった。
人質だけでも救出したかったが今となってはそれも不可能。
[でも動かないと二人が危ない…!!何をされるかだって分からないのに…このまま…なんて…]
どこかに隙が無いか見渡すがそんなものはどこにもない。
僕の力では何も成功しない。
「騎士様よ。耳ん穴かっぽじってよく聞け」
するとコープスは振り返り言った。
「明日の深夜。大滝に来い。人質と一緒に待っているぜ」
「人質の安全は?」
「安心しろ。手は出さねぇよ」
コープスはそれだけ言い残すとハクア村を出て行った。
敗北
その二文字が拭えないまま、僕達を照らす陽光が刻一刻と沈んで行く。
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時刻はすっかり深夜。
僕はカインさんに誘導されたというのもあって、一度宿屋にて休息を取っていた。
そして廊下でただ一人窓際に立ち、昼間の山賊との戦いを思い出す。
[僕がもっと早く動けていたなら。こんな結果にはならなかった]
現在の実力をいくら悔やんでも時間が巻き戻るわけではない。
自分のできる限りは尽くしたが足りない。
「強くなりたいな」
気が付くと言葉が漏れ出していた。
「大丈夫?」
「ヴェイエ…さん」
僕が振り返った先に居たのはヴェイエさん。
もしかして今の言葉を聞かれていた?
でも別にいいか。
今はそんなことで慌てふためく気になれない。
「皆さんは?」
「一先ずは落ち着いたと思う。でもやっぱり皆、不安がってる。ミネアの件も含め、何よりも騎士が居て負けたっていうのが響いてるね」
恐らくカインさんの気づかいで僕は、村人と合わずに今に至る。
まるで自責の念に押しつぶされることが分かっているようだった。
今でも脳裏に焼き付いている皆の恐怖で支配された顔。
せめてミネア達を救出していればこんな風にはならなかった。
「くっ…!!」
悔しい。
どうしようもなく悔しい。
「ちょっと歩こうか」
そう言ってヴェイエさんは僕の手を引いた。
僕と同じくらい、もしかしたらそれ以上に疲れているだろうに。
「私にイルファルドの気持ちは分からない。でも一人ではないから。だから一緒に歩こう」
特に抵抗する意志のなかった僕は、連れられるがまま外へ出た。
現在宿屋として使用させてもらっている建物付近は、ほとんど損傷していないがもう少し外側へ行けば隔絶した景色に成っている筈。
「イルファルドは真面目なんだと思う。カインから聞いたよ。あの場に居た奴で自分の役割を果たせなかった人なんて一人も居なかったって」
「分かってます。あれが僕のできるベストだって。でも誰よりも経験が少なくて弱い僕がもう少し優秀だったらって思ってしまって」
そこで僕はハッとした。
せっかくヴェイエさんが話を聞いてくれてるのに何を話しているんだ。
こんなんじゃ更に気を使わせてしまう。
「忘れてください!!大丈夫…」
「きっとイルファルドはこれから強くなる。その真っ直ぐな気持ちを忘れなければきっと…」
僕達はミネア達が遊んでいた空き地に気が付けば到着していた。
いくら考え事で一杯一杯だったとはいえ気づかないとは。
するとそのままヴェイエさんは、とある一本の木に触れながらこちらを見た。
「ミネアを助けようとした時にイルファルドは戦えたって聞いた」
「はい。少しだけですけど」
「森での失敗を糧に成長したのもあるんだと思う。でもきっとそれだけじゃない」
ヴェイエが感じていた森での戦闘と救出劇で起きた戦闘の違い。
それはイルファルド自身には、当たり前のことで気づけなかった視点でもある。
「正義感という武器に想いが釣り合った」
確かにイルファルドは経験値を糧に成長した。
踏み出す勇気を手に入れた。
ヴェイエさんは再び僕の手を引き、今度は僕が木に触れた。
「この木みたいにいつかイルファルドは大きくなる。手に入れた経験を生かして枝を生やし、時には嵐で折れながら、沢山の視点を手に入れる。それは努力した時期があるからこその歴史」
木からは何本にも別れた枝とその先にある沢山の葉と木の実。
きっと長い時間をかけて形を成している。
「動物も植物もきっと同じだよ。だから【ライフツリー】っていうのがある」
それは魔法という存在を作った、神様達からの贈り物なのかもしれない。
すると雲が晴れ、月光がヴェイエさんを照らした。
その姿はどこか神々しくて同時に言葉に言い表せない感情を芽生えさせる。
尊敬や友愛、恋とは違う何か。
「イルファルドは誰かの為に戦える人、踏ん張れる人」
「誰かの為に戦う……」
自己犠牲。
それは成長したイルファルドの強みだとヴェイエは気づいていた。
「誰よりも早く駆け出していた姿を見て私はそう思ったんだ。そこに覚悟という強さが宿るよ」
ヴェイエやカインとも違うイルファルドの武器。
譲れない強さが確かに存在した。
「私はそんなイルファルドが報われるように応援してるよ」
僕は一人じゃないんだ。
一緒に戦い、支えてくれる応援がある。
その言葉が言われた時、僕の中で何かが芽吹いた。
心が熱く震え、一歩前に進んだような。
「ありがとうございます」
次にヴェイエを見たイルファルドの顔は、逞しく迷いは消え去っていた。
そして歩き出す。
「どこか行くの?」
「はい!!カインさんのところに。ヴェイエさんのおかげで前に進めそうです」
「そっか。行ってらっしゃい」
「行ってきます!!」
こんな僕でも何かの役に立ちたい。
今度は助ける為に。
今すべきは実力を悔やんで蹲ることじゃない。
次を考えるんだ。
その為に。
「カインさん!!ってどんな格好してるんですか!!」
「どんなって…ちょうど風呂上りなんだが」
ついノックするのを忘れてしまった。
迷いが晴れたからって盲目になりすぎだ。
「す、すみません…」
「それでどうした?」
カインさんは頭をタオルで押さえ拭きしながら僕に尋ねた。
本当にタイミング間違えたな…
風呂上がりにする話じゃない。
もう休息を取りそうだっていうのに。
「なら先に俺の方から話させてもらうわ」
そう言うとカインさんは僕に何かを投げた。
「布…?」
魔力が籠っていた。
それに魔法の刻印もある。
「昼間の一軒で俺は、お前を改めて信じると決めた」
次に差し出されるのは僕の装備と持ち物。
アイテムポーチには、新しいポーションだって入っている。
「それは【ライフツリー】用だ」
「え?」
「頼む。一緒に戦ってくれ」
「!!」
頭を下げカインさんは言った。
「頭を上げてください。むしろこちらからお願いしたいくらいですよ。だから…」
断る理由なんて欠片もない。
答えは決まっている。
「僕も一緒に戦います!!お願いします!!」
「そうか。ありがとう。イルファルド」
今度はちゃんとした仲間として共に戦う。
カインさんは再び僕に手を差し出した。
査定の時とは違う、そんな雰囲気を纏って。
「イルファでいいですよ。カインさん」
「よろしく。イルファ」
そして僕もあの時とは違う。
明確な決意を胸に手を握る。
「なら私もイルファって呼ぼ」
「わっ!!ヴェイエさん!?なんで!?」
「別に着いて来ないとは言ってないよ」
「た、確かに…」
「てか俺はほぼ全裸なんだが…」
最後にヴェイエさんが手を重ねる。
「私もよろしく」
「あぁ。こちらこそな」
本当に頼もしい。
パーティーメンバーができたようなそんな気持ち。
「明日は絶対にミネア達を助けましょう!!」
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次回 ツインラン
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【プランセル・オーダー】
『アリシア・ペンドラム』直属の近衛騎士が集う騎士団。
皆がエリートであり、戦闘、探索、調査ありとあらゆる状況に対応可能と言われており、アリシア自身を筆頭にガーク・フォルドなど聖域の騎士も複数在籍する。
懐刀と言ってもいいだろう。
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あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
十七話は三日前後の更新となります。
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何卒お願いします。
それでは失礼します。




