第87話 マキナ、アスナと邂逅する。
※本日2話更新予定です!
翌日の昼。
「昨日は凄い雨だったなぁ……」
路上の水たまりを見ながらマキナは言った。
夜のバケツをひっくり返したような雨音により、若干の睡眠不足を覚える。
先日のギルド襲撃を経たとはいえ、『鉄血の獅子』が街で横暴を振りかざす可能性が消えたわけではない。
そのため『虹の蝶』は、警備を目的とした街の巡回をメンバーで行うように決めた。
今日のこの時間はマキナが担当、アリアも別の区間にいる。
「流石に『鉄血の獅子』はいないみたいだな」
『虹の蝶』と同じく、彼らも一時的な活動停止処分を受けた。
苦汁を飲まされた『鉄血の獅子』、当分は派手なことは出来ないと考えたらしい。
「にしても、ベローネの妹……についてはどうするかなぁ」
ベローネとアスナ、あの姉妹がちゃんと話せる場を整えたい。
アスナは普段からギルドリーダーのそばにいるのだろうか?
彼女は神器を扱うほどの実力者、それを活かしてグラハム自身の護衛をさせている可能性もある。
そうだとしたら会わせるのは困難だ。
「強行突破で連れ出すか。そんなことしたら『虹の蝶』は今度こそ終わるな……」
そんなことを考えていると、噴水広場で泣いている幼い少女を見つけた。
「え〜ん、風船がぁ……」
街路樹に赤い風船が絡まっている。
不注意で紐から手を離してしまったのだろう。
高さも高さだ、自分が取ってあげよう。
「大丈夫か、今――」
すると、少女に近づく人影。
「……」
『鉄血の獅子』の女剣士――アスナの姿。
交戦の際に破壊したためか、仮面は付けていない。
こんなあっさり出会うのか、とマキナは拍子抜けする。
アスナは無機質な眼で見下ろし、気付いた少女はガタガタと怯え出す。
「ひっ!?」
「……」
彼女はあくまであの『鉄血の獅子』、何をしでかすか分からない怖さがある。
行動次第では実力行使に出なければならない。
一度斬り合っているマキナ、そう考えるのは当然のこと。
アスナは木の風船に目を向ける。
「……」
そのまま石畳を蹴って跳躍、風船の紐をつかむと、くるりと一回転しながら静かに着地した。
アスナは手に持った赤い風船を差し出す。
「どうぞ」
少女は恐る恐る受け取ると、
「……ありがとう、おねえちゃん!」
お礼を言い、嬉しそうに駆け出して行った。
アスナは再び歩き出す。
彼女の背中は、どこか安堵しているように見えた。
そして、マキナはアスナの後を追う。
これは決してストーカー行為ではない、『鉄血の獅子』最強の冒険者が目に付くところにいれば、動向を確認する必要がある。
それにたまたま巡回ルートが同じだし、ベローネのこともある。
そう自分に言い聞かせ、マキナ(不審者)は一定の距離を保ちつつ歩く。
「特に何かする様子でもないな……」
ただ観光しているだけにしか見えない。
休みを貰って暇なんだろうか?
アスナはその後も、行く先々で困ってる人たちを助けていた。
「荷物を持ってくれてありがとうねぇ」
「いえ、当然のことです」
「ありがとう、探し物を見つけてくれて!」
「お役に立てて何よりです」
「ペルを捕まえてくれてありがとうございます!」
「困ってるときはお互い様です」
アスナは抱きかかえた犬を飼い主に預け、その場を去る。
「いい奴、なのか?」
マキナは首を傾げる。
彼女は他の『鉄血の獅子』とは違う。
自らの力を誇示せず、迷わず困っている人間の味方をする。
『鉄血の獅子』とはいえ、まともな人間がいないわけではないらしい。
アスナは街を流れる川に架けられた橋を渡る。
ひょいっ、
橋の手すりに立ち、両腕を水平に保ちながら颯爽と歩くアスナ。
「〜♪」
鼻唄を歌い、目を瞑りながら風を感じている。
今までの無感情な顔と違い、口元は僅かに緩んでいた。
「あんな顔も出来るんだな」
マキナは安堵する。
どうやら感情をちゃんと表に出せるらしい。
加えて体幹も見事、剣士として研ぎ澄まされた物を感じる。
ベローネと同じ、いやそれ以上かもしれない。
「流石ベローネの妹だな」
すると、アスナは突然足を滑らせる。
つるっ、ばしゃああん!!
綺麗に身体が宙に浮いたアスナは、そのまま川に落ちた。
「――っええええええええ!?!?」
マキナは橋に向かい見下ろすと、川の中で必死にもがくアスナ。
『――私の妹も泳げなかったのを思い出した』
ベローネの言葉が頭をよぎる。
あの様子だと、どうやらまだ克服していないらしい。
「まずいぞこれは……!?」
マキナは咄嗟に川に飛び込む。
泳げないのはマキナも同じ、だがここで彼女と距離を離すのは不味いと考えた。
「おい落ち着け! 今助ける!」
波打つ川の中、マキナは溺れるアスナを抱きかかえる。
水中の重さに足を取られ、口に大量の水が入る。
マキナの海神錨ポセイダルはあくまで海水に反応する魔導武器、淡水では効果がない。
――そうか、あれならいける。
マキナは【収納】で魔道具を装備。
巨大な鉤爪を持つガルーダショットだ。
アスナを抱えたまま、鎖に繋がれた鉤爪を射出、遠くの街路樹に固定される。
「よし、保ってくれよ!」
鎖を巻き戻す要領でそのまま勢いよく引っ張られ、何とか川岸に辿り着く。
「俺は2度と川や海には入らないぞ……」
トラウマが蘇ったマキナ。
体力を使い切り、ぐったりと寝転ぶ。
「わ、私は、なぜ、助かって……」
アスナも同じく力なく寝転ぶが、しっかりと意識はある。
どうやらまだ事態を理解できていないらしい。
事故に気付いたのか、遠くからアリアが飛んでやってくる。
「マ、マー兄どうしたの!? 溺れてた人を助けたんだ、私もサポートするよ!」
「俺も助けてくれ……」
マキナは力なく答えるのだった。
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