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第61話 虹の蝶は瞬く


 パーティーもつつがなく終わり、残るイベントはただ1つ。


「もうそろそろ山頂だね〜」


 晴天の中、アリアは緩やかな山道を歩きながら言った。

 そう、鉱山エリアでのアイテム採掘である。


「それにしてもずいぶん歩きやすくなったわね」


「生息していたモンスターも顔を出すようになった、少しずつ元の環境に戻りつつあるのだな」


 ステラとベローネは道中の変わり映えに驚きながら言った。


 1週間振りに歩く山道、あれだけ鬱蒼と生えていた魔植物も綺麗さっぱり無くなっていた。

 これも全て、マキナと炎魔剣イフリートの賜物である。


「思えば長い道のりだった……」


 マキナは一歩一歩を強く踏み締める。

 長いのは決して山道のことではない、ここへ来るまでに起きた様々な出来事に対してだ。

 ロックトレントのいた中腹を通過し、上を目指して更に進む。


 しばらくして、4人は山頂に辿り着く。

 周囲をぐるりと囲む岩壁に埋まる鉱物素材の数々、その一つ一つの輝きはまるで、マキナ達を歓迎しているようにも見えた。


「すっご〜い!」


「そこかしこが宝の山じゃないの!」


 アリアとステラは見渡しながら唖然とする。

 そんな彼女達以上に、衝撃を受けた男がいた。


「……ここは、天国か?」


 マキナは思わず一筋の涙を流す。

 まるで、雲の上にいるような高揚感に包まれていた。

今までも別の鉱山に行ったことはあるが、楽園竜(アイランド・ドラゴン)の鉱山は別格だ。

 大陸各地の様々な岩壁が存在し、滅多にお目にかかれない鉱石も生成されていた。


「本当にありがとね、マー兄」


 アリアはくるりと振り返ると、マキナは涙を拭いながら言った。


「どうした急に?」


「だってマー兄が『虹の蝶』に入ってくれたから、こんな楽しい冒険が出来てるんだもん!」


「言えてる、アンタが来てからアタシも色々変わったわ。強いモンスターとも戦えるようになったし、かと言って自分の実力に過信しなくなったわ」


 ステラは口を開く。


「今回、楽園竜(アイランド・ドラゴン)の危機を救えたのだって間違いなくマキナ、君のお陰だ」


「そんなことはない、全員が頑張ったからだ」


「もし我々の装備が君の武器で無かったらロックトレントには勝てんよ」


 ベローネはやれやれといった表情をする。


「オルトロスじゃなかったら、岩の剥がれたロックトレントにもダメージを与えられなかったなぁ」


「リンドヴルムじゃなかったら、木の根の壁を貫通する事も出来なかったわ」


「もちろん武器だけじゃない。私達は色んな物を君から貰ったんだ、御礼を言わせてくれ」


 3人は嬉しそうに頬を緩ませながらマキナを見る。彼女達の本心だという事が伝わってくる。


 だからこそ、


「……俺は認めないぞ」


 マキナはそれを否定した。


「ええ、マー兄!?」


「アンタ強情過ぎじゃない!?」


 マキナは『白銀の翼』を追放された後を思い出していた。

 もしもあの時、街でアリアと再会していなければ『虹の蝶』に入っていなかっただろう。

 冒険者になることも、共にクエストを攻略する喜び も、自身の武器を大切にしてくれる仲間と出会うこともなかった。

 一つ一つが彼にとって『特別』な出来事。

 それを、彼女達が『普通』にしてくれたのだ。


 充実した冒険者生活が出来ているのは、彼女達だけではない。


「俺だって貰ってる物はある」


 マキナだって、同じなのだ。

 一方的な感謝の言葉は受け取れない。

 自分の居場所を見つけることが出来た、その実感で自然と顔が綻ぶ。


「マー兄……今までで1番良い笑顔してたよ!」


「え、そうか?」


「うん!」


「気のせいだろ」


「してたよ! とびきりの笑顔だった!」


「びっくりしたわ……マキナってそんな顔するんだ」


「結構可愛かったぞ」


「もうやらない」


 顔を背け、マキナは1人歩き出す。 


「え〜なんで〜!」

 

 そんな彼の背後をぴょんぴょん飛び跳ねるようにアリアが追う。


「やる必要がないからだ」


「ちょっと、もう一回笑ってみなさいよ!」


 ステラも小走りのまま、興味津々と言わんばかりにマキナの顔を覗き込む。


「嫌だ」


「マキナ、恥ずかしが……」


「断る」


「まだ私は何も言ってないぞ!?」


「言わなくても分かるわ!」


 マキナは新鮮に驚くベローネを尻目に、そびえ立つ岩壁に埋め込まれた鉱石の数々を見上げ、両手を数回叩いた。


「さぁ、ここから忙しくなるぞ……!」


 『虹の蝶』のマキナ。

 卓越した技術を持つ鍛治師として名を馳せるか、炎剣を持つ冒険者としてか、はたまた最強武器を持つ伝説のパーティーの一角として歴史に名を刻むのか、それは誰にも分からない。


 彼の冒険者生活は、まだ始まったばかりなのだから。


【※読者の皆様へ】


これにて一章完結です! 

この度、この『雑魚鍛冶』の書籍化が決まりました!

内容は楽園竜編まで収録予定です。

(読みやすくする為に章を纏めたり改稿はするかもです)

最後に、ここまで読んでいただきありがとうございます(*^◯^*)(*^◯^*)(*^◯^*)(*^◯^*)(*^◯^*)(*^◯^*)




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