第54話 魔植物の脅威
「……凄いな」
鉱山の中腹目前まで登ったマキナ達は、目の前の光景に息を呑んだ。
怪しい紫色の植物が所々に生えており、まるで森のようになっていたのだ。
「日差しを遮るほどに大きくなってるわね……」
「もうテリトリーに入ったって思った方がいいな。その辺の植物には触るなよ、分かったなアリア」
アリアはビクッ! と身体を震わせると、斑点の付いた大きなキノコに触れようとする手を止めた。
「えっへへ〜、そんなこと言わなくても分かってるよ!」
「しかし凄まじい繁殖力だ、トレントの種子1つでこれだけ広がるとは……いや、楽園竜の蓄えられた栄養分のお陰か?」
ベローネが森を見渡しながら呟く。
元が1つの種子だと考えると、確かにとんでもない広がり方だ。
蔦が上からも伸び、地面の至る所から根が浮き出ている。恐らく中腹付近は更に侵食が進んでいるはずだ。
すると、4人を巨大な影が覆った。
「――気を付けろ、モンスターだ!!」
マキナが叫ぶ。
巨大な毛むくじゃらのモンスター、デビルグリズリーが現れた。
このデビルグリズリーの鋭い爪の一撃は、鋼鉄すら容易く破壊出来ると言われている。
マキナはイフリートに火炎を纏わせる。
アリア達も武器を構え、臨戦体制に入る。
が、しかし。
――ズシンッ!!
デビルグリズリーはそのまま力なく倒れた。
「……!?」
何が起こったのかよく分からなかった。
マキナは警戒しながら近付き、確認する。
デビルグリズリーは、既に息絶えていた。
「ここに来る前に何かあったのか……?」
「ふぇ〜びっくりしたよ〜」
アリアは胸を撫で下ろす。
よく見るとデビルグリズリーは血だらけで、至る所に締め付けられた痕がある。
「デビルグリズリーって、こんなやられ方するようなモンスターだっけ……?」
「恐らくロックトレントの仕業だな」
デビルグリズリーは高ランク指定された凶悪なモンスターだ、それをここまで痛めつけられる存在は1体しか思い浮かばない。
「マキナ、何かおかしくないか?」
不意にベローネが口を開いた。
「どうした?」
「今、私達はこっち側から来たんだよな?」
ベローネが指を刺した方向は樹々が生い茂っていて、まるで人の通れるような場所ではなかった。
「あんな狭そうな所通ったっけ?」
「ベローネ、アンタの勘違いじゃないの?」
「……いや、間違いなく俺達はあの方向を通った」
マキナは樹々の隙間から、自分達が通ってきた山道を微かに視界に捉えていた。
そして、1つの事実に気が付く。
「皆、まだ武器は仕舞うなよ」
周りの樹々は、注視しなければ気付かないほどゆっくり動いていた。
それはまるで、マキナ達を取り囲むように。
「俺達は既に狙われてる」
突如、地面から木の根が勢いよく飛び出し、マキナ達に襲いかかる。
「おおおお!!」
マキナは木の根をイフリートで一瞬で斬り伏せ、消し炭にした。
しかし、それは攻撃の序章に過ぎなかった。
木の根を皮切りに魔植物が一斉に動き出す。
樹木に手足が生えた、本来の姿のトレントが複数現れた。周りの樹々に擬態しており、襲撃の機会を伺っていたのだ。
「皆、固まれ!」
マキナの一声で、全員が背中合わせになる。
集団の敵との戦いでは、パーティーがバラバラにならない用に立ち回ることが大事だ。
「差し詰め、ロックトレントの子分という訳か」
ベローネはストームブリンガーを構え、冷静に敵を見つめる。
「これって流石に不味くない?」
ステラは額の汗を拭う。
目視で確認出来るだけで20体以上はいる。
低級の個体ではあるが、数が集まると厄介この上ない。
「俺が何とかする」
このまま足止めを食らう訳にはいかない。
マキナは【収納】で武器を装備する。
電撃の矢を撃ち出す、迅雷弓ミカヅチだ。
「ロマーレ山脈で使った武器か、無数の電撃の矢を出していたな」
ミカヅチの存在を知っていたのは、マキナ以外ではベローネだけだ。
「ああ、今回は違う使い方をする」
マキナはミカヅチに電撃の魔力を溜めると、武器全体が金色に光り輝く。最大限まで溜められた合図だ。
「来た方向を考えると、中腹はこっちだな」
マキナはミカヅチを構え、撃ち出す。
巨大な電撃の矢が、凄まじい速さで進行方向上のトレントを全て焼き尽くす。
ギャアアアア!!!!
断末魔と共に、暗く生い茂る森にぽっかりと1つの道が作り出される。
地面を抉るように撃ち出した為、その電撃は地中の木の根にも及んでいた。
足元からの攻撃も封じる狙いがあったのだ。
「よし、道出来た」
「巨大な矢として撃ち出す事も出来るとは、恐れ入った」
「さっすがマー兄、本当に何とかしちゃうんだもん!」
「慣れてきちゃったけど、絶対普通じゃないわよねこれ……」
4人は作り出された道を一気に駆け抜ける。
トレントは行手を阻もうとするが、このモンスター自体の動きは遅く、一度開けた道を再び塞ぎ切るには時間を要する。
「ベローネ、行くぞ!」
「任せろ!」
マキナは装備をイフリートに変更し、ベローネと共に先行して再び立ち塞がるトレントを排除していく。
「おおおおお!!」
「はああああ!!」
手薄になったトレントの壁を退けることなど、2人には造作もない。
左右から襲いかかるトレントは、後ろのアリアとステラの2人が撃退し、確実に前へと進んで行く。
暗い森を抜け、道が開けた。
「ここは……」
4人は鉱山の中腹に辿り着いた。
せり立つ巨大な岩壁が、地面ごと円にくり抜かれた広い空間。
外周は樹々が取り囲むように生えていた。
「いた、あれだよ!」
アリアが声を上げる。
その中心に、怪物はいた。
人型の上半身が地面から生えていたのだ。
黒い樹木で形成されたそれは体つきこそ華奢だが、寸尺は人間の数十倍はあった。
「写真よりも、実物はもっと大きくみえるな」
鉱山のロックトレントは、赤い眼をギラつかせた。
【※読者の皆様へ】
「面白い!」
「続きが気になる!」
と思った方は、ブックマーク、評価をしていただけると幸いです!
広告下の評価欄にお好きな星を入れてください。
★★★★★
よろしくお願いします!