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第53話 忍び寄るジュダル


「一体全体どうなってんだよ、俺達の事がバレたんじゃねぇだろうな……」


 ジュダルは鉱山の岩陰から景色を見下ろす。

 彼の目に映るのは、騎士とゴロツキ達が鉱山の周りを封鎖している様子だった。


「はぁはぁ……」


 息を切らしたニコルが、ジュダルの元に駆け込む。


「ニコル、そっちはどうだった?」


「駄目ッス、反対側も人が沢山ッス!」


「マジか、完璧に逃げられねぇって訳かよ!」


 ジュダルとニコルはこの楽園竜(アイランド・ドラゴン)に来てから、ずっとこの探索エリアに潜伏していた。街に向かえば、不法侵入が発覚してしまうリスクがあるからだ。


 探索エリアの様々な場所に拠点を移し、最終的にこの鉱山に決めた翌日の朝には既にこの有様だった。


「このままじゃ間違いなく捕まっちまう。マキナと『虹の蝶』をぶっ潰す俺の計画が狂っちまうじゃねぇか!!」


 ジュダルは頭を掻きむしる。

 彼は下の人間達が「自分達を捕まえに来た」と勘違いしていた。


「……」


 反対にニコルは黙ったままだった。

 理由は、数日前のマキナとの絡みにある。

 ジュダルから、マキナは炎剣を奪った最低な男と聞いていた。

 しかし、彼は自分を助けてくれただけでなく武器まで直してくれた。

 心配だから街まで送るとまで言ってくれたのだ。


「おいニコル、お前ここに来てから様子がおかしいじゃねぇか」


「え、い、いや何でもないッス」


「本当かよ、お前やっぱり森で何かあったんじゃねぇか?」


「気のせいッス!」


 彼はジュダルに、まだ自分が森でマキナと出会ったことは伝えていなかった。

 どうしても、彼が悪人に見えなかったのだ。


「あの、アニキ」


「何だよ?」


「その〜『虹の蝶』の、マキナさんのことなんですけど」


「マキナさんだと!? お前いつからそんな風に言うようになった!?」


「す、すみませんッス! でも、そのマキナって奴、本当に悪い人なのかなって?」


「ああ……?」


「いや、アニキを疑ってる訳じゃないッスけど、でも話し合いが通じそうな人だなーって思ったんス!」


「お前、まるで自分で見てきたような口振りだな?」


「な、何となくそんな気がしただけッス!」


 ニコルは慌てて平常を取り繕う。


「そんな甘い考えは捨てろ、そんなんだから闇ギルドに騙されんだよ。俺達に残された道は炎剣を奪い返して新生『白銀の翼』を立ち上げる。そして俺がお前の闇ギルド在籍記録を特例で消す。それだけだ」


 ジュダルはニコルの胸に人差し指を突き付ける。

 ジュダルにとって、『白銀の翼』を再び立ち上げるのは序(つい)でに過ぎず、マキナ達を苦しめる事が最重要だった。


 ニコルはあくまで炎剣を奪う為だけに必要な存在、終われば用済みだ。

 その時まで適当な事を言ってそばに置いとければいい。


「はいッス……」


 実際のところ闇ギルドにいた経歴を何とかしたいのはニコルの本心だ。

 今はジュダルに従う他なかった。


「それなのによぉ、こんなんじゃ『虹の蝶』を探しにも行けねぇ。どうすりゃあいいんだよ……ん?」


 ジュダルは離れた山道から、複数の人影が登ってくるのが見えた。


「ニコル、隠れろ!」


 頭を掴み、無理矢理下げさせる。


 4人組のパーティーだ。

 女子冒険者3人はそれぞれ双剣、槍、大剣を装備している。

そして、もう1人は男。

 白髪で亜麻(あま)色の外套を羽織り、背中には……。


「炎剣、間違いねぇ、マキナだ……!!」


 ジュダルは息を殺しながら地面に寝転ぶ。


 やったぜぇぇぇぇぇ!!!!

 どういうことか知らねぇが、あちらさんからやって来やがった!!


「嬉しい、嬉しいよぉぉ……!!」


 ジュダルは気持ち悪い笑みを浮かべながら、太陽を見上げた。

 4人はそのまま山道を進み、登っていく。


「ニコル、後を追うぞ!」


「ほ、本当にやるッスか?」


「当たり前だろうが、俺の合図で炎剣を奪い取れよ!」


「でも今の4人が進んだ先って、魔植物が沢山生えてたとこッスよ、昨日オイラ達が引き返したとこッス!」


「目の前に炎剣があるんだ、黙って指咥えて見てられるか!」


 ジュダルはマキナ達から充分離れた事を確認すると、足早に山道へと向かう。


「……この人、本当に信じていいんスか?」


 疑心の目を向けられていることに、高揚感に溺れたジュダルが気付くはずはなかった。


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