25話 魔獣核
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読む人を選ぶ小説だとは思いますが、ブクマ等して下さるとモチベーション維持にもなるので何卒よろしくお願い致します。
「2人共、行くぞ」
「はい」
「仕方ないの」
近場の宿で一夜を明かした俺達は明くる日、日が昇ると同時に昨日自由職業別組合で受注した依頼をこなす為に行動を開始した。
イルザールは現在ドラゴニアス帝国の委任統治領となっており、秩序を保つ為自衛以外の戦闘は認められていない。制限なく戦闘をするにはこの地の復興を任されているイルザール自由職業別組合に加入しなければならなかった。
つまり、受注した依頼はあくまで熟練度アップと連携強化のついでの様なモノだが、仕事には変わりない。
それに自由職業別組合に俺達の実力を認めさせば此方にも利はある。しっかりきっちり働いて復興に協力してやるとしよう。
閑話休題。
今回の依頼内容は『黒狼』と呼ばれる黒い体毛で覆われた獣を最低5匹討伐する事。
醜い豚と呼ばれ、豚の顔に人間の体という異形の魔獣『オーク』を最低1匹討伐する事。
薄緑色の体に不気味な目をした『ゴブリン』を最低5匹討伐する事。
最後にネズミが二足歩行している様な『コボルト』という魔獣を最低5匹討伐する事。以上4つ。
要はイルザール近辺に跋扈している獣や魔獣を倒し、他所から来る人達や物資を守る事を主眼に置いた治安維持の依頼だ。
依頼主はイルザール自由職業別組合支部。渡された依頼の受注書には、本日の仕事場はイルザール近辺に広がる森林地帯一帯と書かれている。
宿を出た俺達は早速ガンダス達から奪った馬車に乗り込み、木漏れ日を浴びながら近くの林道を進む。そして本日の拠点として活用出来そうな空き地を見つけると、手綱を近くの木に縛り早速仕事に取り掛かった。
「しかし転生とは難儀じゃの。また一から己を鍛え直さんといけぬとは」
「あ?」
『生命感知』を使いそれらしい反応を捕らえたベルゼが先頭を歩き、その後ろを俺、更にその後ろをディーネが歩く。其々は無言で歩みを進める。
数分程無言の時間が続く。耳につくのは3つの足音と草木が擦れる音のみ。
そんな中、昨晩俺が復讐を誓うに至った経緯や復讐の相手。そしてベルゼとの関係まで全てを聞かされたディーネが、戦斧を担ぎながら感情の感じない声を俺へと向けた。
本当は『復讐ノ誓イ』を使い俺が復讐を決意した経緯を追体験させれば楽だったのだが、この魔法を他者に対して使うと、俺やベルゼの様にお互いに対し悪意を抱く事が出来なくなる。
そうなるとディーネの望みでもある俺への復讐という望みが阻害され兼ねない。
なので面倒であったが、ディーネには俺がこの世界に召喚された所から説明を始めなければならなかった。
「それに此奴が父上を惑わせた神だったとはな」
「……何が言いたいのです」
「なに、妾も含め、此処に居る者は皆因果な奴等よのと思っただけじゃ。知人も家族も居らぬ土地に、これまでの人生で得た教訓や経験が全く通用せぬ世界に突如連れてこられ、挙句信頼しておった者達に裏切られ殺され、復讐を誓い蘇った汝。
強大な力の持ち主に目を付けられ、己の意思とは関係なく地の底に堕とされ、繋がれ、救いの手を差し伸べた男に文字通り全てを捧げた汝。
そして汝等に父と呼べる存在を殺され、汝を殺す契約を結んだ妾。これを因果と呼ばずして何と呼ぼうぞ」
ディーネの無機質な声はベルゼにも向けられる。
全ての成り行きを聞いたディーネはベルゼにも冷めた目線をぶつけ、最後には自嘲する様な言葉を漏らした。
ディーネは昨日の夜以前はベルゼに対しなんら悪い心象を抱いていなかった様だが、アスラゴートとの関係性を知るとそれまでの態度がやや変わった。
ディーネはベルゼと面識はなかったらしいが、父と呼ぶアスラゴートが天界から連れ去った神の存在自体は知っていたらしく、それがベルゼだと分かると僅かながらの敵愾心を滲ませる。
ベルゼからしたら見当違いなモノでしかなかったが、ディーネから見たらベルゼは父を誑かした存在。父が殺される一因を作った相手と言っても差し支えなかった。
「じゃが、父上の死は因果応報じゃな。殺されても致し方あるまい」
「でしたらライ様を殺すなどと大それた事は2度と言わないで頂けますか」
「はっ、勘違いはするでないぞ。妾は此奴を許した訳ではない。契約が済んだら此奴は必ず殺す」
「……おいベルゼ、分かってるな?」
だが、ディーネの感性というか、生死感は達観していた。
彼女は復讐こそ望んではいるものの、父は殺されるに値した事をしたのだ。殺されても仕方ないと、乾いた声を漏らす。
初めて魔王城で出会った時は己に襲い掛かった不幸を嘆き、理不尽に対し怒りを爆発させていたディーネだったが、俺と別れた後に何かしらその考えを変える出来事があったのだろう。
あいも変わらずな物言いはご愛嬌という事にしておいてやる。
「分かっています……あ、ライ様居ました。『黒狼』の群れです」
「よし、まずはベルゼを主体にした連携の確認を取る。俺とディーネは群れの右後ろ、左後ろから『黒狼』を襲ってベルゼの方に誘導する。ベルゼは逃げようとする奴等を魔法で殺れ。問題あるか?」
「造作も無い」
「かしこまりました。問題ありません」
これまでの経験から、このままベルゼを放置しておけば雷が落ちるのは分かりきっていた。なので前もって釘をさすと、タイミング良く獲物の1つが俺達の前にその姿を見せる。
ベルゼが『生命探知』で見つけたのは6匹の『黒狼』の群れ。此奴等は獲物を探しているのか顔を左右に振りながら林の中を闊歩している。
幸いな事に俺達は風下、かつ『黒狼』の背後に位置する場所に居たから気付かれた様子はない。この群れを全滅させれば依頼の1つは終わる。
俺は近くの木に身を潜めながら、同じ様に姿勢を低くして隠れていたベルゼ達に作戦を指示した。
今回の作戦はベルゼを主体とした連携攻撃。
作戦内容は先程言った様に、俺とディーネが後方から『黒狼』の群れを強襲しベルゼが居る方へと誘導する。そしてそれをベルゼが魔法で一網打尽にするというもの。
この作戦は上手くハマればどんな状況下でも色々と応用が効く。3人の動くタイミングが重要だ。呼吸を合わせなければ。
「ベルゼ、余り本気を出すなよ。依頼達成の証拠には此奴等の皮が必要だからな」
「大丈夫ですよライ様。任せてください」
余談だが、自由職業別組合が掲示している討伐系依頼の達成を認めさせるには、其々の依頼に記載されている獣ないし魔獣に指定された素材の提出が義務となっている。
これは依頼達成を偽り不当に報酬を得ない様にする為の処置と、ギルド規約に書かれていた。
冥府周辺でアホみたいに狩った獣の素材が大量にある俺からしたら、その素材を代わりに提出すれば報酬は楽に手に入る。だが、俺は戦闘経験を積みたいのであって報酬は二の次三の次。
どのみち狩りをする事に変わりないのなら、キッチリやった方が俺の性分に合っている。
俺は『真王の覇道の剣』を抜き、背中を向ける『黒狼』達を睨みつけた。
「任せたぞ。ディーネ」
「分かっておる」
ディーネはまるで重力を感じさせない足取りで駆け出した。ほんの僅か遅れて俺も駆け出す。
『身体強化』や『空脚』を使うまでもなく、俺とディーネは『黒狼』の群れの前方に回る事が出来た。
「っらぁ!」
「はぁぁあ!」
シャン!
ブォォオン!
「ギャイン!?」
「ギャウン!!」
やや遠回りして前方に回り込んだお陰か、黒い獣達は俺達の存在に気が付かなかった様だ。回り込むという助走を得て、勢いそのままに林から飛び出した俺は、『真王の覇道の剣』を袈裟斬りの要領で振り抜く。
『真王の覇道の剣』の真っ赤な刀身は鋭く風を切りながら『黒狼』の1匹に迫り、2つに斬り裂いた。
両断された『黒狼』の断面から赤黒い雨が降る。狙い通り最右翼に居た『黒狼』の排除を確認した俺は目線を左側へと向ける。
左側では分厚い刃の戦斧を振り上げたディーネが、渾身の力を込めて戦斧を真下に振り下ろしていた。大気を捩じ伏せる様な力強い振り下ろし。狙いは完璧で、最左翼に居た『黒狼』は首と胴体が2つに別れ、弾け飛んだ。
「バウ!」
「ベルゼ行ったぞ!」
「はい!」
突如襲われた『黒狼』の群れは俺達とは反対方向…… つまりベルゼが待ち伏せしている方向へ向け逃げ出した。
作戦通りだ。
すかさず俺は声を張り上げる。
「『大地に根を張りし生命よ 地を覆うその根を我に授けん! 貫け! 樹根の槍』!」
右手に杖を、左手に短剣を握ったベルゼは、勢いよく林から飛び出すと『黒狼』の進路を塞ぐ様に立ち、目を瞑って呪文を詠唱する。詠唱が終わると地面が揺れた。
そしてベルゼが目を見開くと同時に、地面が割れ、その下から何本もの木の根が這い出てきた。
そう、その光景は木の根が地面から這い出てきたとしか表現出来ない。
ベルゼが使用した魔法は植物を操り武器とする攻撃系魔法『樹根の槍』。鋭い木の根を槍の様に並べ敵を貫く天然の槍衾。
まるで意思を持つ生き物のように地面の下から姿を見せた木の根は鞭の様にしなり、鋭く尖る根元を6匹の黒い獣へ向ける。
「「「「キャイン!!」」」」
幾つもの鞭を同時に振り下ろした様な鋭い音が複数聞こえた。直後、10を超す木の根達は本物の槍の様に一直線に伸び、『黒狼』の頭や胴体、足を貫く。
まさに一撃必殺。ベルゼが俺の期待に見事応えた瞬間だった。
「ふぅ上手くいきました」
「ひゅ〜 やるじゃねぇか」
「あ、ありがとうございますライ様!」
獣を貫いた木の根は数秒後、『樹根の槍』の効果が無くなった事で元あった場所に収まり、根に支えられていた骸達が地べたに転がる。
予想以上に鮮やかな手並みに感心した。
この様子なら応用的な連携にチャレンジしてみても大丈夫だろう。
まずまずの成果に満足した俺は口笛を吹きベルゼの手並みを褒め、ご褒美にキラキラと輝く髪を撫でてやった。
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その後も仕事は滞りなく進んだ。
拠点を構えた空き地を中心に円を描く様に歩き続け、対象の獲物が居ればその都度フォーメーションや作戦を変えながら狩る。狩り続ける。
『黒狼』を狩り『オーク』を狩り『ゴブリン』を狩り、残す標的は『コボルト』のみとなった。
互いの連携は思った程酷くない。むしろ良いくらいだ。それに獲物に遭遇するペースも早い。5分も歩けば何かしらに遭遇している。
それはそれで問題ないのだが……この遭遇頻度は明らかに異常だ。既に『黒狼』9匹、『ゴブリン』18匹、『オーク』4匹と、20匹魔獣を狩っている。
イルザール近辺で争いの種があるのは分かっていたが、魔獣との遭遇頻度はかつてイルザールがアスラゴートに占領されていた時と然程変わりがない。
簡潔に言えばこの遭遇頻度は異常だ。『黒狼』は別にしても、魔獣が多過ぎる。『ゴブリン』や『オーク』等の魔獣は魔王軍の雑兵だったから、同盟軍は勿論、同盟軍解散後は各国の軍が野生動物である『黒狼』等より優先して討伐していた筈。それに戦争終結から1年以上が経っているのにも関わらず、まだこんなに魔獣が居るのはおかしい。
この近辺には自由職業別組合の支部もあるから、自由職業別組合の組員が討伐し尽くしていても不思議ではないのに。
倒しても倒しても、まるで無限に敵が湧き出てくる様な感覚。
俺にはこの現象に心当たりがあった。
もしかすると……
「ふむ、この遭遇頻度はおかしいの」
「ディーネもそう思うか」
「え、どういう事ですか?確かに少し歩けば魔獣に接敵していますけど……それが何か?」
「それがおかしいんだよ。明らかにこの近辺に魔獣が密集し過ぎだ。もしかしたら、近くに【魔獣核】があるのかも知れねぇ」
違和感を感じ取ったのは俺だけではなかった。
滋養強壮の効果を持ちマジックポーションの材料としても使われ、今回の依頼達成の証拠ともなる『ゴブリン』の爪を採取している最中、周囲の警戒を任せていたディーネがポツリと呟く。
しかしベルゼだけは違和感こそ感じたものの、この現状がどんな意味を持つのかまでは理解していなかった。
そこで俺は考えられる可能性の中で、我ながら最も信憑性のある可能性を呟く。
「魔獣核、とは何でしょうか?」
「魔獣核ってのはアスラゴートがイルザールを含めた北方地区を再占領した時、占領地一帯に作った魔獣の発生装置だ。で、生態系のバランスが崩れてるんじゃねぇかって思えるくらいの魔獣との遭遇頻度…… 近くに未発見の魔獣核があっても不思議じゃねぇ」
「妾もこの遭遇頻度の高さは魔獣核が原因じゃと思う」
俺は端的に魔獣核の事をベルゼに説明した。
魔獣核はその名が示している様に、魔獣を生み出す核。つまりは魔獣を製造する物体だ。
『神隠しの森』、『龍の牙』の先にあるアスラゴートの本拠地へ攻め込もうと、再占領されたイルザールを通りがかった時に見つけた毒々しい卵の様な物体。
かつて仲間だった、頭のネジが5本ほど欠如したイカれ気味な魔法使いはこの傍迷惑な魔獣製造機を調べあげ、何らかの術式が施された核と、核に含まれた魔力とが反応して魔獣を生み出しているのだと突き止めた。
同盟軍が北方地区を奪還した際には見られなかった魔獣核。しかしある日を境に魔獣核を頻繁に見かける様になった。
それはアスラゴートが2度目の北方地区占領を果たしてから。
同盟軍に撃退されたアスラゴートは教訓を得て、自軍の戦力を増強させる装置である魔獣核を作り上げ、再占領した北方地区に設置しまくったのだろう…… それがイカれ魔法使いが導き出した答えである。
とは言えそれ以外の詳しい事は其奴にもついぞ分からなかった。
最も、魔獣核はそれこそ卵の如く『ゴブリン』や『オーク』、『コボルト』といった魔獣を、核に含まれる魔力が尽きるまでほぼ無尽蔵に生み続ける。という情報さえ分かれば、イカれ魔法使いにとってそれ以外の情報はどうでもいいモノだったらしい。
俺も詳しい事はさっぱりだったから対して気にならなかったのもあるが。
話を戻して…… 魔力が尽きるまで無尽蔵に魔獣を生み続けるという此処だけを聞けば、魔獣核は魔獣の発生装置と言うより魔獣の卵と言った方がいいかも知れない。
ちなみにもう1つ分かった事に、魔獣核から生まれた魔獣は、その後は各種の生態にそって生きているらしいというものがある。
例を出せば『ゴブリン』だ。
魔王軍侵略以前は人類の勢力圏内で目撃情報さえなかった『ゴブリン』達は、アスラゴートの侵攻を機に主に北方占領で大量の目撃情報が上がった。
同時に、人間の女や人間に味方した獣人の女、その他『エルフ』、『ドワーフ』等の種族の女が『ゴブリン』に連れ去られる事件も多発。その後救助された女達の話から、『ゴブリン』は雌を捉え無理矢理『ゴブリン』を産ませているという情報が広まった。
では何故わざわざ魔獣核という便利なモノが有るのに、『ゴブリン』が自ら繁殖する必要があるのか。
これは憶測でしかないのだが、アスラゴートは人類の戦意と戦力を挫く為に魔獣に女を拐わせ、魔獣自らに繁殖させる事で自軍の戦力を増やそうとしたのだろう。
それに魔獣核はそれ自体に含まれる魔力を使い魔獣を生む。そうなると、有限である魔力を使いばかすか魔獣を生み出すよりも、ある程度の製造をそれぞれの種に任せた方が効率的であった。
この魔獣核とそこから生み出される魔獣が原因で同盟軍と魔王軍の勢力図は逆転。同盟軍は多勢に無勢で蹴散らされ戦力差は歴然となり、同盟軍は守勢に回る他なく人類は滅亡の危機に瀕した。
もしかしたら、人類滅亡の危機を作る一因となった魔獣核がこの近くにあるのかも知れない。
「丁度いい。ディーネ、ベルゼに魔獣核の事を詳しく説明してやれ。俺より詳しそうだ」
「仕方ないの…… 父上は人間共の戦力を上回る軍を作る為に、汝等が発光鉱石と呼ぶ魔力の結晶体や魔力の高い魔族を贄とし、魔獣を生み出す魔獣核を作った。魔獣核はそれ自体が高純度の魔力の結晶。魔獣はその魔力を使い生み出される訳じゃ」
「もし魔獣核に含まれる魔力が尽きれば?」
「そうなれば魔獣の発生は止まるじゃろう。裏を返せば、魔力が尽きるまで魔獣共を生み出すという事になるがの。妾の知っておる限りでは、魔獣核から生まれた魔獣共は、雌を拐い繁殖しネズミ算式に増えてゆく様に作られておった。魔獣核に含まれておる魔力は有限じゃし、1つの方法に頼り切りでは生産効率も悪いからの」
「何て非道な……」
「それが戦争じゃ」
「魔獣核は俺達が破壊して回ったんだが、もしかしたら見落としがあったのかも知れねぇな」
「その可能性が高いじゃろう」
「何にせよ、魔獣核が近くにあるかも知れないのは朗報だ。探してみよう」
ディーネが俺達の憶測は正しかったと証明してくれた。
そして俺は心が弾んだ。未発見の魔獣核が近くにあるかも知れないという事は、今の俺とって何よりも重要で、何よりも嬉しい事だった。
何故ならアレは良い経験値稼ぎになるから。
何故このタイミングになって新たな魔獣核の存在が浮かび上がったのかは謎だが、その疑問を頭の片隅に置いた俺は立ち上がって歩き始めた。
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「あら?ライ様、あれは洞窟……でしょうか?」
「ん、あぁアレか。多分ゴブリンかコボルトの巣だろ」
魔獣核を探し周囲を散策しながら時折魔獣を殺し、1時間程林の中を歩いているとベルゼが何かを見つけ立ち止まった。
目線の向こうにあったものは洞窟。地面が盛り上がり直径2m程の穴が出来ている。こういう穴は『ゴブリン』や『コボルト』等が住み着き巣にしている事がある。
「取り敢えず内部を確認しておくか。ベルゼ、『生命探知』を使ってみろ」
「はい!」
この洞穴も恐らく魔獣の巣だろう。もし内部に魔獣が居れば殺して行こう。
そう判断した俺は確認の為、ベルゼに『生命探知』を使う様に命令した。
「ライ様、この洞窟かなり深いみたいです。それと地下に幾つか生体反応があります」
「十中八九魔獣だろうな。よし狩って行くぞ。俺に続け」
ベルゼの報告によればこの洞穴はかなり地下深くまで続いているらしい。それに洞穴内部には生き物が居る。こんな洞穴に人間が好き好んで入るとは思えないから、ベルゼが感知した生体反応は魔獣のモノと見ていいだろう。
本当は魔獣核を探していたのだが、経験値の贄を見逃すつもりはない。序でに殺して行く事にした。
「中は暗いと思ってたけど、そんな事なかったな」
「この洞窟は発光鉱石の鉱脈の様じゃな」
洞窟内部は想像とは打って変わり、ほんのりと淡く青白い光で照らし出されていた。この光は発光鉱石の光。
多少薄暗くはあるが視界が効かないという程でもない。ディーネが呟いた様に、この洞窟は未発見の発光鉱石の鉱脈と接していたのであろう。
『暗視眼』を使うまでもなかった。
「だが……なんだコリャ。まるで迷路だな。中々面白そうな洞窟じゃねぇか。迷わない様に印を付けながら進むぞ、ベルゼ付いて来い。ディーネは最後尾だ」
「かしこまりました」
内部は迷路の様に入り組んでいた。不自然に曲がりくねり、道が分岐している箇所も複数見受けられるし、人が楽に通れるくらい内部は広かった。どう見ても自然に出来た洞穴ではない。この洞穴は明らかに人為的に掘られていた。
『ゴブリン』や『コボルト』は自ら穴を掘って住処を作る事もあるが、こんなに大規模で複雑な住処は見た事がない。
この洞穴はもしかしたらただの巣ではないかも知れない。
俺はこの洞穴に興味を持ち探索を続ける事にした。魔獣が迫れば『生命探知』を発動させているベルゼが伝えてくれるだろうから、不意打ちを食らう可能性はない筈だ。
俺は狭い場所では満足に戦えないだろう武器を持つディーネを最後尾に置き、壁に目印代わりのバツ印を付けながらジメジメした洞窟内部を奥へと進む。
発光鉱石に照らされた洞窟内を歩いていると、まるで冥府に戻って来た様な感覚になる。
どこか懐かしさを感じつつ、俺は『真王の覇道の剣』を構えて歩き続けた。
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「おい汝よ、まだ最奥に着かぬのかえ」
「っせぇ。黙って歩け」
「おー、怖や怖や。黙らんと殺されてしまいそうじゃ」
「本当に殺すぞテメェ」
「はっ、契約契約と言っておきながら自らその契約を反故にするつもりかえ?」
「っの野郎……」
一体どれくらい歩き続けたのだろうか。
洞窟内で遭遇した『ゴブリン』を3匹殺した時点で俺はそんな思いに駆られた。
予想以上に複雑な地形。凹凸の激しい地面。圧迫感をもたらすジメジメした薄暗い道。それに加え、未だ最奥に辿り着く気配すらない。この洞窟には何かあるかも知れないと思い、自分から探検しようと言い出したにも関わらず、歩いても歩いても何も無いこの劣悪な環境に俺は若干苛立ってきた。
更にディーネの小馬鹿にした物言いが苛立ちを加速させる。
「っ!?ら、ライ様、近くで生体反応が1つ増えました!何で何もない空間から!?」
遭遇する敵も雑魚ばかり。これでは経験値を得るには効率が悪過ぎる。洞窟の外でブラブラしてた方がまだ効率的に経験値を稼げる。
蓄積されてきた苛立ちもあって、そろそろ引き返そうかと思い始めたその時、『生命探知』を発動させ先頭を進んでいたベルゼが叫んだ。
「何言ってんだ。ここが『ゴブリン』の共の巣だとすれば、いきなり何もない場所から生体反応が出る訳ねぇだろ」
「本当です!本当に何もない空間にいきなり反応が出たんです!」
「……って事は、魔獣核か!」
『ゴブリン』や『コボルト』『オーク』達の繁殖方法はただ1つ。雌を捕らえ、孕ませ、産ませる。これ以外に『ゴブリン』達が子を産む手段はない。
これまで洞窟内で遭遇したの魔獣は全て『ゴブリン』だったから、俺はこの洞窟は妙や点こそ有れど『ゴブリン』の巣だろうと思っていた。
しかし何もない空間にいきなり生体反応が増えた点をふまえると、その空間には魔獣核が有るとしか考えられない。
もし此処が『ゴブリン』の巣だとすれば、そのいきなり湧いて出た様な生体反応の側には、もう1つの生体反応…… 雌が居ないとおかしいからだ。
諦めて帰らなくて良かった。
「その反応は何処だ!」
「左側です!」
俺は叫び走り出す。
そして左側に分岐している道を曲がると、そこにはサッカー場がすっぽり収まりそうなだだっ広い空間が広がっていた。
「はは! 見っけたぜぇ!」
「こ、これが魔獣核…… 『生命探知』に反応がありませんでしたが、これは生き物ではないのですね。まるで生きている様にも見えますが……」
「魔獣核は生命体ではないからの」
至る所にそこそこ大きな発光鉱石がいくつも点在し、淡く光を放っている。その光に照らされた空間の中心に、大小様々な血管の様なモノが脈打つ赤黒く禍々しい物体が鎮座していた。
赤黒いその物体は1度目の人生で経験値稼ぎに大いに貢献してくれたモノ。
魔獣核だった。
「生命体かどうかなんてどうでもいい。オラ、邪魔だ」
魔獣核の目の前には地面に這い蹲る小さな『ゴブリン』が居た。状況から判断すれば、此奴は魔獣核から生まれたばかりなのだろう。
ベルゼが発動させている『生命探知』には魔獣核の反応が表示されなかったから、ベルゼは何もない空間からいきなり此奴が現れた様に見えたらしい。
何にせよ、此奴が『生命探知』に引っかかってくれて良かった。此奴が産まれるのがあと少し遅ければ、俺は苛立ちを爆発させて引き返していただろうから。
「ギュギ……」
「にしても、なんでこんな所にあるんだろうな」
俺は液体にまみれた『ゴブリン』の胸を『真王の覇道の剣』で貫き壁際に放り投げると、生き物の様な物体を見上げた。
直径は凡そ6m程、高さは5mといった所。巨大な心臓とも昆虫の卵とも見える毒々しい球体状の魔獣核。その物体全体を覆う管か血管の様な物はトクトクと一定間隔で脈打っている。球体の丁度真ん中には縦に3m程の切れ目が入っており、その切れ目から透明な液体が滲み出ていた。
何度見ても見慣れる事はない、実にグロテスクな見た目だ。
だが何故こんな所に魔獣核が?
これまで俺が壊した魔獣核は50近く。その全ては地表に出ていて、地下にある事は皆無だった事もあり、俺は首を傾げた。
「『魔造魔法』の影響じゃろうな」
「『魔造魔法』?なんだそりゃ」
「父上が魔獣核を造る時に使用した魔法じゃ。この魔法は周囲にある高魔力の物体を魔獣核に作り変える。
恐らく、以前父上がこの近くで魔獣核を作った際に、此処にあった発光鉱石も『魔造魔法』の影響を受けたのじゃろう」
ディーネは少し前、発光鉱石や魔力の高い魔族を贄とし魔獣核は造られると言っていた。そして此処は発光鉱石の鉱脈。
成る程、つまりこの魔獣核はアスラゴートが意図せず造ったモノと言う事か。
「妾達が通ったあの道は、この魔獣核から産まれた魔獣達がそれなりの年月を掛け掘り進んだのじゃろうな。そして道が開通した事で、産まれた魔獣達が地下からイルザール近辺の森に放たれたと言った具合かの」
「魔獣核が地下にあったから、誰もその存在を知らなかったと……」
「何にせよ、進んでさえいる限り、全ての道は此処に繋がっていた訳じゃ。目印を付ける必要は無かったな」
クスクスとディーネは小さく笑い、道に迷わない様にと印を付けていた俺を小馬鹿にする。
用心のつもりだったが、それが独り相撲だと分かると小っ恥ずかしいことこの上ない。
「ほっとけ。兎に角これで経験値大量ゲット……なっ!?」
ベルゼがディーネを睨んでいる。このままではまたお互いに武器を向き合う事にもなり兼ねない。
なので手早く魔獣核を破壊しようと『真王の覇道の剣』を振り上げた直後、ドクン!と魔獣核が激しく脈動した。
天井から小石がパラパラと降り注ぐ程の振動。血管の様なモノがドクドクと激しく脈打ち始め、そして魔獣核の中心が縦に裂ける。
その裂け目から、『ゴブリン』とも『オーク』とも『コボルト』とも違う大柄の魔獣が這い出てきた。
人間の上半身に牛の顔と下半身。
浅黒い肌と逆関節の足。腕は鎧を思わせる甲殻で覆われている。その魔獣を見た俺とディーネは叫んだ。
「「『ミノタウルス』!」」
「ブモォォォオ!!!」
『ミノタウルス』は、かつて魔王アスラゴートの身辺警護を司る親衛隊の一翼を担っていた強力な魔獣。今まで狩った『ゴブリン』や『オーク』『コボルト』とは比べ物にならない強敵だった。




