23話 ゲオルグ武具工房
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「むぅぅう……」
「なぁベルゼ、いい加減機嫌直せって。コレはそういう生き物なんだよ」
「おい汝、コレとは随分と失礼な言い草じゃな」
「っ!失礼な言い草なのは何方ですか! 不敬です、ライ様を敬いなさい!」
「知らぬ。敬う敬わぬは妾の勝手じゃ」
「な!?ライ様、やはり彼女は返品しましょう!」
「いや、だからな」
「ライ様が彼女に本当の名前を教えた事も失礼ですが不服です!この様な不敬な奴隷は一生あの薄暗い空間に居れば良いのです!」
スカビオサの館を後にした俺はディーネの蚯蚓腫れを『癒しの加護』で治療し、手綱を握らせてベルゼと共に馬車の荷台で揺られていた。
手綱を握れと命じられたディーネは大分不服そうだったが、コレも契約のうちだと言うと渋々ながら手綱を握り、俺が告げた建物を探しながら巧みに馬を操っている。
対して俺は未だにご機嫌斜めなお姫様へ向け言葉を並べていた。不貞腐れた様にそっぽを向くお姫様。そのお姫様から何度目か分からない雷が落ちた。ちなみにこの雷が5回を超えた辺りから、俺は雷の数を数えるのを辞めていた。
ベルゼとディーネのやり取りは殺伐としている。いつ取っ組み合いの喧嘩に発展しても不思議ではない。ディーネはベルゼに対し特に何も感じていない様子だが、ベルゼは違った。
第一印象も最悪だったらしいが、尚も俺を敬おうとしないディーネの態度が特に気に食わないらしい。
加えて言うなら、俺がディーネに本当の名前を伝えた事も不服な様だ。
スカビオサの館でのベルゼの態度を見て分かっていた事だが、この状況はよろしくない。何とかしなければとは思うが、これと言った解決策が思い浮かぶ物でもない。
どうしたもんか。
「名前の件で一言無かったのは謝るが、返品する訳にもいかねぇんだよ。此奴とは契約しちまったし」
「そうじゃ。妾は此奴を殺す契約を結んでおる。今更あの様な場所に戻れるものか」
「…… はてライ様。私の聞き間違いでしょうか?今この女がライ様を殺すと聞こえた様な気がしたのですが」
「いや、確かにハッキリ俺を殺すって言ったな。でもそれが此奴との契約なんだよ。此奴は俺の復讐を手伝う。で、俺の復讐とベルゼとの約束を果たし終わったら殺される契約だって…… って、おい何してる」
「ライ様を殺すなどと大それた事を言うこの愚か者に罰を与えようかと」
という具合で悩みながら言葉を交わしていると、ディーネの発言を聞いたベルゼの目から光が消えた。今のディーネの発言は、ベルゼの溜まりに溜まった鬱憤、怒りを爆発させる着火剤としてこれ以上ないと思えるくらい完璧で、最悪な発言だった。
ベルゼの手の白い手と目線が何かを探す様にユラリと動く。と、不意に白い手が俺の腰へと向けられる。ベルゼの白い手は、『真王の覇道の剣』の柄を握っていた。
このままでは考えるまでもなく血を見る羽目になる。流石にそれはマズいので、俺はベルゼの手を掴み『真王の覇道の剣』を抜かれない様に力を込めた。
「はぁ……おいベルゼ、お前が俺の事を思って怒ってくれるのは嬉しいんだが、お前のワガママを是とすると俺はお前との約束を叶える訳にはいかなくなるぞ」
「え、なっ何故ですか!?私の約束と彼女に何の関係があると言うのです!」
「直接的な関係はねぇが、問題はそこじゃねぇ。お前もディーネも、お互い心から叶えたい望みがあるって所だ。お前は死。ディーネは復讐。なのにお前はディーネの叶えたいモノを、俺に復讐したいって望みを否定するのか? お前はディーネの望みが叶う事を許さねぇのか? だが自分の望みは叶えてくれと? そんな不公平は認めねぇ」
「っ!くぅ……」
ベルゼがここまで苛ついている原因は明白だ。ディーネが俺を敬わないから。
しかしディーネも言った様に俺を敬う敬わないは彼女の自由。なのにベルゼはディーネに敬う事を強制し、あまつさえディーネの望みである俺への復讐を否定しようとした。
もし今ベルゼの要望に応えたら契約を結んだディーネに対して不公正だ。
ベルゼにも叶えたいモノがある。望みがある。死ぬという望みが。にも関わらず、他人の望みは否定する。
そんな不公平、俺は認めない。
俺は裏切り者達への復讐を望み、同時にベルゼの望みを叶えてやると約束した。そして俺自身の復讐の為に、ディーネの復讐に正面から向き合うと契約した。
ベルゼは自身の死を望み、望みを叶えて貰う代償として俺の力になると申し出てた。
ディーネは俺への復讐を望み、全ての復讐が終わるまで助力すると契約した。
俺達は一連托生であり、共犯者であり、其々の望みの為に力を貸し合う歪な繋がりに結ばれた同志だ。
その歪な繋がりの中心にいる俺が、片方の意思を優遇する訳にはいかない。
「分かりました…… 確かにライ様の仰る通りです…… 私も望みがあるのに彼女の望みを否定するのは不公平ですよね」
「ふぅ、理解してくれてありがとな」
俺の言葉を聞いたベルゼは俯きながらそう言うと、静かに『真王の覇道の剣』の柄から手を離す。
とりあえず流血は避けられた。安堵し静かに息を吐いて呼吸を整えた俺は、ジッとベルゼの瞳を見つめた。
「なぁベルゼ、俺は別に全ての復讐をやり遂げたら殺されても構わねぇんだ。だから全ての復讐が終わったら、俺もお前と一緒に逝ってやる。約束だ」
「ライ様……」
「それまではディーネの言動も大目に見てやってくれ。俺は彼奴の父と呼べる存在を殺してるんだから」
「……仕方ありませんね、わかりました。善処します」
「ん。良い子だ」
「む、おい汝よ!あの建物、汝の目当ての建物の様じゃぞ」
何処か明るくなった様子のベルゼの頭を撫でてやると、御者席に腰掛けたディーネが声を張り上げる。
ベルゼの頭から手を退かした俺は、立ち上がって荷台の隙間から前方を見た。
「 お、そうみたいだ。よし、側に停め……どぁあ!?」
「きゃぁあ!?」
「っの……馬っ鹿野郎!いきなり停まるんじゃねぇよ!」
「停めろと言われたから停めたまでじゃ。妾は先に行っておるぞ」
お目当ての建物を見つけ、ディーネに停止する様に命じる。次の瞬間、馬車はまるで見えない壁に激突した様な、もしくは馬車の後方を巨大な手で掴まれた様な挙動で、その場で急停止した。
突然の事に踏ん張りが利かなかった俺は、前方の壁に頭を強打する。痛みと衝撃でカチカチと目の奥で光が乱反射する中、事故のふた文字が頭をよぎったが、サッと御者席から降りるディーネを見てこの馬鹿野郎が馬車を急停止させたのだと理解した。
「うぅぅう!ライ様!私、やっぱり彼女嫌いです!」
「あぁ、俺も嫌いになりそうだ」
ベルゼは馬車の後方に座っていた筈だが、馬車が急停止した事で慣性の法則が働き、今は俺の隣ででんぐり返しした時の様な状態で呻き声を上げている。
先程ディーネの言動にイラつくベルゼへ機嫌を直せと言っていた俺だが、俺も若干イラついてきた。
今のは確実にワザとだ。
そう確信しながら壁に強打した頭を摩りつつ手綱を近くの綱木に留め、俺はディーネが入っていった【ゲオルグ武具工房】と小さな看板が掲げられた店のドアを開けた。
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「どうだい?中々の品揃えでしょうお嬢ちゃん!」
「おい誰がお嬢ちゃんじゃ。気安く話しかけるでない」
「あはは!ツンケンしちゃって可愛いじゃないの〜!で、ご主人様は何処に居るんだい?あ、お菓子食べる?」
「女……妾を怒らせたいのかえ?」
飾り気が無く、質実剛健を体現したかの様な外見のゲオルグ武具工房の店内に入ると、其処は男心を擽るモノで溢れかえっていた。多種多様な武器や鎧兜、装飾が施された小物が目を引く。遠目からだが、どれも細部にまでこだわって丁寧に造られているのがよく分かるった。この品々を造った職人はファブロには及ばないかも知れないが、職人としての腕は間違いなく一流だ。
こりゃ当たりだな。
そんな事を思いつつ、先程から喧しい存在へ目線を向ける。目線の先では、焦げ茶色の髪を頭のてっぺんで1つに結び、ヘアバンドを巻いた女が顔をほころばせながらディーネに絡んでいた。オリーブ色の長ズボンにブーツ、腹丸出しの丈の短いシャツを纏う女。彼女の服や顔は炭や染料と思しきモノで汚れているが、中々に美人だ。
口振りから判断するに、彼女はこの店の店員もしくは店主らしい。
性格は能天気と言うかハイテンションと言うか、だいぶお気楽な様で、絡まれている馬鹿野郎は彼女と馬が合わないらしくやや疲れた目をしている。
店内に入るまでは小言の1つでも言ってやろうと思っていたが、今回は勘弁してやるとしよう。
「あ、あの」
「っと、らっしゃい!このお嬢ちゃんのご主人様達?悪いね〜可愛い子だったからつい絡んじゃってさ〜」
ヘアバンドを巻く彼女はディーネにちょっかいを出す事に夢中で、俺達が入店した事に気付いていない。人見知りもするベルゼが恐る恐るといった様子で声を掛けると、彼女は眩しい笑みを浮かべた。
「いや、いい薬だ。それより買い物しても良いか?」
「勿論! あんた達は初めて見る顔だね。あたしゃミラってんだ。このゲオルグ武具工房の店主さ、よろしく!」
「あぁ。俺の事はハデスと呼んでくれ」
「ハデスぅ?変わった名前だね。ま、ウチを贔屓にしてくれるなら変わった名前の奴でも貴族でも奴隷でも大歓迎さ!」
ゲオルグ武具工房の店主を名乗ったミラが弾けんばかりの笑顔を向け、手を差し伸べてくる。細く小さな手。しかしミラの手は職人らしい皮膚の厚い手をしていた。その手がミラの職人としての力量を物語る。
彼女は所謂職人気質と呼ばれる性格とは真逆の掴み所がない性格の持ち主だが、紛れもなく一流の職人だ。
ミラと名乗った一流職人の手を握り返しながら、俺は目線を貴族の娘の様な服を纏うベルゼと奴隷然としたボロ切れ姿のディーネに向ける。
此処に来た目的はただ1つ。この街では場違いに見える程優美な服を着るベルゼと、ボロ着を纏うディーネに街に溶け込める衣服なり装備なりを買い与える為であった。
「そうか。ならミラ、よろしく序でにちょいっと此奴等にこの街に合う様な装備なり武器なりを適当に見繕ってくれ」
「べ、ベルゼと申します。よろしくお願い致します」
「……ディーネじゃ」
「ぷっ!っははは! なんだいなんだい!2人共外見と態度が真逆じゃないか!」
「ふぇ?そ、そうでしょうか?」
ミラは丁寧な言葉遣いで頭を下げるベルゼと、不遜な態度のディーネを見て笑い声を上げる。ミラが感じた2人の第一印象と、2人から出た言葉がイメージと真逆だったかららしい。
「貴族の娘っぽいのに奴隷みたいにオロオロした態度。奴隷っぽいのに貴族みたいな偉ぶった態度。面白いお嬢ちゃん達じゃないか!気に入ったよ! 」
「あ、あはは……恐縮です」
「やはり騒がしい奴じゃの」
「っは! やっぱ見た目の印象と喋った時の印象が真逆で面白いわ、このお嬢ちゃん達! で、ご注文は2人の装備と武器だったね?でもハデス、それだけじゃダメだね」
「ダメ?どう言う事だ」
「装備や武器ってのは洋服と一緒さ。着る奴扱う奴の好みも大切なんだよ!私が選んだんじゃ、私の好みの押し付けになっちまうって事。って訳でお嬢ちゃん達も一緒においで!お姉さんに好みの色とかを聞かせておくれよ!」
「え?きゃ!ちょっとミラさん!?」
「は、離さんか無礼者!」
「あはは!お嬢ちゃん達なら何着ても似合いそうだから楽しみだねぇ〜」
ミラはまるで台風の様だった。
ベルゼは兎も角として、ディーネまでミラに翻弄されている。正に水を得た魚といった様子のミラはベルゼとディーネの手を掴むと、口角を釣り上げながら店内を右へ左へと駆け回る。
俺は「あ〜、このローブも良いけどこっちのワンピースも似合いそうだねぇ。お嬢ちゃんはどっちが好みだい?」とか、「お嬢ちゃん達は武器とか使うのかい?」と、ベルゼとディーネに服や装備を重ね吟味したり、武器を使うのかどうか等、質問攻めするミラに全部任せて店内に置かれていた椅子に腰掛けた。
「……こりゃ時間がかかりそうだ」
ミラに振り回され、着せ替え人形の様に衣類や防具を取っ替え引っ替え着替えさせられているベルゼとディーネ。そんな2人の姿を見て、俺は静かに呟いた。
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「いや〜お待たせお待たせ〜。お嬢ちゃん達が何着ても可愛いモンだから中々決まらなくってね〜」
「いや、それは全然構わない。厳選出来たのか?」
ゲオルグ武具工房に来てから約1時間後、陳列されている品を見たりして時間を潰していると、漸くベルゼ達のコーディネートを終えたミラが一仕事終えた様な晴れやかな顔で俺の前に立った。
ちなみにベルゼ達は店内の試着室らしき場所に押し込まれている。その試着室には当然ながら布が張られており、中の様子を伺う事は出来ない。
初めはミラのコーディネートに興味があった俺だが、流石に1時間近くもその様子を眺めていられる程、俺は服に関心はない。
つまりミラが最終的にどんな衣服をベルゼ達に与えたのか俺は知らない。それでもベルゼ達がどの様に変身したのか楽しみな事に変わりはないから、俺はベルゼ達が押し込まれた試着室に目線を向けた。
「あぁバッチリね!そんじゃまずはベルゼちゃん、出てらっしゃいな!」
「は、はい!」
「おぉ」
「ど、どうでしょうか?似合ってますか?」
「あぁ似合ってるぞ」
シャッと試着室の布がズラされると、その向こうから緊張と期待からか微かに頬を染めたベルゼが現れた。
試着室に入る前は白と黒で彩られたドレスの様な服を纏い、赤いケープを羽織っていたベルゼ。
クズ3人衆の1人、リザベルにまるで良いとこお嬢様の様だと言われたその姿は、だいぶ様変わりしていた。
詳しく説明するなら、上半身は黒いブレザーに似た上着を羽織り、その下にはフリル付きの白いシャツと赤いコルセット。下半身は裾の長さが左右非対称の白と黒のスカートを履いていた。
このスカートには長く白い半透明なレースがあしらわれていて、高級感を醸し出している。
そして腿まである長い編み上げ式のブーツを履き、手には長さ40cm程の木の杖を持っている。腰には煌びやかな宝石が埋め込まれた長さ30cm程の短剣まで吊り下げていた。
この短剣は近接武器としては心許ないが、魔法が得意なベルゼが持っているという点を考えると、魔法の威力を高めたりする加護が付与されているのかも知れない。
兎も角、ベルゼは貴族令嬢から魔法使いに姿を変えた。先程まで着ていた服も似合っていたが、この服も本当に似合っていた。
「そ、そうですか! ふふっ良かったです。ミラさんもありがとうございました」
「いやいや、褒めてもらえて良かったねベルゼちゃん。それじゃ、お次はディーネちゃん!安心して出でおいで!」
「おい女、ちゃん付けは止めよと申したであろう」
「はは!努力するよ」
お世辞などではなく本心から出た言葉を言うと、ベルゼは心の底から嬉しそうにはにかんだ。この服はベルゼの趣味にも合っているらしく、その場でクルリと回ったり姿見に目線を向けたりして、様変わりした自身の姿に笑顔をこぼす。
外見相応な喜びを身振りで表すその姿を見れば、荒んだ俺でさえ目尻が下がる。愛くるしいと思う。
服を買う事にして良かった。
俺は心からそう思った。
そんな具合で口元を綻ばせた俺達を見てミラは気をよくしたのか、更に笑みを強めながらディーネにも試着室から出てくる様声高らかに言う。
「ほう、お前も似合ってるじゃねぇか」
「ふん。汝に褒められても嬉しゅうないわ」
ジト目で試着室から出てきたディーネの方はと言うと、普段着としても使えそうな軽装のベルゼとは真逆の戦人の装いだった。
目を引いたのは獅子を象った重厚な肩当。ベルゼの装いを魔法使いと呼ぶのなら、ディーネの装いは女戦士と言ったところか。
ディーネが纏う肩当付きの胸当や籠手、臑当に鉄靴はまるで黒真珠で作られたかと見紛う程に真っ黒だった。鎧は鏡の様にピカピカに磨き上げられ、鈍い光沢を放っている。
所々に施された赤い縁取りもいいアクセントになっていて、下半身から覗く裾の長いチェーンメイルが、動く度にジャラリと重々しい音色を奏でている。
これ等防具の下には髪色に合わせたのだろう赤いハーフパンツと白い長袖を着ているが、フリルやレースと言った余計な装飾は皆無。それが逆に飾り気を感じないディーネの凛とした雰囲気に合っていた。
戦人の装備に身を包んだディーネは、その物言いも相まってとても頼もしく見える。魔王の娘に相応しい装備だ。
生意気な態度はこの際気にしない事にする。
「いや〜 こんな可愛い子達が私の加工した武器や防具を着てくれるなんて職人冥利に尽きるねぇ」
「五月蝿い。ふむ、じゃが武具の質だけは褒めてやろう」
「でっけぇ斧だな。お前に使いこなせるのか?」
ミラに対しても取り付く島さえ与えないディーネであったが、武具の質自体は認めているらしい。ディーネは、試着室の中に立て掛けていたらしい巨大な戦斧を持ち出した。
刃の幅は広く反りが深い。コレを振り回すと遠心力で体まで振り回されそうだが、少しでも扱い易くなる様に工夫もされていて柄が長くなっている。
刃には赤い宝石が埋め込まれ、此処にも獅子を象ったと思しき彫刻まで彫られていた。そしてこの戦斧の大きさはディーネの身長に比肩する程だった。
ミラが言っていた言葉を借りるなら、装備や武器は洋服と一緒で着る者、扱う者の好みも大切にしなければならないらしい。
という事は、この戦斧はディーネが好みで選んだ物なのだろう。
しかしこの大きさ……小柄なディーネに使いこなせるとはとても思えない。
「はっ、愚問じゃ。己が命を預ける武器を扱えぬ訳がなかろう」
「……その様で」
だがディーネが言った様に俺の質問は愚問だった。俺の問いに鼻で笑いながら、まるで小枝を扱う様に巨大な戦斧を軽々と指先で一回転させ、ヒョイっと肩に担ぐ姿を見せ付けられるとそれ以上の言葉は出てこない。
まるで重さを感じさせない所作。これが腕力等を抑え込む『隷属の首輪』を外されたディーネ本来の力なのか。何にせよ、この様子なら何も言うまい。
「……戦闘では頼りになりそうですね」
「ふん、主も様になっておるではないか。戦闘の際はお得意の魔法で妾を援護するが良い」
「なら一足先に私の魔法を味わってみますか?」
「ほう?ではお返しに妾の力も披露してやろうかの」
「待て待て待てアホか!」
小馬鹿にした様な目線を俺にぶつけるディーネ。その姿を見たベルゼがまたディーネに噛み付き、宝石が埋め込まれた鞘から短剣を抜いて、コバルトブルーの刀身と杖をディーネに向けた。ディーネも売り言葉に買い言葉で分厚い刃の戦斧を構えて臨戦態勢を取る。
また流血沙汰一歩手前な状況。流石に今回は度が過ぎているので俺は教育的指導で馬鹿2人に喧嘩両成敗&鉄拳制裁と言う名のゲンコツを与えた。
「きゃん!?」
「ぬぁ!?」
「おいお前等…… もしまた互いに武器を向けあってみろ。次はもっとキツい制裁をお見舞いするからな」
「あぅ…… はい……」
「チッ」
「あっはっは! 元気が有り余ってるのは結構だけど店内で切り合ったり魔法をぶっ放すのは勘弁しておくれよ!」
「よく言い聞かせておく。それじゃコレも一緒に会計を頼む」
「ほほぅ、コレに目を付けるたぁお目が高いねぇ。でも良いのかい?コイツぁ魔法の心得がないと扱い難い代物だよ?」
「大丈夫だ。問題ねぇ」
「はいよ!お買い上げありがとね〜!」
この2人に武器まで与えたのは早計だったか?
僅かながら後悔の念を感じつつ、俺はミラに諸々込みで大量の金貨を支払った。
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「さて、これで粗方準備は終わったな。あとは…… なぁミラ、イルザールのギルド支部は何処にあるか知ってるか?」
「あぁ、やっぱりハデス達はギルドに加入しに来たんだね。ギルド支部はほれ、あそこの建物がそうだよ。元々はイルザールの君主様が住んでたらしいけど、今は改築されてイルザールのギルド支部が使ってるのさ」
会計を終え、新しい装備に着替えたディーネを馬車に向かわせた俺は、序でに購入した道具が入った袋をベルゼに持たせつつ、ミラにイルザール自由職業別組合支部の場所を聞いた。
ミラは指先を前方に向ける。ミラの指差した方角には、巨大な自由職業別組合の旗をはためかせる煉瓦造りの建物が静かに佇んでいた。
彼処には以前イルザール公国の君主が住む巨大な宮殿が有ったが、魔王軍との戦争初期には既に半壊していた。それを自由職業別組合が建て直し再利用している様だ。
「彼処がギルド支部か。助かった」
「良いって良いって! また遊びにきておくれよ!お嬢ちゃん達ならお喋りだけでも大歓迎さ!」
「あ、ありがとうございます。では、本日は失礼しますね」
「またねベルゼちゃん。ディーネちゃんにもよろしく言っといてくれよ!」
終始自分のペースでベルゼ達を翻弄したミラに別れを告げ、俺達はディーネの待つ馬車に乗り込んだ。
後は自由職業別組合に加入すれば準備は終わる。頼りになる共犯者達と共に戦う準備が。
また懐かしき血みどろの毎日を過ごす事となるだろう。血塗れの未来を掲示するかの様に、空は赤く染まりだしていた。




