20話 因果応報
僕は弱い人間です。すぐに目に見える成果を求めます。
褒めてもらったりしないとモチベーションを保てません。
僕は弱い人間です。
弱い人間なのでブクマとかして貰えないと筆が進みません。なのでブクマや評価をお願いします。
「……寝たか」
「あぁ」
「中々警戒心が強かったわね。やっと眠り薬と痺れ薬入りの特製ワインを飲ませる事が出来たわ」
「上手くいって良かったぜ。初めて此奴等を見た時に思ったが、良い売り物になりそうだからな。前使った酒が残ってて幸だった」
「ふふ、こんな上等な獲物、見逃せないものね」
「ぎゃはは!悪党だな2人共」
「アルにだけは言われたくないわ」
「同感だ」
パチパチと焚き木が燃える小気味いい音が鳴り、小さな火の粉が宙に舞う。空は星さえ見えない曇天。今にも雨が降り出しそうな空模様である。
そんな空と闇が一体化した様な空間に舞う赤い火の粉に照らし出され、ガンダス、アル、リザベルは目に鋭い光を宿す。
その瞳はまるで狡猾な狐の如く、怪しく歪んでいた。
「まぁ何にせよ、これで此奴等も良い勉強になったろ。見ず知らずの奴から貰った物は口にしちゃいけません。ってな!」
「教訓になったかも知れないけど、その教訓は2度と活きないでしょうね」
「おう。余程運が良くなきゃ2度と自由にゃなれねぇだろうさ。それにしても良いタイミングだったな。このままイルザールに行けばスクラフの野郎が居るし」
「スクラフならいい値段で買い取ってくれるものね」
「ふっ、皆これくらい間抜けだったら俺達も楽出来るんだがな」
「確かに!にしても、此奴等も可哀想になぁ〜。明日にゃ奴隷として売られちまうんだからよ!」
下劣な目線と陰険な言葉が地面に倒れる2つの人影に向けられた。2つの人影の手元には木製のグラスが転がり、そこから零れた琥珀色の酒が、まるで血の様に広がって地面に染み込む。
彼等の視線を受ける2つの人影は、ピクトリも動かなかった。
「そんな事より見てみなさいよ、この剣に防具!これは間違いなく上級……いえ業物……もしかしたら神話級かも知れないわ」
「俺達も『鑑定眼』が使えれば良いんだがな」
「無い物ねだりしても仕方ねぇべ? んじゃ金目の物の物色はいつも通りリザベルに任せて、俺等は味見しようぜ! どうせ嬢ちゃんは変態貴族の慰み者になるんだ。こんな上玉、何もしねぇで売っ払うには惜し過ぎるぜ」
「へへっ、だな」
「あんた達も好きだねぇ。やるならちゃっちゃとやりなさいよ」
「任せたぜリザベル〜! っはは! やっぱこの仕事はやめられねぇわ!」
闇夜に男の下卑た笑い声が響く。
火の中に浮かび上がる彼等の顔は、弱者から全てを奪い、尊厳すらも踏み躙る下衆そのものだった。
だが彼等は1つ間違いを犯した。
地面に横たわる男が弱者ではなかった事を、過去に味わった苦痛から得た教訓を噛み締め生きている事を、彼等は知らなかった。
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「ガンダス!この前はお前が先にやったから今回は俺からやらせて貰うぜ?」
「チッ、仕方ねぇな。こんな事なら前の女は譲ってやれば良かったぜ」
「ちょっと、やるのは別に構わないけど、やるならせめて向こうでやってくれない?」
やはり警戒しておいて良かった。数分前まで言葉を交わしていた男達の会話を聞き、心の中でそう思った。
1度目の人生でこっ酷い裏切りに遭っている俺は、この3人組を信用するなんて愚かな真似はしなかった。
だから毒物入りワインという見え見えの罠に引っかからずに済んだ。
信じるという行為の愚かさを経験をしている俺は、知り合って1日も経っていない者から受け取った物を口に含むなんて無用心で愚かで馬鹿はしなかった。……例え数年来の付き合いがある奴から受け取った物だったとしても口に入れる様な事はしないけど。
「やっぱりお前等も救いようのないクズだったな」
ともあれ俺は寝たフリをしながら、彼等に気付かれぬ様『恒久の革袋』からある物を取り出し、今まさにベルゼの手を掴もうとしているガンダスとアル、そして彼等に目線を向けるリザベルへと目掛け投げつける。
「きゃっ!」
「なっ!?」
「なんだコレ!」
ジャラリと音を奏でる物体が3人のクズ共目掛け宙を舞う。その物体は見事3人の体に絡み付き、動きを封じた。
俺が『恒久の皮袋』から取り出し、クズ共に投げつけた物は、端に重りがある付けられた鎖。
それもただの鎖ではない。
この鎖はファブロの血を飲んだ事で使える様になった魔法『錬金術』を使い土を鉄に変え、その鉄を『錬成術』で発光鉱石と混合させて『創造手』で鎖の形に整え、『加護付与術』で『自由操作』の加護を付けた特注品。
『錬金術』は対象とした物の材質や性質を別の物質に変化させ、『錬成術』は複数の素材を組み合わせ新たな素材を生み出す。
そして『創造手』は物質を自身が望む通りの形に作り変え、『加護付与術』は対象とした物に任意で加護を付けられる。
其々『保有魔力』を『19500』『7500』『10000』『20000』も使うこれ等の魔法を利用し、俺は万全の準備を整えた。つまり、この鎖はガンダス達が変な行動をした際、直ぐに無力化する為のモノ。
俺はガンダス達があの河原で休憩をしていた際、ベルゼにある事を耳打ちしてこの鎖を作っておいた。
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「『宿れ害から身を守る術よ 宿れ害を打ち払う力よ 宿れ森羅万象全てを司りし加護よ かの物を依代とし我を守護せん加護付与術』……よし、加護は無事に付与出来てるな。準備終了」
「今のがファブロさんの血を飲んで使える様になった魔法……鍛治職人にとってはこれ以上ない程に便利な魔法ですね。所でライ様、その鎖はあの3人に使用するおつもりですか?」
「そうだ。最悪の事態を想定してな。まず、『錬金術』を使ってそこらの土を鉄に変える。こうすれば単純に強度が増す。次に『錬成術』で鉄とベルゼの発光鉱石を混成させる。こうする事で、鉄と発光鉱石は一体になって鉄は魔力を帯びる」
「そして『創造手』で鎖の形に整え、『加護付与術』で加護を施す……『加護付与術』を使用するには対象のモノに魔力が含まれている事が絶対条件なんですよね」
「あぁ、だからベルゼの発光鉱石を貰ったんだ。何にせよ、これでどんな事態になっても対応出来るだろ。良いなベルゼ、彼奴等は絶対に信用するんじゃねぇぞ」
「はい、重々承知しておりますよライ様」
呑気に小川で喉を潤し顔を洗うアルやガンダス、リザベルの3人組を視界の片隅に収めながら、こっそり造った特製の鎖を『恒久の皮袋』に収納してベルゼの耳元で囁く。
『復讐ノ誓イ』を通し、簡単に人を信じるとどうなるかを追体験したベルゼも、俺と同じ考えに終着したらしい。
この旅路を共に歩むにあたり、またこれまでの実体験から得た教訓だが、このクソったれな世界では警戒心というモノは過剰なくらいで丁度いい。
それは以下にも面倒見が良さそうな兄貴肌の男や、ノリがよくムードメーカー的な男、場のまとめ役にもなる女が相手でも変わらない。変えてはいけない。
そうしなければ、この残酷で理不尽で不条理でクソったれな世界で生き抜く事は出来ないから。
だから俺はより思考回路が似てきた理解者の存在に僅かだが頼もしさを感じつつ、会話を続ける。
「念の為に言っておくが、彼奴等から食べ物や飲み物を渡されても絶対に口に入れるなよ。何が入ってるか分かったもんじゃねぇ」
「勿論です。眠り薬等が入れられていたら笑えませんからね」
「その通りだ。この旅路じゃ全てを疑うくらいの気持ちでいろ。特に見ず知らずの奴から渡された物には特にな」
「ですがもし食べ物や飲み物を渡された場合は如何するべきでしょう?対応策はあるのですか?」
「あぁ。そういう場合は取り敢えず受け取って、食べるフリ、飲むフリをしろ。間違っても体内に入れるなよ。で、俺が美味いって言ったら俺と同じ行動をしろ。分かったな?」
「はい!」
人は人の内面まで知る事は出来ない。
もしかしたら、ガンダス達は本当に親切心から俺達に同行を提案したのかも知れない。
しかし俺はハナから彼等にそんなモノは期待していなかった。
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「お〜、バッチリ拘束出来たな。上々上々」
「て、テメェ!なんで動けんだよ!」
「あ?そりゃお前等を警戒して一芝居打ったからに決まってんだろ? 誰があんな妖しい酒なんて飲むかよ。実際酒を飲んだ時僅かだが酒の味とは違う独特な苦味を感じたからな。この苦味は痺れ薬特有の特徴だ」
「この野郎……!」
「案の定、あの酒には眠り薬と痺れ薬が入ってたみてぇだな。あっさり狙いを暴露したのは失敗だったな間抜け共」
月明かりすら届かない深い雲に覆われた空の下、本性を現したクズ3人を捕縛するという文句なしの成果に目を細めていると、拘束され、地べたに倒れ込んだガンダスが声を荒げた。
この鎖は『加護付与術』の効果によって、ある程度の遠隔操作や使用者である俺の意思で、鎖を圧縮させ締め付けたり出来るようになる加護『自由操作』が付与されている。
この加護は複数のクズ共をどうにかして同時に無力化出来る方法はないか?と考え、俺が生み出したオリジナルの加護だ。
以前ファブロが造ったばかりの武器に『加護付与術』を使用している場面を見た事があるのだが、ファブロはその時、「この魔法は『こんな効果を持つ加護が欲しい』と脳内で考えると、脳内で考えた効果に即した加護を対象のモノに付与出来る。考え次第では、余程荒唐無稽なモノでなければ世に1つとない加護も生み出せる」と言っていた。
ザックリとした説明だったが、俺はその言葉を思い出し、試しに『加護付与術』を発動させ、脳内で『俺の意思通りに動く加護が欲しい』と念じる。
すると、鎖達が一瞬だけ淡い光に包まれ、光が消えると鎖には『自由操作』と名が付く加護が付与されていた。
ファブロがアスラゴート討伐用の武器を造る役に選ばれたのは、非凡な鍛治職人としての才もさる事ながら、『加護付与術』や『創造手』と言った便利な魔法を使えたのも理由の1つかも知れない。今となってはどうでも良い事だが。
ちなみに加護の付与には、対象の物体に僅かでも良いから魔力が含まれている事が最低条件らしい。俺は全く知らなかったが、対象とした物体に含まれる魔力の濃度と質で、付与出来る加護の種類や量、質が決まると、『加護付与術』の詳細画面に書かれていたのだ。
俺は『錬金術』で手近にあった土を鉄に変えはしたが、その時点で鉄に魔力はカケラも含まれておらず、このままでは『意思通りに動く加護』は付与出来ない。
そこで上記の説明文を確認した俺は、ベルゼの命の源であり冥府から持って来た発光鉱石を少し分けて貰い、この鎖の元となった鉄に『錬成術』を使い混成させた。
発光鉱石はそれ自体が魔力の塊。魔力の結晶。つまり発光鉱石とは魔力そのものなのだ。取り分け冥府産の発光鉱石が持つ魔力は、俺が見た事がある発光鉱石の中でもトップクラスの質を誇っていた。
その良質な発光鉱石と混ざり合った鉄の鎖は、問題なく『意思通りに動く加護』を得て、今は俺の意思通りにクズ共が身動き出来ない様に、キツく締め付けている。
保険に加護を付与させておいて良かった。
「グッ!て、テメェ騙しやがったな!クソっ!」
騙す相手に逆に騙され、無様な姿を晒す3人。
その中の1人、アルが体を捩らせ、ジャラリと鎖を鳴らして血走った目を此方に向ける。
俺はその見当違いの言葉に苛立ちを覚えた。
「騙したのはどっちだ。生憎と俺等は人を簡単に信用するとどうなるか痛いくらい経験してるからな。お前等の事なんか始めっからこれっぽっちも信用してなかったんだよ!」
「ぐぅぅゔ!」
「がぁぁあ!?」
「痛い痛い痛いぃい!」
「どうだ『意思宿る鎖』のお味は」
試しに『意思宿る鎖』と名付けた鎖へ、苛立ちを発散させる為クズ共を更に締め付ける様念じる。すると、俺の意思を感じ取った鎖は音を鳴らしクズ共の更に体を締め上げた。
ミシミシと骨や肉が軋む音と3つの絶叫が闇に響き渡る。
その絶叫はまるで腹の奥底から湧き上がる地鳴り。獣の雄叫び。
そう獣だ。此奴等は人の皮を被った獣。
人を不幸にし、その不幸を食い物にする獣。俺を裏切り、見殺しにした奴等と同類だ。
此奴等の言動から察するに、此奴等は本当は自由職業別組合組合員などではなく、道行く人を巧みに騙し、攫い、売り払う奴隷商人の可能性もある。
しかもこれが初めての犯行ではないらしい。
此奴等は演技派だ。此奴等の第一印象からは、人を騙す様な外道の雰囲気は感じなかった。
まぁ感じさせたらマズい訳だが、それでも余程警戒心が高くなければ此奴等の演技は見抜けないだろう。
片田舎から自由職業別組合に加入しようと出てきた純朴で世間知らずで、人を疑う事を知らない様な間抜けならコロッと騙されたかも知れないが、相手が悪かったな。
「で? テメェ等。俺の理解者に手ぇ掛けようとしたんだ。覚悟は出来てんだろうな」
「ぐあ!」
「っぐぅ!」
「無事かベルゼ」
「は、はぃ」
それはそうと、俺はベルゼの近くで転がり悶え苦しむガンダスとアルを軽く蹴り飛ばし、ベルゼに手を差し伸べた。
ベルゼは酷く怯えていた。あのまま本当に眠りこけていたら…… ベルゼはその事を考えたのだろう。
ベルゼも俺と同じ様に毒物入りのワインを飲むフリをして、寝たフリをしていた。
もし食べ物ないし飲み物を渡されたら、それには何らかの毒物が入っている可能性が高いからだと、事前に釘を刺していたから。
ベルゼも毒物入りのワインは飲んでおらず、寝たフリをしていた。
意識がはっきりしている中、男2人に味見されそうになったのだ。怯えるのも当然。そして、所有物であり共犯者であり理解者でもあるベルゼを穢されそうになった俺は、久方ぶりにキレた。
「テメェ等の用意周到さと言葉から判断するに、テメェ等はこれまでも俺達みてぇな奴等を食い物にしてたらしいな。なら今度は俺がテメェ等を食い物にしてやるよ」
ピキィーン
「「「っ!」」」
「これは……ハデス様!」
そう呟いた直後、甲高い音が脳裏に木霊した。
ピキィーン
ピキィーン
しかも反応は1つではない。複数だ。甲高い音が複数回、連続で脳内に響き渡る。
この音は警戒護符を設置時、その円内部に居た者へ外部から何かが侵入した事を告げる警戒音。
警戒音が複数聞こえたという事は、円を描く様に設置した警戒護符の直径100m圏内に、俺達以外の生命体が複数体侵入した事を意味する。
俺はこの複数の生命体に手助けを求める事にした。
「丁度いい。こんな外道共に余計な体力使いたくねぇし、此奴等に手伝ってもらうか」
「な、何しやがる!」
「離せクソッタレが!」
「ちょ! 冗談でしょ!?魔王軍の残党かも知れないよの!?」
「うっせぇ黙ってろ。ベルゼ、いつでも防御系の魔法を展開出来る様にしておけ」
「かしこまりました」
鎖の端を持ちガンダス達を引きずりながら尚も脳内で響く音の方向へ向け歩きだす。
すると、20歩も歩かない内に幾つもの唸り声が聞こえた。
「ギュルル……」
「ググゥウ……」
ガサガサと林を掻き分け俺達の前に姿を現したのは、体長1・5m程の人の形をした醜い魔獣の群れ。
「おっ、久しぶりに見たなぁ」
「ひっ!」
その魔獣の群れを見たリザベルが小さな悲鳴を漏らす。
薄緑色の体色に尖った大きな耳。髪等の体毛は無くギョロリと蠢く大きなオレンジの瞳。猫の様に細い瞳孔。まるでクワシオルコルになった子供の様に細い手足とでっぷりと膨らんだ腹。手には其々木の棍棒や骨製、石製のナイフを持ち、腰には獣の皮で作ったと思しき腰布を巻いている。
この醜悪な者達は、アスラゴートが率いる魔王軍で雑兵的立ち位置に居た魔獣。
この世界に来る前の俺でも小説等で度々目にした事のある魔獣。
「ご、ゴブリン!ゴブリンだ!」
俺達の前に姿を現したのは、ゴブリンと呼ばれる醜悪な生物だった。
戦闘能力・知性は然程高くないが、常に10〜20匹の集団で行動し肉を主食とする人型の禍々しい魔獣。
俺からしたら雑魚でしかない此奴の最大の特徴は、体の構造が似ている生物の雌なら種族を問わず孕ませる事が出来るという異常な繁殖能力だろう。
ゴブリンは俺がこの世界に来てから最も倒した魔獣でもある。幼体も含めれば確実に万は殺している。俺は数え切れないゴブリンと戦いまくり、その習性を間近で見てきたお陰で、ゴブリンの生態等を完璧に把握していた。
恐らくこのゴブリン達はかつて魔王軍の傘下に居たと思われるが、この地で野生化したのだろう。
「「「「グギュア!」」」」
「「「「ギュグルル!」」」
総数13匹からなるこの魔物達は、手にした武器を構えて臨戦態勢を取った。だがそれだけ。ゴブリン達は此方を睨むだけでその場に留まっている。襲って来ないのは、本能で俺に勝てないのを察しているからだ。
ゴブリンは弱い。多少戦闘の心得があれば(1対1で正面から対峙し、かつ質の良い武具を装備しているという条件つきだが)まず遅れをとる事はない。
弱い故にゴブリンは危機感知能力に長けており、無謀な戦いはしない。この醜悪な魔獣は、基本的に奇襲や不意打ち、物量ゴリ押しの戦法といった、確実に勝てる戦い・戦法しか取らないのも過去の経験から学んでいる。
この状況はゴブリン共からしたら予想外の事態だろう。確実に俺に勝てる見込みがないから、ゴブリン達は臨戦態勢こそ取ったものの襲ってこないのだ。
「な、なぁアンちゃん。冗談だよな?」
「生憎、冗談は得意じゃないんでな。今まで散々いい思いしてきたんだろ?おら、いい加減腹くくれや」
「ふ、巫山戯んな!離せ!クソッどうなってんだこの鎖!引き剥がせてねぇ!!」
「うっせぇなぁ……ん? ベルゼ、どうした」
「……いえ、ハデス様以外にあの様な行為を迫られ大変不快だったのですが、ゴブリンに助力して貰えれば私の望む以上の事をしてくれるだろうなと考えてました」
だがこの状況。ゴブリン共以上に、ガンダス達が狼狽えた。
ガンダスはこの後の展開を察し、すがる様な目で俺を見上げているが、助ける気なんてサラサラ無い俺は心の底から笑みを向ける。と、俺はベルゼが嫌悪感を込めた目線をガンダス・アル両名とゴブリン達へ向けている事に気付いた。
ベルゼが珍しく恨みの篭った目線と言葉を悪党に向ける。その呟きを聞いた2人の悪党の動きがピタッと止まった。
「……だな。よし、ベルゼに怖い思いをさせた詫びだ。一投目はベルゼに任せる」
「ありがとうございます、このクズ達はゴブリンの餌となって貰いましょう」
「へっ、そう来なくちゃな。おーいゴブリン共、此奴等くれてやっから、間違っても俺達を襲おうなんて馬鹿な事考えんなよ〜」
ベルゼはとても良い笑顔を見せた。
やはりベルゼの思考は俺に寄ってきている。
ただ殺すのではなく、殺す以上の苦痛と恐怖を与える。
ゴブリンの群れを前にした事で、ベルゼは俺と全く同じ考えを口に出した。
俺と会うまでのベルゼは人から隔離された場所で生活していた為、天界で身に付けていた教養しか持ち合わせていなかった。その教養は扱く一般的で常識的で、有り体に言えばベルゼは真人間だった。
それはそれで良い。一般的・常識的な言動は使えるし、サポートにも欠かせない。
そこに俺の思考を読み取る感受性も加われば言う事無しだ。
ガンダスが俺とベルゼの間柄を聞き言った理解者という言葉。ベルゼは真の意味で俺のより良き理解者となりつつあった。
「あ……あぁぁあ!!待ってくれ!嫌だ!それだけは!それだけは許してくれ!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!わ、私は最初は反対したのよ? でもアル達が無理矢理!」
「っざけんな! テメェだってこれまで散々金目の物ちょろまかしてきたじゃねえか!」
「うっさい黙ってて! ねぇお願い許して!許してくれたら何でもしてあげるから!」
「あ、アンちゃんすまなかった!心の底からすまなかった!だから慈悲を! これまで儲けた金は全部譲ってやるから!」
「お、おう!俺も悪かった!もう2度と人攫いなんてしねぇよ、約束する!神に誓う! ベルゼ嬢にしようとした事も魔が差しただけなんだよ!奪った宝石とか何でも渡すから助けてくれよぉお!」
俺は8m程先で此方を警戒しているゴブリン達に声を掛ける。まぁゴブリン達は人語を理解出来ないので意味はないが、人語を解するガンダス達はその顔を真っ青に染め上げ、自由の効かない体を動かし許しをこう。
醜い……
俺はそう感じた。
この3人はこれまでの自らの行いを棚上げにし、自らが助かる事しか頭にないらしい。
「お前等はそうやって助けを請う奴を1回でも見逃してやった事があるのか?信じた奴に裏切られた時の苦しみを知ってるのか?裏切られた奴の気持ちを考えた事があるのか?ねぇだろ?だから許さねぇ」
「嫌嫌嫌っ!こんなのあんまりよ!こんなに頼んでるんだから助けてよぉお!」
仮にこの場で彼等を見逃しても、悪事の味を占めた彼等はまた人を騙すだろう。人の不幸を食い物にするだろう。
そんな胸糞悪い未来が分かりきっているのに彼等を見逃す事なんて出来ない。この俺が、そんな事をする訳がない。
「ベルゼ。やれ」
「はい。『流れる血潮に熱を 脈動する肉体に覇気を 滾れ 身体強化!』」
「ふ、巫山戯んな! おい止めろ! 離せ!離せ離せ離せぇぇえ!!」
「私の体は、心はハデス様のモノ。ハデス様だけのモノ。私を穢そうとした報いを受けなさい。そして貴方達を信じ、裏切られた人達の無念を晴らします。貴方達の様なクズは死んだ方が世の為です。えぇい!」
クズ共め。
ベルゼの言葉を聞き、改めてそう思いながら俺はまず鎖で絡め取られているアルをゴブリン達の目の前に放り投げる様ベルゼに目配せした。
目配せを受けたベルゼは『身体強化』を使い腕力を高め、至極真っ当な言葉と場に似つかわしくない可愛らしい声を上げながらアルを放り投げる。
「ぐぁっ!」
「「「「ゴロォオボ!」」」」
「ひっ!く、来るな!こっち来るなぁあ!ギュッ!グビッ!ゴブッ!」
アルはゴブリン達の1m程手前に転がった。そのアルを6匹のゴブリンが取り囲むと、嬉々として首筋や内腿に骨か石で作ったと思しきナイフをねじ込み切り刻んでいく。
ゴブリンが持つナイフは切れ味が悪そうだと思ってはいたが、予想以上に切れ味が悪い。その光景は切り刻むではなく抉ぐると言った方が適切かも知れない。生きた状態で切れ味の悪い刃物で抉ぐり殺される……
はは、こんな死に方だけはしたくねぇなぁ。
「う、嘘だ……こんなの嘘だろ…… ぐぶぇ」
グチュ!グチュ、グッチャ! ミチィ。
アルの絶叫と肉を貫く音、抉られる音が耳に心地よい。ゴブリン達は俺に手を出さない限りは安全だと悟ったらしく、脇目も振らず目の前に飛び込んできたご馳走を切り刻んでゆく。
アルはあっさり死んだ。
死ぬ瞬間まで現実を受け入れる事が出来ず、譫言の様に嘘だと漏らしながら、血反吐を吐いて死んだ。
首を胸を腹を足を手を貫かれ、抉られ、切り刻まれて死んだ。
アルの息が止まったのを確かめたゴブリンが2匹、アルの体を縛る鎖を解くと、邪魔な鎖や衣服、防具をひん剥いて解体を始める。
ザマァ見ロ。
6つのパーツに分解され、大切そうにゴブリンに抱き抱えられたアルの頭を見て、俺は心からそう思った。
「さて、お次はっと……」
「は、ハデス様お願いします許してください!ハデス様には2度と逆らいません!ハデス様の奴隷になります!靴も舐めます!だからゴブリンにだけは…… ゴブリンにだけはぁぁあ!」
「テメェみてぇな性悪なんぞ、金を貰っても側に置きたくねぇ。安心しろよ、彼奴等は雌を殺さねぇらしいから。じゃ、ゴブリンとよろしくやってくれ」
「い、いやぁぁぁぁあ!!!」
次は俺がリザベルを放り投げた。
リザベルは整った顔面を歪め、涙を流し鬼気迫る表情で命乞いをしてきたが、助けるつもりはない。
種族こそ違えど、此奴は同じ女であるベルゼが陵辱されそうになっているのを平然と放置したのだ。慈悲を掛ける価値もない。
「あ…… あぁぁぁ……」
「「「スンスン」」」
「ギァゴビァ!」
「「「「ギャゴギャゴ!」」」」
「ひ…… ひぃぃぃぃい!!」
リザベルもアルと同じ様にゴブリン達の目の前に転がった。鎖に絡め取られたリザベルに3匹のゴブリンが近寄ると、スンスンと醜い鼻を揺らして臭いを嗅ぐ。
その中の1匹が叫んだ。
すると、この場にいるゴブリンの目線が全てリザベルに向けられる。彼等は笑った。ハッキリと笑っていた。思いっきり口角を釣り上げ、手にした武具を其処彼処に叩きつけてリザベルを歓迎していた。
「「「ギャゴガ!」」」
「嫌!嫌嫌嫌ぁぁあ!助けてガンダス!ガンダスぅぅう!!」
3匹のゴブリンが恐怖の余り失禁したリザベルに群がり抱え上げると、其奴等は此方に背を向けて足早に歩き出す。リザベルはジタバタと暴れているが、俺特製の鎖に縛られている所為で抵抗らしい抵抗になっていない。
「嫌ぁぁぁぁぁあ!!」
僅か10秒も経たずリザベルは闇の中へと消え去った。そして更に数秒後、闇の向こうから断末魔の様な、絹を裂く様な彼女の悲鳴が聞こえた。
今この瞬間、リザベルという女は人としての生涯に終止符を打たれた。後は衰弱死するまでゴブリンの子を孕み産み続けるだけの苗床となるだろう。
この場でアルの様に死ねなかった事はある意味で不幸なのかもしれない。良心の呵責は全く感じないのだが。
「うん、やっぱり苗床コースだなぁありゃ」
「て、テメェ何で笑ってられるんだよ!こ、こんなのまともな人間がする事じゃねぇぞ!」
「あ? 俺はテメェ等と似た事をしてるだけだぜ? テメェは哀れな人間を食い物にしてクソみてぇな奴等に売った。俺はクソみてぇな人間をゴブリンに分けてやった。ほら、何処がテメェ等と違う?あ、男は即惨殺されて彼奴等の飯になるって点では違うかもなぁ。何てったって、人間は人間を食わねぇもんなぁ?」
「あ、悪魔…… お前は悪魔だ…… こんな事……あ、あぁぁぁ……」
「おいおい大の男が漏らすなよ。みっともねぇ」
俺達を騙し、売ろうとした悪党共。ベルゼを穢そうとし、金目の物を奪おうとしたクズ共がゴブリン達の手で相応しい結末を迎える。
その光景に笑みを浮かべていると、涙や鼻水、ヨダレをドン引きするくらい垂れ流したガンダスが失禁した。
目の前で仲間がミンチにされ、悲鳴を上げながら連れ去られる光景を見れば仕方ないのかも知れないが、身から出た錆なのだから狼狽えないで貰いたい。
「とりあえず、クズはクズらしく死ねよ。心配すんな。あの馬車や積荷は俺が有効活用してやるからさ」
「う、嘘だ…… そうだ、これは夢だ。だってそうじゃなきゃあり得ねぇ…… きっと酔っ払って変な夢見てんだ。そうじゃなきゃこんな悪趣味な夢……」
「あ、恐怖で壊れちまったか?」
鼻水と涙と涎を垂れ流すガンダスが譫言の様に言葉を漏らし続ける。
目の焦点は合っておらず、まるで魂が抜けた様にも見える。
こうなったらわざわざゴブリン共の前に投げる必要もない。
「チッ面白くねぇ。ベルゼ、イルザールに向かうぞ」
「かしこまりました」
チャリーン。
「ん?」
ガンダスに背を向けこの場から立ち去ろうとした瞬間、背後から硬貨を落とした様な甲高い音が聞こえた。
振り返ると、ガンダスの足元に手の平サイズの楕円形のプレートが転がっているのが見えた。
「コイツは…… 成る程。全部が全部でまかせって訳じゃなかったんだな」
俺はそれを拾い上げると、プレートをズボンのポケットに押し込み馬車の方に向かい歩き出す。
これは後々役に立つかも知れない。
そんな事を考えながら馬車の御者席に座ると、手綱を引いて馬を走らせる。
暫くしてガンダスの悲鳴の様なモノが聞こえたが、俺は気にせず馬車を走らせ続けた。




