19話 次の目的地 2
約1ヶ月ぶりの更新です。皆様如何お過ごしでしょうか。
僕は自分探しの旅に出ると言って飛び出した19話君を捜索してました。
あ、それと勤め先が倒産しました。
「いや〜、待たせちまったな。其方の準備はいいか?」
「……あぁ、問題ない」
「い、イルザールまでお世話になります」
自由職業別組合の3人組、人懐っこい兄貴分なガンダスとノリの軽いチャラ男のアル、そしてサバサバした姉御肌なリザベル達と共にイルザールまで同行する事になった俺は、ベルゼに耳打ちを終えると出発の準備に取り掛かった。
『恒久の革袋』に入れていた『真王の胸当』や『真王の籠手』等の防具を纏い、肩に『真王の外套』を羽織る。
これで最小限の準備は整ったが、俺は更に、昨日使える様になった魔法等を使って万全の準備を整えた。
丁度それ等の準備も終わった時、ガンダスが濡れた頭を布で拭いながら声を掛けて来た。
どうやらガンダスも軽く水で頭を洗ったらしい。
スキンヘッドに滴る水滴が太陽光を反射してキラキラと輝き、まるで鏡の様な光沢を放っている。
と言うか、実際にガンダスの頭に俺とベルゼの顔が反射している。
思わず笑いそうになるのを堪え、俺はさり気なく目線を逸らし、ベルゼも頭を下げてガンダスから目線を外した。
「ぎゃはは!ガンダス、また頭が鏡になってるぜ!」
「うっせぇ。アルも偶には坊主にしてみろ。サッパリして気持ちいいぞ」
「ぜってぇに嫌だ!」
「そう言うと思ったよ」
「そんな事はどうでも良いから、早く出発しない?」
「と、そうだな。早く乗ってくれ」
「へいへい〜 。お手をどうぞリザベルの姉御」
「誰が姉御よ」
「手厳しぃなぁ。ほれ、ハデス達も早く乗りな。悪ぃけど野郎のエスコートはご遠慮させて貰うぜ?」
「そりゃ助かる。野郎のエスコートを受けたら死ぬ病気にかかってるんでな」
「はは!ハデスも言うじゃねぇか。さ、ベルゼ嬢お手を」
「あ、ありがとうございます」
「全く……ガンダス、安全運転で頼むわよ」
「任せとけ。出発だ!」
そんな俺達の元へ、喉を潤し顔を洗ったアルとリザベルが合流した。
彼等の漫才を他所に、俺とベルゼはアイコンタクトし、頷き合ってからリザベルに続いて馬車の荷台に乗り込む。一方のガンダスは馬車の前方部に設けられた御者台に座り、手綱を引いく。
馬の嘶きと共に馬車はゆっくりと進み出した。
此処からイルザールまでは馬車でも丸1日は掛かる。逆算すれば明日の昼頃には到着するだろう。
最初の復習を成した俺達は、次の目的地へと向け進み出す。
食前酒は飲み干した。次の標的はファブロ同様居場所が判明している彼奴だが、その前に態勢を整えねぇとな。
柔らかく降り注ぐ陽の光の下、俺は仮面を付けた顔を前方に向けた。
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「へぇ、皆さんは同じ村の幼馴染なんですね」
「幼馴染ってか腐れ縁ってヤツさ。ギルドに入ったのもガンダスに無理矢理な」
「いやいやいや、俺ぁ軽く誘っただけだぜ? むしろアルの方がノリノリでギルドに入ろうって言ったんじゃねぇか」
「どっちも似た様なもんじゃない。付き合わされる私の身になって欲しいわね」
「でも何だかんだ言いつつ付き合ってあげるなんて、リザベルさんも優しいですね」
過ごし易い春の様な陽気に包まれながら馬車は進む。ガラガラと車輪が鳴り響き、馬車が微かに上下に揺れる。
転がる車輪の音は乗ってみると以外と気にならず、むしろ規則的なその音色は耳に心地いいとすら思えた。ここら辺一帯の道路は人の往来が多い為かよく整備されており、激しい揺れも少なくまるで大きな揺り籠で移動しているかの様だ。
復讐の束の間。のんびりとした馬車の旅。
俺は荷台の後ろ側で藁が入ったクッションに腰掛け、車輪が転がる音に耳を傾けつつ和気藹々と雑談に花を咲かせるベルゼ達を眺めたが、直ぐに目線を外す。彼等の話す内容は取るに足らないモノだったからだ。
会話の輪に入るのも面倒くさいので、俺は馬車内に目を配る。
馬車の内部は外から見たより広く感じた。
人が4人も乗っているのにまだ充分な広さがある。空きスペースに木箱や彼等の予備と思しき鎧や剣等が積まれているのにだ。
パッと見でもあと3人は座れそうなゆとりがある。
( 此奴等、若いのに金があるんだな )
俺は馬車や駄弁るアルやリザベル達の背中を見てそう思った。
昨今の経済事情は知らないが、俺が知っている限りでは、馬や馬車は生まれた家が余程裕福でない限りおいそれと手に入れる事は出来ない。
馬はとても高価で、下手をすれば一般的な市民の年収に匹敵するからだ。それに餌代や諸々の雑費代もかかる。
一昔前では、馬を持つ事が出来るのは裕福な貴族や王族、金のある商人のみしか許されないという暗黙の了解があった程だ。
それくらい市民と貴族の間には経済的格差があった。
馬車は馬と比べればまだ安価だが、人力で動かす荷車よりも当然高いし、整備も必要になる。
今乗っている馬車はその大きさから見ても、金持ち商人の商隊や軍で使われてもおかしくない代物だ。
こんな代物を揃えている辺り、ギルドという職はそれなりに儲ける事が出来るのか。はたまた此奴等はそれなりの家の生まれなのか……
「私の事はいいじゃない。それより其方こそどんな関係なの? ハデスの外見を見た限りじゃそれなりにやり手の傭兵って印象だけど、ベルゼは良いとこのお嬢様みたいじゃない?」
「あー、確かに妙な組み合わせに見えなくもねぇな」
「もしかして訳ありで愛の逃避行中とか?」
「かぁ〜 貴方となら何処までも着いていきます。私も一緒に連れてって下さいってか!で? どうなんだよ、実際の所」
などと物思いに耽っていると、いきなり話題が此方に飛び火した。
「……ベルゼ、任せた」
「えぇぇ!?」
確かに言われてみれば俺とベルゼは色んな意味で釣り合っていない。俺は武具を纏った戦人の装いなのに対し、赤いケープを纏うベルゼはまるで貴族令嬢の様な出で立ちだし、実年齢は兎も角外見も幼い。
少なくとも今のベルゼの外見からは、これから自身の労力を対価として賃金を得る自由職業別組合に加入しようとしている者というより、屋敷で紅茶を嗜んでいたお嬢様が、道楽でこっそり顔馴染みの傭兵に付いて来た。と言った方がしっくりくる。
成る程、盲点だった。
ガセナール商国連邦は身なりの良い小金持ちの商人や職人達が多く居たから、ベルゼの子綺麗な服装が人に与える印象にまで考えが及ばなかった。イルザールに着いたら適当な防具なり何なりを買って、せめて外見だけでも周りに馴染む装いにしなければ。
しかし……瞳を輝かせ妙な期待と勘違いをしているリザベルと、ニヤケ面を隠そうともしないアルの視線が煩わしい事この上ない。
真面目に話題に乗るのも面倒だし、目的を馬鹿正直に言うのは論外だ。
最終的に、俺はベルゼに全て丸投げする事にした。俺の本当の目的を知っているベルゼなら上手い具合に誤魔化してくれるだろう。
「え、え〜っと…… 逃避行中ではないですよ? 私は貴族でも何でもないですから」
「あら、そうなの?」
「はい。私とハデス様は…… お互いの苦しみを理解し共有し、共に歩もうと誓い合った間柄です。それ以上で以下でもありません。イルザールに向かうのも、今後私達が共に歩む上で必要な力を得る為です」
「……ふぅ〜ん。成る程ね〜」
「事情はよく分からねぇけど、俺等なんかよりよっぽど強い絆で結ばれてんだな。羨ましいぜ〜」
「くははは! 全くだ。俺も嬢ちゃんみてぇな理解者が欲しいぜ」
しかしながら、期待は淡くも崩れ去った。
いや、ベルゼ本人は上手く誤魔化したつもりなのかも知れないし実際その言葉通りではあるのだが、チョイスした単語と満面の笑みが言葉全体に妙な重みと含みを醸し出す。
しかもほんのり頬を赤らめているお陰で、余計に意味深に聞こえる。
これで余計な勘ぐりをするなという方が無茶だ。
「……もう、そういう事でいい」
案の定リザベルは瞳の輝きを強め、アルはニヤニヤ3割増しで俺を見つめている。
挙句手綱を握るガンダスまでもが茶化す様に声をあげた。
「それよりギルドについて幾つか質問があるんだが」
このままではイルザールに着くまで茶化され続けるだろう。それは俺の精神上よろしくない。そこで会話の主導権を握り話題を反らす為、アル達へ自由職業別組合の詳しい情報を聞き出す事にした。
「そっか、あんた等もギルドに入るつもりなんだもんな。任せろ!ギルドの先輩として何でも答えてやんよ!」
「頼む」
アルが単純でノリの軽い男で助かった。
尚もニヤニヤと此方を見るリザベルの目線を意識的に無視し、俺は妙に甘ったるい空気を払拭する為に、加入するつもりなど更々無い自由職業別組合の事で思いつく限りの質問する羽目になった。
情報収集のいい機会だと割り切る事にしよう。
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「つまり、かつてイルザール公国があった全域は、今ではドラゴニアス帝国の委任統治領になっていて、帝国はこの地の復興をイルザールギルド支部に委託している訳だな」
「あぁ。ちなみにアスラゴートに滅ぼされたハイネ王国やグリンゲ連合があった地域は、アルギリア王国や他の列強国が委任統治してる。そこの復興もギルドに丸投げしてるがな」
馬の休憩と御者の交代の為3回小休止を挟んだ俺達は、イルザールまで残り30km程の地点…… 数年前まで魔王軍の勢力圏だった場所まで到着し、4度目の休憩を取っていた。
この時点で太陽は地平線の彼方に沈みすっかり夜になっていたので、今晩は此処で野営する流れとなった。
焚き火の炎がユラユラと揺れ、闇に包まれた世界に僅かな光を生み出す。
その光の対面に座った俺は、持参していたらしいパンや干し肉等を取り出して晩飯の用意に取り掛かっているガンダスから、自由職業別組合やイルザールの現状を聞いていた。
ある程度情報を得た俺はこれまで分かった情報を脳内で整理する。
アスラゴートの死後、世界各国は人類最大の脅威が消えた事で同盟を解消。同盟軍は解散したが、同盟軍に成り代る新たな組織がこの世界でも高い国力を持つアルギリア王国やドラゴニアス帝国、オルディアナ聖教国等、通称【列強】と呼ばれる幾つかの国々の主導で発足された。
それが、アスラゴートとの戦争で戦地となり、占領され荒れ果てた北方の国々の復興を主目的とした自由職業別組合という組織である。
ついでに自由職業別組合が設立されるに至った経緯も簡単に説明する。
魔王軍により滅ぼされたイルザール公国を始めとする国々の跡地は、俺の処刑から数日後に開催された国際会議の場にて、アルギリア王国を始めとする列強各国の委任統治領となる事が決まった。
表向きは其処に住んでいた人々の鎮魂と復興の為という名目らしいが、本当は戦争終結のドサクサに紛れて領土拡大を果たす良い機会だったから、耳障りの良い大義名分を引っさげ彼の地を勢力圏に組み込んだと言われている。
列強各国はまるでパイを切り分けるかの如く、荒れ果ているとはいえ広大な土地を手中に収めた。これ等の土地は列強各国からは飛び地なので防衛がし難い等の問題があったが、其処はかつて複数の国の基盤となっていた土地であり、地下には鉄や銅、発光鉱石等の鉱物資源が、周囲には材木となる森林や穀物の生産に適した土地があった。列強各国はその土地を支配していた国々が滅んだ事をいい事に、多少の問題に目を瞑り土地と資源を丸々掠め取ったのだ。
だが長年続いたアスラゴートとの戦争の影響で働き盛りの成人男性の多くを亡くし、人口ピラミッドが崩壊しかかってた列強各国は、主に人材不足の関係で予想以上に荒れ果てていた土地を迅速に復興する事が出来なかった。
荒れ果てた土地は移動すら困難。加えて長年魔王軍の占領下に置かれ人の手が及ばなくなった結果、これ等の土地には人に害をなす危険な獣が異常繁殖し、極め付けには魔王軍の統率を離れ野生化した魔獣や魔物が跋扈していた。
これでは以下に委任統治領内に資源があっても安全に採取・運用する事が出来ず、絵に描いた餅、宝の持ち腐れ以外の何物でもない。また獣や魔獣等を討伐する為に軍を向かわせるにも、人材難と長年の戦争で戦費が嵩み、国庫に余裕が無い事も相まって、列強各国は委任統治領へ大規模な軍の派遣に中々踏み出せなかった。
そこで列強各国は一計を案じる。
委任統治とは、即ちその土地の復興や治安維持等、その土地を責任を持って統治する事を明文化したモノであるが、列強各国は土地の利権は自分達でしっかり握りつつ、国土も経済規模も小さい弱小国家にも彼の地の復興に助力しろと暗に要求したのだ。
そう、その結果生まれたのがアルギリア王国等の列強各国や、ガセナール商国連邦といった弱小国から捻出された資金と様々な職業の人材で組織された自由職業別組合だった。
ちなみに自由職業別組合という名前は、『国の枠組みを超え集まった多種多様な職を生業とする国に縛られない者達の集まり』という所から来ているらしい。
国土も経済規模も小さい弱小国家からすれば堪ったものではないが、北方の復興という人道的な名目と、同盟軍の主軸となり魔王軍と戦った列強各国の要請とあっては声を上げて反対する事は難しく、最終的にこの世界の全ての国家は其々の国の経済規模に見合った復興資金を捻出し、半年程前に自由職業別組合が誕生した。
つまり列強各国は他国を巻き込む事で、自国の国庫や人的資源に掛かる負担を減らしながらも委任統治領の復興をしようと画策した。
そして復興の音頭を取るのが、列強各国の思惑により組織された自由職業別組合という訳である。
自由職業別組合という組織は、本当はアルギリア王国やドラゴニアス帝国等、列強各国が自国の様々な負担を減らす為に作った組織と言っていい。
だが復興の為の組織というだけあって、その存在意義は大きかった。
自由職業別組合は初期こそ諸国から派遣された人材のみで運営していたが、至極当然ながら其れ等の人材だけではとても手が足らず復興資金を元手に独自で人材の登用を開始する。すると、復興の手助けをしようと志すボランティア精神溢れる者達や、新たな働き口を求める者達が戦火を逃れた大陸の南方地方等から大量に集まった。
復興の為という名目で諸国から捻出された資金提供を受ける自由職業別組合は、その金を使い北方に集った者達を次々に雇い入れ、報酬を支払う事で復興を推し進める。
結果的に、復興は(この世界から見たら)それなりの速さで進み、今も尚働けば働くだけ報酬が貰える自由職業別組合に加入しようと各地から人が集まっているのだとか。
ガンダス達も報酬を目当てに自由職業別組合に加入した口だという。
自由職業別組合が組織された理由の1つには、こういった人材を確保する目的があった。
委任統治領を復興する人手が足りないなら受任国がその人手を雇えば良いが、先も言った様に魔王軍との戦争で戦費が嵩み懐が寒い列強各国は、他国から捻出させた金で復興の労働力を確保しようと画策したのだろう。
滅亡した国跡地には、今では委任統治受任国(列強各国)の管理の下自由職業別組合が支部を作り、復興を担うはずの列強各国は、復興を自由職業別組合に丸投げしている。
自由職業別組合は各国から集まった資金等を上手く使い、支部がある担当地区の復興に勤しんでいる。
北方の現状を纏めるとこんな感じか。
「成る程な。で、ドラゴニアス帝国の委任統治領でありギルドの管轄であるイルザールとかで獣と戦うには、その土地のギルドの許可がいると」
「そうだ。無秩序に騒ぎを起こされちゃ復興の妨げになるとかの理由でな。もし獣が大量に発生しているとかの事態になれば、ギルドは組員宛にその獣の討伐依頼を出す。その依頼を受注して、組員は初めて戦う事を許可されたって事になる。
要は討伐依頼を受けたギルド組員じゃなきゃ、ギルドの管轄区では自由に戦えねぇって事さ。この決まりを無視して勝手に戦った日にゃ、ギルドに捕まって委任統治受任国に罪人として連行されちまう」
そして自由職業別組合には復興の他にもう1つの役割があった。
それは担当地区の治安維持だ。
本来その土地を守る筈の軍隊が既に消滅してしまっているので、自由職業別組合は主に異常繁殖した獣から身を守る自警団的な活動も行なっているとか。
治安維持も本来は委任統治受任国の役割だが、それすらも自由職業別組合に丸投げしているらしい。
そして自由職業別組合が管轄している地域内では、ある決まりがあった。それは、以下に獣や魔獣相手と言えど、(襲われたりといった不可抗力的事態の場合を除き)勝手な戦闘は禁止するというモノ。
簡単に言えば自己防衛の為の戦闘以外は自由職業別組合の許可なく行ってはいけないという決まりだ。この大変アホらしい決まりが出来た理由は、ガンダスが言った様に各々が勝手に戦闘を繰り広げれば収集が付かなくなってしまうかららしい。
もしこの決まりに背けば、委任統治領受任国に連行されるのだとか。
秩序を保つ為に決まりが必要なのは理解出来るが、戦闘経験を積む為にイルザールに向かっている俺からしたら面倒な事この上ない。
本来自由職業別組合に加入する気など更々無かったが、余計なやっかみを受けず戦闘経験を積む為には自由職業別組合へ加入せざるを得なさそうだ。
「……面倒だな」
「まぁそう言うなって、何事にも決まりは必要さ。人が多く集まる場所なら特にな。でも、もし今獣に襲われたら助太刀頼むぜ?」
「あぁ、自衛の為の戦闘が許されてるなら問題ない」
「頼りにしてるぞ。狩った獣や魔獣の素材はギルドが買い取ってくれるからいい小遣い稼ぎになんだよ」
「おーい、ガンダス! 馬の餌やり終わったぜ」
「こっちも『警戒護符』の設置完了よ。手伝ってくれてありがとうベルゼ」
「いえいえ、これくらいお安いご用です」
ガンダスから自由職業別組合の詳細やイルザール近辺の状況、死後1年の間に変化したややこしい世界情勢等を聴き終え、情報を整理し終えると、野営の準備を整えたアルやリザベル達が戻って来る。
アルは馬達に水や餌を与え、リザベルとベルゼは俺達が居る場所を中心に、直径100m圏内に【護符】と呼ばれる札を配置していた。
この護符とは言わば魔法の代用品で、『保有魔力』が少ない者でも護符を使えば、少量の『保有魔力』でその護符に付与されている魔法を使用出来る。
俺には馴染みの薄い物だが、これも軍や商隊必須の代物だ。
ちなみに『警戒護符』とは4枚1組となっており、円を描くように東西南北に設置する事で、『危機感知』と同じ効果を発揮し、円の範囲内に侵入した生命体の存在を知らせてくれる。
『危機感知』は発動の際に『1800』の『保有魔力』を使うが、『警戒護符』を使えば僅か『10』の『保有魔力』を消費するだけと、大変低燃費に済ましてくれる。
が、護符は基本使い捨てだし護符は所詮魔法の代用品でしかないので、念の為に買う事はあるかも知れないが、余程の事がない限り俺が使う事はまず無いだろう。
「お疲れさん。こっちも丁度終わった所だ」
「って言ってもどうせパンとチーズと干し肉だろ」
「正直もう食べ飽きてるのよね」
「ボヤくなって。野菜とかは日持ちしねぇんだから仕方ねぇだろ。イルザールに着くまでの辛抱だ」
「あ、あの私達もご相伴にあずかって良いんですか?」
「勿論だ。気にせず食ってくれ」
アルやリザベル、ベルゼが焚き火を取り囲むように腰掛け、ガンダスがチーズと干し肉を乗せたやや硬いパンを各々に配る。
俺もベルゼもそのささやかな晩飯を受け取った。
「……わかった。頂こう」
「ま、食べ慣れた味だけど酒が有るだけマシか。ほれ、ハデスもベルゼ嬢も飲もうぜ」
そこにアルが木彫りのグラスに琥珀色の液体を注いで差し出してきた。
ふんわりと香る甘く芳醇な葡萄の匂い。
どうやらワインの一種の様だ。
「……あぁ」
「あまりお酒は嗜んだ事が無いのですが…… 折角なので頂きます」
「よぉし、それじゃ乾杯!」
「「乾杯!」」
ガンダス、アル、リザベルが木製のグラスを掲げ声を上げる。陽気で呑気なガンダス達を横目にベルゼに目配せをした俺は、静かにグラスを口に付ける。
「美味い」
「……では私も頂きます」
グラスから口を離し一言呟く。
その様子を見て、ベルゼもグラスを口に付けた。
「っ……な、なんだ……急に視界がボヤけて……」
「は、ハデス……様……」
直後、俺とベルゼは地面に倒れ込んだ。




