新人冒険者(7)
のんびりと町を歩いて回りながら、図書館へ行くことにした。
図書館の屋上へ上がる。屋上は庭園になっていて、薔薇が美しい、さすがは領主の元屋敷だ。
屋上から町を見渡す、この町に来て約1ヶ月、短い間にいろいろあった。感傷に浸りながら、これからの事も考える。出発の準備をしなければ。
アグレイさんの奥さん、セシリアさんは薬局を経営している。僕は住み込みで働きながら、エルフの技を教わり、異世界の知識を話すことで、セシリアさんの錬金術の研究に役立てる。
『住み込みで働くから、住む部屋も、食事も込みなのか?』
当たり前の事を考えながら、必要な物を買いに行く。
出発の準備と言っても、荷物は少ないしカバンもある。予備の下着と手ぬぐいを買っただけだ。
『他に何か、要るかな?向こうに着いてからでも』
結局やる事が無くなり宿に戻る、ベッドに仰向けで寝ながら、何を考えるわけでもなく時間が過ぎていく。
「ショウ君、帰ってたんだ」
「早かったね」
「なんとなく、やる気でなくて」
「僕も、今日で最後なのに、なんとなく」
「最後、なのかな」
「マナとは最後じゃないよ」
「ショウ君ごめんね、私のせいで」
「違うよ、マナのおかげだよ、マナのおかげでアグレイさんに会えたんだから」
「そんな、私」
「必ず、必ずまた会えるから、手紙、書くよ、ギルドで預かってくれるから」
「遠くの町なの?」
「遠いと思うけど、アルス川の下流に、ある町だから、川でつながっているよ」
町までは馬車で5日ほど掛かると聞いていたが、マナには、まだ言わないでおこう。
足音が聞こえる、みんな戻って来たようだ。
「おっ!みんなそろった」
「酒は樽でしか、売ってなかった」
「で、食堂で飲むことにしたの」
僕はアグレイさんにもらったワインボトルを見せた。
お金は今後、弟子としてしっかり働けば良い、と言ってくれたので遠慮なくもらった。
「さすがショウ!ヤルじゃん!」
「赤?白?」
「たぶん赤」
「食堂は普通、持ち込み禁止だろ」
時間が早いため、食堂は貸しきり状態だった、とりあえずエールを頼み、まずは乾杯。
「えー、ショウの旅立ちと前途を祝して」
「テル硬いよー」
「ショウの挨拶が先じゃね?」
「じゃ、僕から、みんなありがとう、早く飲もう!乾杯!」
「乾杯!」
いつもより贅沢な夕食とエール、仲間の笑顔、別れの時を忘れさせてくれる。
部屋へ戻り、ワインの時間が始まる。
本日2度目の乾杯の後、テルが話しだした。
「俺たちも旅に出た方が、良いと思っているんだ」
「?!」
「もちろん、すぐにと言うわけではないが、もっと強い魔物と戦わないと、レベルが上がらないと思うんだ」
「それは、まあ、そうだけど」
「まだ、あぶないよ」
「だから少し先の話しだ」
「少しって?」
「そうだなぁ、1ヵ月かな」
「結構、すぐじゃん」
「私は、賛成」
まさかのマナの賛成に、みんな驚く。
「今のままだったら、お金が続かない、武器が壊れた時、新しくする余裕はないわ。もっと報酬の良い依頼を受けて、リスクに備えないと」
いつものマナがそこにいた。
「僕の手紙が届いてからにしてよ、どこに居るか、わからないと合流できないから」
「まかせて」
本日3度目の乾杯をする。
ワインはいつの間にか無くなり、夜がやって来た。
いつもより早く就寝したため、夜明け前に目が覚めた。
外はほんのり明るくなりつつある、宿を出て、早朝の空気を吸い背伸びをする。
「おはよう、眠れた?」
「え、マナ、眠れたけど、早く目が覚めて」
「私は眠れなかった」
目の下のクマよりも、涙の跡が気になった。
マナが顔を伏せる、僕はマナを抱きしめた。
「・・・・・寒いから、中に入ろう」
「・・・・・うん」
大切な言葉を言えなかった、言ってしまったら、先に進めないと思った。
時間は僕の後悔を、待ってくれない。
タリムさんの薬局へ着くと、すでに馬車が待っていた。
馬車に荷物をのせて、別れのあいさつをする。
「タリムさん、お世話になりました」
「いいのよ、ショウちゃん、しっかりね」
「頑張ってね、ショウ君」
「ショウ、また来いよ」
タリムさんファミリーと握手を交わす。仲間とは軽いハイタッチ。
「ショウ、元気でな」
「着いたら、手紙、書けよ」
「ファイト!ショウちゃん」
「・・・・・じゃあね」
「・・・・・じゃあね」
馬車に乗り込み、みんなに手を振る。
「アグレイさん、よろしくお願いします」
「じゃ、行くよ」
振り返りたい気持ちを抑えながら、僕は前を見る。
道は果てしなく続き、広い世界へつながっている。
兵士「閣下、アルスウエストから緊急報告です」
将軍「読め」
兵士「勇者候補1名エルフ同行離脱」
将軍「エルフだと」
兵士「おそらく旅の商人エルフかと」
将軍「あいつか、目的地は?」
兵士「まだ報告はありません」
将軍「奴の拠点はアルストリアだ、至急ギルドに連絡、監視をさせろ」
兵士「は!」
将軍「エルフめ、なにか感づいたな」




