表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術師見習いです。  作者: ダグラス
51/63

それぞれの収穫(3)

「なんだよ、最後はヴァンに持ってかれたな」

「テルちゃんの投げ槍と良質タックルのおかげなのに」

「ルキア、槍投げよ」

「悪かったな、今度おごるよ」


 僕は黒いキューブを拾った。

 両手で抱える程の大きさのキューブ、岩の巨人を自動で動かすシステムが、この中に入っているはずだ。


「ショウ君、これが前に聞いたコア?」

「たぶんね」

「コアって広い部屋ぐらいって、言ってなかった?」

「ダンジョンコアと違って、幻獣を動かすシステムだけに限定して、小型化に成功したんだよ」

「デカイだけで動きは単純だったぜ、恐かねーよ」

「同じ奴が10体いても言えるか」


 テルの言う通りだ。大量生産されたらと思うと、本当に恐ろしい。

 僕達はセシリアさんと合流する為、黒いキューブを持って船着場に走った。


「早かったな、ま、こっちは逃げられたがな」

「テルちゃんは何か掴んだみたいね」

「はい、御指導ありがとうございました」

「いいのよ。ショウちゃんは聞きたい事が多すぎて、どこから話せば」

「はい、まずは怪我人の手当てをしてからにします」

「そうね、落ち込でる暇はないわね。回復薬を取って来て、あるだけね」

「はい」


 船着場には収穫祭の開会式を見に町人が集まっていた。

 突然の巨人出現に人々は逃げ惑った。巨人は商工ギルドの建物に突っ込んだ。バランスを崩して倒れただけだが、その間に多くの人が逃げ出せた。

 ギルド職員も近隣の住人も開会式の会場にいた為、被害は少なくて済んだ。

 それでも、重傷者16名、軽傷者38名、死者が出なかった事が救いだ。


「ふぇー。疲れたよー」

「お疲れ様、薬局に戻ろう。お昼まだでしょ」

「うん、魔力を回復する、お薬ないの?」

「あるけど、回復薬と同じで副作用が大きいよ」

「え、副作用あるの?」

「うん、カロリーが超高い」

「なに、その致命的な副作用」

「回復薬は体力が落ちてる時に使うから、影響は少ないけど、増魔薬は体力関係ないから、肥りやすくなるよ」

「だから魔女って肥ってる人、多いんだ」

「体力と魔力は別物だから、増魔薬を使い過ぎたら、そうなるね」


 ルキアの活躍で被害者の手当は迅速に完了した。

 日が短くなる季節、既に日は傾いて夕刻が迫っていた。商店街や市場の屋台の食べ物は住人に無料で配られ、マナが魔法で鍋を暖めていた。

 現在も瓦礫の撤去作業は続いていて、ヴァンとテルが頑張っている。


「ショウさん、近衛兵の皆さん、ありがとうございます」

「後は我々で片付けますので、どうぞ休んで下さい」

「そうですね、薬局に戻って食事にします。何かあったら連絡して下さい」

「今日泊まる宿が壊れてるよ」

「あー、部屋はあるけど、布団がない」

「調達します。何人分ですか」

「助かります。4人分、お願いします」

「任せて下さい」


 薬局に戻り、食事をとる。皆、口数が少ない。

 今回の事件は、あらかじめ予定されていて、誰かの都合で皆が集まった。そう考えられる状況だからだ。

 日が落ち、地下の実験室に皆が集まった。


「まずは、いろいろと秘密にしてて、ごめんなさい・・・」

 300年前の戦争では魔族軍が優勢だったわ。そこで小人を作り、死の山に魔導具を運ばせ、火山の噴火を起こして戦争を終結に導いた。それらの研究と開発をしたのは私の研究チームよ。その前段階として幻獣の製作とそれに必要な魔石の研究もしたわ。ダンジョンは戦争の後、自然界に流れる魔力を集める技術として作られたの。もっとも、軍の予算だから兵士の訓練を兼ねた施設になったけど。その後、私は軍を離れ、この町に戻って薬局を再開したわ。火山の噴火は戦いに関係の無い、大勢の魔族を殺してしまった。この罪は私が薬剤師を続け、弟子達が命を助ける事で償っていくわ。アグレイ、ごめんなさい。母の(かたき)と言われて力が出せなくて、やっと極夜に会えたのに・・・。


「セシリア、続きは私が話すよ・・・」

 今回の襲撃の情報は以前、ドレーゼンが教えてくれた。我々が再び王国軍に協力する条件でね。300年前の戦争で私と兄は、義勇軍の軍長として戦いに参加した。その戦いで兄は殺され、極夜を奪われた。伝家の宝刀であり、兄の形見となった極夜を探し、失脚した魔王の息子が持っているとの情報を掴んだ。その頃にショウ君と出会った。私達エルフには予知の力がある。もちろん全ての未来が見えるのではなく、よく当たる勘に近い感覚で、白夜と極夜が君達と運命でつながっていると思った。結果ショウ君のおかげで、今日を迎えられた。利用した形になってすまない、襲撃の情報は秘密にする約束だったから・・・。


 ランプの光が揺れる地下室に、悲しい過去と現在がたゆたう。


「俺は利用されたとは思ってません・・・」

 ここでの修行で俺は、自分の戦い方が分りました。今までモヤモヤしてた事が、今回の襲撃でスッキリしたと言うのか、1歩前に出られた気がします。俺を導いて下さって、感謝しかありません。だから、その、もっと利用して下さい。そうすれば、もっと前に出られる気がします。


「僕も、テルと同じ気持ちです・・・」

 ここに来なかったら、アグレイさんに出会わなかったら、今の僕はありません。ひょっとしたら冒険者をやめていたかも、それにリコとも出会ってないし。運命がここまで僕達を導いたのか、セシリアさんが導いたのか、どちらにしろ僕にとっては、最高の師匠で家族です。


「いいな2人は、私もここで修行したかったな・・・」

 王都では私達は特殊な人間なの、普通の人から見ると異常な強さだから。私も予知能力があるみたいで、うっかり先の事を話すと、悪魔でも見るような目で見られるの。友達もいないし、話し相手もいない。時々、自分がどこに向かって良いのか分らなくなる。


「でも、その能力で魔族が襲撃するって予見したんだろ・・・」

 俺は特殊能力とか無いから、魔法が使えるのが羨ましかった。自分がヒーローになろうとしてたけど、今日の戦いで仲間をサポートする大切さに気付いたよ。テルの頑張りで敵を追い込んだ後、とどめを刺せるのが俺だったから。まあ、その辺はまだ我がままかな。


「ヴァンちゃん、それがチームってものだよ・・・」

 私は攻撃参加ムリだから、みんなが羨ましかったよ。でもね、怪我をした人達を治癒して、ありがとうって言われるの。やっぱり嬉しいよ、聖術士で良かったと思うよ。それと、この際だから言うけど。ショウちゃん、時々セシリアさんと同じ、しゃべり方してるから気を付けてね。


「え?!本当に?!」

「やっぱり、気付いてなかったかぁ」

「ハハハハハ」


 笑い声が地下室に響き、ランプの光がやさしく揺れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ