↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術師見習いです。  作者: ダグラス
52/63

それぞれの収穫(4)

 早朝、船着場に霧が立つ。

 商工ギルドは解体が決まり、大工職人が集まっていた。

 建物の被害は他に、宿屋が1軒、住宅が5軒、屋台が7軒だった。いずれも解体して、建て直しが決まってはいるが、安全に壊す順番でもめているらしい。


「おはようございます。何か手伝える事、ありますか?」

「ショウさん、近衛兵の方々、ありがたいが。収穫祭の準備は大丈夫?」

「え?!中止じゃないんですか?」

「なに言ってんの、この程度で弱気になってたら、川向こうに笑われるよ」

「そうですよ、商店街で旨い昼飯、作ってください」


 大工職人の言葉に驚いた。

 普通に中止にすると思い、男3人で早起きして船着場に来たのに、なんだか恥ずかしい感じがした。


「早起きが無駄になったな」

「収穫祭の準備も昨日ほぼやってるから」

「スープを作る、だけだね」


 市場の様子も、いつもと同じで昨日を感じさせない。

 結局、ブラブラ歩いて薬局に戻った。


「どこ行ってたの、準備、始まってるよ」

「散歩」×3


 男3人はそろって同じ答えを返した。

 ニヤニヤする3人をマナは無視して料理を続けた。


「ヴァン、荷物を運んでくれ」

「はい」

「マナちゃん、お肉の下茹では終わった?」

「もう少しです」


 ヴァンとマナは薬膳スープの準備をする。


「下茹で終わりました」

「じゃ、お肉だけ出して骨と身に分けて、スープの味付けは私が」

「はい」

「マナ、熱くないのか?」

「大丈夫、なれてるから」

「でも、熱湯から出して直ぐだぞ」

「お料理してたら、熱湯ぐらい平気になるよ、ヴァンもやってみる?」

「いや、俺はいいや」


 昨日より人手が多いので、僕は肉屋で肉を串に刺している。

 一見、焼き鳥に見えるが、肉はウサギの肉だ。昨日、空輸されたウサギの肉を肉屋で解体してもらった。そのお礼の肉を串に刺している。


「終わったら塩を振って、高い位置からサラサラって感じで」

「はい」

「ところでショウ君、結婚したら、どうするの」

「どうするって、今と変わらないですよ」


 肉屋の女将、ミトさんが尋ねる。

 毎日いい肉を食べてる感じの体型で、丸い顔がやさしい印象を強める。


「薬剤師になるのか、道具屋になるのかって事よ」

「それは、その」


 昨日のセシリアさんの言葉を思い出す。

 薬剤師として命を救う仕事がしたい。道具屋の婿養子でもある・・・。


「あなた、何も考えずに結婚する気だったの」

「それは、その」


 ミトさんは呆れた顔で僕を見ている。

 師匠の御膝元で薬局は作れない。道具屋は移動できない・・・。


「あなたは若いけど、トーマスさんは55歳なのよ」

「そ、そうですね」


 塩を振る手が震える。

 そもそも婿養子だから、道具屋になるのか・・・。


「器用に塩を振ってるけど、人生は器用なだけじゃ駄目なのよ」

「そ、そうですね」


 薬局の仕事、道具屋の仕事、肉屋の仕事、どれも大切な仕事だ。

 結婚式までに人生設計を決めないと、初孫は結婚式前でも構わないって、リースさん言ってたな。


「ショウちゃん、リコちゃんが探してたよ」

「ああ、もう直ぐ終わるから」

「ショウ君、ありがと。ちゃんと考えるのよ」

「はい」

「え?何を?」

「ルキアには関係ないよ」

「なにそれ、気になる」


 商店街に人が集まり始めた、美味しい匂いが大通りを包む。

 道具屋に戻ると、リースさんの似顔絵は人気らしく、既に行列が出来ていた。


「ショウ!早く手伝って」

「凄い人気だね」

「テルさんと一緒に描いて欲しいって、女の子が並んでるの」

「え?!」

「ショウ君、お会計をお願い」

「あ、はい」


 リコとリースさんがペンを走らせ似顔絵を描く。

 テルはいつの間にか町の人気者になっていた。後で聞くには、昨日の戦いでの活躍が知れ渡り、女性人気が上昇したらしい。

 どこの世界でも、たくましい男はモテる。


「ヴァンちゃん!落ち込んでないで手伝いなさい」


 セシリアさんが慌てている。

 薬局の『元気の出る薬草スープ』も行列だ。後で聞くには、『漢(おとこ)のスープ』と勘違いされて、男性人気が上昇したらしい。

 どこの世界でも、たくましい男に憧れる。


「お腹空いたよ、今日もお昼抜き?」

「文句言ってないで、器を洗いなさい」

「ふぇーい」


 マナもルキアも大忙し、モデルのテルは固まっている。

 い腕に抱きついた絵を希望されている。女性の特に柔らかい部分が腕に密着している。正直、羨ましい。


「羨ましいなぁ」

「そう・・・『ト、トーマスさん』」

「あなた、インクが減ってますよ」

「は、はい」


 義父の意外な一面を見た。

 こうして、大盛況の収穫祭が終了した。


「ショウ、何言ってるの。明日もあるのよ」

「そう、でした」





 ミドラスト河を上る船の中、オールを漕ぐ男がぼやいている。


「メリッサ、交代しろよ」

「えー、私、女の子だよ」

「俺は上司だぞ」

「仇討ちが失敗したからからって、イライラしないの」

「ふん、直接の仇じゃないけどな」

「ハイドちゃんの母親思いの所、かわいいよ」

「父親が失脚した後の、気落ちした姿を見てられなかった。それだけだ」

「でも、強かったね」

「ああ、何も無い所から矢が飛んできた・・・出来るか?普通」

「錬金術は分析出来ないよ。ケビンちゃんを連れて来れば良かったのに」

「あいつは忙しいだろ」

「私も忙しいのよ」

「そうだけど。で、実際に試して、どっちが使える」

「どっちも今は駄目」

「おいおい、巨人と退屈な河下りをして、結果がそれかぁ」

「自走式は動きが遅い、念動式は術者が少ない、改善点は明確だよ」

「メリッサしだいで自走式は使えるって事か?」

「そうだけど、部下を増やせば念動式の方が簡単だよ」

「それが出来れば、細かい資金集めも必要ないがな」

「宝石泥棒でもする?」

「やめてくれ、縁起が悪い」


 大河の流れに逆らいながら船は進む。人間に土地を追われた魔族の小さな抵抗が、やがて大きな災いとなって大河を下る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。