それぞれの収穫(4)
早朝、船着場に霧が立つ。
商工ギルドは解体が決まり、大工職人が集まっていた。
建物の被害は他に、宿屋が1軒、住宅が5軒、屋台が7軒だった。いずれも解体して、建て直しが決まってはいるが、安全に壊す順番でもめているらしい。
「おはようございます。何か手伝える事、ありますか?」
「ショウさん、近衛兵の方々、ありがたいが。収穫祭の準備は大丈夫?」
「え?!中止じゃないんですか?」
「なに言ってんの、この程度で弱気になってたら、川向こうに笑われるよ」
「そうですよ、商店街で旨い昼飯、作ってください」
大工職人の言葉に驚いた。
普通に中止にすると思い、男3人で早起きして船着場に来たのに、なんだか恥ずかしい感じがした。
「早起きが無駄になったな」
「収穫祭の準備も昨日ほぼやってるから」
「スープを作る、だけだね」
市場の様子も、いつもと同じで昨日を感じさせない。
結局、ブラブラ歩いて薬局に戻った。
「どこ行ってたの、準備、始まってるよ」
「散歩」×3
男3人はそろって同じ答えを返した。
ニヤニヤする3人をマナは無視して料理を続けた。
「ヴァン、荷物を運んでくれ」
「はい」
「マナちゃん、お肉の下茹では終わった?」
「もう少しです」
ヴァンとマナは薬膳スープの準備をする。
「下茹で終わりました」
「じゃ、お肉だけ出して骨と身に分けて、スープの味付けは私が」
「はい」
「マナ、熱くないのか?」
「大丈夫、なれてるから」
「でも、熱湯から出して直ぐだぞ」
「お料理してたら、熱湯ぐらい平気になるよ、ヴァンもやってみる?」
「いや、俺はいいや」
昨日より人手が多いので、僕は肉屋で肉を串に刺している。
一見、焼き鳥に見えるが、肉はウサギの肉だ。昨日、空輸されたウサギの肉を肉屋で解体してもらった。そのお礼の肉を串に刺している。
「終わったら塩を振って、高い位置からサラサラって感じで」
「はい」
「ところでショウ君、結婚したら、どうするの」
「どうするって、今と変わらないですよ」
肉屋の女将、ミトさんが尋ねる。
毎日いい肉を食べてる感じの体型で、丸い顔がやさしい印象を強める。
「薬剤師になるのか、道具屋になるのかって事よ」
「それは、その」
昨日のセシリアさんの言葉を思い出す。
薬剤師として命を救う仕事がしたい。道具屋の婿養子でもある・・・。
「あなた、何も考えずに結婚する気だったの」
「それは、その」
ミトさんは呆れた顔で僕を見ている。
師匠の御膝元で薬局は作れない。道具屋は移動できない・・・。
「あなたは若いけど、トーマスさんは55歳なのよ」
「そ、そうですね」
塩を振る手が震える。
そもそも婿養子だから、道具屋になるのか・・・。
「器用に塩を振ってるけど、人生は器用なだけじゃ駄目なのよ」
「そ、そうですね」
薬局の仕事、道具屋の仕事、肉屋の仕事、どれも大切な仕事だ。
結婚式までに人生設計を決めないと、初孫は結婚式前でも構わないって、リースさん言ってたな。
「ショウちゃん、リコちゃんが探してたよ」
「ああ、もう直ぐ終わるから」
「ショウ君、ありがと。ちゃんと考えるのよ」
「はい」
「え?何を?」
「ルキアには関係ないよ」
「なにそれ、気になる」
商店街に人が集まり始めた、美味しい匂いが大通りを包む。
道具屋に戻ると、リースさんの似顔絵は人気らしく、既に行列が出来ていた。
「ショウ!早く手伝って」
「凄い人気だね」
「テルさんと一緒に描いて欲しいって、女の子が並んでるの」
「え?!」
「ショウ君、お会計をお願い」
「あ、はい」
リコとリースさんがペンを走らせ似顔絵を描く。
テルはいつの間にか町の人気者になっていた。後で聞くには、昨日の戦いでの活躍が知れ渡り、女性人気が上昇したらしい。
どこの世界でも、たくましい男はモテる。
「ヴァンちゃん!落ち込んでないで手伝いなさい」
セシリアさんが慌てている。
薬局の『元気の出る薬草スープ』も行列だ。後で聞くには、『漢のスープ』と勘違いされて、男性人気が上昇したらしい。
どこの世界でも、たくましい男に憧れる。
「お腹空いたよ、今日もお昼抜き?」
「文句言ってないで、器を洗いなさい」
「ふぇーい」
マナもルキアも大忙し、モデルのテルは固まっている。
い腕に抱きついた絵を希望されている。女性の特に柔らかい部分が腕に密着している。正直、羨ましい。
「羨ましいなぁ」
「そう・・・『ト、トーマスさん』」
「あなた、インクが減ってますよ」
「は、はい」
義父の意外な一面を見た。
こうして、大盛況の収穫祭が終了した。
「ショウ、何言ってるの。明日もあるのよ」
「そう、でした」
ミドラスト河を上る船の中、オールを漕ぐ男がぼやいている。
「メリッサ、交代しろよ」
「えー、私、女の子だよ」
「俺は上司だぞ」
「仇討ちが失敗したからからって、イライラしないの」
「ふん、直接の仇じゃないけどな」
「ハイドちゃんの母親思いの所、かわいいよ」
「父親が失脚した後の、気落ちした姿を見てられなかった。それだけだ」
「でも、強かったね」
「ああ、何も無い所から矢が飛んできた・・・出来るか?普通」
「錬金術は分析出来ないよ。ケビンちゃんを連れて来れば良かったのに」
「あいつは忙しいだろ」
「私も忙しいのよ」
「そうだけど。で、実際に試して、どっちが使える」
「どっちも今は駄目」
「おいおい、巨人と退屈な河下りをして、結果がそれかぁ」
「自走式は動きが遅い、念動式は術者が少ない、改善点は明確だよ」
「メリッサしだいで自走式は使えるって事か?」
「そうだけど、部下を増やせば念動式の方が簡単だよ」
「それが出来れば、細かい資金集めも必要ないがな」
「宝石泥棒でもする?」
「やめてくれ、縁起が悪い」
大河の流れに逆らいながら船は進む。人間に土地を追われた魔族の小さな抵抗が、やがて大きな災いとなって大河を下る。




