新人冒険者(4)
空の青 水の青 新緑の青 春は青
我が目に映る青
鋭き青 瞳の青 矢じりの青
研ぎ澄まされた その姿
時を青く 染める
僕は目の前で、弓を構えるエルフの姿を見ていた。
とても綺麗で、映画のワンシーンを観ているような気分だった。
「君は何者だ?」
もちろん『人間です』が答えだが、正確に答えなければ、
「僕は、異世界人です。こことは違う世界から、召喚されてきました」
「・・・魔族か?」
「違います!人間です。日本という国から来ました」
「・・・誰に召喚された?」
「王都で、気がついたら、魔王を倒せ、とか、いろいろ言われて」
「・・・」
アグレイさんは弓をおろした、矢を矢筒に戻しながら、独り言を言っていたが、何を言っているのか分からなかった。
「君には仲間がいたね」
「はい、同じように召喚されて」
「召喚前から仲間なのか?」
「いえ、バラバラです、歳も、見た目は若いですが、30歳前後です」
「・・・元の姿に戻れるのか?」
「?」
アグレイさんは弓を放った、あまりの速さに、足元に矢が刺さってから気がついた。
前を見ると誰もいない、体が宙に浮くような感じがする。
「***-**-****」
魔法の詠唱?人間の言葉ではない。体の力が抜け、膝から前に倒れる。
「どうやら人間のようだ」
体が動き出す、起き上がるとアグレイさんの顔は、優しい顔に戻っていた。
「すまないね、君が邪悪な者でないと、わかったよ」
「・・・」
「この世界に来た時のこと、詳しく話してくれ」
「えっと・・・どこから話せば・・・」
「最初から、出来ればこの世界に来る少し前から」
僕はこの世界で目を覚ました時から話し始めた、どのように召喚されたかは覚えていない。記憶にないことは正直にそう伝えた。
僕の名前は佐藤将太「ショウ」と呼ばれている、会社員で32歳だったが、2ヵ月ほど前、この世界に召喚された、しかも15歳の若返った姿で! 召喚されたのは僕を入れて5人・・・
所々でアグレイさんの質問が入った。
途中から上流に向けて歩き出す。滝を迂回してさらに上流、タリムさんが言った素敵なハーブのある場所を目指す。
「言葉は同じなのかい」
「いえ、王都で1ヵ月みっちり勉強しました」
「1ヵ月で、それはすごいな」
「朝から晩まで、あと、本もたくさん読みました」
「王都からアルスウエストには、どうやって来た」
「魔法陣に乗ったら、ギルドに一瞬で」
「魔法陣?瞬間移動魔法の使用許可が出ているのか?」
「許可?それは、分からないです」
「・・・・」
急に、アグレイさんが黙ってしまった。
岩場が続く、きつい場所は手をかしてくれた。
「あと少しで源流につく、そこにしかないハーブなんだ」
「はい」
沢を登りながら話していると池が見えた、直径10㍍ぐらいの池だ、水深は浅く膝程もない。
水は透き通り、水底の砂がキラキラ輝いている。
「見えるかい、あの岩の所、水面が揺らいでいる。あそこが源流だよ」
そう言うとアグレイさんは池に入り、源流の近くに生えている植物を採り始めた。水面を歩いているように見えるが、気のせいかな?
その植物は水中に生え、葉を水面に出している。僕は岸から採れる物を引っこ抜いた、見覚えのある植物だ。
葉は丸く茎は長い、根は太くニンジンぐらいだが、表面はゴツゴツしている。
ワサビだ!
この世界に、ワサビがあるとは、初めて見る野生のワサビをながめていると、アグレイさんが戻ってきた。やはり水面を歩いている。
魔法?エルフの力?驚く事が多くて、混乱しそうだ。
「このハーブは採れたてを生で食べるのが一番美味しいんだよ」
ナイフを取り出し表面を削り、笑顔でワサビを差し出す。
その顔は完全にアレを期待している。
過去に何度もテレビで見てきた、あきるほど見てきた、芸人さん御用達のアレだ、今まさにエルフが『どうぞどうぞ』と言っている。
ヤルしかない、覚悟を決めて一口かじる。
意外と辛くない、むしろ爽やかなワサビの風味が、口の中に広がり鼻を抜ける。
「美味しいですね、アガ!!!」
「アハハハハハ!」
涙を流しながら、慌てて水を飲み口をゆすぐ、ワサビの辛さは遅れてやってくる事を忘れていた。
「大丈夫だよ、辛いだけだから」
「ちょっと待ってくださいよー、なんて事するんですかー」
「アハハハハハ!」
お約束なので言わなければと思ったが、少し間違えてしまった。
「すまない、そんなに豪快に食べた人は、初めてだよ。アハハハハハ」
「アハハハハハ」
笑い声が山中に響く。
山を下り薬局へ、庭でバーベキューの準備が出来ていた。
採れた山菜は茹でてアクをとり、ひき肉と炒める。残りはビンに詰めて、オイル漬けにする。
ワサビは細切りにして、焼いた肉で包んで食べる。
「うまい!」
「源流まで行って採って来た甲斐があるわね」
「行ったのはアグレイさんとショウ君でしょ」
「ショウ!これは、そのまま食べても美味しいよ」
「それは山でやったから、もうやらない」
「なかなか、ゆかいだったよ」
「悪いエルフねー」
エールを飲みながら盛り上がる。エールとはビールに似たお酒で泡が出るが、少し酸味がありレモンサワーに似ている。
この国では15歳で成人なので、法律上の問題もない。
「エストーニャ産のワインもあるよ」
「まぁ!すごい」
「肉に合いますね」
「ショウちゃん、明日は依頼があるから飲みすぎちゃだめよ」
すっかり日も暮れ辺りは真っ暗、ランプの明かりを頼りに宿へと帰る。
肌寒さが酔った体に心地いい、今日は楽しかった、良い人達にめぐり合えた。
先が見えないから人生は面白い、自分の中で何かが変わろうとしている。
そんな気がした。




