宝石泥棒は恋敵(3)
「アグレイさん、白夜の事セシリアさんに聞きました」
「そうか、このまま君が使ってくれ、私には重すぎる剣だ」
「はい、ハイドと言う魔族は必ず僕を狙ってきます」
「そうだね、魔族は人間を嬲り殺す嗜好がある」
「え、ナブリコロス」
「つまり、直ぐには殺さない、生きていれば必ず好機が来る、それまで耐えろ」
「わ、わかりました」
予言の様な言葉に恐れを感じた。
打ち合わせが終わり、明日の決戦に備え、それぞれが準備に入る。
トロアさんの魔導具店の見学は後日になり、エミリさんとアグレイさんは『そんな野暮な事はしない』と言って別行動、サンドラは『リコ、息を止めないで、呼吸した方が痛くないらしいよ』と言っていた。
僕達は昨日、途中止めになった都見物に出かけた。
「ねえ、ショウ」
「なに?」
「アレクは本当に悪い人なのかな」
「泥棒だから」
「でも、怪我をしたサンドラを助けたよ」
「!そうだね、じゃあ、明日リコも一緒に来る?」
「え?いいの」
「大丈夫、リコが1人でいるより安全だよ。それに王宮に入れる機会は、まず無いよ」
「ありがとう!最高の誕生日になるね」
おそらくアレクは魔族ではない。
魔族ならサンドラを助けたりしない。それに回復魔法、足が速くなる魔法、僕もルキアの魔法で運動能力が飛躍的に上がった。
悪い人かどうかは分らないが、聖術士で強奪を好まない泥棒だと思う。
「リコ、誕生日プレゼントは明日、報酬をもらってから買う予定なんだ」
「えー、そういう時は遅れちゃ駄目なのよ」
「ごめん、考えすぎて決まらなくて、それに少しでもいい物を贈りたいから」
「私は高くなくても平気なのに」
「今日は一緒にプレゼントを選んでよ」
「ショウって変な所が不器用ね」
本当はプレゼントは既に買ってある。
しかし、エミリさんの話しを聞いて、髪飾りでは駄目だと気付いた。基本は指輪だが、サイズが分らない。婚約指輪を贈る人は、いつサイズを確認してるのだろう。
初めての経験に戸惑いながら、ヴァンが用心棒をしている宝石店へ向かった。
「おや、ヴァンは今日休みだよ、明日も別の仕事だから明後日だな」
「あの、今日は指輪を買いに来ました」
「失礼しました、どういった物がご希望でございますか」
「見ての通り、お金がないので、10Gから20Gでお願いします」
「そういたしますと種類は限られます」
『ショウ、無理しないでよ』
店員は3種類の指輪を出してきた。
プラチナ素材の細い指輪12G、ゴールド素材の細い指輪16G、プラチナ素材の細い指輪にダイヤモンドいかにも婚約指輪24Gだった。僕的には、いかにも婚約指輪が良いと思う。
「どれにする?」
「これ」
プラチナ素材の細い指輪12Gにアッサリ決定した。
「では、これをお願いします」
「かしこまりました。サイズ測定をいたします」
指のサイズを測る指輪がジャラジャラと音を立てながら出てきた。
2つほど指にはめ直して、サイズ測定は終了した。さすがプロ。
「明日の夕方には仕上がります」
「僕はヴァンと同じ仕事をするので、明後日取りに来ます」
「かしこまりました」
「内金は5Gでいいですか」
「ありがとうございます。では、残り7Gとお渡しは明後日の予定ですね」
「よろしくお願いします」
婚約指輪を数分で買った人間はいるのだろうか。
店員にお見送りされながら店を出る。
「ショウ、私は高くなくても平気って言ったのに」
「一生使える物だし、今更、後戻りは出来ないよ」
「一生かぁ、そうだね」
ご機嫌のリコと楽しい都見物を再開した。
夕食の後サウナに行き、明日の決戦に備え早めの就寝の予定だった。
寝間着に着替えて、それぞれのベッドに入るはずが、リコは立ったまま僕の方を見ている。
「どうしたの?」
「あの、ショウ・・・今日はありがとう」
「大丈夫だよ、明日に備えて早く寝よう」
「もう、ショウって変な所が不器用ね」
「?・・・?」
「初めてキスした時もそうだった」
「?・・・?」
「女の子から、言わせないでよ」
リコは僕のベッドに入った。
流石の僕も理解した。結婚まで貞操を守ると思っていたので、心の準備はまだ出来ていない。
蒸し暑い夏の夜に、2人の汗が互いを包み、交じり合った。
城門の兵士に軍からの手紙を見せた。
若い2人が軍の依頼書を持ってきた事に、兵士達がなぜか慌てている。学術研究会では直ぐに入れたんだが・・・。
「すみません、御名前は?」
「ショウです。こっちは助手のリコ」
「以前に王宮への出入りはありますか?」
「王宮はないけど、学術研究会の時に来ました」
兵士の詰所に確認して、こっちに来て確認してを繰り返す。
「おやおや、ショウ殿は門番に転職かな」
「トロアさん、確認作業に手間取ってるみたいです」
「ドラゴンキラーの名も、ここまでは届いてないかな」
「その名前、好きじゃないです。竜族とは仲良くなったので」
「そうかのぉ、顔と名が売れると仕事がしやすいぞ」
トロアさんは兵士の詰所に入って行った。
サンドラは大きなリュックを背負い、変わった靴底のブーツを履いている。靴底が大きな筒状の楕円形をしている、あれが足が速くなる靴かな。
『で、それで、そうなの、どうなったの』
『でね、それから、やっぱり痛くて、まだ歩き難いよ』
『そうなんだ、先輩、参考になります』
トロアさんが帰って来た。
顔パスで入るのかな、簡単に王宮に入るなんて普通に出来ないと思うけど。
「王宮の近衛兵が来るまで待機じゃ」
「了解です。アグレイさんとエミリさんも見えますよ。ほら」
「うむ、手間が省けたわ」
アグレイさんとエミリさんもこちらに気付いて、手を振っている。
「なんだショウ、リコを連れて来たのか」
「昨日までの話しで、危険はないと思って」
「そうですよ、アレクの事件で怪我した人はいませんよ。私達、以外は」
「まあ、問題ないか」
近衛兵が来た、アグレイさん以外、キョロキョロしながら近衛兵について行く。
宮殿の入り口は白い石造りのアーチで、床は大理石、美しいステンドグラスが幾何学模様を描いている。
「あのステンドグラス、魔法陣じゃな」
「どんな効果があるんですか」
「光だ。おそらく、夜光る仕組みじゃろう」
「流石、王宮はランプの必要なしですか」
宮殿内の広間に通された。
総司令官のドレーゼンさん、ヴァン、テル、ルキアがいる。マナがいないけど、どうしたのかな。




