表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術師見習いです。  作者: ダグラス
4/63

新人冒険者(3)

 宿屋の窓にはカーテンがない、ガラスは磨りガラスなので外は見えないが、光は入ってくるため朝日と共に起きてしまう。

 僕は装備を整える、ドタドタと他の冒険者が動き出す音が響いて来る。


「おはよう」

「おはよう、起こした?」

「周りの方がうるさいよ」


 マナが起きた、他の3人はまだ寝ている。

 ベルトに矢筒を結び、弓を肩にかけ、準備完了。


「もう、行くの?」

「山菜採りだから、早い方がいいしょ」

「そう、あの、ショウ君」

「ん?」

「いや、あの、いってらっしゃい」

「いってきます」


 僕がチームから外れることを、提案したのはマナだ。そのことを気にしているのだろう。しかしそれは、会計役として当然の判断だ。僕も同じことを考えていたし、マナのおかげで決断できた。

 その直後、マナが風邪をひいて寝込んだ。薬局で薬として上級回復薬をすすめられた、金額は20G!

 お金が足りなかったので、僕は自分の弓をタリムさんに預けた、薬代を払い終えたら返してもらう約束で、タリムさんとは、それ以来の付き合いだ。


 薬局に着くと、店の前に馬車が止まっていた。大きな馬が2頭、桶に入った干草を食べている。

 お店の入り口には「本日休業」の看板が掛けてある。中をのぞくと人影が見えた、鍵はかかっていなかったので、中に入る。


「ショウちゃん!おはよう」

「おはようございます」

「おはよう、この子?」

「そうよ、とってもいい子なの」


 お店にはタリムさんともう1人、美しい顔立ちの若者が立っていた、堀の深い顔だが優しく気高い印象で、長い金髪を後で束ね、耳が長くとんがっている。

 この世界に来て初めて見る異種族、エルフだ。


「エルフを見るのは初めてかい?」

「す、す、すみません」

「この大陸ではエルフは少ないから、なれているよ」


 上下皮の服に鉄の胸当、ベルトに矢筒を結び、弓を肩にかけている。

 僕と同じ装備だが、着こなしの格が違う。


「この子がさっき言ったショウちゃん、こちらがアグレイさん、旅の商人、行商をされているの」

「アグレイです、よろしく」

「ショ、ショウです、よろしくお願いします」

「そんなに硬くならないで、アグレイさんの奥さんは私の師匠なのよ」


 アグレイさんと握手を交わす、エルフに初めて会って緊張しない人間がいるのだろうか。タリムさんの師匠の夫ってことは、歳は?エルフは長寿というのは本当なんだろう。


「ポール!帽子を被りなさい!」

「あとでー!アグレイさーん!」


 店の奥から元気な声が走ってくる、タリムさんの息子、ポールだ。


「ポール、大きくなったね」

「えへへ!」

「ポール、ごあいさつ!」

「おはようございます!アグレイさん!」

「おはよう」

「あ!ショウもいる!」


 ポールは10歳、年下なのにタメ口だ、32歳の男に10歳の少年が、と言いたいが15歳の体なので、タリムさんも注意しない。

 5歳年上なんだけど・・・


「皆さん、お待たせしました」

「これでみんな、そろったわね。ショウちゃんエルザの荷物を持ってあげて」

「はい」

「よろしくね、みんなのお弁当が入ってるから」


 奥さんの荷物を預かり、大きなカゴを背負い、エルザさんがポールに帽子を被せて出発。馬車で行くのかと思っていたが、歩きだった。

 僕が薬草を採っている川原を上流に向けて歩く、その先にアルス川の支流があり、支流を登って行く。

 アルス川は西から東に流れ、さらに大きな河へ合流する。


「なるほど、新人冒険者はお金に苦労するのかぁ」

「この辺りは魔物も弱いんですが、報酬も少なくて・・・」

「でも、弓を持っているなら、もう20G貯めたのだろう」

「まだなんですが、タリムさんが持ってて良いって」

「ショウちゃんの男気に惚れたのよ」

「まさしく男気だな」


 川原を登りながら、僕の話しで盛り上がる。矢を折らずに使う方法を聞いたが、難しいそうだ。

 川原登りから沢登りに変わってくる。


「この木よ、この木の新芽を摘むのよ」

「あのハーブの花は毒消し薬の元になるんだ」

「これは葉っぱだけ採ってね」

「ショウ!どっちがたくさん採るか競争な!」

「ポール、全部採っちゃだめよ、少し残すのがマナーですよ」


 お目当ての山菜やハーブを採りながら登って行く。僕はお弁当の入ったカバンに注意しながらついて行く。大きな岩が増えてきた、ポールは飛び跳ねるように登っている。


「転ばないでよー」

「もう少し登れば滝があるの、そこでランチにしましょう」


 いつの間にか太陽が真上に来ている、沢は涼しく風が気持ちいい。

 滝に着いた、滝と言ってもかなり小さい、水量も少なく打たせ湯ぐらいの水が滝つぼに落ちている。


「今年は水が少ないわね」

「雨が少なかったから」

「ショウ君こっちに持ってきて」


 大きな木の下でお弁当を広げる、岩がテーブル代わりだ。

 アグレイさんは水を汲みに滝つぼへ、タリムさんは枯れ木を集める。僕も枯れ木集めを手伝い、火魔法で火をつける。


「あら、すごいじゃない」

「魔道書を読んでいるので、初級の魔法は使えます」

「それだけで魔法が使えるなんて、驚きだな」

「え?そうなんですか?」


 タリムさんとアグレイさんが、目を丸くして驚いている。

 この世界では魔法はあるが、一般的ではないらしい。長年の修行や知識の積み重ねで出来るようになる。

 つまり、『魔道書を読んでいるので、初級の魔法は使えます』は普通ではありえない答えなのだ。


「あなたお湯はまだ?早くランチにしましょう」

「もうすぐよ」

「ポール、手を洗って」

「はーい」


 滝つぼで手を洗い、ランチタイム。エルザさんのサンドイッチは、とても美味しいのだが、アグレイさんが険しい顔で、こちらを見ていたので・・・


「この先に素敵なハーブが生えている場所があるの。でもね、道が険しいから、ポールはまだ無理なの」

「私とショウ君で行ってきますよ」

「えー!僕も行きたい!」

「ポール、来年は一緒に行こう」


 ポールはしぶしぶ両親に連れられて帰って行った。

 3人が見えなくなり、アグレイさんと2人になる。


「どうしたんです、アグレイさん!」

「君に聞きたい事がある!」


 アグレイさんは弓を引き絞っている、恐ろしいほど険しい顔で・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ