トシノハジメ(3)
「セシリアさん、光魔導具を貸して下さい」
「いいわよ、それと武器も貸すわ」
「矢は10本あるので、大丈夫ですよ」
「王都のダンジョンは強い幻獣がいるのよ」
「知ってるんですか?」
「フフフ、この剣を持っていきなさい」
白い鞘に入った片手剣を渡された。
鋭く尖った切先、細く長い両刃の剣だ。刀身は白く、文字が彫られていて、かすかに光を発している。
「名前は白夜、アグレイが若い頃、使っていたものよ」
「借りていんですか、大事なものじゃ」
「いいのよ、彼は使わなから」
「ありがとうございます、大切に使います」
「この剣は双子なの」
「剣が双子?」
白夜は対となる極夜と同時に作られた。
白夜は光、極夜は闇、それぞれの力を宿している。
「極夜はアグレイの兄が使っていたの、300年前の戦で死んだわ」
「極夜はどうなったんですか」
「行方不明よ、アグレイは旅をしながら、極夜を探しているの」
「300年も」
「本人は認めないけど、兄の形見だから」
思い出の剣をたくされた。
セシリアさんは直接言わなかったが、僕に白夜の兄を探して欲しいのだろう。
300年前の戦争で王国軍にエルフが協力した、戦士の遺品を軍が管理している可能性がある。
「いた!ゴブリンだ、あいつ等は弱いから、一撃で倒せるよ」
「服、着てるけど」
「幻獣だからね、倒せば服も消えるよ」
「ほんとだ、消えた!」
「一定以上のダメージを与えると消えるよ」
「石の斧も消えた!」
「幻獣だからね、魔石を拾って次だ」
ダンジョンの先輩として、仲間に説明をしながら進んで行く。
ダンジョンの中は石造りの地下道が迷路のようになっていた。通路は広く天井も高い、テルの槍も問題無く使える。
「完全にゲームだな」
「遊園地にあったら、人気のアトラクションだね」
「奥に行くと幻獣が強くなるから、気を付けて進もう」
「この石は売れるのか?」
「売れるけど、かなり安かったよ」
幻獣を倒しながら地下道を進む。
調査の目的は、最下層に出現する幻獣の種類を調べる事。取って付けたような調査目的に、他の仲間達も疑問を持っていた。
しかし、報酬が1人30Gと聞き、疑問がどこかへ行ってしまった。
「迷路がめんどくさいな」
「分かれて進むか」
「私は攻撃力ないよー」
「私も1人は、暗いし」
協議の結果、僕とマナ、テルとルキア、ヴァンは1人で進む事にした。
「階段を見つけたら声で知らせる、行き止まりの道には魔石を並べて無駄を省く」
「了解!」
手分けをして下への階段を探す。
地下6階、迷路が複雑になり幻獣も強くなってきた。
「ショウ君ごめん、ガイコツの幻獣はショウ君が倒して、気持ち悪くて」
「いいよ、矢が当たりにくいから、新武器登場です」
「すごい、剣が光ってる」
「白夜は光の魔力が宿してあるから」
白夜の切れ味のおかげで、強くなってきた幻獣も問題なく倒せる。
通路を進むと空間が広がった。
「なんだ、ここは」
「ダンスホールみたい」
円形のホール周りを階段状の客席が囲んでいる。
ダンスホールのような上品なものではない、これはコロシアム、闘技場だ。
「ようこそ勇者様!」
「!?」
闘技場の客席に人影が見えた。
「ショウ君、あの人変よ、魔力が」
「僕達に何か用ですか」
人影が客席から降りてくる。
僕は剣を抜いた。
「君に興味があってね」
「興味って?王国軍の人じゃなさそうだね」
「同じ弓使いとしての興味だよ」
相手が近づいて来る。
白い髪に灰色の肌、黒いコートを着て肩に弓をかけている。
「僕の名前はハイド、職業は弓術士、君は?」
「ショウです」
「どうして弓をかまえないの、弓を人に向けるのが怖いのかな」
「どういう意味ですか」
男は不気味な笑顔で立っている。
「ポルトトでは僕の部下がお世話になったね」
「人さらいの仲間なのか」
「女の子が勝手に付いて来たんだよ、それを殺して奪ったのは君だろ」
「随分な言い草ですね、人さらいの分際で!」
「ショウ君、この人、人間じゃないよ」
男が弓をかまえた。
「マナさがって」
「遅いよ」
男が矢を放った。
矢は僕の左肩に刺さった。
「うっ!」
「ショウ君!」
「さて、次は剣だ」
男は剣を抜き、斬りかかて来た。
僕も剣で応戦する。
動く度に左肩に激痛が走る
「いい剣だね、極夜が喜んでいるよ」
「!」
鋭く尖った切先、細く長い両刃の剣、刀身は黒い。
「まさか」
「考え事かい、余裕だね」
男の剣が僕の脇腹を切り裂く。
血があふれ出てくる。
「ぐっ!」
「ごめん、ごめん、峰打ちのつもりが、こいつは両刃だった」
その時、辺りが明るくなった。
炎の柱が男を包んむ。
「ショウ君、さがって」
「マナ」
マナの魔法が男を焼く。
「助かったよ」
「いいから、回復薬はどこ?」
回復薬を飲み、血は止まった。
炎の柱が消えていく。
「お嬢さん、随分、乱暴だね」
僕は男に斬りかかった。
男は大きく後に飛び、剣をかわした。
「ハイドちゃん、油断しすぎ!」
「うるさいな!」
どこからか、女の子の声がする。
「こっちは終わったよ、早く帰ろう」
「わかったよ」
男が闇に消えていく。
「ショウ、また会おう」
静かな空間に戻った。
「なんだったの、ショウ君をねらってたの」
「たぶん、ポルトトの事件に関係してる」
足音が近づいて来る。
僕達は足音のする方を警戒する。
「ショウ、マナ、階段は見付かった?」
「ヴァン君、脅かさないでよ」
「?なにが?」




