不便な捜索隊(1)
秋が深まり日中でも肌寒く感じる、遠くに見える山々も色付いている。
時々、ニュースキャスターが『日本には四季がある』と言うが、四季は世界中にある。もちろん、異世界にもある。もっと広い視野で、物事を見るべきだ。
僕は船の甲板から、広い視野で世界を見ている。船酔い対策だ。
この船はアルストリアから港町ポルトトへ向かう定期便で、ミドラスト河を下り、3日でポルトトに着く予定。
大きな船で、甲板はテニスコートぐらいあり、たくさんの荷物と人が乗っている。
動力は風と人力、風がない時は長いオールで船をこぐ、下りは120S、最近20S値上がりしたらしい。上りは6G、下りより上りが高い理由は、河が流れているから。
僕はある人を探すため、港町ポルトトへ向かっている。
あれは今から2ヶ月前の夏、仕事を覚えて、来客への対応も出来るようになり、錬金術の修行も順調で、自分に自信がついてきた頃だった。
「セシリアさんは?」
「今は調剤室にいるはずです」
表の窓拭きをしていると、男性に声を掛けられた。
店にとおして、セシリアさんを呼ぶ、男性はソワソワして、落ち着きがない。
「あら、お隣の」
「セシリアさん、あんたに頼みがある!」
「トーマスさん、落ち着いて」
「男が嫌いになる薬を作ってくれ!」
男性はセシリアさんに飛び掛る勢いで迫った。
「トーマスさん、落ち着いて、何があったのか話して」
「娘が、娘が、花屋のドラ息子に騙されたんだ」
「ダリルちゃんは、まじめに花屋で働いているわよ」
「娘があいつと結婚すると言い出して、わしが反対したら、家を出て行くと、頼む娘の目を覚ましてくれ」
トーマスさんが必死に話していると、ドアが乱暴に開き、隣の花屋のおばさんが入って来た。
「あんたの娘があたしの息子を誑かしたんでしょ!」
「なんだと!娘はまだ13歳だぞ」
「フローラさん、トーマスさん、落ち着いて」
フローラさん隣の花屋で、トーマスさんは隣の道具屋だ。
花屋の息子ダリルは、かなりの遊び人で、かわいい子には、すぐに花束を渡す。数多くの女性に手を出している、モテ男。
道具屋の娘リコは、大人しい印象で、会えば挨拶をするが話した事はない。
ご近所さんなので、仲がいいと思っていたが、付き合っていたとは。
「まず、人を嫌いになる薬は、ありません」
「そこを」
「聞きなさい!
リコちゃんは、あと2年で成人でしょ、それまで様子を見みて、それでも気が変わらなければ、結婚を許してあげれば」
「しかし、ひとり娘を嫁にやる訳には」
「うちだって、跡取り息子よ、婿に出せる訳ないでしょ」
「あんたには、娘が2人いるだろ」
「2人とも、お嫁に行ってるわよ、あなたがここで薬をもらって、もう1人作りなさいよ」
「なんだと!そもそも、あんたの息子との結婚を許すつもりはないぞ」
「それはこちらの台詞よ!」
セシリアさんは、関係ない跡取り問題に、頭を抱えている。
「あの、横からすみません、お互いの娘と息子を、交換したらどうでしょう」
「小僧が何を言っている」
「ショウちゃん!それ、良いわね」
「道具屋の娘さんが花屋で、花屋の息子さんが道具屋で、それぞれ働いて、問題なければ結婚させて、両方経営してもらったら」
「それぞれの仕事の厳しさが分れば、諦めるかもしれないわよ」
「あんな根性なし、すぐに追い出してやる」
「こっちだって、いびり倒してやる」
作戦は実行され、お互い頑張って働いていたのだが、ダリルが逃げ出した。
探していると、船着場からダリルが、ポルトトへ向かう定期便に乗ったとの、情報があったため、提案者の責任として、僕がダリルを迎えに行く破目になった。
「どうして、30前の男を迎えに行く、必要があるんですか?」
「ダリルは道具屋のお金を盗んで、出て行ったんだ」
「あちゃー」
「お金の事は手切れ金として、話しは終わってる」
「じゃ、ほっといても」
「フローラさんの為だ、ご近所さんとは上手く付き合わないと」
「ダリルが嫌がったら、どうするんですか」
「ダリルは先の事を考えない性格でな、港町でお金を使い果たしているはずだ」
「そこを見付けて、おうちへ帰ろう、ですか」
「冒険者ギルドで、人探しの依頼を出せば、簡単だろう」
旅費は花屋のフローラさんが出してくれた。いくつになっても、息子がかわいいのだろう。
食費はセシリアさんにもらったし、出発前には、トーマスさんが来て金貨を1枚くれた。
「君のおかげで、娘の目が覚めたよ」
「すみません、お店のお金の事、聞きました」
「気にするな、美味い物でも食べて、見つからなかったら、すぐ帰ってきなさい」
「笑えないですよ」
「娼館は大抵、金貨1枚だ、こいつで楽しんで来い」
僕は給料をもらっている、衣、食、住の衣は自分で用意するため、月に2G、服にお金をかけるほど、オシャレではないので、3Gぐらい貯まっている。
楽しい初めての1人旅になりそうだ。
こうして、始まった船旅だが、船酔いで順風満帆とは行かない、だけではない。
「ショウさん、お水もらって来ました」
「リコちゃん、ありがとう」
「あと2日、大丈夫ですか」
「違う意味で、大丈夫じゃないです」
「ごめんなさい、でも、どうしても彼に会いたくて」
道具屋の娘リコが船に乗っていたのだ。もちろん密航者だ、船員と交渉したが、引き返す事はもちろん、小船を出すことも出来なかった。罰金を請求されたが、手違い、勘違い、未成年を連呼して、150Sで許してもらった。
リコちゃんは降りないと言って泣き出すし、連絡手段もない為、とりあえずポルトトへ行く。
しかし、行っても帰りの交通費が足りない。ダリルを諦めて2人で帰るか、ダリルがお金を使い果たしていない事を祈るしかない。
未成年の家出少女を連れて、僕は広い視野で、遠くの景色を眺めている。




