アルストリア(2)
「ほら、恥ずかしがらないで、全部脱ぐのよ」
「下着も、ですか?」
「だから全部だって」
僕は今、全裸で立っている。
ランプの光に照らされながら、セシリアさんとエミリさんに観察をされている。
「骨格や筋肉の付き方、どれも人間と同じだわ」
「生殖器も同じだ」
「あの、人間なんですけど」
僕の話しは聞いてくれない。
体の表面だけでなく、口の中、耳の中、肛門まで、恥ずかしい観察をされている。
エルフの朝は早い、夜明け前に起こされた。
早朝から畑に行き、ハーブの手入れをする。畑は、1時間近く歩いて行かねばならない。
クワなどの農作業の道具は重く、荷物持ちだけでも大変だった。
ハーブはそれぞれ、手入れ方法や収穫の仕方があるので、まずはやり方を見て覚える。
「強く引っ張ると、根から抜けてしまう、つねるように採るんだ」
「こうですか?」
「まあ、いいだろう、クズグズしてると昼になるぞ」
農作業の経験はない、花壇の手入れを手伝った事はあるが、作業の面積が桁違いで、帰り道は老人のように、歩いていた。
昼食は屋台で食べる、この国は朝食を食べる文化がないようだ。
昼食後はお店の手伝い、と言っても掃除が仕事、棚の中は触ってはいけない。午後はお客が少ない時間帯なのか、来店客はまばら、表の窓拭きをしている時に、隣の花屋のおばさんに話しかけられた。
「あら、新しいお弟子さん?」
「はい、そうです、昨日アルストリアに来ました。ショウと言います、よろしくお願いします」
「出身はどこなの?」
「アルスウエストです」
「え!タリムちゃんの息子さん?」
「いえ、タリムさんの紹介です、ポールは10歳ですよ」
「そうね、あなた歳は?」
「15歳です」
「若いのに大変ねー、それじゃ、がんばてね」
「ありがとうございます」
とりあえず話しを合わせる。
隣の花屋は繁盛しているようで、お客さんの出入りが多い。
夕方から買出しの荷物持ちをして、夕食の支度を手伝う。昨日はお客さん扱いだったが、今日からは違う。
「海沿い出身だろ、魚が捌けないなんて」
「魚は捌いた状態で、売っているので」
「そんな売り方をしたら、腐りやすくなるだろ」
「冷蔵庫があるので、冷やして売ってます」
「貴族か!」
氷魔法は水魔法の上位、そのため使えるのは、貴族のお抱え魔術士ぐらいで、贅沢を通り越しているらしい。
この世界で日常的に魔法を使う人は少ないため、かまどに火をつける時に火魔法を使ったら、やはり驚かれた。
「それは馬がいらない馬車と考えていいのか?」
「そうですね、ガソリンでエンジンを動かして走ります」
「そのガソリンは魔石のようだな、エンジンは、魔導具かな」
「魔石?魔導具?」
「魔導具は魔力を流すと特定の効果をだす道具だ、魔石は魔力が結晶化したものだ」
「それがあれば、魚を冷やして保存できますか?」
「出来ると思うが、魔力を流し続ける必要がある」
「なるほど」
魔力は、ガソリンや電気のように、エネルギー源と考えられる。火魔法を使うとき『魔力を燃料にして燃やす、魔力の量を調整し炎の大きさを操る』以前読んだ、魔導書にも書いてあった。
「楽しそうですけど、夕食はまだかしら」
「ママお店は?」
「閉店の時間は過ぎてるわ、ショウちゃん、こっちを手伝って」
「はい、すみません」
夕食の間もいろいろ聞かれた、飛行機や電話の話しが興味をひいた。
「空を飛べるなんて、素敵ね」
「通信魔導具はあるぞ、軍隊が緊急時に使っている」
「あれは、文字が浮かんでくる魔導具よ、声が出るなんて想像できないわ」
「声が出る原理は、僕も知りません」
どんな原理で動いているのか、分らずに使っている電化製品はたくさんある。説明したくても限界がある。
「今日はサウナに行く日なの、ショウちゃん、手ぬぐいを持ってらっしゃい」
「はい」
「2枚あると便利だぞ」
この世界に来てから、体を拭くだけだったので、嬉しい限りだ。
商店街の裏通りに、サウナ屋さんがあった、木製の建物なので日本の銭湯に似ている。入り口で10Sコインを3枚渡し、中へ入る。
脱衣所があり、その奥がサウナなのだが、男性も女性もいる。
「え?男女一緒ですか?」
「当たり前だろ、おまえの国は変わってるな」
「しっ!ショウちゃんの国の事は、外では内緒よ」
全裸の男女がベンチに座って談笑している。
脱衣所はランプの明かりだけなので、丸見えではないものの、やっぱり見えてしまう。エミリさんは胸と腰に手ぬぐいを巻いている。少し残念だった。
サウナの中は、薪ストーブの上に石が重ねてあり、そこに水をかけて蒸気で暖め汗をかく、フィンランドスタイルだ、フィンランドのサウナも混浴が当たり前と聞いた事があるが、本当だろうか。
「あんまり、キョロキョロするんじゃない」
「すみません」
人との距離が近いため、ひそひそ話しも聞こえそうだ。
汗をかいたら外に出て水浴びをして、また汗をかく、それを繰り返して体の汚れと疲れをとる。久しぶりに、心と体が癒された。
家に戻り、ハーブティーを飲んでいると。
「ショウちゃんの体、綺麗だったわね」
「若返った体を見た時は、自分でも驚きました」
「そこなのよね」
「?」
「高度な魔法や儀式を行えば、異世界から召喚はできると思うの」
「若返った人間なんて聞いた事がないんだ」
「若返るって事は、時間が戻る事でしょ、時間を操るなんて・・・」
「ショウの体を調べて見る必要があるな」
「そうね、さっそく実験室に行きましょう」
この家には地下室がある、本来は戦争などで、敵兵が攻めて来た時に、隠れるための物だが、300年ほど戦争が無いので、今は実験室として使っている。
学校の化学室で見た事のある道具が並んでいる。
「男の子は、まだ背が伸びる歳よね」
「年齢相応の体だが、ホクロがない」
「肩の所とへその上に、あったんですけど」
「興味深いわね、ホクロが消えるなんて」
「下も脱いでくれ」
「え?下も」
「さっきサウナで、脱いだだろう」
確かにそうだが、これは状況が違いすぎる。




