アルストリア(1)
アルス川は谷間を、蛇行しながら下流へ流れていき、やがてミドラスト河に合流する。ミドラスト河は、この大陸の真ん中を流れる大河で、河の上流は魔王のいる、死の山まで続いている。
アルス川とミドラスト河の合流地点に、河を挟んで2つの町がある。
西側がアルストリア、東側がミドラトリア、どちらの町にも船着場があり、交易が盛んな町だ。僕がお世話になる薬局は、アルストリアにある。
「川向こうが、ミドラトリア、そのさらに東が王都シルティアだよ」
「2つの町は、仲が悪いんですか」
「よく分かるね、そのとおりだよ」
「王都側が威張ってそうで」
それも正解だった。
ミドラトリアは、王都と海にある港町をつなぐ交易の要所、アルストリアは山の木材が主な交易品だったため、ミドラトリアと比べると、小さな町だった。
しかし近年、アルスウエストで鉄鉱石の鉱山が見つかったため、鉄製品を陸路でアルストリアへ運び、そこから河を渡るようになる。
「今ではアルストリアの方が栄えているよ」
「それだと川向こうは、機嫌が悪いですね」
「いまだに、山猿あつかいだよ」
「それは、ひどい」
アルストリアに着いた。
町の郊外には、レンガ造りの建物が並び、全部て鍛冶屋だ。木造の建物は住宅や商店で、どれも新しい。町の中心部は家具屋が多い。
「鍛冶屋は分るけど、なぜ家具屋が多いんですか」
「丸太は重いから、加工してから売るのさ」
「かさばると思うけど」
「重いと馬じゃ運べないよ、丸太は川を使って運んでいるよ」
「なるほど」
「さあ、着いたよ」
町の目抜き通り商店街の中、道具屋と花屋にはさまれて、その店はあった。
『魔女の薬』
石造りの建物で、窓には鉄格子、扉は木製だが鉄で補強されている。
隣が花屋だから、余計に暗い印象のする店だ。
「セシリア、ただいま」
「どうしたの、時間の流れが変わったのかしら?」
「タリムの店によったら、面白い子を見つけてね」
「その子が?」
「ショウです、よろしくお願いします」
店の中も薄暗く、木製の棚が並んでいる。
古風な雑貨屋のように見えるが、商品はビンに入った液体が多い。
「ショウ君は、異世界人だよ」
「異世界?」
「異世界から、こっちに召喚されて、歳は15だけど召喚前は」
「32歳でした」
セシリアさんは僕をジロジロと見ている。金髪のロングヘアーの美人で鼻がかなり高い、魔女のイメージはあるが綺麗すぎる。
アグレイさんが僕の総合能力値の証明書を見せた。
「・・・・・なるほど、確かに面白いわね」
「君の研究に役立つと思ってね、住み込みで雇ってくれ」
「そうね、それじゃ、質問いいかしら?」
「はい」
「船はなぜ、水に浮くでしょう?」
「えっと、船の中に空気があるから、水圧より気圧の方が低いから、えっと、水圧で押し上げられているから、浮く」
「いいわ、合格よ」
採用試験はあっさり合格。
ここに来るまでの経緯を話した。セシリアさんのしゃべり方は、タリムさんのそれに似ている。
気をつけないと、うつるかもしれない。
「まずは、お部屋ね。エミリ!ちょっと出てきてちょうだい!」
「ママ、聞こえてる」
「娘のエミリよ」
「パパ、今度は異世界にいったの?」
「違うよ、王都の召喚師の仕業だよ」
カウンターの奥、調剤室から女の子が顔をのぞかせる。
エルフの美少女だ、長い髪を左右で束ねている。セシリアさんに似ているが、幼さが残るため、綺麗より可愛い印象が強い。たぶん、年上だと思うけど・・・。
「今日から弟子になった、ショウちゃんよ」
「よろしく、お願いします」
「はい、よろしく、部屋に案内するから、ついて来て」
「掃除道具も出してあげてね」
「はーい」
エミリさんについて店の奥へ、廊下を抜けて裏口から外に出る。裏庭の端に倉庫あり、そこの2階に弟子用の部屋がある。
「前の弟子が出てからだから、2年ぐらい使ってない」
「結構、きれいですよ」
「掃除道具は1階にあるから適当に使って」
「ありがとうございます」
部屋はホコリを被っているが、1人暮らしの男の部屋よりきれいだった。
1階は物置で、いろんな物がある。ほうきとちりとりを見つけ、部屋の窓をあけて掃除を始める。
しばらくすると、エミリさんがバケツと雑巾を持ってきてくれた。
「掃除が終わったら、台所にきてくれ、食事の用意をする」
「わかりました」
「なにか、質問はあるか?」
「トイレはどこですか」
トイレは裏口の隣、簡単に家の案内をしてもらい、掃除を再開した。
その後、エミリさんと夕食の買い出しに、商店街へ出かけた。
「この町は、魚料理が多いが平気か?」
「魚は好きです、川の魚ですか」
「当たり前だろ、すぐそこに河がある」
「地元では、海の魚が多かったので」
この町は、フライパンで魚の身とハーブ炒め、そこにコーンスープを入れて煮込む料理が、伝統料理で癖が強いので、好みが分かれるそうだ。
実際に食べてみたが、別々で食べた方が、美味しいと思う。
「ショウちゃん、明日から本格的に、お仕事をしてもらうわ」
「はい、頑張ります」
「朝はハーブ畑の手入れだから、エミリに教えてもらって」
「まずは荷物持ちから頼む」
「はい、わかりました。ところで、アグレイさんは?」
「もう出かけたわ、あのエルフは、せっつくタイプなの」
「せっつく?」
「せっかち、って意味だ」
僕が掃除をしている間に、出発したらしい。
アグレイさんはワインの産地をめぐりながら、世界中を旅をしている。急ぐ旅には思えないが、性格がそうさせるのだろう。
「5年ぐらいで、戻って来るわ」
「5年も」
「エルフの時間感覚に早く慣れてくれ」
「時間感覚ですか」
「朝は早くて、夜は遅いから、そのつもりで」
エミリさんはせっつくタイプのようだ、顔は母親似で、性格は父親似なのだろう。
明日の仕事の流れを、教えてもらい、桶に入ったお湯と、ランプをもらって、自分の部屋に戻った。
自分の部屋と言っても、まだ実感はない。




