番外編 一人のお茶会 (注! 本編ではほわわんだったルイーゼが真っ暗シリアスです)
番外で、少しいれたかった双子の妹ルイーゼのお話。
本編でほわわんとしているルイーゼが実は…な感じの話ですので、病んでる感じが苦手な方、本編のほわわんルイーゼがお好きな方はご注意ください。
「今回も、違法薬物はなかった、か…」
先日、ルテールと平民たちとともにした賊討伐の調査結果が書かれた紙をめくりながら、ルイーゼは独りごちた。昼間の温かな日差しが差し込み、テーブルに置かれた十字の金細工を照らす。
ここは、ルクレシア皇国の王宮ではなかった。ルクレシア皇国ではなく、また他の国でもない場所。アクタラシア教会が所有している土地の中にある、アクタラシア本神殿の一室だ。
幼い頃、ルイーゼがルクレシア皇国に捨てられた時から、ここだけがルイーゼの居場所である。謂れのない罪で、罪人が閉じ込められる神殿に放りこまれ、ルイーゼは持って生まれた光の魔術師としての能力を呪った。
適正の少ない光の魔力を簡単に扱い、その身に魔力を膨大に貯めることができるルイーゼは、光の魔術師減少に苦しんでいたルクレシア皇国を救った。ルイーゼは国の至宝となったこと同時に、国の最弱点ともなった。なぜなら、この国の防衛魔術の五割はルイーゼたった一人の魔力に頼るようになってしまったからだ。
もしこれが他国に知られ、ルイーゼが殺されれば、ルクレシア皇国は史上最悪の事態となることは避けられない。そこで、彼らがとったルイーゼを守る方法が、適当な罪を被せて罪人用の神殿に閉じ込めるという、なんとも非道な方法だった。
国は、ルイーゼが他国には決して逃げられないように呪いのような魔術をかけた。だからこそとれた措置だった。結果としては、ルイーゼは教会に拾われ、特殊な処置をすることによって他国に渡ることができるようになったのだか。
「ああ、紅茶が冷めてしまったわ…」
資料をテーブルに置いて、冷めた紅茶を少し口にした後、ルイーゼの細い指が十字の金細工に触れた。
これを手にして、ルイーゼはルクレシア皇国の皇族という場所に戻ってきた。大切なルイーゼと双子の兄の側に戻りたかった。温かなその場所に戻れば、再び心が温かくなると思った。
その場所に戻るため、ルイーゼは様々なことをしてきた。のし上がるために、女神が厭わない方法となると、人々の心の隙間をついて策略を張るのが一番多かった。そして、それが一番、ルイーゼを冷たくしていった。
すべては、あの温かな場所に戻って、昔のようにわらいたかったから。
かしゃんと、金細工についていたチェーンがテーブルに広がる。その上に、温かな日差しが天窓から降り注いでいる。
「…ここは寒いわ」
今もルイーゼは冷たいまま。いつの間にか、この場所に囚われて、雁字搦めに縛られている。
いくら兄や従兄と笑いあっても、楽しげにしてみても、好物の物を食べたとしても埋まることがない空白がある。そこから冷気が染み出しているから、それを塞がない限りは温まることはない。
「ゼルダ、何してるかしら」
ふと思いだしたのは、北方大陸の大国、カエルレウス帝国で出会った皇子様のことだった。ルイーゼとは反対に、求められすぎて潰されてしまった彼は、一方的に求められるという面ではルイーゼと同じだった。
他国へ行くための制約を誤魔化せたとしたも、ルイーゼに施された魔術は消えることはなく、もう一つの効果として、常にルイーゼから魔力を奪い取っていく。
グリゼルダもまた、同じような魔術で国に縛られている。その苦しみを理解し合えるというのは、たとえ傷の舐め合いだとしても、心が救われることだった。もしそれが一時のことだとしても。
「また今度、手紙を出しましょ」
今日はもう王宮に帰らなければいけない。一度、ルイーゼを失ったルテールは、過剰なほどにルイーゼを大切にしてくれる。神殿での仕事だとわかっていても、日が暮れる前に帰らなければ、ルテールは気を動転させることが度々あった。
ルイーゼが冷たさを感じるようになったのも、ルテールが妹であるルイーゼに行きすぎた愛を注ぐのも、すべては父のおかした大きな罪ゆえ。
「…救いがあるといいのだけど」