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赤に染まる視界と、金の閃光



彼女は、まっすぐと背筋を伸ばして前を向く。


「さぁ、やってしてあげるからとっとと、かかってきなさい」


「……程々ニナ」


銃の激しい音がして、彼女が珍しく目をギラつかせている。

こんなに嬉々とした様子は、そう拝めるものではない。確か最後に見たのは、まだまだ新米の魔女に出逢った時の事だろう。始めの頃の魔女は、それこそ「怯えながらも毛を逆立て威嚇する子猫のようで、可愛くてしょうがなかった」と、ちょくちょくからかっては嫌がられている。


デビィにしてみれば、本気で魔女の反応を見て喜んでいただけに過ぎないのだが、そうはとられないらしい。もっとも、デビィ自身も彼女に怯えながらも反発する魔女の様子を楽しんでいる節があるので、訂正する気もないのだろうが。


「あーら。心配しなくても、分かっているわよ。こんな所で、無茶なんてしないわ」


そんな軽い返事をしながらも、ぐんぐんと重なるようにやってくる敵を葬っていく。

もし振り向くことが出来たなら、そこには死体の山が築かれていることだろうが、デビィの後ろにいるこちらにはうかがい知れない事だ。


実際には感じないはずなのに、立ち込める血のにおいや戦場独特の感触なんかも浮かんでしまい総毛立つ。硝煙のにおいは、私が生きていた時代にはなじみのないものだし、このバンバンとやかましい音も聞きなれない。それなのに、どうしても血を流しあう戦場というのは確かに通じるものがあり、嫌悪せずにはいられない。


―――嗚呼、もうどうしてこんな平和を絵にかいたような場所でこんな気持ちを味わわなければならないのかと、ここにはいない狼男に珍しく怒りがわいた。


「狼男メ……」


「んー?何か言ったかしら」


「イヤ、何デモナイ」


何でもない、事もないのだが。

珍しく見つけた暇つぶしの材料を、彼女から取り上げる訳にもいかない。


彼女は今、珍しくテレビゲームにはまっている。どうやら、前回の集まりで狼男からもらいうけたらしい。当の相手は、新しいゲーム機を手に入れたとかで、「これがあれば、どこにでも持ち運べるから、おさがりで良ければやるよ」なんて彼女に託していた。それからというもの、大画面のテレビを前に彼女は近距離でソファにも座らずゲームに熱中している。もう少し後ろにソファがあるのにどうしてなのかと聞けば、「ソファがすぐ後ろにあるから、背もたれにちょうどいいのよ」なんて、軽く返され終わった。



どうして、よりによってこんなにゾンビなる怪物が沢山でてきて、それを片っ端から始末していくゲームが面白いのかよくわからない。意外とかわいいものが好きな魔女が、この機械を奴から借りていた時は、小動物を疑似的にそだてるゲームソフトをわざわざ買って遊んでいたらしい。彼女はゲームに夢中になるあまり、可愛がっている黒猫とフランケンが寂しがってゲームを狼男へ返そうとしたらしい。そこで、いらなくなったゲーム機をデビィが「どうせ、嵐が来たら暇だから」という理由で預かって今に至る。



正直私は、魔女のように小動物を育てるゲームの方が好きだ。

幾ら本物でないとはいえ、可愛らしい子猫が成長するさまを見るのは癒やされる。


「今度狼ニ会ッタラ、毛ヲ全テ毟ッテヤル」


デビィの事だから、すぐに飽きるだろうと思っていたのになかなかコントローラーを手放さない。かれこれ十日は経っているから、前回セグウェイとかいう乗り物を一日乗り回していたころから考えれば、気に入っているのは明白だ。

彼女は、私がこういう血なまぐさいものややかましものを好かないと知っているから「別の部屋にいてもいいわよー?」なんて言ってくるのだが、勿論聞く気はない。


「デビィ?」


「んー?今、ゾンビを撃っているからちょっと待ってねー」


こちらを振り向くことなく、生返事をする彼女の背をひたすら見つめる。

そんな、同じ動作を繰り返すだけのそれのどこに、彼女を魅了するだけの威力があるのかわからない。気分屋な彼女が長く興味を持つことなどないから、こんな状況めったにない。めったにない楽しみを奪う申し訳なさも勿論あるが、一緒に別々の本を読んでいるときとはまた異なる感覚は、とても愉快とは言い難い。


「デビィ……」


「んもうー、自分は絵画に夢中で、返事すらしてくれなかった癖に!」


癇癪を起すように、バンっとコントローラーをテーブルにたたきつけた。

くるりと柔らかな金色の髪を揺らした彼女は、ガバっとソファに座っていたこちらに抱きついてきた。突然のことに驚く気持ちはあるものの、うーうー迫りくる怪物をテレビのリモコン一つでシャットダウンする。彼女も何もわざわざ一匹ずつ倒さずとも、こうして殲滅してしまえばよかったのだと、溜飲を下げた。




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