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第1話 宝物庫の埃がお似合いね

王家宝物局の朝は、磨かれた銀より先に目録札の枚数で始まる。


 私は三十二歳の献納目録官として、献納年月日、献納者、由来、保管棚、鍵番号、封蝋印の欠け方まで記録してきた。宝物は輝きで守られるのではない。記録で守られる。そう信じてきた。


「お姉さま、その埃っぽい帳面、まだ抱えていたのですか」


 義妹のセレナが、青銀の髪飾りを揺らして笑った。二十六歳。新しい宝物庫主任の飾り札を胸に付け、まるで最初から自分の席だったかのように立っている。


「今日から主任席はわたくしのものですもの。宝物庫の埃がお似合いだったお姉さまは、そろそろ棚番くらいで十分でしょう?」


「主任引き継ぎ書は見ていないわ」


「形式に拘っていては、王都では上へ行けませんよ」


 背後で婚約者オスカーが低く咳払いした。王家宝物局副補佐であり、目録の癖まで知っていたはずの男は、私と視線を合わせなかった。


「ミレイア、決裁は済んだ。今日から主任はセレナだ」


「消えた王妃献納録の件が片づいていないのに?」


「だからこそだ。管理責任は君にある」


 机の上には空欄になった貸出台帳と、破れた封筒だけが置かれていた。昨夜まで確かにあった《アーデルハイト王妃献納録・別冊》。王妃が婚礼時に持ち込んだ宝飾と、その後王家へ正式献納した品を記した重要記録だ。


「封蝋が違う」


 私は封筒の残りを持ち上げた。王家宝物局の蝋印なら、王冠の右脇に細い欠けがある。だがそこにあるのは滑らかすぎる偽印だった。


「細かいことを」とオスカーが言う。


「細かくないわ。記録を盗った人間が、封蝋まで偽造したってことよ」


「証拠は?」とセレナが肩をすくめる。「失くしたのがお姉さまだという事実しか、みんな見ておりませんわ」


 その時、別室から侍従が駆け込んできた。


「青玉の姫冠の展示札が入れ替わっています! 貸出中のはずの品が常設棚へ戻された記録になっております!」


 私は反射的に展示台帳を開いた。私が昨日付けたはずの鍵番号が、別の筆で書き換えられている。しかも主任確認欄には、私の印を真似た歪んだ印影。


「偽造です」


「見苦しい言い訳だ」とオスカーは冷たかった。


「見苦しいのは、盗んだ記録を私のせいにする方でしょう」


 局長室への呼び出しが告げられた時、セレナが耳元で囁いた。


「王都の明るい席は、綺麗な人に譲るべきよ。お姉さまは暗い宝物庫で帳面でも抱えているのがお似合い」


 私は返事をしなかった。返事の代わりに、偽印の欠け方を目に焼きつけた。


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