美味しいものと美味しいものを組み合わせれば、それは美味しい
人には属性がある。それは、その人の性格や目立った容姿、職業などが現れたものだ。
僕、大湊蓮にはそれを見る力がある。恐らく、産まれたときから備わっていたもので、それをはっきりと自覚したのはつい最近、中学二年生のことだ。
今のところ、調べられただけでは的中率100パーセント。一目見るだけで、その人がどんな属性を持っているのか、すぐに知ることが出来る。
とはいえ、この属性が付与される仕組みは謎だ。僕の脳が判別しているにしては、自分でも知らない職業や単語が並ぶこともあり、解明には時間がかかることだろう。
ちなみに、自分を鏡で見たところ、僕の属性は『変態異常者』だった。ひどい。
僕は考えた。この長所、生かさない訳にはいかないだろうと。まさに天からの贈り物、このまま腐らせておくにはもったいなさ過ぎる。
けれども、それから約2年間。中学を卒業するまで僕は、この能力の有効的な使い方を思いつかなかった。何度考えてもどう生かせばいいのか分からず、ただ日々を悶々と過ごした。
そうしていると、高校の入学式がやってきた。その日ばかりは、僕も能力のことを忘れて、新生活にワクワクしながら電車に乗り込んだものである。
天啓は突然訪れた。高校に辿り着き、クラス表が掲示された場所で自分の名前を探していると、不意に周りが騒がしいことに気づいた。
「おい……あの子、めっちゃ可愛くね?」
「マジそれな。しかもすげぇスタイル良いし、あの子と同じクラスになりてぇ~」
主に男子達が遠巻きに見守るそこには、女神が居た。
緻密に計算尽くされたような造形。何の色も感じない無表情なのに、それすらも一種神秘的に見える整いすぎた顔。ブレザーを身に纏い、ただそこに存在しているだけで他を圧倒するその存在感。どれをとっても一級品だ。
だが、僕が目を見張ったのはそこでは無かった。確かに顔もスタイルも良い。だが、テレビやネットを探せば、美人やナイスバディな人などいくらでもいる。
問題は僕の眼に映る彼女の属性だ。
『クーデレ大食い無表情天然ダウナー吸血鬼』
間違いなく、僕が見てきた中で最多だった。どんな芸能人も、3~4個が精々だったのに、彼女は6個。あまりにも多すぎる。
というか、吸血鬼ってなんだよ? 種族が違うじゃ無いか。だから、彼女の髪は銀色なのか? いや、おかしいと思ったんだ。あんなにも目立つ髪色をしているのに、誰一人としてそこを指摘しないのだから。
名前も知らない、吸血鬼らしい彼女。僕は困惑したと同時に、雷が落ちたようにハッとなった。
彼女はとても素敵だ。だが、もっと素敵になれるはずだ。例えばそう、もっと属性が増えたら……それはきっと、今よりも素晴らしい。
焦ってはいけない、今日はまだ入学式だ。彼女とはクラスも別だし、話しかける口実も無い。今はまだ、我慢の時である。
教室に向かって、番号順に並べられた席に着席する。周りを窺えば、既にグループを作り始めている人達、席に座って入学式を待つ人、寝ている人など多種多様だ。
大体が何人かで固まっていて、一人で居る人というのは多くない。。どこかに、僕と友だちになってくれそうな人は居ないのか……!
その時、隣の席に誰かが着席した。そうだ! 隣の席ということを理由にして、挨拶なり何なりをすればいいじゃないか! 例え女子であろうと、それならキモくも無い。早速、声をかけ……て。
「あ? 何見てんだよ」
「すいません何も見てません」
「チッ……」
ゴリゴリに女子でヤンキーだった。しかも、バチボコに校則違反の金髪だ。見た目は意外と幼かったけど、纏う雰囲気は同年代とは思えない威圧感があった。しかもこの塩対応だ。仲良くなるなど、ほぼ不可能だろう。
……ん? ちょっと待て、これは……いやいや、そんなまさか。
『ツンデレドジヤンキーロリ魔法少女』
「なんだよそれ最高かよ……!」
今度は言葉も無く、視線だけでジロリと睨まれたのでサッと視線を逸らす。だって、しょうがないだろう!? ただでさえ、属性過多は珍しいのに魔法少女って……! 吸血鬼が居るなら魔法少女が居てもおかしくないけど、まさかすぐ近くに居るとは思わないじゃ無いか。
魔法少女……! そんなものもあるのか! 日曜の朝にやっているようなアレなのか、それとも深夜にやっているような心を抉るあっちなのか。それによって大分変わってくるぞ。
是非とも聞いてみたい好奇心と、迂闊なことを言うなと警鐘を鳴らす理性。脳内で激闘を繰り広げる感情は、隣の気味の悪いものを見る目を気付かせなかった。
「はい、注目。これから入学式ですので、出席番号一番の赤井さんを先頭に列を作って下さーい」
……結局、友達どころか誰とも話すこと無く、僕は入学式に向かうことになった。ならばと入学式中の両隣の子に話しかけようとするも、片方は爆睡、もう片方は僕の反対側の子と喋り始めていた。
僕は完璧に、スタートダッシュをミスった。完全に終わったという訳じゃ無いけど、この失敗は痛い。思っている千倍、こういったコミュニティの形成は早いのだ。放課後までに何とか顔見知りぐらいは作らなければならないだろう。
薄っぺらい僕の思考とは裏腹に、入学式は順調に進む。校長のコピペ話、担任と副担任の発表、病欠の生徒会長に代わって副会長の挨拶……どこにでもある、形式だけの式だ。
「それでは、新入生代表の挨拶。一年三組、黒永綴さん」
「……い」
そんな中、消え入りそうな声で一人の女子生徒が登壇した。長い黒髪に、女子にしては大きな背。そして、それをかき消すような猫背の丸まった姿。明らかに緊張している様子で、なんだかこちらまでそれが伝わってきそうだ。
「さ、桜の花が咲き始め、あたた、暖かいひざ、日差しが……」
ガチガチに固まって、何度も何度も吃音ながら頑張って挨拶をする。周りはそんな彼女の頑張りなど、どうでも良いと言わんばかりにコソコソとお喋りを続けていた。その事実に、何故か無性に腹が立った。
僕に出来ることは、せめて彼女の頑張りを見届けることだけだ。姿勢を正して、しっかりと黒永と呼ばれた少女を見る。頑張れ、僕は君の勇姿を見ているぞ。
そして、無駄に良い視力は彼女の属性をも見定めるのだった。
『ヤンデレ口下手読書家優等生超能力者』
……意外と、複数の属性を持っているというのは、珍しくないのかもしれない。そう思ってしまうが、これはかなり稀有な事例だ。そのはずだ。
だが、現実として属性盛りだくさんな三人が存在している。これが異常なのか正常なのかは分からないが、それは事実として受け入れなければならない。僕は黒永さんの挨拶を聞きながら、イレギュラーな事態に困惑するのだった。
それからほどなくして、入学式は終わった。後はクラスに戻って軽いHRをして、その後は下校だ。時間はもうほとんど無い。
だが、僕は属性について考えるばかりで、友達を作るなどという些末なことを忘却していた。高校生活最初の日、僕は大事なスタートダッシュをミスってしまったのだった。




